- 監修のことば /横山 浩之
- まえがき /大森 修
- 中級編 1
- 〔ユニット1〕 漢字クイズ
- 〔ユニット2〕 言葉を広げよう
- 〔ユニット3〕 「です」と「だ」
- 〔ユニット4〕 つなぎの言葉
- 〔ユニット5〕 「たとえば」を使おう
- 〔ユニット6〕 くわしくする言葉
- 〔ユニット7〕 時間を表す言葉
- 〔ユニット8〕 言葉をかえよう
- 〔ユニット9〕 「 」を使おう
- 〔ユニット10〕 しょうたいじょうを書こう
- 〔ユニット11〕 理由を書こう
- 〔ユニット12〕 言葉でスケッチ
- 〔ユニット13〕 だんらくに分けよう
- 〔ユニット14〕 指示にしたがって
- 〔ユニット15〕 道あんないをしよう
- 〔ユニット16〕 かんさつ記録を書こう
- 中級編 2
- 〔ユニット1〕 漢字クイズ
- 〔ユニット2〕 漢字の使い方
- 〔ユニット3〕 言葉を広げる
- 〔ユニット4〕 文を書く
- 〔ユニット5〕 「 」を使う
- 〔ユニット6〕 反対意見を書く
- 〔ユニット7〕 だん落のつながり
- 〔ユニット8〕 調べて書く
- 〔ユニット9〕 視点を変えて書く
- 〔ユニット10〕 絵を書き表す
- 〔ユニット11〕 図を文章にする
- 〔ユニット12〕 記録を書く
- 〔ユニット13〕 算数を書く
- 〔ユニット14〕 表を見て書く
- 〔ユニット15〕 お礼の手紙を書く
- 解答
監修のことば
学習の基礎基本は、読み・書き・算(=そろばん)である。
本書は、「書き」をはぐくむために作成された。従来の作文ワークとの最大の違いは、医学の視点から、「書き」の指導を見直したことだ。すなわち、医療と教育の連携が行われる場―――特別支援教育にも対応している。
健常児の教育に役立つのは言うまでもない。「今後の特別支援教育の在り方について」で、文部科学省が示したように、普通学級に六%はいるとされたADHD、LDなど、グレーゾーンの児童にも役立つように、本書は作られている。その根拠を、神経心理学の力を借りて、以下に述べる。
人間は、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を通して、情報を出し入れする。言語に関係するのは、視覚と聴覚である。
聴覚を介する言語とは、話しことば(音声)である。一方、視覚を介する言語とは、書き言葉(文字)・絵(静止画像)・パントマイム(動画)である。(図1、上側参照)
「ことばの教室」などで、よく使用されているITPA言語学習能力検査では、言語を視覚・聴覚に分けるのみならず、情報の入出力についても考える。情報の入力―情報の統合(理解)―情報の出力である。(図1、右側参照)
よって、ITPA言語学習能力検査の作業仮説では、次のように考える。
(図省略)
この作業仮説は、一九五〇年代に端を発する。現代の脳科学の進展は、【聴覚受容】、【聴覚連合】などの機能が、異なる脳部位で行われていることを明らかにしてきている(注釈参照)。ただし、【聴覚受容】・【視覚連合】については、ある程度の共通部位が存在しているらしい。
(図省略)
異なる脳部位で行われている事実は、これらの機能が、確かに別の機能であることの証明である。別の機能であるということは、同一人物の、おのおのの機能の発達や能力に、差があっても不思議はないということだ。学習障害(LD)が、その好例である。
(図省略)
「書き」とは、考えたことを書き表す課題である。ITPA言語学習能力検査からみれば、【情報統合】→【動作表現】という課題(図2)である。この課題を補助するには、どうしたら良いか。
何らかの形で情報を入力して補助することしかない。
図2で、「書き」の回路に情報を入力できるのは、二か所ある。
【聴覚受容】(聴覚性入力)から、【動作表現】(書く)内容を、そっくりそのまま入力してあげる作業の一例は、聴写(聞いたことを書く作業)である。
【視覚受容】(視覚性入力)から、【動作表現】(書く)内容を、そっくりそのまま入力してあげる作業の一例は、視写(文章を書き写す作業)である。
視写を行うための教材は、既に商品化され、存在している。光村教育図書の学校用教材「うつしまるくん」である。ある出版社の編集長に、自分のところで出版したかったと言わしめたほどの、ベストセラーである。
視写という作業は、国語の教科書と原稿用紙あるいはマス目のあるノートがあれば、なし得る作業であり、私自身も、発達障害がある子どもたちに、「視写指導」をして、効果を上げている。
視写は、書く内容を、そっくりそのまま入力しているので、これだけでは、「書き」を習得したとは言えない。スモールステップで、補助のために入力する情報をなくしていかねば、「書き」を習得したことにはならない。さらに、双方向性のコミュニケーションになり得る「書き」(例えば、感想文)を目指すことになる。
多くの教師がしているように、視写の上の段階としては、「日記指導」がある。そして、その上の段階として、「作文指導」がある。
私の個人的な経験では、視写が一〇分間で二〇〇字できるようになると、「日記指導」が可能となる。また、日記を毎日二〇〇字書けるようになると、作文が作文らしくなる。言葉を変えて言うと、いわゆる作文指導ができる。既存の作文ワーク(例えば、『楽しく力がつく作文ワーク』野口芳宏編、明治図書)を利用した指導が生きる。
教師の誰もが感じているように、視写ができるようになっても、日記が日記らしくなるには、かなりの時間がかかる。すなわち、一行日記で終わってしまい、「日記指導」が本格化する前に、子どもが挫折感を味わい、日記書きを止めてしまうのである。
確かに、「視写指導」と「日記指導」との間には、補助として与える【視覚受容】の落差が大きい。「視写指導」では、書く内容を全て与えるのに対して、「日記指導」では、書く内容を全く与えない。この差は、極めて大きい。
さて、既存の教材で、「視写指導」と「日記指導」の間を埋める教材が存在しているだろうか? 部分的には、存在しているかもしれない。しかし、このポイントに焦点を定め、狙い撃ちした教材を見たことがない。あれば、ぜひ教えていただきたい。
実をいうと、本書のような教材がないので、私は、ADHDやLD指導上、非常に困っていた。大森修氏は私の嘆きに即応して、教材作成を提案してくださった。
平成一四年六月二九日、東北大学小児科の飯沼一宇教授は、第四四回日本小児神経学会において、ADHDの世界的な権威のバークレー博士を招いて、公開シンポジウムを開催された。この公開シンポジウムには、未曾有の一三〇〇人を超える参加者が殺到した。予定された会場には入りきれず、他会場を開放し、テレビ中継でシンポジウムに参加していただいた。
この公開シンポジウムに参加された大森修氏は、「グレーゾーンの子どもにわかる指導法は、他の子どもにとってもわかる指導法である」ことを確信なされた。この確信なしに、この教材は生まれ得なかった。深く感謝を申し上げる次第である。
大森修氏のご指導のもと、本書が編集され始めた。試作された教材は、大森修氏と私とが立ち会い、議論の上で、修正されていった。
面白いことに、国語を専門としている教師が作成したものが、「使えない」と評定されることが、非常に多かった。既存のワークブックをたくさん知っており、それに引きずられてしまうからであろう。逆に、国語を専門としないが、教え上手な、子どもに好かれる教師が、本書が目的とした良い教材を量産した。こんなエピソードにも、本書の革新性が表れている。
本書の編集には、一年余りを要した。本書を作成した先生方には、大変なご迷惑をおかけした。たくさんの修正をしていただいた。本当に、何度も何度も教材を作成してもらい、良いものだけを残した。本当に使える教材だけが、残せたと、自負している。
本書は、「視写指導」と「日記指導」の間を埋めるための教材の第一歩である。私自身も、ADHD、LDといったグレーゾーンの子どもたちの指導に、この教材を使っていく。「視写指導」が順調に進み始めた頃に、この教材を使用し、「日記指導」に生かしたいと思う。ご使用いただき、ご叱正いただき、さらに、良い教材を作成していきたく思う。
東北大学医学部小児科 /横山 浩之
注釈:このような知識を得るための一般向け書籍として、『読み・書き・計算が子どもの脳を育てる』(川島隆太著、子どもの未来社)がある。
自閉症の子どもたちが、黙々と喜んでやっていることです。
これは、望外のよろこびです。 何をすべきなのかが、明確に視覚的に
わかる教材なので、喜んでやるのでしょう。
どのようにしたら、自閉症の子どもたちに、この作文ワークを行い、
さらに生活の質を向上させることができるのか、考えていきたいと
思います。
大森先生、作成してくださった先生方、ありがとうございます。
必ずや、先生方の努力に報いることができる実践を生み出したく思います。