- 序章 クラス全員が参加できる授業の「しかけ」
- 算数教育への疑問
- 転機
- 実際に子どもたちを目の前にして
- 授業には「しかけ」がある
- 第1章 「教材」でしかける!
- 材料七分に腕三分
- 「きまり発見のある問題」で,苦手な子も授業に引き込む!
- 「感覚とのずれ」で,子どもの?を引き出す!
- 「予想とのずれ」で,理由を追究する意欲を引き出す!
- 「糸口が見えると一瞬で解ける問題」で,感動を呼ぶ!
- 「答えが1つに決まらない問題」で,学力差を解消する!
- 「日常の中の問題」で,算数のよさを感じさせる!
- 「ゲームのトリックの追究」で,算数的な内容を深める!
- 第2章 「問題提示」でしかける!
- 「一瞬だけ見せて隠す」ことで,数学的な見方・考え方を引き出す!
- 「□を使う」ことで,見方を顕在化させ,問題の発展を促す!
- 「問題文をゆっくり書く」ことで,子どもの対話を生み出す!
- 「求答文を考えさせる」ことで,多様な問題を生み出す!
- 「条件不足・条件過多にする」ことで,問題に働きかける態度を育む!
- 第3章 「板書」でしかける!
- 「つぶやきを可視化する」ことで,子どもの心情や思考を引き出す!
- 「名前でラベリングする」ことで,着目する視点を与える!
- 「子どもに黒板を開放する」ことで,相手に伝えたい気持ちを育む!
- 「具体物を用意しない」ことで,図をかこうとする態度を育む!
- 第4章 「ノート指導」でしかける!
- 「細かい制限をしない」ことで,自分の考えを整理する力を引き出す!
- 「板書とノートを区別する」ことで,自分なりに考える必要性を生み出す!
- 「子どものノートをお手本とする」ことで,自分なりのノートづくりを促す!
- 第5章 「リアクション」でしかける!
- 反応=リアクションの引き出しを増やす
- 「とぼける」ことで,子どもが表現する敷居を下げる!
- 「誤答を受け入れる」ことで,子ども同士による吟味を促す!
- 「論理を問う」ことで,他者理解につなげる!
- 「黙る」ことで,意思表示のための間をつくる!
- 「わからないことを素直に聞く」ことで,おもしろいアイデアが引き出される!
- 第6章 「見取り」からしかける!
- 「手をあげていない子をよく見る」ことで,他人任せの風土を根づかせない!
- 「聞き手を育てる」ことで,よい話し手を育てる!
- 「教科書の内容を深める」ことで,先取りしている子も満足させる!
- 第7章 「発表・話し合い」でしかける!
- 「立場をはっきりさせる」ことで,スタートラインをそろえる!
- 「友だちの発表を繰り返させる」ことで,発言のハードルを下げる!
- 「ヒントとストップ」で,全員に発見する喜びを味わわせる!
- 「ペア・グループでの話し合い」で,考えを収束,拡散させる!
- 第8章 「まとめ・振り返り」でしかける!
- 「無理にまとめようとしない」ことで,追究心を持続させる!
- 「似ていることを問う」ことで,統合的な見方を培う!
- 「『だったら,…は?』と問う」ことで,発展的な考え方を培う!
- 「学び方を振り返る」ことで,みんなで授業を創る意識を高める!
- 第9章 「自主学習」でしかける!
- 自主学習の基本フォーマット
- 「授業の最後に発展の視点を示す」ことで,自主学習につなげる!
- 「様々な手段で価値づける」ことで,自主的な取組を持続させる!
- 「発展のさせ方を紹介する」ことで,全体のレベルアップを図る!
- 第10章 「学級通信」でしかける!
- 「実況中継風に伝える」ことで授業の臨場感を味わってもらう!
- 「算数コンテストを行う」ことで,みんなで算数を楽しむ!
- 「振り返りを共有する」ことで,授業の雰囲気づくりを行う!
序章
クラス全員が参加できる授業の「しかけ」
算数教育への疑問
算数では,「問題解決型授業」と呼ばれる授業が多くの学校現場で行われています。具体的には,以下のような形で授業が進んでいくわけです。
@問題提示(5分)
A見通し(5分)
B自力解決(15分)
C練り上げ(15分)
Dまとめ(5分)
しかし,学生のころから,そんな授業に大きな疑問を感じていました。なぜなら,算数が得意な子しか活躍できないのではないかと思ったからです。例えば,「筆算の仕方を考えよう」と言われて,急に15分も自力解決の時間を与えられても,塾などで先取り学習をしている子は動くことができるでしょうが,そうではない子は何をしていいのやらわからないのではないでしょうか。そして,実際に見る授業でも,自力解決中に先生が選んだ3人くらいの子,それも拙い考え方からうまく考えている子の順に取り上げられ,その3人が話して,「いいですか?」「いいです」のような形で授業が終わっていくことが多かったのです。
転機
そういった既存の授業に疑問を感じていたときに出会ったのが,当時千葉大学附属小学校におられた平川賢先生(現昭和学院小学校)です。
平川先生の授業は,先ほどの「問題解決型授業」とは大きく異なっていました。平川先生が問題を書くだけで,子どもたちが口々につぶやき出します。そして,先生もその声をうまく拾い,時にはそのつぶやきを黒板に書きながら授業を進めていきます。問題自体も大人の私でも「どうなるのだろう?」と考えてしまうもので,当然子どもたちの興味を引きます。さらに,授業後半になるにつれて,だんだんと盛り上がります。最初の予想と違った結果になる驚きに興奮し,なぜそうなるのかを説明したいと机から身を乗り出して手をあげる子どもの姿がありました。@〜Dのような形式的な段階をつくるのではなく,目の前の子どもの姿に合わせて柔軟に授業を変えていくからこそ,子どもたちが生き生きしていたのです。
そんな平川先生との出会いをきっかけに,筑波大学附属小学校の研究会や全国算数授業研究会など,算数授業の達人と言われるような先生方が多くいらっしゃるような研究会に参加するようになりました。そこにも,私が求めていた,平川学級のように子どもたちが目を輝かせる授業が多くあったのです。
実際に子どもたちを目の前にして
しかし,いざ現場に出て,子どもたちを目の前に授業をするようになると,先ほど述べたような授業をすることがそう簡単ではないことがわかってきます。まったく授業がうまくいかないのです。
目指していたはずの子どもたち全員が愉しいと思える算数授業とは程遠く,むしろ「問題解決型授業」で自分が一番問題だと思っていた一部の子だけが活躍する授業になっていたので,当然うまくいくはずもなく,子どもたちに,
「もっと授業をおもしろくしてほしい!」
と言われたこともありました。
そこから,前述した研究会に今まで以上に足繁く通うようになり,サークルにも参加するようになりました。そこで先輩の先生から学んだ様々な技術が,今の私をつくっていると言っても過言ではありません。
授業には「しかけ」がある
そこで,わかったことがあります。それは,授業には「しかけ」があるということです。私が見た子どもたちの生き生きとした姿は,何もせずに自然と生まれたものではなかったのです。考えてみれば,どの子も自然に生き生きと学び始めるなら,教師の技術など必要ありません。私が見たその1時間の授業に至るまでに,授業名人の先生方は1時間1時間にいろいろな「しかけ」を用意して,それを積み重ねてきていたのです。
本書は,子どもたち全員が目を輝かせるそんな「しかけ」に着目し,以下の10ジャンルに細分化して具体的な提案をしています。
1 教材
2 問題提示
3 板書
4 ノート指導
5 リアクション
6 見取り
7 発表・話し合い
8 まとめ・振り返り
9 自主学習
10 学級通信
本書の提案は,決して目新しいものばかりではありません。しかし,算数授業をこれからがんばろうとする先生にとっては,授業改善のきっかけとなるヒントが含まれているはずです。
正直なところ,「授業名人でもなんでもない私が,本なんて書く意味があるのだろうか」と非常に迷いました。しかし,「算数が好き」程度の普通の教員である私だからこそ,算数授業に悩んでいる先生の悩みに向き合うことができるかもしれないと思い,今回執筆させていただきました。
私の授業は,今でもうまくいくことばかりではありません。「子どもたちの声が聴けなかった」「自分がやりたいことを押しつけてしまった」「なんで子どもにあんな言葉をかけてしまったのか」などと反省する日々です。
そんな私と同じように日々悩んでいる先生方にこそぜひ本書を手に取っていただき,本書をきっかけに,私と一緒に悩みを語り合える関係になっていただけると大変うれしいです。
オープンチャット「算数ネタ研究会」
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2023年2月 /前田 健太
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