- まえがき:「型の活用」が社会科授業を変える
- T 「言語力」をつける中学校社会科授業の条件
- 1 言語力の育成
- 2 学習指導要領の改訂内容
- 3 社会科授業と言語力
- 4 国語力の育成
- U 中学校社会科授業における「言語力」の育成と習得・活用・探究
- 1 新教育課程における「言語力」の育成と習得・活用・探究
- 2 新教育課程社会科における「言語力」の育成と習得・活用・探究
- 3 社会科における「言語力」の育成と習得・活用・探究
- 4 「言語力」の育成と習得・活用・探究を組み込んだ社会科授業構成理論
- V 「言語力」を育成する社会科授業と評価
- 1 評価とは
- 2 社会科における評価の基本構造
- 3 社会科における評価方法
- 4 「言語力」を育成する授業と評価―英国地理教科書の例を参考に―
- 5 身近な地域の調査の事例と評価―コミュニティーバスの運行経路からみる地域の課題―
- W 「言語力」をつける中学校社会科授業モデル
- §1 地理的分野
- (1) コンピュータを主に活用した「言語力」の育成
- @「世界各地の人々の生活と環境」で「記述・報告する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「なぜ,宗教によって人々の食生活に違いがあるのだろう」
- A「日本の諸地域」の特色を「説明する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「なぜ,中国・四国地方には過疎地が多いのだろう」
- (2) 地図を主に活用した「言語力」の育成
- @読図,作図をとおして「世界の諸地域」の特色を「説明する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「なぜ,都市へ人が集まるのだろう(中国)」
- A地図を活用して「日本の諸地域」の特色を「説明する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「近畿地方の特色を見つけよう」
- (3) 統計資料を主に活用した「言語力」の育成
- @統計資料から「身近な地域」の課題を「解釈・討論する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「人口の推移から早島町の未来像について話し合おう」
- §2 歴史的分野
- (1) 見学・調査の成果を主に活用した「言語力」の育成
- @博物館などの見学・調査をとおして「歴史のとらえ方」を「記述・報告する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「姫路藩の財政改革―家老河合寸翁の政治―」
- (2) 史料や絵画資料,年表を主に活用した「言語力」の育成
- @史料を活用して「古代までの日本」を「説明する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「加賀郡★示札から見た律令国家による農民支配」(★JIS規格外の文字のため省略)
- A絵画資料を活用して「中世までの日本」を「解釈する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「なぜ浄土真宗の門徒は加賀国を支配できたのだろう」
- B年表にまとめて表現することをとおして「近世までの日本」を「説明する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「渋染一揆−差別との闘い」
- (3) 統計資料を主に活用した「言語力」の育成
- @統計資料を活用して「近代の日本と世界」の課題を「解釈・討論する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「世界恐慌と日本」
- §3 公民的分野
- (1) 新聞や統計資料,コンピュータを主に活用した「言語力」の育成
- @新聞を活用して「私たちと現代社会」について「記述・報告する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「新聞から現代日本の特色を考えよう」
- Aコンピュータを活用して「私たちと経済」について「説明する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「ITによるコントロールと環境保護」
- B新聞や統計資料,コンピュータを活用して「私たちと政治」について「討論する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「裁判員制度について考える」
- (2) 地理的分野や歴史的分野の学習を主に活用した「言語力」の育成
- @地理的分野や歴史的分野の学習成果を活用して「私たちと国際社会」の課題を「討論する力」をつける授業モデル
- 【授業モデル】「アメリカ合衆国の銃規制問題」
- あとがき
まえがき:「型の活用」が社会科授業を変える
中学校学習指導要領解説は,「社会科改訂の要点」の第2に「言語活動の充実」を明示している。そこでは,各分野の特質に応じた改善方策が示されている。この中で,次の用語が登場している。
【言語活動充実に関わって登場してきた用語】
説明,解釈,考察・判断,議論,論述
わたしたちは日常生活で,これらの用語を意識しているだろうか。景気刺激策として出された定額給付金を事例にして考えてみよう。
「予定していないお金が入ってくると,日頃買いたいと思っている物を買う人が多いので,景気が良くなる。」(説明)
「衆議院の総選挙が近いので,選挙対策として与党が実施したのだろう。」(解釈)
「他国の場合でも,与党が景気対策に実施したことがあるので,かならずしも選挙対策とは言えないよ。しかし,景気対策ならば他の有効な政策があると考えられるので反対だ。」(考察・判断)
「できるだけ多くの国民に消費拡大をさせる方策としては,定額給付金の交付が最善の策である。」(議論)
「赤字国債や消費税の引き上げにつながる政府支出は,消費の拡大につながらない。」(議論)
「体験・経験情報,証拠資料などを示して定額給付金について,自分の考えを述べなさい。」(論述)
これまでの社会科の授業記録を分析してみると,ここで示した内容に当たる発言は,単元展開の中に見られる。しかし,教師や生徒のこういった発言は,無意図的,無計画なものである。良い社会科の授業として評価される事例では,この種の発言が見られるものである。反対に,この種の発言を抽出できない社会科授業は,深まった良い授業になり得ている例は少ない。
本書では,これらの用語を明示的に組み込むことによって社会科授業を変革し,かつ,「言語力」もつける事ができる途を示した。この目的を達成するために,最初に,「言語力と社会科授業」の理論を述べた。次に,その理論を踏まえて,新学習指導要領で強調されている「習得・活用・探究」と「言語力」の関係,および,その評価について論じた。そして,具体的な授業モデルを示して,実践への途を示した。
本書全体を見通して,「言語力」に着目することによって,社会科の授業内容および授業展開が変わることを実感している。まさに,「『型の活用』が社会科授業を変える。」,「型式が中身を作る。」ということを示すものになっている。本書が契機となり,中学校社会科の新しい試みがなされることを期待している。
多忙な日々の中で貴重な原稿を執筆いただいた諸氏,および,出版へのアイディアの提供,編集作業等,万端に亘りご尽力を戴いた明治図書及川誠氏に感謝申し上げる。
平成21年5月15日 編著者 /岩田 一彦 /米田 豊
授業モデルもよく子どもの知識を深めていく過程が詳しく解説されており、よく整理されていて取り組みやすい。