- 『検定外・学力をつける算数教科書』第4巻 第4学年編の趣旨 /横地 清
- 第T章 整数の四則
- 1 大きな数
- 2 大きな数のたし算とひき算
- 3 バラ数のしくみ
- ・まとめのテスト
- 4 大きな数のかけ算
- 5 大きな数のわり算
- ・まとめのテスト
- ・単元かくにんテスト
- 〈解答〉
- 第U章 小数
- 1 はしたの表し方
- 2 小数のしくみ
- ・まとめのテスト
- 3 小数のたし算
- 4 小数のひき算
- ・まとめのテスト
- ・単元かくにんテスト
- 〈解答〉
- 第V章 概数
- ──身の回りの概数を中心に──
- 1 概 数
- ・まとめのテスト
- 2 概数を使おう
- ・単元かくにんテスト
- 〈解答〉
- 第W章 式と計算
- ──式の意味を考えながら──
- 1 ( )を使った式
- ・まとめのテスト
- 2 +,−,×,÷のまじった式
- ・まとめのテスト
- 3 式の意味
- ・まとめのテスト
- ・単元かくにんテスト
- 〈解答〉
- 第X章 平面図形
- 1 直線・線分・半直線
- ・まとめのテスト
- 2 角と角度
- ・まとめのテスト
- 3 辺 角
- ・まとめのテスト
- ・単元かくにんテスト
- 〈解答〉
- 第Y章 空間図形
- 1 空間のしくみ
- 1 平面のしくみ
- 2 平面と平面の関係
- 3 空間の中での直線
- 2 二面角のしくみ
- 1 二面角とは
- 2 二面角をさがそう
- 3 二面角のはかり方
- 4 直線と平面について
- 3 三面角のしくみ
- 1 三面角とは
- 2 三面角をさがそう
- 3 三面角の性質
- 4 正多面体
- 1 正三角形でできる正多面体
- 2 正方形でできる正多面体
- 3 正五角形でできる正多面体
- 4 正多面体の性質
- ・単元かくにんテスト
- 〈解答〉
『検定外・学力をつける算数教科書』第4巻第4学年編の趣旨
この本は,『検定外・学力をつける算数教科書』第4巻として,4学年担当の先生方が早速にも学校や学習塾などで活用していただけるようにと作成したものである。この本には,学校現場の先生方の協力を得て,私どもの研究してきた成果が生かされている。本来の4年生は,何を学習すべきかを探究してできた,斬新な検定外教科書である。
現在の検定教科書の内容には数々の欠陥がある。私どもはこの欠陥を補い,子どもたちが本来獲得すべき学力を保障しようとして,この検定外教科書を作成した。
以下ではT部,U部に分け,次の点を語りたい。T部では,私どもが,現行の検定教科書のどのような欠陥を克服しようとしたのかを述べる。U部では,この4学年用の検定外教科書で取り上げた内容と,その意図を語ることにする。
T部 『検定外・学力をつける算数教科書』を作成したわけ
私どもは,現行の検定教科書は,各学年の子どもが本来,到達するはずの学力を,甚だしく喪失させていると考えている。その喪失をいささかでも防ぎ,子どもたちに,本来,到達できるはずの学力を保障しようとして,この検定外教科書を作成した。
まず,現行の検定教科書は,どのような欠陥を持っているか,率直に語ってみる。もちろん,この語りは,検定教科書が依拠した現行の学習指導要領の欠陥の語りでもある。ここでは,検定教科書の方で説明する。
おことわりするが,私どもは,検定教科書や,それが依拠する学習指導要領の欠陥自体を荒立てるのが目的ではない。私どもは,そうした欠陥を越えて,日本の子どもたちに,本来到達するはずの学力を保障する検定外教科書を作成するのが目的である。
それでは,現在の検定教科書の欠陥を,箇条書きにして率直に書いてみよう。これら欠陥は,これまでに実施した,私どもの各種教育実験を背景として語るものである。
1 学習内容の水準が極めて低い。事例を挙げよう。
(1) 入学当初の1年生は,すでに100までの数を唱え,形式的ではないにしろ位取りの原理を把握している。数の学習はここから始めるべきである。また,1年生は10を単位とする数の加減にも十分に熟達できる。検定教科書はこれらのいずれをも欠落させている。
(2) 平面図形の基本は,点,直線,円であり,これらは1年生が十分に学習しうる。検定教科書はそれを怠り,円に至っては4年生に出てくる始末である。
(3) 拡大,縮小の概念,つまりは相似の概念は,遅くとも4年生には学習しうる。検定教科書はそれを怠り,相似の概念も用語も小学校から消えている。
(4) 4年生後期から代数的思考が始まり,文字を使った演算式が入って当然である。また,応用問題の問題構造は,文字を使った演算式でいちだんと明確になる。検定教科書は,これらを怠り,文字を使った演算式は6年になっても出てこない。
(5) 割合や速度などの3用法,特に第3用法は,5,6年生の場合,文字式の考え方を生かし,逆演算を導入して把握できるのに,検定教科書はそれを怠り,5,6年生の思考を3年生以下の絵で見る低次の思考に堕落させている。
2 平面や空間の領域では,極端な程に内容が貧弱である。事例を挙げよう。
(1) 2年生はH作用紙に展開図を描き,スポーツカーなどを作成するというのに,検定教科書はそれを怠り,展開図の用語は6年生に出る始末である。
(2) 平面に角があると同様に,空間にも角がある。そして,多面体には2面の作る角として2面角が必要となる。検定教科書はそれを怠り,空間の角も2面角も姿を見せない。
(3) 平面では多角形の特殊な場合として,台形や平行四辺形が存在する。その際には辺や内角が問題とされる。同様に,空間では多面体の特別な場合として,直方体や角柱が存在し,面や2面角,多面角が問題とされてよい。これに対応して,1,2年生には,歪(いびつ)な多面体作りが必要であり,子どもたちもその製作が大好きである。検定教科書はこれらを怠り,展開図に至っては6年に出る始末である。2面角は遂に姿を見せない。
(4) 平面上の図形については,回転運動,線対称運動といった運動自体の学習が必要である。そして,これらの運動の把握や,それに基づく模様作りは,1,2年生が大好きである。また,長方形などの平面図形の模様では,模様作りの基本となる運動とそれら運動関係の構造が重要であり,4年生にはそれが把握できる。しかし検定教科書は,上記のいずれをも欠落させている。
3 今日の子どもは早くから地球時代,宇宙時代,さらにはIT時代の世界に生きていると言ってよい。検定教科書は全くと言ってよいほど,これに対処していない。事例を挙げよう。
(1) 高学年では地球の数学を学習する必要がある。発泡スチロールで地球儀を作り,2地点間の大圏距離を凧ひもで測ったりして「ベルリンを火曜の20時に離陸したジェット機は,東京には何曜日の何時に到着するか」といった問題が解けるまでになる。それであるのに,検定教科書は地球の数学に触れてもいない。
(2) 確率の概念は,天気予報などで,小学校全学年で日常化している。それであるのに,検定教科書では確率は,6年になっても姿を見せない。
(3) 4年生後期からは子どもの代数的思考が進展する。当然,多変数関数も扱われてよい。同時に,これら関数の演算に対応するソフトとしてExcelの活用が学習されてよい。さらに,6年生にもなれば,Power Pointを活用して,数学的研究をPresentationできるようにしたい。検定教科書は上記のいずれをも欠落させている。
4 子どもは各年齢に対応した数学的認識の発展を進める。検定教科書はこうした,各年齢に応じた発展過程に対応してはいない。多くの場合,子どもたちの認識を,一段と低次の認識へ追いやるように学習の展開をしている。事例を挙げよう。
(1) 低学年の子どもは体ごとの実践を通して数学的法則を把握する。1年生の子どもが数7の分解を把握するのは,一定の距離から実際に7個の玉をホールに向かって投げ,ホールに入らないで外に転がる玉の数を数えて,ホールに隠れた玉の数を推定し,ホールから玉を取り出して推定の妥当性を判断する。こういった活動の繰り返しの中で,7は3と4に分解されるという事実を,確信を持って把握するようになる。体ごとの確信と言ってよい。ところが検定教科書は,7が3と4に分解される事実を,絵を見せて子どもに保障させようとしている。つまりは体ごとでの体得を見失い,視覚による皮相的認識,つまりは皮相的な暗記に依存しようとしている。こうした皮相的認識/暗記では,1年生が体得すべき,10までの数の分解,合成の事実の確信が保障できない。検定教科書は1年生にふさわしい認識過程を見失っている。
(2) 子どもは4年生後期から論理的体系的理詰めを通して数学的法則を把握するという認識過程に達する。ところが,検定教科書は,この認識過程を忘れ,子どもの思考を低学年以前の眼で見る皮相的認識に堕させている。例えば分数の除法計算の法則は,逆数の概念と性質を使えば,理詰めを通して把握できるのに,それを怠っている。理詰めを通せば乗法はもとより除法を含めて,乗除計算の法則は5時間余りで把握できる。それであるのに,だらだらと絵で説明し,つまりは皮相的認識に堕させて15時間もかけて学習させている。そして,分数÷分数は,割る分数を逆さにしてかけるという機械的操作として把握させようとしている。同種のことは,割合や速さの第3用法でも見られる。
5 3年生以降の子どもは,とりわけ創造力が急速に発展する時期である。それであるのに検定教科書には,創造力の育成に関する配慮が欠落している。あるのは精々,誰それはこういう計算の仕方をしたとか,誰それは,それとは別の計算の仕方をしたとか,言わば,同一水準での多様な思考の並列に終始している。創造力の育成で重要なのは,質的に高い水準に向かって,子どもの思考を高めることである。例えば5年生の長方形の運動模様の学習であれば,模様の型はいく種類に限られるかを理詰めで裏付けて明らかにすることである。あるいは,学習していない正三角形の運動模様には,いく種類の模様の型があるのか,それを理詰めで発見することである。本来の創造性の育成とは,同一次元の中で,あれか,これかを発見することではなくて,いちだんと高い段階での数学的発見を招来することである。検定教科書は,こうした配慮を欠落させている。
U部 検定外教科書4学年の内容
1 この巻の執筆までの経過
この『検定外・学力をつける算数教科書』全6巻は,私が長年指導してきた,次の3つの研究会グループの協力によって作成された。
(1) 大阪教育大学教授・鈴木正彦氏を中心に指導と研究が重ねられている,「大阪研究グループ」
(2) 京都教育大学教授・守屋誠司氏,同大学講師・渡邊伸樹氏を中心に,指導と研究が重ねられている,「山形研究グループ」
(3) 私が山梨大学教授であった頃から育てた前校長の山主富士彦氏,前山梨大学附属小学校教諭の奥山賢一氏を中心に,現在も指導と研究が重ねられている,「山梨研究グループ」
各研究グループには実践と研究の豊かな,肝煎りの小学校の現場の校長,指導主事,先生方が沢山に揃っている。
私は2001年4月以来3か年間,明治図書刊『現代教育科学』に各年,「算数・数学教育の危機」「算数・数学教育の再建」「学力保障に応える算数指導の改革」の各主題で連載を重ねた。これらの資料,並びに,『検定外・学力をつける算数教科書』向けに準備した学年別の斬新な学習内容を持参し,上記の3つの研究グループのそれぞれで,数日間に及ぶ合宿研究会を持った。その合宿研究会では次の4点を強調した。
(1) 私が『検定外・学力をつける算数教科書』を公刊するに至った趣旨(T部で述べた)をよく理解した上で執筆にあたっていただきたい。
(2) 学習内容それぞれの執筆にあたっては,私の提案を尊重はしていただきたいが,それに機械的に拘束されることなく,担当の研究グループ,とりわけ執筆者の判断で,現実の子どもに,一層の適応ができるように改善を試みられたい。そして研究グループ,とりわけ執筆者の自信の作となるようにしていただきたい。
(3) 直接,間接に子どもに実践して確かめ,子ども自身が進んで学習するに相応しい学習内容としていただきたい。
(4) 各学年の学習内容は,1学期,2学期,3学期といったように区分され,当該学年を通して,体系のある教育課程を予想して展開されたい。
上記の4点を基本方針として各巻が仕上げられた。以下では,4年生用のこの巻の主な学習内容について,私はどのような提案をしたかを述べることにする。読者の皆様には,この巻の学習内容を子どもに適用していただくだけではなくて,前記(2)で述べたように,皆様の研究と判断で,必要な改善を試みられ,実践されることを願っている。
2 この巻の内容
(1) バラ数による整数の乗除計算
この検定外教科書ではすでに1年生から,バラ数による整数の加減計算を始め,かなり熟達している。そこでバラ数の加減計算の説明は省略し,以下では乗除計算の説明をする。
(a) バラ数の定義
例えば,2148964783064528,2148兆9647億8306万4528のことである。改めて言えば,この数は2148兆,9647億,8306万と4528で合成された数である。単位を数字の上に書くとすれば@のようになる。
兆 億 万 一
2 1 4 8 9 6 4 7 8 3 0 6 4 5 2 8 ……………………A
千兆 百兆 十兆 兆 千億 百億 十億 億 千万 百万 十万 万 千 百 十 一
2 1 4 8 9 6 4 7 8 3 0 6 4 5 2 8 ……………………A
もっと細かく単位を記すとすれば,Aのようになる。この場合には2148964783064528は,
2千兆,百兆,4十兆,8兆,9千億,6百億,4十億,7億,8千万,3百万,0十万,6万,4千,5百,2十,8一で合成された数と見ることができる。…………………………B
Aの表現は煩わしいので,日本の4桁区切りの数の呼称に従って,兆,億,万,一を基本単位と考え,@の表現を基本とする。だから千兆,百兆,十兆,千億,百億,十億,千万,百万,十万, 千,百,十,は補助単位ということになる。しかし表記や計算の必要に応じて補助単位も使用する。
バラ数とは上記のように,数を基本単位または,基本単位を加え,これらで区切った数の合成とみなすことである。さらに発展して,このように考えて実行する四則計算も含めて(広義の)のバラ数と呼ぶ。バラ数の理論は私が1977年,数学教育学会「研究紀要」1977年1・2号,24 〜 35頁で公にした。すでに当時,私の指導で久留米の研究グループで広範に教育実験が行われて成功している。最近,その有効性が評価され,改めて各地で実践されるようになった。本書でもバラ数の理論を採用した。
(b) 基本単位,補助単位の基数の10の累乗表現
ここでは0から9までの数を基数と呼ぼう。このように決めると,Bに述べたようにどの整数も,基本単位または補助単位を持った基数の合成と考えられる。乗除計算では,基本単位または補助単位を持った基数を,10の累乗で考えることが大切になる。基本単位または補助単位は下記のように一から京まで考えると17通りある。基本単位の万,億,兆,京は,日本の数の呼称での4桁区切りの境の呼称で,次のように10の累乗で表現される。
京 千兆 百兆 十兆 兆 千億 百億 十億 億 千万 百万 十万 万 千 百 十 一
7(万) =7×10×10×10×10(7に10を4回累乗する)=7×(10の4回累乗)
7(億) =7×10×10×10×10×10×10×10×10(7(万) にさらに10を4回累乗する)
=7×(10の8回累乗)
7(兆) =7×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10(7(億) にさらに10を4回累乗する)
=7×(10の12回累乗)
7(京) =7×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10×10(7(兆) にさらに10を4回累乗する)=7×(10の16回累乗)
補助単位は,特定の基本単位に十,百,千が付加された単位であり,その基本単位の10の累乗に,さらに10,10×10,10×10×10の累乗を重ねた数となり,例えば下のようになる。なお,累乗という用語を指導したほうがよい。
7(十) =7×10=7×(10の1回累乗) 7(百) =7×10×10=7×(10の2回累乗)
7(千) =7×10×10×10=7×(10の3回累乗) 7(十万) =7×(10の5回累乗)
7(百万) =7×(10の6回累乗) 7(千万) =7×(10の7回累乗)
7(十億) =7×(10の9回累乗) 7(百億) =7×(10の10回累乗)
7(千億) =7×(10の11回累乗)
基本単位または補助単位を持った基数の,10の累乗による表現はしっかりと学習させておく。バラ数による乗除計算の方法の原理となるからである。
(c) 基本単位または補助単位を持った基数の間の乗法
バラ数の乗法は,基本単位または補助単位を持った基数が,基数に10を何回累乗した数であるかが即座に弁別できれば簡単に計算できる。実は,子どもは私どもより一層早く計算する。子どもは私ども大人よりはるかに直観が効くからである。特に大切なことは,各基本単位が,10の4回累乗,8回累乗,12回累乗となっていることの把握である。
乗法計算では次のような計算を即座にできるようにする必要がある。
6(千) ×7(十万) の計算は,次のようにできる。
6(千) ×7(十万) =6×10×10×10×7×10×10×10×10×10
=6×7×(10の8回累乗)
=42(億)
しかし上の計算を,6(千) は6×(10の3回累乗),7(十万) は7×(10の5回累乗)と即決し直ちに,
6(千) ×7(十万) =42×(10の8回累乗)
=42(億)
と即答できるようにしたい。
下に練習題の事例を挙げた。
(1) 8(千) ×7(十万) (2) 4(千万) ×6(百)
(3) 10(億) ×2(万) (4) 7(百) ×6(十億)
(d) 乗法の筆算
ことさらに面倒な場合を示したが,バラ数による乗法の筆算は下記のように実行できる。
(計算式省略)
(e) 除法の筆算
バラ数の除法は,普通の除法と同様,乗法の逆演算となる。事例を示そう。
47(十億) ÷8(千) 8(千) を何倍すると十億を単位とする基数になるかを考える。
8(千) =8×(10の3回累乗)
7(十億) =7×(10の9回累乗)
だから,基数×(10の6回累乗)つまり百万を単位とする基数とわかる。これより,
(計算式省略)
6(十万) ÷4(百) 6(十万) =6×(10の5回累乗)
4(百) =4×(10の2回累乗)
(計算式省略)
だから,基数×(10の3回累乗)つまり千を単位とすることがわかる。これより,
60(十万) ÷8(百) 8(千) を何倍すると十万を単位とする基数になるかを考える。
8(千) =8×(10の2回累乗)
0(十万) =0×(10の5回累乗)
だから,基数×(10の3回累乗),つまり千を単位とすることがわかる。これより,
(式省略)
練習題には,次のような問題が必要となる。
(1) 43(万) ÷6(百) (2) 25(兆) ÷8(億)
(3) 65(千万) ÷7(千) (4) 37(百億) ÷5(千万)
上記の準備をすれば次のような,÷2桁数,÷3桁数の筆算も早くできるようになる。
475(十万) ÷36(百)
(計算式省略)
まず47(百万) ÷36(百) を考える。36(百) を何倍すると末位が百万を単位とする基数となるか考える。1倍すると末位が百万となる基数となる。
2983(十万) ÷57(千)
(計算式省略)
まず298(百万) ÷57(千) を考える。57(千) を何倍すると末位が百万を単位とする基数となるか考える。5倍すると末位が百万を単位とする基数となる。
同様な考えで,次の計算もできる。
7297(千万) ÷82(百)
(計算式省略)
なお,以上の説明では,バラ数による乗除計算の説明に急ぎ,答えの表記について特に注意を払わなかった。指導者それぞれに,工夫のある表記を考えていただきたい。
ここで次の注意をしたい。バラ数での筆算は,従来の機械的な筆算に比べ,子どもにも筆算の原理がよくわかり,特に概算,暗算には効力がある。しかし従来の機械的計算に慣れた子どもを,急遽,バラ数による計算に切り換えると無理が生ずる。読者の判断で子どもに役立つと考えられる部分から始め,順次に拡大して採用されることを願っている。
(2) 直線図形
4年生は代表的思考とともに,論理的体系的思考が進む時期である。さらに,現実の事象から, 数学的に意味のある概念を抽象して考える時期ともなってくる。こうした子どもの発展に対応して,平面図形についても,長方形や三角形といった個別的な図形に終始するのではなく,一層,一般的で基本的な内容を論理的体系的に学習する必要がある。なお平面図形についても空間図形についても,アルファベットの大文字,小文字,α,β,γ,δのギリシャ文字は自由に活用できるまでにしたい。今日の社会ではこれらの文字が子どもにも日常化してきている。臆することなくこれらの文字を利用させるようにしたい。ここでは紙数制限もあり,平面図形のうち,直線図形に限って学習内容の要点を述べる。
(a) 平面,点,直線,角
ガラス面のような平らな面から抽象させて「平面」を導入する。さらに点,直線の概念も具体的な事例から抽象して導入する。まず平面について多くの作業課題を解かせた後,次の性質を会得させる。
性質1 @ 平面は上下左右に限りなく広がっている。
A 平面上のどこにも点がとれる。点は位置が基本だから,やたらに太い丸で記してはいけない。削った鉛筆の先で押さえて記す。
B 平面上では,いろいろの方向にいくらでも直線が引ける。直線は両方の向きに限りなく伸びている。直線は限りなく細かい線だから,やたらに太くは引かない。ただし,何かを詳しく説明するときには太線も使う。
1図を参照されたい。直線については多くの作業題を解かせた後,次の性質2を会得させる。
性質2 @ 平面α上に勝手な2点E,Fをとると,これら2点を通りただ1本の直線s を引くことができる。この直線を直線EFと表す。
A (勝手な)直線 上に,(勝手な)点Pをとると,直線は点Pを境に2つの部分に分かれる。この2つの部分のそれぞれに点A,点Bをとると,この2つの部分は,点Pを含んで点Aの向きに限りなく伸びる部分,点Pを含んで点Bの向きに限りなく伸びる部分とである。点Pはどちらの部分にも含める(どちらにも含めなければ,直線lは3つの部分に分かれる)。2つの部分をそれぞれ点Pを始点とする半直線と言う。点Pを含んで点Aの向きに伸びる半直線を半直線PA,点Pを含んで点Bの向きに伸びる半直線を半直線PBと表す。
B (勝手な)直線l上に(勝手な)2点L,Mをとると,直線は半直線LK,2点L,Kを両端とする太線で記した部分,半直線MJの3つの部分に分かれる(境界の点を別に考えれば5つの部分)。このうち,2点L,Kを両端とする部分を線分と呼び,線分LMと表す。点L, 点Mをこの線分の端点と言う。
(1図省略)
C 線分には一定の長さがある。
多くの作業題を解かせた後,次の性質3を会得させる。ここで角を定義するわけである。2図,3図を参照されたい。
性質3 @ 2図を見られたい。平面β上に(勝手な)直線d を引くと,平面βは直線d を境に,点Aを含む領域と点Bを含む2つの領域に分かれる。これら2つの領域は直線d 以外には共通部分はない(直線d をいずれの領域にも含めなければ,3つの領域に分かれる)。
A 3図を見られたい。平面γ上に交わる2直線l,m をとる。このとき,平面γは次の4つの領域に分かれる。半直線PS,PQを境界とし点Aを含む領域;半直線PQ,PTを境界とし点Bを含む領域;半直線PT,PRを境界とし点Cを含む領域;半直線PR,PSを境界とし点Dを含む領域(境界をいずれの部分にも含めなければ,領域の数はさらに増える)。
続いて多くの作業題を解かせた後,性質4のように考えさせて角を導入する。4図から7図までを参照されたい。
(2〜5図省略)
性質4 @ 4図を見られたい。平面γ上で点Pを始点とする2半直線PS,PQの囲む領域を考える。この領域の広がり具合の程度を角と呼び,∠SPQまたは∠QPSと表す。点Pを∠SPQの頂点,半直線PQ,PSのいずれも,∠SPQの辺と言う。
A 5図を見られたい。5図で半直線PQが半直線PSに重なる位置から矢印の向きに回転すると,∠SPQの広がり具合の程度は,0から出発して次第に大きくなり,半直線PQ3の位置では平面の半分を覆い,さらに回って半直線PSに重なると全平面を覆う。このように変化する広がり具合の程度を数値で表すのに分度器で測る角度が使われる。
B 6図のように,広がりが半平面となる∠SPQ3の角度は180°となっている。
上の性質に続き,5図で点Qが半直線PS上にくる場合の角度が360°であること,7図のように∠BACを2等分する∠BAD,∠CADがあり,これらの角度は90°であることを知らせる。
(b) 推論による図形の性質の始まり
上記の学習の後,8図に見るような対頂角,∠CPAと∠BPDが等しいことを,角の2辺が1直線となる角度は180°となることから,次のように,推論で導出させる。
3点C,P,Dは一直線である。だから∠CPA+∠APD=180° …………………@
また3点A,P,Bは一直線である。だから,∠BPD+∠APD=180° ……………A
@,Aで∠APDは共通だから,∠CPA=∠BPD
上の推論を式を交えて言葉で表現できるようにする。そして次のような性質にまとめる。
性質5 8図で∠CPA=∠BPD。
∠CPAと∠BPDとは,交わる2直線について交点で向かい合う角である。このように向かい合う角を対頂角と呼ぶ。
(6〜8図省略)
(9〜10図省略)
続いて次の性質を導く。9図のように画用紙から5角形を切り出していく。歪(いびつ)多面体をじゃがいもから切り出すように,外角に6図 ∠SPQ3を180°とする。注意しながら切り出していく。このとき,鋏が半直線ABの向きから,角度をどのように変化させながら向きを変えていくかを考えさせる。こうして,鋏は点Pの回りに,360°回転して始めの向き,つまり半直線ABの向きに戻ることを知らせる。子どもに次の作業をさせるのもよい。5角形を切り出して残った10図の紙から,5つの外角を切り出して,頂点を共有させながら,重ならないように隙間なく埋めていくと,1点の回りを一回りして,360°の大きさとなることがわかる。
こうして5角形の内角の和は,180°×5−360°となることを半ば直観を生かしつつ,理詰めで導く。同じ考えを他の多角形にも及ぼして,次の性質を導く。
性質6 多角形の頂点にできる外角の和は360°である。したがって3角形,4角形,5角形,6角形の内角の和は,次の式で求められる。
3角形:180°× 3 − 360°= 180°
4角形:180°× 4 − 360°= 360°
5角形:180°× 5 − 360°= 540°
6角形:180°× 6 − 360°= 720°
上記の性質を学習すると,さまざまな平面図形の問題が推論を交えて解決する。読者の皆様もさまざまに作問されたい。
(c) 極座標と図形の回転
4年生には,是非とも極座標を導入したい。例えば地図上で,基準点から見て目的地の位置を調べるには,方位と目的地までの距離が必要となる。こうした事例でもわかるように,極座標は子どもにも日常化している。臆することなく指導されたい。極座標の説明は省略する。
子どもはすでに低学年のときから,円,正方形,長方形に描かれる模様作りが大好きである。当然,4年生ともなれば,平面上の図形の運動として,平行運動,回転運動,線対称運動を学習する必要がある。ここでは回転運動の事例だけを述べる。
11図は原像の4角形ABCDを点0の回りに左回りに125°回転して,像の4角形を作図したものである。コンパスと分度器を利用した,こうした回転運動の作図を是非,実践していただきたい。
また実際的な絵について,いくつかの主要な点の回転運動から,その絵の像を描く活動も実践され9図 画用紙から五角形を切り出す。外角に注意する10図 5角形を切り出して残った画用紙たい。
(3) 空間図形
4年生は論理的体系的思考が進み,現実の事象から,数学的に意味のある部分を抽象できる時期になってきたから,当然,空間図形についても,立方体や直方体といった特定の立体に限定しないで,基礎的,一般的観点から,空間図形を論理的体系的に学習するようにしたい。
(a) 空間図形の基本要素
平面図形の基本要素が点,直線,円(閉曲線)であったのに対して,空間図形の基本要素は,空間にある点,空間にある直線,空間にある平面,球(閉曲面)となる。紙数も限られているので,ここでは空間にある平面を話題にする。
写真1を見られたい。これは朝日カルチャーの「横地先生の作る数学」の教室で3,4年生に行った「管理塔のある苗場スキー場」作りの子どもの作品である。勾配の低い斜面のほうの展開図は私のほうで与えた。一方,勾配の高いほうの斜面の展開図は各自の創作である。12図に展開図作製に必要となる見取図を示しておいた。これを参考に読者の皆様も子どもに展開図を与えて斜面を作製させていただきたい。また子どもたち各自の創意で展開図を作らせ,各種の斜面を製作させていただきたい。
上のような活動を通すと,子どもたちは,空間にはさまざまな向きの平面があることを実感のあるものとして会得する。
(11〜12図,写真1省略)
(b) 二面角
平面の場合,2直線の交わり方の尺度として角度があった。同様に空間の場合も,2平面の交わり方の尺度として2面角がある。2面角を会得させる活動として「横地先生の作る数学」の教室では3,4年生に写真2に見るような滑り台作りを実現している。2面角の大きさを明示するため,必要な部分に角度板を貼らせている。13図には展開図作製に必要な原理,14図には展開図を示しておいた。これらを参考に子どもたちに滑り台を作製させ,2面角の概念を会得させるようにしていただきたい。
(c) 多面体
立体は直方体や角錐に限ることはない。歪(いびつ)多面体がいろいろとできる。その特別の場合が直方体や角錐である。4年生ともなれば,こうしたことを意識することが必要である。そこで先生が,子どもの好みの形を聞き,その形に応じて,じゃがいもから歪多面体を切り出し,それを子どもたちに与えるとよい。子どもたちは歪多面体を画用紙上に滑らないように転がし,各辺に沿って鉛筆を走らせ,進んで展開図を作図する。写真3は展開図作成中の子どもであり,写真4は仕上がりの歪多面体である。子どもたちは6面体に限らず,7面体,8面体も作っていた。
(写真2〜4,13〜14図省略)
/横地 清
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