- まえがき
- 序章 母親の手記より
- T章 Y君のこと
- 1 Y君の生育歴
- 2 Y君との出会い
- 3 高等部入学時のY君の実態
- U章 基本的生活習慣の確立への取り組み
- 1 五つの指導目標
- 2 着替えの指導
- 3 洗面の指導
- 4 食事の指導
- 5 生活のリズムの確立
- V章 一人通学への取り組み
- 1 徒歩指導
- 2 バス乗車指導
- 3 下車指導
- 4 乗車指導
- 5 自転車通学指導
- W章 生活の自立をめざした取り組み
- 1 食事作りの指導
- 2 洗濯の指導
- 3 掃除の指導
- 4 その他の取り組み
- (1) パニック
- (2) 対人関係
- (3) 機転
- (4) 入浴
- (5) ことば
- (6) 文字
- (7) 買い物(お金)
- (8) 体育
- (9) 宿泊学習
- X章 働くことへの取り組み
- 1 校内作業
- (1) 一年生時の指導
- (2) 二年生時の指導
- (3) 三年生時の指導
- 2 現場実習
- (1) 二年生時
- (2) 三年生時
- Y章 就職
- 1 職場
- 2 家庭
- あとがき
まえがき
対人関係に障害をもつ自閉症児が、実社会へ出て働くことは容易なことではありません。実際に職に就いているものは全体の十パーセント以下で、しかもそのほとんどが、比較的能力の高い子供であるといわれています。学校を卒業した後、大半は、施設もしくは家庭で援助や保護を受けながら生活しているのが現状です。では、重度な自閉症の子供は、実社会で働くこと、自立することは不可能なのでしょうか。私はそうは思いません。
心身障害児教育の究極的目標は社会的自立です。実社会の中で働き、収入を得て、自分の力で生きていくことができるようにすることです。このことは、どんな重度の子供であろうとも、どんな障害の子供であろうとも変わりはありません。もちろん、自閉症児の教育においても例外ではありえません。この子は重度だから、特別な障害があるから、自閉症児だからといって、「自立」という目標を放棄してはならないのです。私たちが子供の本当の幸せを求め、願うなら、まず実社会の中で働かせ、人並みの生活をさせるという目標に向かって、全力で取り組んでいかなければなりません。
本書は、「将来は施設へ行く以外ない。実社会で働くなど、とても考えられない」といわれていた重度な自閉症児Y君が、親と教師の一体となった取り組みによって、とうとう就職まで果たした、その指導の軌跡をまとめたものです。困難にぶちあたっても、ひたすらY君の幸せを願い、Y君と四つになって取り組んだ実践記録です。
自閉症児の指導のあり方は千差万別で、今なお解決されない困難な問題をたくさんかかえています。一口に自閉症といっても、一人ひとりその障害も行動も異なりますし、他の障害児と比べて問題点が多いことも事実です。しかし私は、障害児教育における指導の基本は、どんな障害児であろうとも、決して変わらないと考えています。
障害児の指導で大切なことは、子供の実態をしっかり見つめ、きびしくでもなければやさしくでもなく、子供の自然的活動を大切にしながら、ただ熱心に、愛情をもって、根気強く、積極的に指導や訓練を続けるということです。
Y君の実践を通して、どんな障害をもった重度な子供でも、学校と家庭が一体となってこの指導の基本を貫けば、必ず子供は成長する、自立も十分可能であるということを知ることができました。
この実践記録が、自閉症児をもつ親御さんや先生方、また障害者にかかわるすべての関係者のために、少しでもお役に立つことができれば幸いです。
一人でも多くの親御さん、先生方が、本気で子供の幸せを求める取り組みを行い、一人でも多くの障害者が、人並みの生活ができ、実社会で堂々と生活していくことができるようになることを願っております。
終わりに、出版の労をこころよくお引き受けくださった明治図書ならびに同第一編集部の長沼啓太氏に心からお礼を申しあげます。
昭和六十一年二月 著者
ただ、最初の頃にY君がパニックになった時に、具体的にどのように対応したのかが、本だけでは分からないのが残念です。
上岡先生の指導に負けないように、毎日がんばって子どもの指導に打ち込みたいと思います。