- はじめに
- 序 東アジアにおけるシティズンシップ教育の可能性をさぐる
- ――東アジア社会科サミットの開催にあたって /森茂 岳雄
- 1 シティズンシップ教育の広がり
- 2 社会科の問い直しと変革――「方法としての東アジア」
- 3 サミットで何が語られたか
- 4 おわりに――イデオロギーを超えて
- Ⅰ 基調提案 東アジアにおける社会科の可能性
- /谷川 彰英
- 1 「社会科」は日本に根づいたか
- 2 シティズンシップ教育の潮流
- 3 社会科はアジアにどう定着するか
- 4 大江健三郎――「私」からの発信
- Ⅱ シンポジウム「東アジア的市民性の育成と社会科教育」
- 中国におけるシティズンシップ教育――東アジア的シティズンシップ育成の可能性について /姜英敏
- 1 はじめに
- 2 中国におけるシティズンシップ教育の発展の経緯
- 3 シティズンシップ教育の現状と問題点
- 4 東アジア的シティズンシップ育成にかかわる諸課題
- 東アジア的市民性の育成と社会科教育――韓国の社会科における市民性教育を基として /南景熙
- 1 はじめに
- 2 市民性の観点から見た東アジア社会の特徴
- 3 韓国における市民性教育の現状と課題
- 4 韓国における民族的アイデンティティ教育の現状と課題
- 5 東アジア的市民性育成の可能性
- 台湾における社会科教育とシティズンシップ教育 /楊思偉
- 1 はじめに
- 2 「小中学校の九年一貫カリキュラム改革」の成立の経緯と構造
- 3 現行社会科の教育目標と公民資質教育――社会学習領域の設置
- 4 公民資質の養成
- 5 公民資質教育に関する変遷――台湾における市民性育成の問題
- 6 結論の代わりに――東アジア的市民性育成の可能性
- 日本におけるシティズンシップ教育――社会科でいかにシティズンシップ教育をすすめられるか /宮薗衛
- 1 はじめに
- 2 なぜ、今、シティズンシップ教育なのか――その背景を探る
- 3 社会科はシティズンシップ(市民性・市民的資質)教育にどのような役割を果たすか
- 4 社会科における市民的資質(市民性)育成へのアプローチの多様性と課題
- 5 東アジア的シティズンシップ(市民性/市民的資質)育成の可能性と社会科の役割
- Ⅲ シンポジウムを終えて
- /二井 正浩
- 1 はじめに
- 2 シンポジストの意見交換・質問票からの質問への応答
- 3 おわりに――多重シティズンシップの可能性
- Ⅳ 東アジア的シティズンシップは可能か――参加者からの提言
- 東アジア的シティズンシップ教育は可能である /池野 範男
- 東アジアの歴史認識の共有とシティズンシップ教育の相互交流の中で探る /臼井 嘉一
- 歴史教育における東アジア的市民性の構築――東アジア史の構想 /國分 麻里
- 東アジア的市民性の育成へのドアを開いた社会科サミット /中村 哲
- 東アジアの共通空間と課題認識をふまえた社会科教材開発の共同作業を! /藤原 孝章
- 政治思想から見た東アジア的シティズンシップ教育の可能性 /水山 光春
- 必然性のない「東アジア的シティズンシップ(市民性)」の概念 /山根 栄次
はじめに
本書は、日本社会科教育学会が主催して二〇〇七年十月六日に御茶ノ水の中央大学駿河台記念館で開催された東アジア社会科サミット「東アジア的市民性の育成と社会科教育」における基調提案、シンポジストの発表論文、当日のディスカッション、及び参加者からの提言をまとめたものである。
本社会科サミットの趣旨は、これまでシティズンシップ教育を中心的に担ってきた「社会科」という教科の価値や可能性について、東アジアの国や地域の研究者を集めて意見を交換し、今後の展望を拓こうというものである。同サミットは、谷川彰英会長の提案によって準備が開始され、同学会の国際交流委員会が企画・運営にあたった。
本社会科サミットの開催にあたって谷川会長からは、次の三点を「基本的基軸」に置くよう見解が示された。
①あくまでも「社会科」という教科の本質に特化した議論を行う。
近年、シティズンシップ教育の潮流が世界的な規模で起こっているが、本サミットではその動向に注目しつつも、あくまでも「社会科」教育に特化した議論を行う。
②「東アジア」という地域名は仮のものであって、その地域概念をアプリオリなものとして設定しない。
とりあえず、今回は「東アジア」を代表する韓国・中国・台湾・日本の四つの国・地域に限定して議論を行うが、今後はこれらに限定する必要はない。問題はあくまでも、アメリカで生まれた「社会科」がアジアなどの地域にどのように定着し得るのか、を検討することにある。
③国や地域の代表としてではなく、あくまでも一研究者としての意見を交換することを趣旨とする。
アジアの地域ではとかく、国や地域を代表してプレゼンテーションをするものと思われがちだが、本サミットではあくまでも研究者としての責任で発言し、意見を交換するものとする。
以上のような「基軸」に立って、当日のサミットでは、「東アジアにおける社会科の可能性」と題する谷川会長の基調提案を受けて、中国、韓国、台湾から日本に関係の深い三人のゲスト・スピーカーを招聘し、日本側から一人が参加してシンポジウムが行われ、活発な議論がなされた。本シンポジウムの内容については、続く各章を読んでいただきたいが、各国・地域のイデオロギーを超えて充実した議論ができたと確信している。
ここに、本サミット開催の必要性を強く提案され、同シンポジウムの基調提案を率先して引き受けてくださった谷川彰英会長、及び本サミットの趣旨に賛同しシンポジストをお引き受けくださった北京師範大学の姜英敏、ソウル教育大学の南景熙、国立台中教育大学の楊思偉、新潟大学の宮薗衛の各氏に感謝申し上げたい。また本サミットは、日本社会科教育学会の幹事会の先生方の貴重なご意見と同国際交流委員会の委員の先生方の献身的な協力によって企画・運営がなされた。特に本書の編集にあたっては、国立教育政策研究所の二井正浩氏がその任を全面的に引き受けてくださった。この場を借りて感謝申し上げたい。本書の出版にあたっては、明治図書編集部の樋口雅子氏に大変お世話になった。昨今の出版事情厳しい折、本書のような学術書の出版にご理解をいただき出版をお引き受けくださったことを心から感謝申し上げる。
本サミットが契機となって、今後東アジア、ひいてはアジア全体において社会系教科に関する対話と研究交流が継続、発展されることを願ってやまない。
二〇〇八年 盛夏 日本社会科教育学会国際交流委員会委員長 /森茂 岳雄
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- 明治図書