- はじめに
- 第1章 ことばの発達のとらえかた
- ――ことばのストレッチのために――
- 1 ことばの障害
- 2 ことばの発達障害
- 3 ことばのストレッチのために
- 4 ことばの発達のとらえかた
- (1) 子どもと出会う
- (2) 分析
- @ 生活の有り様について
- A メリハリある生活
- B 発達の経過をとらえる
- C 音声的基盤
- D 記号的基盤
- E 対人関係的基盤
- F 指さし
- 第2章 コミュニケーション方法を獲得するには
- ――生活の中での活用を目指して――
- 1 生活の有り様と対人関係づくり
- (1) 一定の時間内に着替えていますか?
- (2) 食事を座って食べていますか?
- (3) 歯を磨く,鼻をかむ,うがいをする……などができますか?
- (4) あいさつをしていますか?
- (5) 落ち着いた日常生活が送れていますか?
- (6) 意識した行動ができていますか?
- (7) 関わりのある遊びができますか?
- 2 イメージや概念を育てる
- (1) 見る
- (2) 模倣
- (3) 聞く
- (4) 指さしの獲得
- (5) 視覚的な補助手段
- (6) 文字の導入
- 第3章 事例
- 事例1 音声,記号,対人関係の基盤が育ってきたA君
- 事例2 短期間の集中した訓練で音声を獲得し,発語に至ったB君
- コラム 乳幼児のコミュニケーション
- 発達アセスメント(ASC)
- 事例3 二語文発話を消失し,再び言語を獲得したC君
- コラム 新版S−M社会生活能力検査
- 事例4 音声の育ちそびれを取り戻したダウン症児Dさん
- 事例5 無音の状態を抜け出したE君
- コラム AAC
- 事例6 ことばがやりとりの手段になってきたF君
- コラム コミュニケーションのチャンネルを合わせよう ――F児の大好きなスピッツの歌――
- 事例7 ことばはあるが,発語行動が乏しかったG君
- 事例8 語彙が飛躍的に増えたHさん
- 母親から
- 第4章 発音・発語の実技
- 1 指導の原理
- 2 指導者の構え
- 3 基本プログラム
- 4 指導上の留意点
- 5 構音器官と舌の名称・日本語の子音
- (1) 構音器官の名称
- (2) 舌の名称
- (3) 日本語の子音の種類
- 6 発音指導の実際
- 発音遊び
- (1) 声を出しましょう
- (2) 構音器官のストレッチをしましょう
- 50音を発音しましょう
- (1) 母音 あおうえい
- (2) 母音の発音 総合練習
- (3) 子音
- ぱ行,ば行,ま行,な行,た行,は行,か行,ら行,さ行,や行,わ行,ん音,濁音,拗音,促音,発音指導のための準備物
- 資料編
- ・発達
- ・発語指導表 B児の例
- ・インテーク時の調査
- ・発語訓練キャンプ要項
- 引用・参考文献
はじめに
ことばを理解する力がついてきて,遊びや学習でも成長を見せているのに,ことばをしゃべることができない子がいます。このような子どもたちは,年齢が上がり学童期以降になってから,自然にことばをしゃべるようになるのはなかなか難しいようです。
私たち「ことばのストレッチ研究会」は,ことばのない子にことばを出させるための実践的研究をすることを目的に1998年に発足しました。そして同年7月に「第1回発語訓練キャンプ(4泊5日)」を実施しました。以来,昨年の2003年夏まで6回のキャンプを実施してきました。2001年5月からは,月例の訓練会も実施してきました。一昨年からは,ことばはあるが会話が難しい子どもも対象にすることにしています。本書はこれらの取り組みの中から,発音・発語の指導についてまとめたものです。
ことばの指導について,私たちは次のように考えています。
知的障害児や自閉性障害児は発達していく中で,あるところでつまずいて次のステップに行けないときがあります。ことばを獲得させ,伸ばしていくには,生活全般をしっかりした豊かなものにすると同時に,積極的につまずきを乗り越えさせる取り組みも必要だと考えます。つまり,コミュニケーション行動をより積極的に形成させていく指導も必要だと考えます。例えば,「アー」という声が出ない子に,「アー」と言ってごらん,まねてごらんというだけでは「アー」と言えない場合が多いのです。そこで,「ア」の口の形や舌の位置を教えたり,声帯の振動を手で感じ取らせたり,風船などに響かせて感じ取らせたりして,声帯を意識して振動させ声を出すという行動を形成させるのです。手さしやクレーンハンドが要求表現の中心で指さし行動がなかなか現われない場合,指さしの場面を設定し,指さしの形を外から介助してつくり,その場面の中で使用し,指さし行動を形成させていきます。筆者らはこのような積極的にコミュニケーション行動を形成させるアプローチが必要だと考えています。このようなアプローチを「(狭義の)ことばのストレッチ体操」と呼んでいます。
ことばのストレッチ体操を組み込んだ指導の全体を「(広義の)ことばのストレッチ体操」と呼び,次の表のような構成になっています。
(広義の)ことばのストレッチ体操 第3章(事例)
(表省略)
ことばの指導では,単に形式的に行動が獲得されているかだけでなく,それに伴って子どもの実際のコミュニケーション行動全体に成長があるか,人や物を認知したり関わったりする力も伸びているかなどをチェックすることが必要です。これらの評価はそれぞれの段階で行われる必要があると思います。
本書は,次のような構成になっています。
第1章では,子どもの発達の現状についてのとらえ方について述べました。これはことばのストレッチをする上でまずしなければならないことです。
第2章では訓練する前提となるような基本的な力,ことばの獲得の前につけておかなければならないコミュニケーションの基礎の力の指導について述べています。
第3章では,主にこの6年間の実践から,8つのそれぞれ違うタイプの事例をまとめました。
第4章では発語指導する上での技法の一つとして,難聴児に対する発音定位法について紹介しました。私たち研究会が知的障害児や自閉性障害児に合うように実際に指導しながら工夫したものも加えています。
この発音・発語編では,ことばがでない,ことばが増えないという子どもが対象です。ことばはあるが,コミュニケーションに使えないとか不適切な使い方になるという子どもに対する指導は,会話編で述べる予定です。
本書は,子どものことばの遅れが気になるお母さん方,初めてことばの指導に取り組もうとしている先生方に役立てていただけることを願ってまとめたものです。ことばの発達障害に初めて取り組もうとされている言語聴覚士の方々にも参考になるのではないかと思います。本書では,専門の用語はできるだけ使わないで,一般的なことばで説明するように心がけました。まだまだ分かりにくい部分がありますが,それはわれわれの研究が不十分だということであり,多くの方々の意見をいただいてより分かりやすいものにしていきたいと考えています。
最後になりましたが,出版の企画段階からお世話になりました三橋由美子氏に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
2004年 ことばのストレッチ研究会代表 /堀 一夫
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- 明治図書