オピニオン叢書 緊急版
あなたの性教育は科学的と言えるか
動物の性,ヒトの性,その歴史性

オピニオン叢書 緊急版あなたの性教育は科学的と言えるか動物の性,ヒトの性,その歴史性

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性教育に生物学的基礎を,特に生物の性の歴史性をもっとみつめて欲しい。さらには性教育に子育ての観点をと主張するユニークな性教育改革論。


復刊時予価: 2,387円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-748905-3
ジャンル:
その他教育
刊行:
2刷
対象:
小・中
仕様:
A5判 136頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに
性教育の前に
1 地球危機の状況の中で
2 無意識の人間中心主義を越えて
T ヒトらしさ・動物らしさ
1 ヒトは,実はチンパンジーだった
2 「ヒトらしさ」は,本当にヒトらしさか
3 ヒトらしさは,家畜化による
4 コントロールを失ったヒトの性
U 性の進化と系統進化
1 性の進化史の中で「ヒトの性」を語る
2 性の進化は,ヨコ向きの進化?
3 性は「胎生」の方向に進化する
4 性は「子育て」の方向に進化する
5 「個体発生は系統発生をくり返す」の真偽
V 種全体で「子育て」をする唯一の動物=ヒト
1 性の進化の中でのヒトの性の位置
2 ヒトの性の特殊性は「子育て」にある
3 子育ての進化と子の自立性
W 何のために「性」はうまれたか
1 何のために「性」はうまれたか
2 似ていないことこそ大切では
3 父親の一代かぎりのDNA
4 生殖の性とコミュニケーションの性
5 コミュニケーションの性は生活と共に
X 豊かなセクシャリティー(性観)とは
1 女子高生の思い出
2 「性交=愛」と考える少女たち
3 性観の押しつけはやめよう
Y 性教育が科学的であるために
1 言葉遣いを厳密に
2 進化論的に学べば「性交」はわかる
3 生殖の性とは,成功した性交を言うのか
4 ヒトの性だけがすぱらしいのではない
5 希望と展望を与えるエイズ教育を
おわりの前に──性は,愛で価値付けられない──
おわりに
資料編/〈科学読み物・ブックトーク〉

はじめに

 性教育は,大変幅のある多面的な内容を持った教育です。「性教育は,総合科学である」などと言われるのも,そのことを指しているのでしょう。

 これから,その性教育について述べるのですが,私かこれから述べることは,性教育全般にわたったものではありません。性教育のごく一部である,自然科学的・生物学的な側面での問題です。(社会科学的なことについても少し触れていますが)

 私が,生物学的な側面に的を絞って論を進めるのは,従来行われてきた性教育の内容の中で,生物学的な側面が少し弱いように思うからです。他の部分については,よく検討されているにも関わらず,生物学的な側面については「それも大切だが,性教育はそれだけではない…」などという言葉の影で,実は余り検討されてこなかったように思うからです。

 一方で「性教育は,科学的でなければならない」と,誰もが言います。しかし,そう言いながら,実際は科学的ではなく,単に科学的な知識を散りばめているだけというものが結構多いのです。科学的知識を取り入れ散りばめるのが科学的ということではありません。科学的な見方と科学的な論理展開の中で知識がきちっと使われて初めて,科学的な意味をもつのです。

 要は,性を確かな事実に則して,科学的に見,科学的な論理展開で語っているかと言うことです。

 そのように考えてきたとき,性教育の中にいくつか気になることがあるのです。


《一つは,人間中心主義的な考え方です。》

 「人間は素晴らしい。人間の性は,他の動物の性とは違う。」と強調する性教育です。

 このことについては,後に詳しく述べますが,人間の性を本当に理解するためには,まず動物の性を理解する必要があります。しかも,人間の性とは違うものとしてとらえるのではなく,「動物の性(性の一般性)が基本にあって,その中に人間の性も含まれている」という理解が重要なのです。そのような理解の後に,ヒト(人間)の性の特殊性・独自性が語られなければならないのです。

 それをはじめから,「人間の性は動物の性とは違うもの。人間の性は素晴らしいもの」と語ってしまう。そんな性教育があるのです。


《一つは,感情論・感傷論です。》

 ある研究会で,痴漢やレイプを性的衝動と述べた人がいました。その人に対して,憤然と異議を申し立てた人がいたのです。「そうじゃないでしょ。暴力でしょ。痴漢やレイプは暴力でしょう。」と言うのです。

 この人は,感情論で性を語ろうとしています。確かに痴漢やレイプは暴力(弱者への支配)であって,憎むべき行為です。しかし,性的衝動であるということも事実なのです。事実を否定したのでは,問題は解決しません。

 ヒトは大脳皮質を発達させ,性的衝動をコントロールする力を持ちました。しかし,その犯人は,そのコントロールする力を持ち合わせていないのか,あるいは意図的にコントロールをしなかったのか,それが痴漢やレイプなのではないでしょうか。

 感情や感傷を少し抑えて,冷静に考えてみたいものです。


《一つは,愛の至上主義です。》

 愛のすばらしさを高らかと語る性教育です。愛を語るのはいいのですが,性の全てを(あるいは多くを)愛で語ろうとすることには無理があるのです。

 愛は重要ですが,愛を絶対視してはなりません。生物の歴史の中で性が生まれたときには,愛はまだ存在していなかったのです。愛がなくとも性が存在するという事実を,客観的に見つめなければなりません。

 性を愛とだけ結びつけて「愛さえあれば,どんなことでも……」という認識が少年少女の中にあって,今,多くの問題を起こしている,とも言えるのではないでしょうか。

 人は愛を求める存在です。ですから,無意識に愛を過大評価する傾向があるようです。性を愛で価値付けようとする傾向もあるようです。

 後ほどくわしく述べますが,子どもの存在価値を両親の愛に結びつけて説明したために,かえって子どもの心を傷つけたという例もあるのです。

 愛に対しても冷静でいたいと思います。


《一つは,現実対応に追われた性教育です。》

 今,少年少女の性にも大きく歪んだ現状があります。その現実の歪みをとらえ,問題意識を表明することも大切です。性教育の中で,現実問題を取り上げ,問題状況の改善に働きかけることも大切です。

 しかし,その一方で冷静に客観的に性をとらえる必要もあるはずです。そして,目の前の個々の問題以前に「性の本質」を考える性教育を進めていくことも大切なのではないでしょうか。

 科学には,応用科学もありますが,基礎科学もあります。性教育の世界では,基礎科学が不足しているのではないでしょうか。


《一つは,先に価値観ありきの性教育です。》

 科学的にものを見る時には,先入観を持たないことが原則です。それは,性教育であっても科学性を求めるなら同じことです。

 しかし,性については,先入観としての価値観が先行してはいないでしょうか。性について考える前から「愛は素晴らしいもの」とか「夫婦も親子もみな愛し合わなくてはならない」とか「人間の性は,動物の性より素晴らしい」などといった。価値観が先行してはいないでしょうか。

 もちろん,性教育全体がそうだと言うのでありませんが時折そのような実践が見受けられるように思うのです。それでは困るのです。

 「人は見たいように見る」という言葉がありますが,価値観・先入観が先にあったのでは,見たいようにしか見えてこないのです。それでは,科学になりません。


《一つは,視野の狭さです。》

 私が目にした性教育の多くは,どうも視野が狭いように感じます。

 「人間の性」を問題にするときには,人間だけを見ていたのでは人間は見えません。視野を広くして,動物のなかに人間を位置付けた時,初めて人間が見えてくるのではないでしょうか。

 エイズの問題を考えるとき,エイズウィルス(HIV)だけを見ていたのではエイズは見えてきません。ウィルスのなかにエイズウィルス(HIV)を位置付けた時,初めてエイズが見えてくるのです。


《地域性・歴史性・階層性》

 「科学的」というときには,大きく3つの視点が問題になるかと思います。

 それは,・地域性・歴史性・階層性です。

 例えば,性教育で「人間の性の特徴」などといった時の「人間」は,誰を指すのかと言うことも,この3つの視点で見ていく必要があります。

 ただ漠然と自分の回りの人間を意識して,性教育を考えているだけなら,科学的とは言えません。科学的である為には,その対象・範疇を明確にしておく必要があります。

(以下省略)

著者紹介

三上 周治(みかみ しゅうじ)著書を検索»

1951年生まれ/大阪府出身

〇女子高校の社会科教師を経て,現在東大阪市立孔舎衙(くさか)小学校教諭

〇科学教育研究協議会全国委員・日本哺乳類学会会員・日本環境教育学会会員

〇1981年小学館「ヨーロッパの学校」取材特派記者入選(算数教育)

 ・1981〜84年「日本標準教育賞」連続入賞,うち1982年新人賞(理科教育) 1983年優秀三位(体育教育)

 ・1992年第2回国語教育研究所公募実践研究論文入選(作文教育)

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • 大学生時代お世話になった先生が書かれた本ぜひ復刊してほしいです!
      2024/3/2がーの
    • 三上先生は僕にとって恩師です。僕の大学の後輩にあたる教師から、「この本が買いたいのに現在3万円もして買えない。復刻してほしい」という声がありました。この本には3万円以上の価値があると思いますが、より多くの人の手に行き届き、子どもたちの豊かな教育の支えになって欲しいです。三上先生は素晴らしい「先生」です。復刻を強く希望します。
      2024/3/2まおろ
    • ぜひよろしくお願いします!
      2024/3/2しょーむー
    • 最近、クラスの中で下ネタが流行っている。自分にも性教育の知識が乏しいため、子どもたちに話す時にどのように伝えるか悩んだしまう。話題を避けるという方法しか取れていないので、この本を使って学びたいと思った。
      2024/3/2
    • この本は何度か読んだことがありますが、本当に良い本で絶版になっているのは非常に勿体無いと思います。
      2024/3/2

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