- はじめに
- 第1章 金融教育とは何か
- 第1節 金融とは何か
- 第2節 学校における金融教育の内容と範囲
- 第3節 学校における金融教育の必要性と金融教育への期待
- 第2章 日本の学校における金融教育の現状と課題
- 第1節 学習指導要領における金融教育の位置づけ
- 1.小学校
- 2.中学校
- 3.高等学校
- 第2節 生徒の金融知識の現状と問題点
- 第3節 近年の調査における金融教育への期待
- 第4節 官民による学校における金融教育への支援
- 1.金融広報中央委員会による「金銭教育」と「金融教育」
- 2.消費者教育支援センター
- 3.株式学習ゲーム
- 第5節 金融庁・金融経済教育懇談会の「金融経済教育に関する論点整理」
- 第3章 アメリカの学校における金融教育
- 第1節 NCEEの経済教育カリキュラムにおける金融教育の内容
- 第2節 Jump$tart Coalitionによる金融教育プログラム
- 第3節 金融教育のための教材
- 第4節 アメリカの経済教育学者によるアメリカの金融教育の現状評価
- 第4章 イギリスの学校における金融教育
- 第1節 イギリスにおけるシチズンシップの成立
- 第2節 イギリスにおける金融教育カリキュラム
- 1.金融教育の目標とカリキュラム
- 2.金融教育の内容と学習方法
- 3.カリキュラムと学習内容の全体的な特色
- 第3節 イギリスにおける金融教育の支援態勢
- 第5章 学校における金融教育の創造
- 第1節 日本における金融教育の主眼
- 第2節 金融教育において必要な基本的経済概念
- 1.稀少性,選択,機会費用
- 2.費用(コスト)と便益(ベネフィット)
- 3.供給,需要,価格,競争
- 4.インフレーションとデフレーション
- 5.為替相場
- 6.税及び税額控除
- 7.安全性,流動性,収益性,トレード・オフ
- 8.リスクとリターン
- 9.利子率と利回り
- 第3節 公的年金,保険と蓄財のための金融商品
- 1.公的年金
- 2.生命保険,個人年金,企業年金
- 3.損害保険・自動車保険
- 4.預金
- 5.国債と社債
- 6.株式
- 7.投資信託
- 第4節 借金の利用(クレジットとローン)
- 1.クレジットカード
- 2.種々のローン
- 第5節 学校のどこでどのような金融教育を行うか
- 1.家庭科
- 2.社会科公民的分野と高校公民科
- 3.選択教科
- 4.総合的な学習の時間
- 5.小学校における金融教育
- あとがきと参考文献
はじめに
近年,学校において金融教育を盛んにしようという動きが活発になっています。
内閣府の外局である金融庁は,2002(平成14)年11月に文部科学省に対し「学校における金融教育の一層の推進について」の要請を提出するとともに,2004(平成16)年には「初等中等教育段階における金融経済教育に関するアンケート」を実施し,その結果を公表しています。また,2005(平成17)年3月には,経済教育懇談会を立ち上げています。
金融広報中央委員会(以前の貯蓄増強中央委員会)は,2001(平成13)年に「金融に関する消費者アンケート調査」を実施し,2002(平成14)年に「金融に関する消費者教育の推進に当たっての指針」を提出し,学校教育においても「金融に関する消費者教育」を推進するための活動を展開しています。例えば,「金融に関する消費者教育セミナー」を2002年より開始し,2004(平成16)年からは「金融教育を考える」小論文コンクールを実施しています。
日本銀行は,平成16年から「社会科・公民科教員のための日銀セミナー」を開始し,広報誌『にちぎんクオータリー』の2004年秋号(No.75)には「特集・金融教育をどう考えるか」を発行しています。
また,金融庁,金融広報中央委員会,日本銀行とも,そのホームページにおいて,子ども・一般向けのサイト・ページを充実させています。
この他にも,日本FP(ファイナンシャル・プランナーズ)協会が2005(平成17)年3月に,高校生向けの金融教育教材『10代から学ぶパーソナル・ファイナンス―社会人になっても役立つお金の知識―』を発行し,10年間にわたって「株式学習ゲーム」を推進してきた日本証券業協会・東京証券取引所・証券広報センターが,2004(平成16)年に「株式学習ゲームに関する感想文及び小論文」のコンクールを催すなどの動きがありました。
文部科学省においても,現在,中央教育審議会の初等中等教育分科会において,法教育とともに金融教育についても,新たな社会的要請の一つとして議論しています。
金融広報中央委員会が2001(平成13)年に実施した「金融に関する消費者アンケート調査」においても,回答者は,「金融に関する消費者教育の重要性」について,「大変重要だと思う」約70%,「重要だと思う」約30%で,116人の回答者の内1人を除いて,そのような回答をしています。また,「子どもたちに対する基礎的な金融教育(金銭教育)の重要性」についても,「大変重要だと思う」約74%,「重要だと思う」約23%で,116人の内の3人を除いて,そのような回答をしています。そして,「子どもたちに対する基礎的な金融教育(金銭教育)について学校(小・中学校,高校)はどのように対応した方がよいと思いますか」については,「もっと積極的に取り組むべきである」が約96%で,116人の内の5人が「現状程度でよい」という反応をしているのを除いて,そのような回答をしています。アンケートの回答者が「消費者教育関連団体・機関99,有識者17」で金融教育にかかわる機関・人が多いことを割り引いても,今,金融教育に対する要求は極めて強いものがあると言うことができます。
さらに,最も新しいところでは,2005年7月に東京において「経済教育サミット」が開催されました。ここでは,アメリカと日本の経済教育専門家が集まり議論がなされるとともに,竹中平蔵・経済財政担当大臣,伊藤達也・金融担当大臣,福井俊彦・日本銀行総裁が出席し講演しました。そのサミットの重要な論題の一つが,金融教育でした。
このように,今日本の学校で金融教育を盛んにしようとする動きが活発ですが,学校現場では,関心を持つ一部の教員を除いて,反応は極めて鈍いというのが実情ではないでしょうか。学校現場で金融教育に対する反応が鈍いのは,いろいろな理由がありましょうが,まずもって,その必要性がほとんど認識されていないのではないでしょうか。
この本では,日本の学校における金融教育の現状,日本における金融教育推進の動き,世界(アメリカとイギリス)の学校における金融教育の新たな動きとそのカリキュラムを紹介しながら,日本の学校において金融教育をどのように進めたらよいかを提案してみたいと思います。
本書の出版につきましては,私の経済教育の研究仲間の方々に大変お世話になるとともに,大きな協力を頂きました。特に,早稲田大学アジア太平洋研究科教授・山岡道男氏には,氏が代表となってこれまで調査・研究してこられた「生活経済テスト」とその調査結果などを使用することを認めて頂いたことに対して,大いなる感謝を申し上げます。筆者自身もその研究仲間の一人ですが,研究仲間である赤峰信氏(東京証券取引所),浅野忠克氏(村山女子短期大学),阿部信太郎氏(城西国際大学),新井明氏(現在,都立西高校),猪瀬武則氏(弘前大学),栗原久氏(信州大学),保立雅紀氏(東京工業大学附属工業高校),宮原悟氏(名古屋女子大学)の諸氏に感謝を申し上げます。
最後に,本書を出版することを筆者に勧めて下さり,出版まで,辛抱強くお付き合いくださった明治図書出版の樋口雅子氏に対してお礼を申し上げたい。
筆者の最初の単著は,『「経済の仕組み」がわかる社会科授業』で,同じく明治図書から1990年に出版させて頂きました。筆者自身,経済教育に関する久しぶりの単著の出版となりました。金融教育を含めた経済教育が,日本の学校においてもっと盛んになることを期待したいと思います。
2年前に亡くなった母に感謝して。
2005年9月 /山根 栄次
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- 明治図書
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- 金融教育の概要を掴みやすかった2015/8/920代社会科教諭