- まえがき
- 第1部 ホットな論争テーマでルール学習
- 一 「赤ちゃんポスト」でルールづくり
- 授業構想 /松島 康之
- 法律家のジャッジ /野坂 佳生
- @ 「赤ちゃんポスト」設置をめぐる論争と討論
- A 「赤ちゃんポストの設置は妥当である」(賛成派)の意見
- B 「赤ちゃんポストの設置は妥当でない」(反対派)の意見
- C ディベートにおける論点
- D 論点の整理と法
- E 指導過程
- F 法律家のジャッジ
- 二 「男女結婚可能年齢差」でルールづくり
- 授業構想 /中原 朋生
- 法律家のジャッジ /野坂 佳生
- @ 子どもの意見は? ――男女平等と自己決定権に基づく素朴な見解――
- A 子どもと対立する意見は? ――子どもの保護と固定的な性別役割分担――
- B 論点クローズアップ ――ルールづくりのためのルールとしての憲法――
- C 指導過程 ――小単元「あなたがルールをつくります! 結婚可能年齢」――
- D 法律家のジャッジ
- 第2部 学校生活の「疑問や悩み」とルール学習
- 一 授業をめぐる悩み――法的にはどうなっているの?
- (1) 「席替えを必ず教師が決めるルールってよいの?」
- 授業構想 /高岡 昌司
- 法律家のジャッジ /村松 剛
- @ テーマに対する意見と議論の論点
- A 単元づくり
- B 法律家のジャッジ
- (2) 「背の順に必ず並ぶというルールってよいの?」
- 授業構想 /白木 一郎
- 法律家のジャッジ /井上 毅
- @ 子どもの意見は?
- A 子どもと対立する意見は?
- B 論点クローズアップ
- C 指導過程はどうなる?
- D 法律家のジャッジ
- 二 給食をめぐる悩み――法的にはどうなっているの?
- (1) 「負担の重い給食係をじゃんけんで決めてよいの?」
- 授業構想 /菊池 八穂子
- 法律家のジャッジ /神保 美智子
- @ 子どもの意見は?
- A 子どもと対立する意見は?
- B 論点クローズアップ
- C 指導過程はどうなる?
- D 法律家のジャッジ
- (2) 「給食をいつも残してはいけないというルールはよいの?」
- 授業構想 /田本 正一
- 法律家のジャッジ /船岡 浩
- @ 子どもの意見について
- A 論点クローズアップ
- B 授業構成と憲法条文について
- C 授業の実際
- D 法律家のジャッジ
- 三 クラブをめぐる悩み――法的にはどうなっているの?
- (1) 「いつも『強い』チームが体育館を使ってよいの?」
- 授業構想 /窪直 樹
- 法律家のジャッジ /後藤 直樹
- @ 賛成の子どもたちの意見
- A 反対の子どもたちの意見
- B 論点クローズアップ
- C 指導過程
- D 法律家のジャッジ
- (2) 「クラブで起きた問題は部員全員の連帯責任としてよいの?」
- 授業構想 /寺本 誠
- 法律家のジャッジ /後藤 直樹
- @ 子どもの意見は?
- A 子どもと対立する意見は?
- B 論点クローズアップ〜その問題に対する責任の範囲はどこまで及ぶか(個人か集団か)〜
- C 単元構想
- D 法律家のジャッジ
- 四 児童会をめぐる悩み――法的にはどうなっているの?
- (1) 「児童会長をくじで選んでよいの?」
- 授業構想 /角田 将士
- 法律家のジャッジ /根本 信義
- @ 子どもたちの意見 ――「児童会長は『くじ』で選ぶべき」――
- A 子どもたちと対立する意見 ――「児童会長は『選挙』で選ぶべき」――
- B 論点クローズアップ ――児童会長選挙を通した全校児童の参加は「必要」か「必要でない」か――
- C 指導過程の概略 ――小学校社会科第六学年 単元「児童会長をくじで選んでもよいの?」――
- D 法律家のジャッジ
- (2) 「児童会の会計をボランティア活動に使ってよいの?」
- 授業構想 /谷和 樹
- 法律家のジャッジ /根本 信義
- @ 児童会会計の使い方
- A 児童会会計の規則を変えていいのか?
- B 子どもの意見は?
- C 子どもと対立する意見は?
- D 公の支配に属しない慈善、教育、博愛の事業とは?
- E 指導過程はどうなるか
- F 法律家のジャッジ
- 五 校則に焦点を当てて
- (1) 「なぜパーマ・茶髪はいけないの?」
- 授業構想 /柴田 康弘
- 法律家のジャッジ /宮島 繁成
- @ 子どもの意見 ――「校則でパーマ・茶髪を禁止する必要はない!」――
- A 対立する意見 ――「校則でパーマ・茶髪を禁止するのは当然だ!」――
- B 論点クローズアップ
- C 学習指導過程(公民的分野・法律単元)
- D 法律家のジャッジ
- (2) 「なぜ携帯電話を学校に持ち込んではいけないの?」
- 授業構想 /中西 仁
- 法律家のジャッジ /船岡 浩
- @ 生徒会長と校長先生のお手紙
- A 論点クローズアップ
- B 学習指導案
- C 法律家のジャッジ
- (3) 「校則は私たちを『縛る』のに、なぜ私たちが変えることができないの?」
- 授業構想 /渡部 竜也
- 法律家のジャッジ /村松 剛
- @ 校則への異議申し立て
- A 問いに対する生徒の反応
- B 校則策定・改廃権の所在をめぐる論争
- C 授業の構想
- D 社会科において学校制度の在り方を問う学習の意義
- E 法律家のジャッジ
- 六 教師と親と生徒との関係に焦点を当てて
- (1) 教師と生徒の関係の縮図=u内申書は、なぜ見たらいけないの?」
- 授業構想 /藤瀬 泰司
- 法律家のジャッジ /鈴木 啓文
- @ 子どもの意見 ――子どもには自己情報を管理する権利がある――
- A 対立する意見 ――教師には教育情報を独占する権利がある――
- B 議論の争点 ――学校は、憲法第十三条に基づく場所か――
- C 単元「内申書開示請求の是非を考える」の学習指導過程
- D 法律家のジャッジ 1
- E 法律家のジャッジ 2
- (2) 親と子の関係の縮図=u親は子どもの日記を『盗み読み』してよいの?」
- 授業構想 /橋本 康弘
- 法律家のジャッジ /野坂 佳生
- @ 反対派の言い分は?
- A 賛成派の言い分は?
- B 論点クローズアップ
- C 指導過程はどうする?
- D 法律家のジャッジ
まえがき
本書は、以下の問題意識から、刊行しました。
一 今後、「法的・合理的な思考」が重視される社会になります。「法的・合理的な思考」を子どもの頃から身につける教育が必要になるでしょう。
裁判員として身につけるべき「公正・公平」感覚、身近な法に関する問題解決力の育成が重視されています(法務省法教育研究会『はじめての法教育』ぎょうせい)。これらは、「社会力」としても位置づけることが可能です。
二 「静態的(受け身)」法学習から「動態的(考え討論する)」法学習への転換が必要になるでしょう。
「公正・公平」感覚や身近な法に関する問題解決力は、「静態的な」法学習では身につきません。「法的・合理的な思考」を用いて考え、討論する「動態的な」法学習が必要になりましょう。
三 社会科を「社会から遠い学習」ではなく「社会に近い学習」として構成することが必要になるでしょう。
社会科が「社会から遠い学習」ではなく、社会に参画し、法に関する問題を解決するといった「社会に近い学習」として構成することで、子どもたちは社会科をより身近な存在に感じ、「社会科嫌い」を少なくすることにもつながるでしょう。
四 一〜三のポイントを必要・十分に満たすのはルールづくり≠フ授業だと考えます。
子どもたちにいきなり「法的・合理的な思考」といってもその「思考」だけを暗記させたのでは身につけたことになりません。子どもたちが身近に疑問に感じる様々な法に関する問題を事例として取り上げて、その疑問を解決するために必要な「法的・合理的な思考」を利用しつつ、子どもたちに主張をさせ、討論し、合意形成し、法に関する問題を解決させ、最終的に法に関する問題解決のためのルール≠つくること(ルールづくり)を繰り返すことで、子どもたちは「法的・合理的な思考」を形式的ではなく実質的に身につけることになるのではないでしょうか。このような学習は、結果として「動態的」であり、「社会に近い学習」として構成することにもなります。
以上の問題意識(出版趣旨)から、本書では、主として憲法を取り上げます。憲法は「国家を縛る規範」「抽象的な規範」であり、そのためか憲法学習は、往々にして「子どもから遠い存在」であり、また「静態的(受け身)」な法学習になりがちです。憲法条文を暗記する教育(憲法を知る教育)ではなく、憲法の理念や条文を用いて法に関する問題解決を図る教育(憲法を使う教育)への転換を図ることで、結果として子どもたちは憲法を知ることにもなるし、憲法を使って法に関する問題解決、すなわち「法的・合理的な思考」を身につけることも可能になるでしょう。また、憲法を形式的に理解するのではなく、社会により近い形で実質的に理解することにもなります。なお、主として小学校社会や中学校社会科公民的分野、高校公民科での授業実施を念頭に置いています。
このような問題意識(出版趣旨)を踏まえ、本書は、子どもが身近に感じる紛争(トラブル)を十五事例取り上げ、それぞれの事例について、現場・大学の先生方に、まずその紛争(トラブル)事例に対する「子どもの意見」を整理していただきました。その際、「子どもの意見」はどのような理由で導き出され、その根拠の有無を明らかにしていただきました。次に「子どもと対立する意見」を整理していただきました。同じく、その意見はどのような理由から導き出され、その根拠の有無を示していただきました。そして、この紛争(トラブル)事例に関して、議論する上での法的な論点は何か、その論点は憲法何条に関わるのか等について、まとめていただいた後で、授業化する場合、どのような指導過程になるのか、指導の流れを整理していただきました。最後に、法律家から見たら、どちらの意見が正しいのか、その根拠は何かについて、弁護士に執筆していただきました。本書に執筆いただいた弁護士は学校現場に何度も足を運んで授業を行ったことがある先生方ばかりです。もちろん、法に詳しくない先生方にもわかりやすいように執筆には工夫してもらっています。
同書を用いて、是非従来型の法授業を改革してください。そうすることで、これまでの授業で育成できなかった「法的・合理的な思考」を育てることが可能になるのです。
最後になりますが、不況の深刻化もあり、出版事情の悪化が伝えられる中、本書の刊行の際に叱咤激励と多大なるご助言・ご支援をいただいた明治図書出版の樋口雅子編集部長には心よりお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。
二〇〇九年八月 橋本 康弘
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- 明治図書
- 法教育の考え方や、その実践について具体的に紹介されていて、参考になった。2022/8/530代・中学校教員