- はじめに
- 第T章 「ずれ」の理論
- 1 「ずれ」とは何か
- 2 子どもの学びにおける「ずれ」の価値
- 3 「ずれ」と教師のCR能力
- 4 「ずれ」の存在
- (1)子どもと教師との「ずれ」 /(2)友だちとの「ずれ」 /(3)子どもと教材との「ずれ」
- 5 「ずれ」の様相
- (1)言葉に表れる「ずれ」 /(2)操作に表れる「ずれ」 /(3)式に表れる「ずれ」 /(4)表情に表れる「ずれ」 /(5)動作に表れる「ずれ」
- 6 「ずれ」を生かす指導法
- (1)教師の意図的なしかけ /(2)復唱法の活用 /(3)Whatで問う /(4)問題場面に戻る /(5)図で振り返らせる /(6)共通点に着目させる /(7)Nextを問う /(8)子どもにふる
- 7 「ずれ」の分類
- 第U章 「ずれ」の事例
- 言葉に表れる「ずれ」
- <事例1> かけ算と同じか わり算と同じか
- <事例2> 15ずつにするってどういうこと?
- <事例3> 分速なのに時間?
- <事例4> こんなん,割り切れへんやん
- 操作に表れる「ずれ」
- <事例5> 10の束と100の束
- <事例6> シューってやった
- <事例7> 「4と6」でもいいの?
- 式に表れる「ずれ」
- <事例8> 「4×5」と「5×4」
- <事例9> あまりは2桁じゃない
- <事例10> 何算でできるか?
- <事例11> 「4」はどこから?
- <事例12> なぜ上から1桁の概数にするのか?
- 表情に表れる「ずれ」
- <事例13> 未習と既習の接点
- <事例14> 3−6=3
- 動作に表れる「ずれ」
- <事例15> 数え方の違い
- <事例16> 3種類あるのがわかるところは?
- 教師の意図的なしかけ
- <事例17> 612だね
- <事例18> でもやっぱり
- <事例19> どっちが大きい?
- <事例20> 帰ったんだからひき算じゃないの?
- <事例21> 12こと(3×4)こ
- 復唱法を活用する
- <事例22> そのうち答えが出てくる
- <事例23> あまる長いすの数
- <事例24> けっこう説得力あるなあ
- Whatで問う
- <事例25> 180°って何?
- <事例26> まあるいかたち
- <事例27> このグラフ わかりにくいね
- <事例28> 「05」って何?
- <事例29> 40分と10分をひき算する
- 問題場面に戻る
- <事例30> 長いすは何きゃくいるでしょう
- <事例31> 10からひくの? 20からひくの?
- <事例32> 平行じゃないのは垂直
- <事例33> 長さが10mだったら,重さは4kg
- <事例34> こっちも平行なんだ
- 図で振り返らせる
- <事例35> どっちの問題?
- <事例36> 54でわると1つ分がわかる
- <事例37> 本当の答えはここにある
- <事例38> 6って何?
- 共通点に着目させる
- <事例39> 線分図と数直線は同じ?
- <事例40> カバはなかまじゃない
- <事例41> だれの三角定規でも同じ?
- <事例42> 50+20はいらないか?
- <事例43> 同じところはどこ?
- Nextを問う
- <事例44> 10の束をバラにして,どこに置く?
- <事例45> 食べる前 食べた後
- <事例46> どうせくずすんだから
- 子どもにふる
- <事例47> ものさしってどういうこと?
- <事例48> その列,全部0だよ
- <事例49> 山のようにしておく
- <事例50> 2−3
はじめに
ここ数年,授業力アップをめざして各地の小学校及び研究会を訪問してきた。私は,授業力を次の公式で定義している。
授業力={(教材把握力)×(子ども把握力)×(指導技術力)}×(精神エネルギー)
この公式にそって,教材開発,教科書の活用,指導法のマニュアル化,キャッチ&リスポンス,基礎・基本の徹底,算数的活動などの研究を進めてきて,単行本化した。だから,授業論についてはかなりのことが分かってきた。そして,最初に授業力アップとして2つのポイントにたどりついた。
第1に○つけ法であり,第2にキャッチ&リスポンスの源の復唱法である。この2つを教師ができるようになると授業がよくなる。
○つけ法は子どもの今の理解度を評価して指導に生かすことである。
復唱法は,子どもの発言をありのままに受け止めてそのまま再生できることである。具体的には,「A子さんが言ったこともう一回言ってみて」と質問してみることである。そして,子どもは答える。復唱しているようだが,付け足したり,意味を解釈したり,変更したりする。つまり,「ずれ」が生じるのである。子どもだけではない,教師も付け足したり,意味の解釈を平気で行う。「あれれ,子どもはそんなことを言っていないぞ。」という場面にでくわす。
2と5/1と5/12の大小比較の場面であった。2と5/1と2と5/2とに直して比べていた。すると,子どもが「分数の位で比べて」と言った。ところが,教師は「分数の形で比べるんだね」と言った。明らかに表現が異なる。子どもは,帯分数の中の整数部分は同じ2だから,真分数の所で比べようという意味で発言している。だから,「分数の位」という表現を使った。教師と子どもとの発言に「ずれ」が存在する。この「ずれ」が算数の理解に大きな妨げとなる。
この授業では,教師は気がついて「分数の位というのは,小数のときに3.5というように,.5の部分で比べるということ?」と切り返した。すると,子どもがうなずいた。このとき,教師と子どもとのコミュニケーションが成立し,他の子どもも「ああ,そういうことか」と理解が深まった。帯分数の構造と帯小数の構造とが同じだと分かったからだ。
すると,「ずれ」は理解の妨げであったが、理解の深化につながった。
つまり,「ずれ」というのは悪いものではなくて,よりよい理解へのきっかけとなるものである。大きくずれればずれるほど,元に戻ろうとするエネルギーは大きくなる。だから,教師はわざと「ずれ」を起こさせる発問をしたりする。それがゆさぶりなのである。
この本は,授業の中で見られる「ずれ」の場面について多くの事例から分類し,そしてどうすれば「ずれ」を生かした授業ができるかを考えてみたものである。この本を読むことによって,「ずれ」の存在と活用法を知り,授業がさらに生き生きとしたものになると思う。
さて,この本は,井手誠一さんの協力によって出来上がったものである。井出さんは,平成14年度の1年間,私の研究室に長野県からの内地留学生として派遣されてきた現職の教員である。私と一緒に150近くの授業を参観した。平成14年の5月頃,授業には「ずれ」という視点があるということを彼に伝え,それを研究してみないかと誘った。それから,2人で授業分析をしていった。いろいろと議論を重ね,この本にたどりついたのである。
また,明治図書の石塚嘉典さんには企画・編集に賛同していただき応援していただいた。お礼申し上げたい。
久しぶりの単著である。この本によって,授業の中の「ずれ」にきがついて「ずれ」を生かした授業をしてほしいと願っている。
平成15年3月1日 愛知教育大学 /志水 廣
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