- まえがき
- Ⅰ 教育コミュニティの創造
- 1 ともに取り組むべき課題
- 1 青少年育成活動
- 2 完全学校週5日制
- 3 子どもの安全確保
- 4 子育て・家庭教育支援
- 5 総合的な学習の時間
- 6 学校のアカウンタビリティ
- 2 教育コミュニティづくりの展開
- 1 教育コミュニティとは何か
- 2 地域教育協議会の組織と活動
- 3 見えてきた新たな課題
- 4 開かれたコミュニティ
- 5 地域に開かれた学校
- 6 新たな教育文化と学校づくり
- Ⅱ 教育コミュニティづくりの現場
- 1 子育てを通して地域を変える
- ―大阪府・岬町地域教育協議会―
- 1 岬町地域教育協議会の発足
- 2 取り組みの概要
- (1) 教育ボランティアの活性化―「すこやかボランティア委員会」―
- (2) 地域組織の新しいつながり―「児童生徒健全育成委員会」―
- (3) 子育てを支えるネットワークづくり―「子育て支援委員会」―
- 3 これまでの成果と今後の展望
- 2 地域文化の創造と人権のまちづくり
- ―大阪府・北条中学校区ふれ愛教育協議会―
- 1 「ふれ愛教育協議会」と「北條太鼓保存会」
- 2 取り組みの概要
- (1) 「荒れ」の克服にむけて―「北中宣言」から「青少年育成会議」へ―
- (2) 地域文化の継承と創造―「北條太鼓保存会」と「ふれ愛フェスティバル」―
- (3) 学校・地域・家庭のトライアングル―「ふれ愛教育協議会」―
- 3 これまでの成果と今後の展望
- 3 重層的なネットワークの力
- ―大阪府・松原市―
- 1 先進地域としての松原
- 2 取り組みの概要
- (1) 教育コミュニティづくりの出発点―三中校区の人権・同和教育―
- (2) 学校教育の活性化―「松人研」と「マイスクール推進研究事業」―
- (3) 青少年育成活動の転換―「青少年健全育成協議会」―
- (4) 「まちづくり」と「学校づくり」のむすびつき―七中校区からの発信―
- (5) コミュニティの中心としての「地域に開かれた学校」
- (6) 地域におけるネットワークの形成
- 3 これまでの成果と今後の展望
- 4 地域ぐるみの子育て
- ―大阪府・鳴滝地域教育推進会議―
- 1 「六校園所連絡会」から「鳴滝地域教育推進会議」へ
- 2 取り組みの概要
- (1) 「いっしょに子どもの成長に関わっていく」―鳴滝第一小の家庭連携―
- (2) 保護者の参加・参画―「いっしょにチャレンジ」と「平和の集い」―
- (3) つながりのなかでの学びあい―「子育て劇」の試み―
- 3 これまでの成果と今後の展望
- 5 地域に学ぶ「トライやる・ウィーク」
- ―兵庫県・姫路市立朝日中学校―
- 1 地域に学ぶ「トライやる・ウィーク」とは
- 2 取り組みの概要
- (1) 朝日中学校と校区の概要
- (2) きめ細かな学習計画―「トライやる」の1年間―
- (3) 地域に学ぶ―2004年度の「トライやる」―
- 3 これまでの成果と今後の展望
- 用語集
- 文献案内
まえがき
読者にとって,おそらく「教育コミュニティ」はあまりなじみのない言葉だろうと思う。この言葉は大阪の教育改革のキーワードとなっているが,その最初の提唱者は,筆者の師でもあった故池田寛氏である。
「教育コミュニティ」とは,学校・園への参加を通じて新たにつくられる人のつながりを指します。また,教育コミュニティは,学校・園を地域教育の核として位置づけ,学園・園と地域の交流を促進する運動でもあります。(池田寛編著,2001,8頁)
教育コミュニティとは,教育や子育てに関わる取り組みを通じて「新たにつくられる人のつながり」である。それは「地域教育の核」としての学校を中心に形成される。学校と地域の間にある垣根をなくし,学校を活性化させ,地域の人々の新しいつながりを生み出す。それをめざすのが,教育コミュニティづくりである。
本書のねらいは,教育コミュニティの基本的な考え方や教育コミュニティづくりのユニークな事例を紹介し,地域を基盤にした教育と学校のあり方を,読者の皆さんに考えていただくことにある。
全国に目を転じると,教育コミュニティと似た考え方に基づいた実践や行政施策はあちこちで行われている。「地域に開かれた学校づくり」や「学社融合」などをスローガンにして,教職員,保護者,地域の人々がいっしょに教育や子育てに取り組む動きが広まっている。
「土佐の教育改革」をすすめる高知県では「開かれた学校づくり推進委員会」と「地域教育推進会議」。兵庫県では,地域における中学生の体験学習「トライやる・ウィーク」。学校と家庭と地域の「総合的な教育力の活性化」をめざす大阪府の「地域教育協議会(すこやかネット)」。大阪市内では大阪府とは別の形で小学校区を基盤とする「はぐくみネット」の組織化もすすんでいる。筆者の知る例はごくわずかだが,その他にも福岡,三重,滋賀などで注目すべき動きがある。さまざまな取り組みのネットワークも生まれている。なかでも,関東から広がった全国的な組織「学校と地域の融合教育研究会(融合研)」はよく知られている。
地域の人々や保護者の参加を通して学校を改革しようとする制度も導入され始めた。「学校評議員」の制度がその代表例である。昨年には「学校運営協議会」という学校運営の新しいしくみもできた。その一方,都市部を中心に,公立小中学校の学校選択制が広がっている。事態は複雑だが,保護者や地域の人々との関係抜きに学校改革を考えられなくなっていることだけは確かである。
本書は二つの部分からなっている。はじめの部分では,教育コミュニティづくりが求められている理由,教育コミュニティづくりの現状,これからの課題などについて書いた。執筆にあたっては,「完全学校週5日制大阪府推進会議」,筆者が参加している「教育コミュニティ研究会」,大阪府人権教育研究協議会の「地域教育コミュニティプロジェクト」などでの研究や討議が,大いに参考になった。
あとの部分では,現地調査にもとづいて,教育コミュニティづくりの事例を紹介した。ここには,地域教育協議会の活動(岬町,北条中校区),市レベルのネットワークの形成(松原市),地域での子育て・家庭教育支援(鳴滝地域),兵庫の「トライやる・ウィーク」(朝日中学校)の事例を収めた。「トライやる」は,近年,勤労観や職業意識を形成する「キャリア教育」として注目されているが,学校教育活動の中に「地域に学ぶ」ことをはっきりと位置づけ,地域と家庭と学校の「トライアングル」づくりをめざしたものでもある。他の事例とはやや異質であるがあえて取り上げたのは,「トライやる」の大きな可能性を読者に伝えたかったからである。
編集部の大場亨氏から本書の企画をいただいたのは,師を亡くして呆然としていた時期だった。一冊の本をまとめるなど無理だとも思ったが,大場氏の助言と励ましのおかげで,ここまでたどり着くことができた。
貴重な機会をくださった大場氏,いつも快く筆者を受け入れてくださる学校・地域・行政の関係者,筆者に刺激を与えてくれる若い研究者や院生の皆さんに,あらためてお礼を申し上げたい。
最後に読者に一言。本書は学術書と実践マニュアルの中間あたりをねらった書である。難しい学術用語はあまり出てこないが,今すぐに使える処方箋も出てこない。取り組みを構想し実践するのは読者である。読者には,身近にいる子どもたちを思い浮かべつつ,「うちではこんな取り組みができそうだ」と考えながら,本書を読んでいただきたい。学校内外の人々が協力して教育を変える展望を本書から汲み取り,今後の実践に活かしていただければ幸いである。
2005年3月/高田 一宏
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- 明治図書