- 『数学で考える環境問題』の刊行に寄せて
- この本を手にした中学生の皆さんへ
- @ フロンガス濃度の変化を分析する [一次関数]
- (1) オゾンホール
- (2) 過去のフロン濃度の変化を関数でとらえる
- 課題1−1 /ちょっと復習1:比例と一次関数 /新しい数学の考え方1:凅凉 /課題1−2 /ちょっと復習2:一次関数の式の求め方
- (3) フロン濃度とフロンの排出量との関係を考えよう
- 課題1−3 /課題1−4新しい数学の考え方2:増加量と蓄積量の関係を見る
- A 地球温暖化を考える[データ分析,二次関数,指数関数]
- (1) 地球温暖化の危機
- (2) 二酸化炭素濃度のデータの分析
- 課題2−1 /課題2−2 /課題2−3 /課題2−4課題2−5 /課題2−6 /課題2−7 /ちょっと復習3:二次方程式を平方根を用いて解く /新しい数学の考え方3:二次方程式の解の公式
- (3) 排出量が毎年ある割合で増えていくとどうなるか
- 課題2−8 /課題2−9 /課題2−10 /新しい数学の考え方4:指導関数y=2x /課題2−11 /課題2−12 /課題2−13 /ちょっと復習4:比例と一次関数 /課題2−14 /課題2−15
- (4) 未来のシナリオを考える
- 新しい数学の考え方5:連立方程式を用いてCの式を求めよう
- B 温暖化で水が危ない [二つの変数で決まる変化]
- (1) 水危機
- (2) 水の循環
- (3) 地球温暖化による流出量の変化
- 課題3−1 /ちょっと復習5:割合をたすことができるでしょうか /課題3−2 /新しい数学の考え方6:2変数関数
- C タンチョウの数はどう変化するか[成長の数学的モデル]
- (1) よみがえったタンチョウ
- 新しい数学の考え方7:数理科学への案内
- (2) タンチョウの数のグラフから将来の可能性を考える
- 課題4−1
- (3) データを分析しよう
- 課題4−2 /課題4−3
- (4) 住む場所もえさも十分にある時のモデル
- 課題4−4 /ちょっと復習6:比例の式と倍化の原理 /課題4−5 /課題4−6 /課題4−7
- (5) モデルの修正[有限な環境での成長モデル]
- 新しい数学の考え方8:二つの量に比例する関数 /新しい数学の考え方9:差分方程式 /課題4−8 /課題4−9
- 解答
- 先生方のためのあとがき
この本を手にした中学生の皆さんへ
この本は中学校の選択数学のテキストですが,皆さんが一人で読んで考えることもできるように書きました。この本を手にする皆さんはきっと数学が好きで,より深く数学を学びたいと思っている人でしょう。そんな皆さんに,これまで中学で学んだ数学とはちょっと違う数学を知っていただこうと思ってこのテキストを作りました。
皆さんが数学の面白さを感じたのはどういう時でしたか。数や図形の不思議な性質に気づいて驚いた時でしょうか。難しい問題がちょっとしたアイデアできれいに解けてうれしかった時でしょうか。人によりさまざまだと思いますが,このような美しい規則性や明快な論理に数学の魅力を感じる人は多いでしょう。
そのことと,複雑な現実の世界を考えることとは,全く異なることのように思えるかもしれません。しかし,複雑で無秩序に見える現実世界の中にも簡潔な規則性が潜んでいることがあります。もしそのような規則性が発見できれば,世界はより深く,構造的にとらえられるでしょう。
一つの例で考えてみましょう。物を落とすと,石はすぐ落ちますが,紙はヒラヒラとゆっくり落ちます。そのために昔の人は重いものほど速く落ちると考えて,落下時間と落下距離との間に重さによらない一般的な関係があるとは考えませんでした。それに対してガリレイ(1564〜1642)は,石のように密度が大きく重い物体についてまず研究して,落下距離は落下時間の二乗に比例するという法則を見いだしました。
ガリレイがまず重いものを考えたのは,本質的でない空気抵抗の問題を排除するためです。複雑な問題を単純化したのです。そして簡単な法則性を発見し,それを「二乗に比例する」という数学の言葉で表現しました。このように現実を単純化し,数学の言葉でとらえたものを,現実の数学的モデルと呼びます。
ガリレイの成功以来,現実の問題を考える際に数学はなくてはならないものになりました。最近では,自然科学以外でも様々な場面で数学が使われています。そのような現実を読み解く数学の方法を皆さんに知っていただくことがこのテキストの目的です。
そのための素材として,本書では環境問題を取り上げました。「なぜ環境問題を取り上げるのか?」と思う人もいるでしょう。それは環境問題が皆さんにとっても切実な問題であり,しかもそれを考える上で数学が欠かせないからです。
例えば地球温暖化問題を考える際に,二酸化炭素濃度などの量の変化を分析し,将来を予測することが重要になります。しかし落下運動などと異なり,過去の変化から将来が一つに決まるわけではありません。だからこそいろいろな条件を仮定していくつかのモデルを作り,将来を考えることが重要になってきます。
その際に,過去のデータの分析は注意深くなされねばなりません。この本では,すべて実際のデータを用いました。そのために処理が非常にめんどうなように思えるでしょう。しかし,複雑なデータを扱うからこそ,その中に何らかのパターンがないだろうかとあれこれ考える中で,様々な数学的考え方も生み出されるのです。
こうしてデータから何らかのパターンが見つかれば,それを数学化し,新たな関数をつくることで変化が具体的にとらえられます。それが本書の副題の「現実のデータから関数をつくる」ということです。
そのためには電卓を手に,本書の課題にじっくり取り組んでほしいと思います。
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本書は四つの章に分かれています。できれば順に読んでいってほしいのですが,四つの章を別々に読むことも可能です。
1章ではオゾン層を破壊するフロンガスの濃度がどのように増えているかを考えます。そこでは皆さんがすでに学んでいる一次関数の復習も行います。
2章では地球温暖化の原因である二酸化炭素濃度の増え方について考えます。ハワイのマウナロア観測所のデータをもとに,今までの変化の傾向を探り,今後の予測をしていきます。この章では複雑なデータをどのように分析したらよいかをじっくり考えます。そして,変化を記述する新しい関数として,二次関数や指数関数を作り出します。
3章では地球温暖化に伴う水不足の危機について考えます。ここでは二つの変数によって決まる変化について考え,式の読みについて理解を深めます。
4章ではタンチョウの数の変化について考えます。現在,多くの野生生物が絶滅の危機に瀕しています。その中で,50年前には絶滅寸前だったにもかかわらず,人々の努力により現在900羽まで増えてきた北海道のタンチョウは世界でもまれな成功例です。このタンチョウの数の増え方を分析することで,生物の数と環境との相互作用について理解を深めたいと思います。この章で皆さんは数理生態学という学問の入口を垣間見ることになるでしょう。
2004年6月 著者 /小寺 隆幸
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- 明治図書