- はじめに
- 愛の現れ
- 第1章 「愛」のある授業
- 1.何のための算数数学教育か,誰のための算数数学教育か
- 2.子どもから見た算数数学学習の困難性
- 3.困難性の克服には
- 4.志水の執筆の基本姿勢
- 5.「愛」で育てる授業とは何か
- 第2章 「愛」のたりない授業からの脱却
- 1.「愛」のたりない授業例
- (1) どの子にも発言の機会を与えているか
- @「いいですか」「いいですよ」という発言でおしまいにする/Aできない子どもを相手にしない/Bできる子どもばかりで話をつないでいる/C発言する子どもが限られている/D子どもたちの前である子の考えをつぶした/Eまた,おまえか
- (2) 子どもの反応をキャッチして生かしているか
- @黒板に話しかける教師/Aハンドサインの罪/Bハンドサインに本当に対応しているか/C子どもは教師の反応のひとこまでしかない/D子どもが言った言葉を最後まで聞かない教師
- (3) 有効な机間指導をしているか
- @机間指導をしない教師/A「×(ばつ)」をつける教師/Bできていない子どもを見逃す/C自力解決では声をいっさいかけない/Dヒントカードをあげておしまい/Eヒントカードの悪用
- (4) 1時間の授業に責任を持っているか
- @黒板を写させておしまい/A1時間で終わらない授業/B残りは宿題!/C最後に何ができたかわからない授業/D子どもに期待を持たせて裏切る授業/Eまとめを教師から提示/F確認せずに勝手にどんどん進む
- (5) バランスのとれた授業をしているか
- @手順を教えたらひたすらドリル/A結果主義の授業/B意味ばかりを指導する/C大きな問題を2問,3問やって練習は後回し/Dなんでもかんでも問題解決
- (6) 多様性を誤解していないか
- @優越感と劣等感の存在する授業/A正解と不正解を対比させる授業/B多様性のある授業で序列化してしまう/C多様性ばかり追い求めて基本の力がついていない
- (7) 子どもの力を信じているか
- @信じている言葉を発しているか/A見通しの集団カンニング/B教師のあきらめ
- (8) 「できない」ばかりを主張していないか
- @教室の中の子どもの個人差に対応できない/A45分間で,できない子どもを救うことはできない
- 2.総括:愛のある授業へ向けて
- 第3章 「愛」のある授業例
- 1.素早くそっと教える
- 2.友達がさりげなく教えてあげる授業
- 3.挽回のチャンスを与える
- 4.部分肯定できる
- 5.前で集めてミニ授業
- 6.子どもの気づきの板書化
- 7.モデル授業を真似る
- 8.わからなかった子を特別気にかける
- 9.子どもに合わせて進度を変える
- 10.間違いのわけを真摯に聞く
- 11.親の見方が変わった
- 第4章 脳科学の視点から見た「愛」の大切さ
- 1.松本元(まつもとげん)氏について
- 2.脳の特性と授業での「愛」
- (1) 脳は,出力依存症
- (2) 脳の二重構造
- (3) 仮説立証主義
- (4) あらかじめの答えを持っている
- (5) 愛と関係的な欲求
- 第5章 「愛」のある授業を実現するための志水式指導法
- 1.教師にとっての厳しさ
- 2.志水の研究・開発分野
- 3.志水理論の特徴
- 4.子どもに合わせるとは
- 5.リアルタイムの創出知
- 6.◯つけ法と意味付け復唱法から始めよう
- 第6章 志水式◯つけ法で「愛」のある授業を創る
- 1.ええっ!! ◯(丸)をつけた!!
- 2.たった1つの◯で意欲がわく
- 3.志水式◯つけ法とは
- (1) ◯つけ法の具体例
- (2) ◯つけ法の特徴
- 4.◯つけ法の基本方針
- 5.志水式◯つけ法は,出前方式
- 6.◯つけ法のよさ
- (1) 教師にとっての◯つけ法のよさ
- (2) 子どもにとっての◯つけ法のよさ
- 7.志水式◯つけ法の実際的方法
- 8.◯つけ法の効果
- 9.教師の役目は子どもに◯をつけてあげること
- 10.教師の生真面目さ
- 11.◯つけ法は採点のため? 形成的評価のため?
- 12.◯つけ法の種類
- 13.◯つけ法の威力:志水の示範授業を参観された方の声
- 第7章 志水式意味付け復唱法で「愛」のある授業を創る
- 1.復唱するとは
- 2.意味付け復唱法の起源:子どもの言葉に数理がある
- 3.子どもの言葉を板書する
- 4.説明型授業では子どもの言葉は生まれない
- 5.説明型授業から子どもの言葉で創る授業へと転換した例
- 6.キャッチ&リスポンスの大切さ
- 7.音声言語と記述言語
- 8.教師は復唱できない!!
- 9.復唱法と「愛」の関係
- 10.正確に聞き取れていない例
- 11.教育界の常識からの脱却
- 12.志水式意味付け復唱法とは
- 13.志水式意味付け復唱法のよさ
- 14.切り返しと意味付け復唱法
- 15.復唱法の具体的な段階
- 16.意味付け復唱法の例
- 17.誤答に対する復唱法の成功例
- 18.◯つけ法と復唱法の究極は「脱」である
- 第8章 志水式音声計算練習法
- 1.小学校での音声計算の取り組み
- 2.中学校数学でも音声計算練習教材ができた
- 3.中学校現場からの報告
- 4.音声計算練習と「愛」
- 5.志水理論の実践校の典型例
- 第9章 「愛」で育てる授業をすると,教師も子どもも変わる
- 1.「愛」で育てる授業をすると,教師が変わる
- (1) I 先生の話
- (2) 模擬授業では
- (3) 本番の授業では
- 2.「愛」で育てる授業をすると,子どもが変わる
- 3.「愛」の力で,子どもが変わる
- 4.「愛」があれば,教師と子どもが一体化する
- 第10章 志水廣の授業
- 1.どの子どもも活躍する授業の創造
- (1) 子どもどうしのかかわり合いの場の構築
- (2) できない子どもの活躍の場を作る
- 2.中学校でも「愛」で育てる授業は可能
- (1) 生徒に反応を求めることから始まる
- (2) 方法の見通しでの◯つけ法
- (3) 固まっていたKさんが自力解決できた!
- (4) 全体追究の場でのKさん
- (5) 示範授業を参観した人の報告1
- (6) 示範授業を参観した人の報告2
- (7) 教科担任の教師も変わった
- 3.「愛」で育てることと魂のレベル
- 4.子どもを変える「愛」のエネルギー
- 志水廣関連の単行本
- おわりに
はじめに
これまで,仕事柄,多くの現場の授業を参観してアドバイスしてきた。現在は,年間200以上にもなる。筑波大学附属小学校から大学に出て15年になるから,おそらく2000は見たであろう。私の見たというのは,同時に授業診断または助言指導も含まれている。また,示範授業も年間に10本はしてきたので,合計では100本にはなるだろう。つまり,私の姿勢は,実践から学びルール化し,また実践する教師である。その意味で,実践ジャーとして活動してきた。逆に言えば,実践に生きないことは言わない主義を貫いてきた。
これらの経験のおかげで算数数学の授業のコツがわかってきた。それを折に触れて単行本の出版という形で世に問うてきた。幸いにも世間様には受け入れられてきたという実感がある。
さて,今回のテーマは,これまでのノウハウ本とは異なる。本書では,志水理論の根底にある精神エネルギーを取り上げる。精神エネルギーのうちでも「愛」が大変重要な役割を果たす。
「愛」とは,『国語辞典』(旺文社)によれば,「@かわいがり,いつくしむ心,A大切にする,Bある事に価値を認め,それに打ち込む心」と記述されている。
この意味に従えば,子どもを大切に思い,また,算数数学に価値を認め打ち込む心となる。私は,「愛」のある授業を多く見て,感動してきた。それらを素直に本や雑誌に述べてきた。また,「愛」のある授業の実現のために,◯つけ法や意味付け復唱法などの志水式のノウハウを提供してきた。これでかなり多くの授業が改善されてきた。これは間違いない。
ところが,ときとして,授業としてこんな授業でいいのかと思うような授業もあった。平気で子どもの心を傷つけるような授業もあった。そこでは,教師も子どもも苦しんでいる。授業づくりのノウハウ以前の問題があるのではないか。それを突き詰めていくと,「愛」の部分にぶつかる。「愛」によって教師も子どもも救われるのだ。
算数数学の授業は,子どもにとって「優しく・易しく」はない。言い換えれば,「厳しく・難しい」勉強である。毎日が真剣勝負の勉強である。だから,教師は子どもに勉強することを求める必要がある。また求める以上は,正しく評価して受け止め,指導・助言する必要がある。ここに,教師の「愛」がある。子どもにとっては,算数数学の勉強が「わかる」ようになって,「できる」ようになって,さらに「身に付く」ようになってこそ,成就感を味わうことができるものである。それを支えるのが教師の「愛」である。
この本では,教師であるあなたが算数数学の授業をする際に,基本的にどのようなことをすれば,「愛」で子どもを育てることになるのか,また逆に「愛」のたりない授業となるのかを具体的に述べてみた。ぜひ,算数数学の授業を語る前に知っていてほしい。
ごくごく身近なことから書きつづった。当たり前のようなことから,また算数数学の授業の常識とは異なることも書いた。この本を読むことによって,もう一度あなたの授業を内省してみてほしい。もし,納得されたならば,改善策を実行してみてほしい。あなたの授業がハッピーになるだろう。教師も子どもも算数数学をすることによって,「愛」のある授業をめざしてほしい。
2007年6月10日 /志水 廣
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- 明治図書
- 志水先生からたくさんのことを学ばせていただいています。学校で研究授業をする際に、若い先生にこの本のことを進めました。2017/1/850代 小学校教員