- 特集 よりよい解決の方法をみつけさせる話合いの工夫
- 【特集の解明】
- 学習効果を高める話合いの場の設定 /坂井 裕
- 【特集に基づく実践事例】
- 数と式 規則をみつければ大丈夫 /児玉 克芳
- 文字と式
- 図形 立体の考察は,立体をつくることから /乾 東雄
- 空間図形
- 数量関係 関数を学ぶよさがわかる授業 /徳峯 良昭
- 関数
- 数と式 ディベートを取り入れた方程式のまとめ /中山 均
- 連立方程式
- 図形 発見・解決するよろこびを求めて /斎藤 美智雄
- 平行と合同
- 数量関係 正比例との相違点・共通点を探って,一次関数を知りつくそう /小畑 裕
- 1次関数
- 数と式 自然数のwonderlandをさぐる /京極 邦明
- 多項式の利用
- 図形 方眼紙を使った無理数づくり /橋 恵一
- 図形の計量
- 数量関係 「階段の謎」で関数を学習する /大野 寛武
- 関数
- 【実践のポイント】
- 数と式 /宇田 廣文
- 図形 /大久保 和義
- 数量関係 /正田 實
- 小特集 重点教材と指導のポイント
- 1 中学1年における関数の指導 /熊倉 啓之
- 2 学習意欲を高める論証指導 /綱脇 理浩
- 3 考えることを楽しむ円の学習 /荻原 典子
- 21世紀への数学教育
- 1:授業を活性化させる新しい指導の試み /岡部 恭幸
- 総合学習を取り入れた授業
- 2:楽しい教材研究 /平岡 忠
- 学習意欲を喚起する教材研究
- 3:情報機器活用の授業実践 /田中 昇
- 個を生かし,学習意欲を高める指導の工夫
- 海外数学教育情報
- 数学的活動の宝庫としての図形 /國本 景亀
- 楽しい課題学習
- 2年:問題づくりを取り入れた課題学習 /佐川 正人
- 3年:1=0.999999……? /井上 正英
- 授業に使える高校入試問題
- 教室にあるものを使ってみよう! /羽住 邦男
- 生徒とつくる楽しい図形の問題
- 問題づくりを楽しむ /清宮 俊雄
- 読者の広場 /井寺 聡
- 生徒の挑戦コーナー・解説と解答 /小寺 隆幸
特集の解明
特集 よりよい解決の方法をみつけさせる話合いの工夫
学習効果を高める話合いの場の設定 東京学芸大学教授 /坂井 裕
求められる生徒の資質
これからの社会を担っていく生徒にとりわけ求められる資質は,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する能力である。これらの能力を育てることは容易ではないが,「話合い」を取り入れた学習は,これらの力を育てるのに役立つ。
話し合うためには,まず自分で考えることが必要であること,話すことによって自分の考えが一層はっきりすること,人の考えを聞くことによって多角的に判断できるようになること,そしてよりより解決の糸口を見いだすことにつながると考えられるからである。
しかし,現状を顧みるとき,他人の前で自分の考えを表現することができない生徒,自分の主張はするが話し合うことが不得意な生徒も目立つ。
話し合う力を育てる
教師がお膳立てをしてその場で話し合うように要求しても,生徒としては活動しにくい場合もある。話し合う内容によっては,話し合う形ができたとしても,一部の進んだ生徒の発言,リードで終わりになってしまうこともある。生徒も数学の授業では,自分の考えたことをお互いに話し合いながら学習を進めたという経験は多くはもっていないかもしれない。話合いを成立させるための配慮が必要である。
話し合える課題を通して話合いに慣れさせる
さまざまな生徒が自分の考えを持てるような場面や課題を用意することが必要である。例えば通常の数学の問題の解決の仕方を考えさせるときに,いくつかの班に分けて各班で話し合わせて考えを出させる場合は,進んだ生徒の発言によって進行してしまい,他の生徒がでる幕がない場合もある。また,いろいろな解決の方法がある問題でも,少し難しい問題では進んだ生徒の活躍の場面の連続になったりする。
そこで,すべての生徒が話合いに参加でき,話し合うことのおもしろさや充実感を感じられるように,パズル的な課題に挑戦させるとか,既習の数学の知識や技能を駆使する力にあまり依存しないですむ課題を用意することが必要である。
考えるための時間と根拠
話し合うためにはまず自分なりに考える時間を保証することが必要不可欠である。考えさせてもその時間が短すぎると,他人に頼って自分で考えることをしないことが多い。また,考えさせるためにはその根拠となることを予め生徒にきちんと与えること,何のために話し合うのかのねらいをきちんとわからせておくことが大切である。
自分の考えをかかせる
考えたことをかき留めさせる時間を保証することが必要である。かくためには生徒自身で考えることが必要になるからである。また,かき留めておけば自分の考えを述べやすくなる。
話合いを活発にする課題例
次のような課題は,解決するための考え方が多様で,高度な知識も必要がない。生徒同士が自分の考えを述べ合い,話合いを通して課題の解決を図る機会をつくるのによい。
「52枚1組のトランプが2組あり,カードは縦9cm,横6cmの長方形の形をしている。一方のカードを図1のように縦に,他方を図2のように縦,横の順に,それぞれ重ならないように一列に並べる。2組とも,ダイヤ,ハート,クラブ,スペードの順に,初めは1のカードを4枚,次に2のカードを4枚並べるというように小さい数の順に4枚ずつとする。カードを並べていくと,図1と図2のそれぞれのまわりの長さが等しくなるときが何回かある。3回目に回りの長さが等しくなるときは,それぞれ最後は何のカードだろうか」
このような課題をできるだけ多く設定しながら,話合いの場に生徒を参加させ,長い目で話し合う力を育てることが必要である。
話合いが有効な場面,課題
話し合うことの必要性を生徒が納得していなければ話し合うことの効果は薄れる。ここでは通常,指導することになっている基礎的な内容に関して,「話合い」を通すと効果的な指導ができる場面の例をいくつか考えてみる。
帰納的に一般化を図る場面
三角形の内角の和が180度であることや平行線の性質を使って,四角形の内角の和を求めさせる場面がある。この場面では多様な考え方が発表される。さらに,より辺の数が多い多角形,たとえば7角形の内角の和を求めさせてみる。この場面では十分に生徒に考えさせる時間をとり,自分なりの考え方を記録させる。そして発表させ,それらの考え方について四角形の内角の和の求め方とを比べさせ,どのように思うかの話合いをさせる。このように展開すれば,四角形の1つの頂点から対角線で三角形に分割して考える方法が一般化がきくという観点ではよりよい考え方であることをきちんと把握させることができよう。
考え方を比較する場面
四角形が平行四辺形になる条件を指導した後でしばしばその練習として使われる次の問題がある。
「平行四辺形ABCDの対角線BD上に点E,Fをとり,BE=DFとする。このとき,四角形AECFは平行四辺形であることを証明しなさい」
この問題に対して生徒に次のように指示する。
「平行四辺形になる条件は定義を含めると5つありますが,それぞれの条件を使って5通りの方法で証明しなさい」
授業時間が足りない場合は5通りで証明することは自宅で行ってくるようにしてもよく,その場合は学校では発表の時間から始めればよい。発表が終わったら,例えば,クラスをいくつかのグループに分けて,それぞれの証明の仕方についての特徴やよいところを話し合わせまとめさせる。このようなグループ活動を利用した話合いも有効である。どの証明の仕方がよりよいかを生徒なりの観点で話し合わせてもよい。より簡潔で思考過程が短いという観点ではどの証明の方法がよいかも話し合わせる。
##条件を付加,修正する問題
教科書あるいは問題集にある問題は通常は誤りのない問題ばかりであり,そのままでは利用できないが,例えば,授業中に問題をつくる活動をさせて生徒のつくった問題を利用することも効果的である。例えば,次のような問題はおもしろい。
「みかんが何個かある。これを12人で等分すると8個あまり,8人で等分するとちょうどであった。みかんは何個あったか」
この問題に対する個人の考え方を発表させることによって話合いの場をつくり,話合いを通しながらこの問題をよりよくとらえたり,あるいは修正するとすればどのように修正できるかを話し合わせることはこの問題の解決のためには効果的である。
以上では3つの場面を取り上げたが,このような場面を事前に研究し,計画的に授業に盛り込むことが大切である。
集団学習と話合い
知識量,考え方の柔軟性,話し合う意欲や態度などにかなりの個人差があり,同じ土俵の中でのやりとりになりにくいのが数学の授業である。しかし,数学の勉強は個人個人ですればよいということではない。たとえある問題を自分で解決でき満足したとしても,自分では気づかないよりよい解決方法があることもある。また,話し合いながらの学習は一人で学習することとは異なる心の刺激を促し,楽しさや充実感をもたらす効果もあろう。
自分だけではなく他人の存在を活用しながら学習することが,学習効果を高めるうえでも,また人間性を培うためにも必要なことであり,それを媒介するものが「話合い」である。ここに話し合うことの必要性と集団で学習することの意義がある。
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- 明治図書