- まえがき
- T 一・三・四年生
- 小学校低学年における法的アプローチを基盤にした授業開発
- ―「ルール学習」の改善のために― /橋本 康弘・白木 一郎
- 1 はじめに―「在るもの」としてのルール学習から「作るもの」としてのルール学習への転換の必要性―
- 2 授業構成の論理
- 3 授業構成の具体と実践結果
- 4 おわりに―本研究の意義と今後の課題―
- 多様な学習活動を効果的に設定した社会科授業
- ―第三学年「地域の人々の販売の工夫」を事例として― /谷田部 玲生・齋藤 幸之介
- 1 はじめに―本実践研究の目的―
- 2 授業の計画と実践
- 3 本実践についての考察
- 4 本実践の優れている点
- 二学年の連続性を重視した地域教材の開発
- ―古地図と人でつなぐ「昔調べ」と「地域の発展に尽くした先人」― /大澤 克美・窪 直樹
- 1 はじめに
- 2 授業の計画と実践
- 3 本実践についての考察
- ロールプレイング・シミュレーションと提案を取り入れた社会科地域学習の実践
- ―群馬県安中市立秋間小学校四年― /山口 幸男・佐藤 浩樹
- 1 はじめに
- 2 オリジナル教材「新安中駅前開発」の単元の構想と計画
- 3 授業実践
- 4 ロールプレイング・シミュレーションを通した児童の変容
- 5 まとめ
- U 五年生
- イメージマップでつくる社会科授業 /影山 清四郎・千葉 教生
- 1 授業の計画と実践
- 2 社会科問題解決学習の展開への示唆
- 小学校における社会科の視点からの食育実践事例
- ―子どもの疑問を追究する実践事例を通して― /影山 清四郎・池上 慎吾
- 1 はじめに
- 2 単元計画(五・六年を通して三十時間扱い)
- 3 実践経過
- 4 おわりに
- ロールプレイング・シミュレーションを取り入れた小学校社会科学習モデルの構想と実践
- ―意志決定論を踏まえて― /山本 友和・西條 誠
- 1 はじめに―意志決定論とロールプレイング・シミュレーション―
- 2 学習モデルの構想にあたっての要件
- 3 学習モデルの構想と授業実践
- 4 本実践研究の考察
- 身近な事象から社会の構造にせまる小学校社会科の授業づくり
- ―第五学年小単元「クーポン誌、誰が得する?」の開発― /桑原 敏典・江原 知博
- 1 はじめに
- 2 教材開発のねらいと手順
- 3 指導計画と実践の成果
- 4 おわりに
- V 六年生
- 多元的物語(マルチ・ナラティブ)としての歴史授業の提案 /谷口 和也・五十嵐 誓
- 1 多文化共生社会における歴史教育論
- 2 指導案
- 3 授業の計画と実践
- 4 授業を終えて
- 児童の学習特性を活かした歴史学習 /田代 憲一・石本 貞衡・吉岡 大輔・三大寺 敏雄・坂井 俊樹
- 1 はじめに
- 2 授業の計画と実践
- 3 本実践についての考察
- 「市町村合併―白神市名称問題―」の授業
- ―役割体験を活用した政治学習の取り組み― /井門 正美・外池 智・三洲 龍太
- 1 問題の所在
- 2 役割体験学習論による政治学習教材「市町村合併―白神市名称問題―」の開発
- 3 「市町村合併―白神市名称問題―」の授業実践
- 4 まとめ
まえがき
小中学校の新しい教育課程が告示された。「ゆとり教育」の克服とかPISA型学力といったキャッチフレーズのもとに作られたものではあるが、どことなく目玉がない改訂である。「総合的な学習の時間」が削減され、小学校に外国語活動が導入されるほかは、言語活動の重視や理数教育の重視などに専ら目が向いており、社会科などにはそれほど多くの関心が集まってはいない。
PISA調査の「読解力」のランキングが落ちたということから、あたかも国語など言語に関する指導だけに問題があるかのごとく、その重視が叫ばれてはいるが、果たしてそれを鵜呑みにしていいのか。そこには大きな誤解が潜んでいる。PISA調査による「読解力」なるものは、@自分の目標を達成し、知識や可能性を発展させ、社会に参加するために、A書かれたテキスト(written texts)の内容を理解し、活用し、考える能力のことである。決して、従来わが国の国語教育で言われてきた「読解力」のことではない。問題を見ればわかるように、むしろ社会科教育や総合的な学習の時間で育てられるべき能力と言っても過言ではない。今回の改訂では「生きる力」の重視はそのままで、実際には基礎学力重視の路線が敷かれたのであるが、国内外の状況を見ると、社会科教育の果たす役割は一段と強まっていると言ってよい。
国際社会における日本の地位は学力だけではなく、経済力・政治力などあらゆる分野で凋落現象が起こっているし、国内的に見れば、親子関係などの家庭の崩壊、地域の教育力の喪失、格差社会による若者たちの生きがいの消失減少など、わが国の直面する課題は枚挙にいとまがない。このような時代であるからこそ、「社会科」教育にかけるものが大きいはずなのだが、国民の意識も教育関係者の意識も低い状況が続いている。
戦後生まれた「社会科」もすでに還暦を超える歳月を経たことになる。その間、高等学校の「社会科」解体などのいくつかの節々を経て今日に至っているが、その根幹を支えているのは授業実践である。社会科の授業が興味あるものになっており、社会的にも認められていかなければ、教育そのものも変わってはいかない。
日本社会科教育学会には幸いにも、小・中・高等学校の優れた実践者が集っている。学校現場に席を置く会員たちは多くの場合、研究者と連携して実践研究を進めている。他方、大学等に席を置く研究者も実践者とのコラボレーションのもとに研究を進めている。研究者と実践者が協同して教材開発を行い、授業研究を行うといったシステムは、わが国独特のものであり、アジア地域だけでなく、欧米でも注目を集めてきている。
二〇〇六年度に私が会長に就任したときの基本方針として、会員の実践研究を世に問い、わが国の社会科教育の発展に寄与することの重要さを示し、今回の出版の運びになった。山口幸男委員長を中心に出版企画特別委員会の尽力によって『社会科授業力の開発』小学校編・中高等学校編の2冊の本を上梓できたことはこの上ない喜びである。本書がわが国の社会科教育の発展に寄与できることを祈念している。本企画を快くお引き受けいただき、出版の労をとっていただいた明治図書の樋口雅子編集部長には格別の感謝を申し上げたい。
二〇〇八年三月三十一日 日本社会科教育学会 会長 /谷川 彰英
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- 明治図書