- まえがき
- T 「聴解力」とは何か
- 一 「聴解力」をこう定義する
- 1 聴く姿勢
- 2 内容を聴き取る技術
- 3 聴き手としての能力
- 二 「聴解力」を高める指導原理
- 1 「聴解力」とは一つの言語技術である
- 2 「聴解力」を高めるための三つの指導
- 3 「聴解力」を鍛えるための三段階指導
- 三 読解力指導との対比から見えてくる「聴解力」指導
- 1 「聴解力」と読解力との対比
- 2 対比から見えてくるもの
- 3 聴くことの一回性への対処
- 4 計画的・系統的な指導
- 5 音声言語教材の開発
- 四 「聴解力」指導の構想
- 1 段階的指導
- 2 日常的指導
- 3 教科的指導
- U 子どもの「聴解力」の現状
- 一 「聴解力」に欠ける子どもが増えている
- 1 いつもよそ見をしているA君
- 2 手いたずらがやまないBさん
- 3 聴いているようでも実は分かっていないC君
- 4 じっと座っているのが苦手なD君
- 5 全く違うことをやり始めるEさん
- 6 何もせずにただぼうっと聴いているF君
- 7 聴いているのだが理解はしていないGさん
- 8 目の前でよく聴いているのに、作業になると隣の子に聴くH君
- 二 子どもの「聴解力」が劣ってきた理由
- 1 昨今の情報は耳よりも目から入ることが多い
- 2 聴く必要性の少ない日常生活
- 3 真剣に聴く経験が不足している
- 4 聴くときの「姿勢」を教えられていない
- 5 「構え」の大切さが分かっていない
- 6 上手に聴くための技術を持っていない
- 7 情報過多社会/情報の横溢
- 8 親や教師の意識が低い
- 三 「聴解力」の低下が子どもにもたらしたもの
- 1 自尊感情(セルフエスティーム)の低下
- 2 「聴解力」の低い子は評価されにくい
- 3 聴けなければ不幸になっていく
- 4 情報が手に入らない
- V 「聴解力」の重要性を子どもに語ろう
- 一 情報を獲得する
- 1 学校では、情報は耳から入ることが多い
- 2 聴き取る力・聴き分ける力・聴いて生かす力
- 3 情報は回転寿司を取るようにつかまえる
- 4 情報がよりよい自分を作る
- 二 人間関係をよくする
- 1 話し下手はいても、話嫌いはいない
- 2 いつでも募集中! 話を聴いてくれる人
- 3 話をちゃんと聴いてもらえないストレス
- 4 誰からも好かれる聴き方の極意
- 5 聴き上手で友達一〇〇人
- 三 集中力を高める
- 1 集中して聴く努力をする
- 2 聴いたことを思い出す
- 3 他の情報を遮断して聴く
- 4 目的をもって聴く
- 四 他者評価が高まり自尊感情が高まる
- 1 真剣に聴く姿勢が相手の心を打つ
- 2 正確に聴き取ることで信用される
- 3 聴く力が高いと自分のよさに気づく
- W 学習指導要領にみる「聞く」ことの指導内容の変遷
- 一 昭和二二年度(試案)学習指導要領国語科編
- 二 昭和二六年改訂版小学校学習指導要領国語科編(試案)
- 三 小学校学習指導要領昭和三三年改訂版
- 四 小学校学習指導要領昭和四三年改訂版
- 五 小学校学習指導要領昭和五二年改訂版
- 六 小学校学習指導要領平成元年改訂版
- 七 小学校学習指導要領平成一〇年改訂版
- X 「聴解力」を鍛えるための三段階指導
- 一 第一段階「構え」を鍛える ――「聴解力」の基礎を作る段階
- 1 「構え」についての知識を教える
- (1) 外見が変われば内面も変わる
- (2) 「外見=形」は重要である
- (3) そもそも「構え」とは何か
- (4) 「構え」の大切さにこうして気づかせる
- (5) 教師の魅力が子どもの「心構え」を育てる
- (6) 正しい「構え」・のポイント
- @ お腹を話し手に向ける
- A そろえた足の裏を床につける
- B 腰を立てる
- C 手いたずらをしない
- D 目に力を入れて話し手を見る
- E リラックスする
- F 頷きながら聴く
- G 体全体を使って聴く
- H 他の情報を遮断する
- I 場所を移す
- 2 知識を用いようとする意欲を持たせ、習熟させる
- (1) 弛まぬ言葉かけ
- (2) 弛まぬほめ言葉
- (3) 構えさせる強制
- (4) 自己点検をさせる
- @ 鏡に映して
- A 写真に撮って
- B セルフチェック項目
- (5) 徹底して続ける
- 二 第二段階「技術」を鍛える ――「聴解力」を支える技術(メモ力)を高める段階
- 1 子どものメモ力の現状
- 2 知識としてのメモ力
- (1) 筆メモ
- (2) 指メモ
- (3) 脳メモ
- 3 「予見聴力」を鍛える
- (1) 事件や出来事、ニュースの聴き方
- (2) 説明・論説の聴き方
- (3) 物語・体験談の聴き方
- (4) 指導の順序
- (5) 「聴解力」指導のための教材開発
- 三 第三段階「心」を鍛える ――聴き手としての能力を高める段階
- 1 虚心に聴く、素直に聴く
- (1) 内容の価値は聴き手が決める
- (2) 話の持つ五つの機能
- @ 聴き手の知識を増やし、聴き手を変える
- A 聴き手に示唆を与える
- B 聴き手を説得する
- C 聴き手を感動させる
- D 聴き手を評価する
- 2 素直に聴き入れる器を作る
- (1) 友達教師をやめよ
- (2) 「親や先生の話は素直に聴くものだ」と言い切る
- 3 器に水を注ぐ
- (1) 事実を子どもに示す
- (2) 語りで感動させる
- (3) 教師自身の人格を高める
- 解説 「聴解力」を鍛える意義 /野口 芳宏
まえがき
教室では教師は常に子どもに話しかけています。朝の挨拶に始まり、一日の連絡事項を伝え健康状態を問い、授業中には指示を出し、問いを発し、説明をし、必要ならば注意したり、叱責したりします。教師と子どもとのコミュニケーションはほとんど話し言葉によって行われていると言ってもいいでしょう。ですから、教師の言葉をよく聞き、判断し、行動に移せば、どの子も学校生活を安全で楽しく有意義なものとすることができるはずです。
しかし、実態はどうでしょうか。教室ではしばしば、教師から次のような言葉が発せられます。
「君はいったい何度言ったら分かるんだ」
「さっき、連絡したばかりじゃないか。聞いていなかったのか」
「昨日も同じことを注意したじゃないか。改めようとする気があるのか」
これらは子どもの聞く力が劣っていることを示しています。教師と子どもとのコミュニケーションのほとんどが話し言葉によってなされることを考えれば、子どもの聞く力が劣っているということは、教育活動を行う上で非常に大きな問題であると言わざるを得ません。
では、子どもの聞く力を高めるにはどうしたらいいのでしょうか。
子どもの聞く力を高めるためには大きく二つのことをしなければならない、と私は考えています。一つは、話の内容を正確に聞き取る技術を子どもに持たせることです。何を話しているのかを正しく聞き取ることができなければ、教師のどんな話も画餅に等しくなってしまいます。話の内容を正確に聞き取ることは、コミュニケーションの基本中の基本と言えるでしょう。これが第一のポイントです。
もう一つは、話を虚心に、素直に聞いて自分の行動の指針にしようとする態度を育てることです。話の内容を正確に聞き取れただけでは、その価値を十分に享受したことにはなりません。聞き取った話の内容を自分の生活や自分の行動に活かせて初めて、話を聞いた意味が生じてきます。これが第二のポイントです。
この二つの事柄を合わせて私は「聴解力」と呼ぶことにしました。「聴解力」という言葉はまだ国語教育の世界ではなじみの薄い言葉です。しかし、ごく普通の「聞く力」とは一線を画す、という意味合いから私は別の言葉を用いたほうがいいと思っています。私は、この「聴解力」を三段階で指導していこうと考え、実践をしてきました。本書には、子どもの「聴解力」を育てる実践を、努めて具体的に記しました。
今や日本中の全ての学校にコンピュータが導入され、授業で大活躍をしています。液晶プロジェクターによって大きく投影されたコンピュータの画面は、子どもの学力形成に大きな力を発揮します。聴覚情報よりも視覚情報のほうが認知されやすく学習効果も高いことが分かっています。しかし、だからといって今後全ての情報が視覚情報になるとは考えられません。依然として聴覚情報は大きな割合を占めるでしょうし、コンピュータ全盛の時代だからこそ、逆に聴覚情報を正しく素直に受け取る力が必要になってもくるでしょう。どちらの情報も正しく素直に受け取る力を子どもが身に付けることによって、学校はいっそう楽しく、有意義な場になるに違いありません。本書がそのために少しでもお役に立てるなら、著者としてこれ以上の喜びはありません。
最後に、本書は野口芳宏先生の懇篤な御指導と御鞭撻の末に形とすることができました。心から御礼を申し上げます。また、明治図書出版の江部満様にひとかたならぬ御高慮を戴いて刊行の運びとなりました。衷心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
二〇〇七年二月一〇日 /山中 伸之 記す
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- 明治図書
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