- まえがき
- T 国語力の育成と子ども
- 一 学校の言語生活を整え国語力を育てる
- 1 挨拶の指導を繰り返し学校生活の基礎を育てる
- 2 敬称「さん」で呼び「はい」と返事をする指導を積み上げる
- 3 敬語とりわけ丁寧語を使える子どもに育てる
- 二 言語力を育て人間力の基礎を育てる
- 1 「適切に表現する」を大事にする
- 2 「国語をがんばる」という子ども
- 3 聞く力、話す力を生きた場で育てる
- 4 トライアングルスピーチ
- 三 国語力の育成で学校の日常を正す
- 1 言葉を正しく使うことの大事さに気づかせる
- 2 出来事を、言葉を育てるという面からとらえる
- 3 自分本位な言い分を相互理解へ導く学級の話し合い
- 4 国語力が生活場面で生き尊敬できる人間関係が生まれる
- U 国語力を育成する教育構造と年間計画
- 一 教育目標と国語力
- 二 教育構想
- 三 国語力育成のめざす具体的な教育活動
- 四 教育計画
- 1 低学年・学校生活の基礎作り
- 2 中学年・児童一人ひとりの指導の充実
- 3 高学年・将来を見据えた高い学力の育成
- V 国語力を育てる言語環境
- 一 言語環境と学校文化と
- 二 言語環境としての附小図書館
- W 国語力を育てる機会と場
- 一 附小音読集会
- 二 ノート検定
- 三 附小言語力検定
- 四 広がる国語力育成の取り組み
- 1 鉛筆でつづる音読詩
- 2 お話コンクール
- 3 親子日記の取り組み
- 4 詩・短歌・俳句作り
- 5 理科算数(理数)に関する音読
- X 国語力育成と国語科の授業
- 一 国語科授業の改善の視点
- 二 国語科授業の実際
- 1 国語力育成と低学年の授業「かさこじぞう」
- 2 国語力育成と中学年の授業「ごんぎつね」
- 3 国語力育成と高学年の授業 短歌と俳句
- Y 国語力を育てることと教科の指導
- 1 国語力と社会
- 2 国語力と算数
- 3 国語力と理科
- 4 国語力と音楽
- 5 国語力と体育
- 6 国語力と保健室
まえがき
「国語力は人間力」を合い言葉に教職員が志を一つにして教育実践に取り組んで四年を迎える。国語力への着目は国語が大事だからという一般的な考えではない。国語力を高めることが人間力と結びつき、豊かな生活につながるという考えが背景にある。四年間の過程で本校が得たものは次のことである。
国語の授業が変わると子どもが変わる。
子どもが変わると学級が変わる。
学級が変わると学校が変わる。
学校は穏やかな日もあるがそうでない日もある。一つの出来事の解決を手間取るとそれに付随して次々と問題が広がる。これは、私立の小学校でも例外ではない。むしろ、私立の小学校の方が国立や公立の小学校を超える根深い課題も多い。その問題や課題のもとをただすと、人間関係の脆さやコミュニケーション力の弱さが原因であるということに気づく。言葉の力の貧しさや弱さから生まれることがはっきりしている。
子どもは、その環境に順応する。言葉が乱れたり、粗くなった環境におかれると、学習に集中するというよりは、気持ちを落ち着けて勉強するにはどうしたらいいかという方に気持ちが動いたり心が揺れる。不安で落ちつかない心を抱えて学ぶには相当のエネルギーを必要とする。
安心して学校で学び、友達と喜びや辛さを共有し、先生を尊敬する学校という当たり前のことを日々実践するにはどうしたらいいかということを課題に、全職員で知恵を出し合った。五〇年の歴史は創設の志を引き継ぎながらも、ときとして学校本来の姿を見失うこともあったことは十分推測できた。また、学びのエネルギーを掘り起こさないまま時間だけが過ぎていったということもあったことも。歴史の重さを大事にしながらも、創立五〇年という節目を機会に、もう一度、学校作りの原点を見つめ、「こんな学校にしたい」と思いを具体的な提案として出し合った。提案は全部では一一六件。多くが国語力、人間力に関わる内容であった。
提案は多様多岐にわたった。挨拶、敬語から始まり読書、音読、ノート指導など具体的で実践的な内容を次々提案しあった。もちろん、トイレの改修や校舎の改築、少人数指導などもあった。さらには、教室の配置や制服の改善、修学旅行の検討等々。
学校を変えるという大きな目標ではなく、落ち着いて学べる学校、京都女子大学附属小学校で六年間を学んでよかったと思ってもらえる学校にしようと意志を統一し、誰もが気にしていた「行儀のよい学校」をどうするかを考えあった。そして、「国語力」の育成に方向を定めた。
第一段階は、学習の環境を整えることに力を注いだ。挨拶や返事、敬称で呼び合うことや丁寧語で話すことに力を注いだ。
第二段階は国語科授業の改善である。一般に国語のよい授業のイメージは、活発な話し合いを通して主題や意図に迫る内容が深くなっていくように見える授業である。しかし、その子細を見ていくと、問答だけであったり、教師のひとりよがりであったりする。国語科授業の充実が日常の言語生活を高め豊かにするという仮説を大胆にたて授業の充実を図った。
第三段階は、多様な言語体験である。音読集会や言語力検定、ノート検定を通して、国語の勉強をすることの大事さに意識を高めた。たとえば全校音読の実施は、詩や古文を暗唱する、全校で音読する活動を通して国語を学ぶ喜びを共有しながら意識を高めることに役立つことが多かった。
第四段階は総合的な国語力の育成である。国語科の授業を中核にしながら、学校の日常で国語力の育成に光をあてたことである。自分を適切に表現することの大事さを子どもと考える機会を大事にした。このことで教師の言語力育成の関心は高まった。また、国語科の力を生かして他の教科でも生かそうと様々な試みをした。
第五段階は、自らの言葉に責任をもつ子である。自分の言葉の及ぶ範囲を理解し、適切に使える子に育てるという方向で、国語科の授業の質を見直すことである。
このように考えると国語力の育成は奥が深いことに気づく。さらに全校あげて国語力の育成に四年をかけても、第一段階で留まっているというのが実態である。その中でも、きらりと輝く子どもの姿に出会うとき、改めて「国語力は人間力」ということの大事さに気づく。
本書は、四年間の歩みをもとに、国語教育のあり方を著したものである。多くの皆様のご指導を賜りたく存じます。本書の発行については明治図書編集長江部満様にお世話になりました。最後になりましたが厚くお礼申し上げます。
平成二二年二月 京都女子大学附属小学校 校長 /吉永 幸司
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