- 第一部 文学的文章とは
- I章 文学的文章と論理的文章とを区別する
- 一 単語の性質
- 二 文(センテンス)の構成
- 三 作品の構成
- U章 文学的文章には描写がある
- V章 イメージを描く(情景描写・自然描写)
- W章 事物の意味に気づく(人物描写・情景描写)
- X章 文章が演技する(会話・心理描写)
- Y章 まとめ
- 第二部 文学的文章教材の体系
- I章 体系の全体像
- U章 伝承物語
- 一 伝承物語の本質
- 1 「語り」と読み聞かせ
- 2 「知恵」の話
- 二 伝承物語の教材性
- 1 ヘンゼルとグレーテル
- 2 蛙の王様
- 3 吉四六話
- 4 かさこじぞう
- 三 伝承物語で何を教えるか
- V章 創作童話
- 一 創作童話の本質
- 1 ハッピーエンド
- 2 写実的な物語
- 3 生活の知恵
- 二 創作童話の教材性
- 1 ごんぎつね
- 2 ろくべえまってろよ
- 三 創作童話で何を教えるか
- W章 英雄物語
- 一 英雄物語の本質
- 二 英雄物語の教材性
- 1 大造じいさんとがん
- 2 ドリトル先生
- 三 英雄物語で何を教えるか
- X章 伝記
- 一 伝記の本質
- 二 伝記の教材性
- 1 キュリー夫人
- 2 田中正造
- 三 伝記で何を教えるか
- Y章 教養小説(人格形成小説)
- 一 教養小説の本質
- 二 教養小説の扱い方
- 1 多く読ませる
- 2 人生の知恵を考えさせる
- 3 近代小説との関係
- 三 教養小説の教材性
- 1 白い風船
- 2 少年の日の思い出
- 3 尋三の春
- 四 教養小説で何を教えるか
- Z章 近代小説
- 一 近代小説の本質
- 1 描写の重要性
- 2 作品中での人間像の変革
- 3 悲劇の構造化
- 二 近代小説の教材性
- 1 坊ちゃん
- 2 トロッコ
- 3 幸福
- 4 故郷
- [章 幻想物語と寓話
- 一 幻想物語の本質
- 二 寓話の本質
- 三 寓話の教材性
- 1 友好使節
- 2 山椒魚
- 3 注文の多い料理店
- 4 最後の一句
- \章 詩
- 一 詩を考える
- 1 詩の読み方は自由である
- 2 詩は写生ではない
- 3 詩のイメージとは何か
- 4 詩は何を表現するか
- 二 詩を教える
- 1 何を教えるか
- 2 要と細部
- 3 詩作指導の意義
- 三 その他の諸問題
- ]章 悲劇
- 一 悲劇の本質
- 二 悲劇の教材性
- 三 小中学校の悲劇教材
- 第三部 結論
- 索引
はしがき
子ども達が文学的文章(文学作品)を喜んで読むようになるような、そういう指導法はないものだろうか。熱心に指導するほど子ども達は文学作品を読もうとしなくなる、どうしたらよいものか。本書はこのような悩みをお持ちの先生方に、少しでもお役に立てば、という目的で書かれた。
授業中に、一つの作品をどのような指導技術を使って教えこむかという研究も大切ではあろうが、一つの作品を見て、教えるべきポイントを的確に見つける研究のほうが、一見遠回りのように見えて、結局は近道のようである。なぜかと言うと、授業では、教えるポイントを一つに絞って作品を学習し、その作品に飽きてしまわないうちに切りあげるようにすると、子ども達は文学作品に対する関心を涸渇させることなしに、いっそう他の作品を読みたがる、つまり文学作品を喜び迎える態度の形成が、ここでなされるからである。この時に、同種の作品を一、二選んで学習の定着化を図るのが良い。
このように、二、三の作品のポイントを指導者が自分でつかみ、指導に生かすと、一作品をこまかく区切って事細かに分析的に指導するよりも、同一時間内に、ずっと楽しく、しかも全員が容易に指導目標に近づくことができる。これは「言葉の学習」の特性にかなった方法であることによる。
こういうわけで、文学的文章の各作品の特質をとらえる研究は、子ども達が学習後に文学作品を喜んで読むようになる、その指導法のカナメになる。本書はその手だてを中心に据えて、わかりやすく順序だてて述べた。そのために本書を読むのには、精読よりは速読が良いはずである。全体の展望が容易になり、全体が見えれば部分の意義も明らかになるからである。
また本書を読むのには、常識的な判断力さえあれば良く、文学的センスや知識は不要である。教室で文学的文章を指導なさるのは、いわゆる”情熱的な文学青年”ばかりではない。理科系や社会科系の得意な、文学作品に興味も関心もあまりお持ちでない指導者も決して少なくないはずである。それでいて「母国語教育」という立場からは、一貫した原理を持った指導の要請が厳然として、ある。本書はそういう指導者各位に、文学的文章の特質を理解していただけるよう、特に意を用いて述べた。この目標が達成されているか否か、読者諸賢には厳しく判定していただかなくてはならない。
本書は雑誌『教育科学 国語教育』に一九八一(昭和五六)年四月号から一年間連載した同名の文章を骨格とし、ほぼ全面的に加筆したものである。
本書はまことに多くの方の厚意とご援助によって成った。連載の機会を与えて下さった江部満編集長、連載という大役にたじろいだ私を励まして下さった飛田多喜雄先生、三日間の合宿合評会を開いてくれた諸君(農林年金会館がなつかしい)、読み聞かせ・描写・詩の実践報告を寄せてくれた諸先生、本書の実践編とも言うべき『読み方授業のための教材分析』(明治図書一九八三)に協力して本書の理論を実践実証してくれた諸先生、校正・索引作製に協力してくれたわが研究室の阿由葉美代子・作山悦子・品川正・山根泉の諸君、ここに特に記して感謝の意を表したい。
最後に、本書が形を整えるために、多忙を顧みず終始ご配慮下さった、編集部の間瀬季夫氏、松本幸子さんに心からお礼申し上げます。
一九八三年六月 /著者
復刊を望みます。
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