- はじめに
- 食の世界へのプロローグ―食べものとは何か―
- 第1章 米
- ―偉大な1粒―
- 1.米とはどんな食べものか
- (1)日本人の主食,米/ (2)米の栄養/ (3)米がアルコール(酒)になる
- 2.教材プラン&実践
- (1)稲を育てよう/ (2)ポップライスをつくろう/ (3)米を炊こう/ (4)ひなあられをつくろう/ (5)米が甘くなる―甘酒をつくろう―
- 3.米で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性と課題
- 第2章 小麦
- ―世界に広がる多様な粉食文化―
- 1.小麦とはどんな食べものか
- (1)日本人と麦/ (2)小麦はなぜ粉にして食べるのか/ (3)小麦粉の成分・種類と調理上の性質
- 2.教材プラン&実践
- (1)玄麦を噛んでみよう/ (2)小麦粉のグルテンを取り出してみよう/ (3)うどんをつくろう/ (4)パンをつくろう
- 3.小麦をめぐる課題
- (1)国産小麦(地粉)と輸入小麦/ (2)日本人の食糧としての小麦
- 4.小麦で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- 第3章 雑穀
- ―古くて新しい穀類―
- 1.雑穀とはどんな食べものか
- (1)雑穀とは何か/ (2)日本人と雑穀/ (3)雑穀の栄養/ (4)雑穀をめぐる問題
- 2.教材プラン&実践
- (1)米に雑穀を混ぜて炊いてみよう/ (2)ソバの栽培&そば打ち
- 3.雑穀で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- 第4章 大豆
- ―七変化する豆―
- 1 大豆とはどんな食べものか
- (1)いろんな豆/ (2)大豆/ (3)大豆の栄養/ (4)大豆の七変化―大豆の加工品―
- 2.教材プラン&実践
- (1)おやつにも大豆―きな粉・きな粉飴をつくろう―/ (2)豆腐をつくろう/ (3)味噌は生きている/ (4)納豆をつくろう
- 3.大豆をめぐる課題―輸入大豆に頼る日本食―
- 4.大豆で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- 第5章 魚
- ―魚の命を丸ごと食べよう―
- 1.魚とはどんな食べものか
- (1)日本人の魚食文化/ (2)魚の栄養
- 2.教材プラン&実践
- (1)イワシを手開きして蒲焼き・つみれ汁をつくろう/ (2)魚を包丁でさばこう―アジの三枚おろし―
- 3.魚をめぐる課題
- (1)海に広がる化学物質汚染と魚/ (2)養殖魚の抗生物質・耐性菌の問題
- 4.魚で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性―一尾魚の調理のすすめ―
- 第6章 肉
- ―罪つくりな食卓の賑わい―
- 1.肉とはどんな食べものか
- (1)食料としての肉/ (2)日本人と肉/ (3)肉の栄養と調理/ (4)肉の加工
- 2.教材プラン&実践
- (1)ベーコンをつくろう
- 3.肉をめぐる課題
- (1)安全性を求めて/ (2)問われる家畜飼育の原点
- 4.肉で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性と課題
- 第7章 いも
- ―土からのいただきもの―
- 1.いもとはどんな食べものか
- (1)有害ないもから食べられるいもへ/ (2)縄文時代からのいも―さといも・やまいも―/ (3)多彩に利用されるいも―さつまいも―/ (4)世界に広がるいも―じゃがいも―/ (5)いもの栄養/ (6)こんにゃくはいもからできる
- 2.教材プラン&実践
- (1)じゃがいもを栽培しよう/ (2)ゆでて食べよう! 焼いて食べよう!/ (3)いも飴をつくろう
- 3.いもをめぐる課題
- (1)収穫前の除草剤散布/ (2)輸入調整品の残留農薬/ (3)放射線照射
- 4.いもで何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- 第8章 野菜
- ―土を喰う―
- 1.野菜とはどんな食べものか
- (1)土を喰う/ (2)つくられた植物,野菜/ (3)野菜の栄養/ (4)大根―種類・調理・加工保存―
- 2.教材プラン&実践 116
- (1)大根を栽培してみよう/ (2)大根1本使っていろんな料理をつくろう/ (3)地元の野菜・果物で加工品をつくろう
- 3.野菜をめぐる課題
- (1)輸入野菜・果物をめぐる問題―残留農薬―/ (2)地産地消―地元で穫れた野菜を食べよう―
- 4.野菜で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- 第9章 乳&乳製品
- ―命のめぐみ―
- 1.乳とはどんな食べものか
- (1)日本人と乳・乳製品/ (2)人間はなぜ乳を飲むのか/ (3)子牛のための乳を人間がいただく/ (4)腐らせない工夫
- 2.教材プラン&実践
- (1)バターをつくろう/ (2)チーズをつくろう/ (3)ヨーグルトをつくろう
- 3.乳&乳製品をめぐる課題
- (1)低ラクターゼ症(乳糖不耐症)/ (2)水より安い牛乳の価格/ (3)輸入飼料で壊れる循環の輪
- 4.乳&乳製品で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- 第10章 甘味&砂糖
- ―魅惑の味―
- 1.甘味&砂糖とはどんな食べものか
- (1)昔の甘味/ (2)デンプンから糖へ/ (3)砂糖の原料/ (4)現代の甘味/ (5)砂糖の調理上の性質
- 2.教材プラン&実践
- (1)麦芽飴をつくろう/ (2)べっこう飴&キャラメルをつくろう
- 3.甘味&砂糖をめぐる課題
- (1)砂糖とからだ
- 4.甘味&砂糖で何を学ぶか
- (1)教材としてのポイント/ (2)教材としての可能性
- エピローグ―循環型社会の形成をめざして―
- おわりに
はじめに
食料自給率40%にもかかわらず,輸入食品で飽食といわれる日本の食生活は,食の外部化,簡便化,画一化,個食化,孤食化が進み,それに伴い,さまざまなひずみや問題が生じてきた。本来,食は農業の産物であるにもかかわらず,食と農の乖離が進行し,日々食べているものがどのようにしてつくられているか,知る機会もない。食べずに捨てられる食料ロスは膨大な量になっている。
そのような現状に対し,2005年6月,食育基本法が制定され,食育の必要性がいわれ,食育推進のさまざまな活動が地域や学校などでおこなわれている。
筆者は,長年,中学校の家庭科教諭として食教育に携わってきた。子ども達の実態を考慮し,試行錯誤して授業をしてきた。そして,食教育の基礎に農業の体験と学びが必要であると考えるに至った。つまり,食べものはどのように生産されているかを労働を通して学び,今食べているものが,多くの人の知恵と努力で,生産技術・加工法・調理法等の技術が開発され,自然のものを人間の食べものとしてつくり上げ,文化を築いてきた,ということを体験と学びを通して認識する。そして,各人が自分なりの「食べものとは何か」という考え,いわば食物観というべきものを持つ必要がある。そのことを基礎に,いかに食べるべきか等の食教育がおこなわれるべきだ,と考えてきた。
では,なぜ,あえて,「食物観を形成できるような農業の体験と学びを基礎にした食育・食農教育」の必要を主張するのか。それは,「食べものは,人間が生きていくうえで,空気,水と並んで最優先に確保しなければならない“生命財”」1)であり,一般の商品とは異なるからである。しかし現実は,社会のシステムの中で,食べものが商品として利潤を生むため,飽食と飢餓の格差が生じ,食の安全・安心が脅かされる事態が引き起こされている。つまり,生産・加工・流通・消費の各段階においても,人の判断によって食べもののありようが決まる。したがって,原点にたちかえり,「食べものとは何か」を考えて適切な判断と行動をすることが全ての人に求められている。
しかし,主に家庭科においてなされてきた学校教育における食教育は,栄養・食品・献立作成・調理などの理論や技術などの修得が主な内容とされ,消費者としての学びに限定されてきた。
一方,農業体験学習と食教育をつないだ授業(食農教育)は,「総合的な学習の時間」が設置された2002年(移行期間も含めると2000年)から多くおこなわれるようになってきた。農業体験学習は学校内では限界があるので,地域と提携した実践も多くなってきた。
しかし大きな問題がある。それは,農業の教育を受けたことがない,農業や農産加工の体験がない教員が多い,ということである。教員がしっかりした知識と考えを持たずに臨むと,せっかくの体験が,体験だけに終わって学びに結びつかない場合がある。体験を学びのスタートにして,さらに発展させる力が欲しい。食物観形成につながる食育・食農教育の実践をつくり上げるために。
教えるとは学ぶことである。この本は,今まで実践してきたことの基礎として学んだことをもとに執筆した。食育・食農教育に携わる方々の参考になれば幸いである。
2006年3月 著者 /野田 知子
1)『食べものは商品じゃない―すこやかな命を未来へ―』竹内直一 七つ森書館
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- 明治図書