- まえがき
- T 動物の体は生活に役立っている
- (1) ねらい
- (2) 内容
- 1 かかとはどこにあるのだろう
- @ 動物には,捕食に適した体のつくりがある
- 2 生物が地形を作った
- @ サンゴは褐虫藻という藻類と共生している動物です/ A 生き物も環境を変えている
- U 人間は道具とともに人間になった
- 1 絶滅の危機をどう乗り切ったか
- (1) ねらい
- (2) キーワード
- (3) 内容
- @ 危機が/ A 生活を変えて危機を乗り越える/ B 直立二足歩行では危機を乗り切ることはできない/ C 道具を作り使う生活こそが
- (4) 授業の進め方
- 2 人間になる基礎はサル類時代にあった
- (1) ねらい
- (2) キーワード
- (3) 内容
- @ サル時代に道具を使っていた/ A チンパンジーと人間では道具の意味が違う/ B 体にも大事な基礎が/ C 道具と前足の指/ D 道具と大脳の発達・目の役割
- (4) 授業の進め方
- 3 道具と体の変化は相互に作用した
- (1) ねらい
- (2) 内容と授業の進め方
- @ 道具が先か手が先か/ A 手への変化と二足歩行への変化/ B 道具作りと体の変化の相互作用/ C 人間は完全な直立二足歩行動物ではない
- V 製鉄・船運・職人と鎌倉
- 1 中世都市・鎌倉の立地条件を考える
- (1) ねらい
- (2) 内容
- (3) 授業プラン(10時間扱い)
- W 排泄と水にかかわる道具
- 1 動物の排泄から人の便所まで
- (1) ねらい
- (2) 内容
- (3) 授業プラン(6時間扱い)
- 2 水を得るための道具
- (1) ねらい
- (2) 内容
- X 「野草から紙作り」
- ―道具を作る楽しさ―
- (1) ねらい
- (2) 内容
- (3) 授業プラン
- @ 実際に紙を作ってみよう/ A 調べてみよう 日本各地の和紙作り
- Y 住む道具としての家
- (1) ねらい
- (2) 内容
- 1 動物は家作りの名人
- @ ダムを作る大建築家・ビーバー/ A 地上に水上に楽園を作るデザイナー・鳥/ B マンション作りのプロフェッショナル・蜂
- 2 人間の住まい作りの歴史
- @ ほら穴から竪穴・高床式住居へ/ A 寝殿造から武士の館へ/ B 書院造から数寄屋造へ/ C 和洋折衷の始まり/ D 課題
- 3 これからの住環境を考える
- @ シックハウス症候群て何?/ A バリアフリー住宅のめざすもの/ B 人間にやさしい住まい作り/ C 課題
- Z 戦争の道具としての武器の発達
- (1) ねらい
- (2) 内容
- 1 いらない道具
- @ 戦争は人間が起こす/ A 武器の発達
- 2 究極の兵器=核兵器
- @ ヒロシマ・ナガサキ/ A 原爆の原理(核分裂)/ B 処理不可能なゴミ
- 3 戦争規制の歴史
- @ ノーベル賞/ A 戦争違法化の国際条約
- 4 21世紀を平和な世界に
- @ 日本国憲法第9条
- [ 「巨大リサイクル都市 江戸」
- (1) ねらい
- (2) 内容
- 1 プロローグ
- 2 深川江戸資料館にて
- @ なんて狭いうち―長屋/ A 余分なものまで買わされている!/ B 季節と時刻を知らせる物売りの声/ C 継ぎのあたった着物は当たり前/ D 一生もの,ありますか?/ E 外国に学ぶ
- 3 エピローグ
- 4 行ってみたい博物館、資料館
- \ 夢を創造し心を癒す道具
- 1 夢空間を創造する道具・アニメーション
- (1) ねらい
- (2) 内容
- @ アニメーションとは/ A アニメーションを作ろう/ B アニメーションを語ろう/ C アニメ鑑賞教室
- 2 死んだらどうなるの? 人は死の苦痛を癒す道具を生み出した
- (1) ねらい
- (2) 内容
- (3) 授業プラン「死んだらどうなるの? 人は死の苦痛を癒す道具を生み出した」
- @ ねらい/ A 展開
- あとがき
まえがき
―「人間」を学ぶ総合的学習の勧め―
人間学の研究と教育
いま私たちは,まさに世界史的激動の時代に生きている。米ソ冷戦構造の終焉後,日本企業を含め各国企業の多国籍化,グローバル化が急速に進み,多国籍企業間の大競争時代が到来するなかで,地球環境の破壊,繁栄のなかの貧困・飢餓の広がり,民族間の新たな対立が深刻化している。
国内的には,55年体制(自社=保守革新体制)崩壊後の政界再編成やバブル経済崩壊の激動があり,官僚汚職・政治汚職のスキャンダルが続くなかで,政治改革・行政改革・財政構造改革,金融構造改革などの「構造改革」が声高に叫ばれているが,目立った進展は見られず,むしろ国民生活の面では「一億総中流」とも言われてきた日本社会の「中流神話」が崩壊し,不平等社会化の進行が深刻な問題となってきている。そして,この不平等社会化にいっそうの拍車をかけようとしているのが,自由競争(市場)原理の導入によって戦後日本の「平等主義」教育を根底からくつがえすことを目指す最近の中教審・文部科学省の「教育改革」である。
かつて20世紀の幕開けを前にしてエレン・ケイは,新世紀は「子どもの世紀」となるであろうと期待をこめて宣言したのだが,1世紀後の今日,「キレル」「ムカツク」「ヤリタクネエ」と荒れる子どもや,陰湿ないじめ,不登校,学級崩壊,授業崩壊などの世紀末的荒廃現象が依然として続くのを目の前にするとき,そのような感懐はとうてい持ち難い状況にある。
しかし,他方こうした現代の危機的状況をなんとか打開しようとする人々の努力が,各方面で着実に進んでいることも確かな事実である。アメリカのイラク攻撃に対する「戦争反対」の叫びは,アメリカ国内を含め世界中に広がっている。
地球環境の破壊にせよ,繁栄のなかの貧困にせよ現代の危機はすべてが人間によってつくりだされたものである。人間がつくりだした問題は,人間によって解決しなければならない。その問題解決への一つの道は,人間のあり方・生き方を総合的に考え追求する人間学の探究と教育とによって拓かれるであろう。
私たちが人間学の研究室を一私立大学に開設したのは30年程前にさかのぼる。いまでは人間学の講座や学科・コースが多くの大学で開かれているが,その頃にはまだほとんどどこにもなかった。細々とした試みではあるが,私たちが研究の対象としたのは,生物種としてのヒト,人格を持った人間,その人間がつくりだした社会とその歴史,学問・芸術・思想などの精神活動を含めた人間全体の世界であった。人間学は,人間に関するすべての学問との緊密な相互関係を保つとともに,人間学の実践ともいえる教育や実生活の営みとの相互作用を図ることによって不断に発展する開かれた学問の体系としてとらえる必要があると,私たちは当時から考えた。
「人間」を学ぶ総合的カリキュラム開発の試み
4年前に同志の協力を得て人間学研究所を立ちあげた私たちは,当面の課題として「人間」を総合的に学ぶカリキュラムづくりに取り組むことになった。折から,学校週5日制の新教育課程で「総合的な学習の時間」の新設が決まったことが一つの契機となってはいるが,これは私たちのかねがね抱いてきた総合的学習構想の具体化であった。現在,子どもが,学校で人間そのものについて学ぶ機会は,国語・社会科・理科・技術・家庭科・保健体育科などの教科学習でも,あるいは教科外の諸活動のなかでもいろいろとある。しかし,それらは人間のさまざまな事実について断片的に学ぶだけで,人間を学問的に基礎づけられた多様な角度から総合的に学ぶということはない。
人間についてまとまった形で総合的に学ぶという試みが,これまでにまったくなかったわけではない。もっとも注目に値する企画は,アメリカのブルーナーが中心となって1960年代半ばに開発した小学校高学年向けの「人間・学習コース Man:A Course of Study」(略称 MACOS)であろう。
MACOSが教育目標としたのは,「種としての人間の本質,人間性を形成した諸力および形成し続ける諸力」を子どもに理解させることであった。この人間を人間たらしめる(humanizing)諸力としてあげられたのは,1)言語の使用,2)道具づくり,3)社会組織,4)長期間にわたる子どもの育成,5)神話・世界観である。そして,MACOSの内容全体は,次の三つの視点(問い)から構成されている(J. S. Bruner, Toward a Theory of Instruction, 1966)。
1 人間にとって人間らしさ(human)とは何か?
2 ヒトは,どのようにして人類への道をたどったのか?
3 人間は,どのようにしてより人間らしくなりうるのか?
このような内容を学ぶ主な教材としては,「サケ」「セグロカモメ」「ヒヒ」「ネトシルク・エスキモー」が取り上げられ,学習の基本的方法としては,動物相互,動物対人間,人間対高等霊長類,原始的人間対現代の技術的人間,大人対子ども,などの対照による比較法がとられた。MACOSのこのような内容構成は,人間学習の基本的あり方を示すものとして私たちにも大変参考となった。
わが国における先行研究としては,東京学芸大学多田俊文グループの「<食を通して人間を学ぶ>総合学習カリキュラム」の開発がある。「食と食文化」という小学生にもなじみやすいテーマを取り上げ,10単元からなるカリキュラムを構成している(多田俊文『総合学習“にんげん科”のカリキュラム開発―食で学ぶ命・環境・異文化・生き方―』明治図書,2000)。
ブルーナーのMACOSと比べ「食と食文化」を中心とした人間学習は,確かに子どもには取っ付き易い学習内容だが,人間の本質を学ぶうえでは限界がある。
私たちとしては,動物学と人間学の比較研究(小原秀雄),原始技術史の研究(岩城正夫),人間の高次精神機能発達史の研究(柴田義松)などを中心としてこれまでに私たちの人間学研究会で積み上げてきた現代人間学の総合的研究の成果を基礎により豊かな人間学習プログラムの構築を目指すことにした。
人間を総合的に教え学ぶにあたっては,子どもたちにどんな人間観をもたせるかということが重要な課題となる。ブルーナーは,「人間はなんとすばらしい種であるか――人間は,決して無力ではない,人間はいろいろなことを考えることができ,文化によって自分自身の力を拡大し成長していくことができるといったことの理解を子どもたちに与えてやりたい」と述べている。60年代後半のアメリカはベトナム戦争介入や黒人たちの人権闘争で大揺れに揺れていたが,NASA(米国航空宇宙局)によるアポロ計画(月面着陸)などの宇宙開発事業の進展があったりして,ブルーナーは人間の未来についてかなり楽観的な見方に立っていたように思われる。
人間性への信頼は確かに基本とならねばならないが,深刻な環境問題を抱える地球時代21世紀に生きる子どもたちには,もう少し違った人間観・世界観も必要とするのではないか。このような検討を進めるなかで私たちは,当面の作業として次のような観点から新設の「総合的な学習の時間」にも使用可能な「人間」学習教材の開発に取り組むことにした。
「人間」学習の基本目標
人間の人間らしさ(人間性)とは何か,生物の一種としてのヒトが,長い進化と歴史のなかでどのようにして他の動物とは異なる社会的存在としての人間性を獲得し,発展させて,現在に至ったのか。このような「ヒト」と「人間性」についての多面的・総合的な学習を通して,子どもたちが人間理解を深めるとともに,自分自身の生き方についても深く考えることのできるような人間観と世界観の形成を基本目標とする。そのカリキュラムの概略としては,次のような内容が考えられる。
1 動物と人間との境界
(1) いろいろな動物 ……地球の歴史,生物の多様化
(2) 生物の進化と人類の誕生 ……直立二足歩行, 手足の分化
(3) サルの身体とヒトの身体 ……手と脳との相互作用
(4) 動物の生態と人間(ヒト)の生活……社会,道具の使用
2 人間の人間らしさとは何か(動物との比較を通して)
(1) 道具つくり ……石器,火おこし,貝塚調べ,道具の発達
(2) 言語の使用 ……動物のコミュニケーションと「ことば」の起源
(3) 社会組織 ……衣食住の生活,動物の社会組織と人間の社会
(4) 人間の子育て ……刷り込み(imprinting), hominization, humanization
(5) 思考と感情の発達……抽象と科学,芸術活動,神話と世界観
3 人間と環境とのかかわり
(1) 動物の環境と人間の環境……人間の社会と(自然)環境
(2) 生産と労働 ……農業,衣食住の生活,分業
(3) 自然生態系と人工生態系 ……環境破壊・環境問題,人間の生存条件
(4) 自己家畜化する人間 ……飼育された野生動物,人間の自己ペット化
4 人間の一生
(1) 人間の誕生
(2) 男女(オス・メス)の本性と社会的ジェンダー
(3) 乳児・幼児・児童・少年・青年・壮年・老年
(4) 各世代の意味――肉体的成長・老衰と精神的成熟
5 君たちはどう生きるか
(1) 大人になるということ ……成長の個人的・社会的過程,脱中心化
(2) 人間の社会的諸関係 ……網目の法則,生産関係,法律と道徳
(3) 個性の発達と多様性の尊重……ジェンダー,障害児,世界の人々
(4) 人間の悩み,過ち,偉大さ……戦争と平和
「道具と人間」を中心としたカリキュラム開発の試み
人間の人間らしさ(人間性)を総合的に学び,そのことを通して自分自身の生き方についても深く考えるためには以上のような諸項目(内容)が不可決と考えられたが,これを日本の現実の小・中・高等学校で実践するためにはより具体的な教材化を図る必要がある。そこで,小・中・高校の理科教育や総合学習の実践研究で実績のある岩田好宏・笠井守・大森亨の協力を得て,さらに協議を重ねた結果,上述の「人間」の総合学習基本目標の達成を目指しながら,さしあたり「人間」の総合的学習教材開発の第一弾として「道具と人間」を基本テーマとした教材の開発(トピック・ブックの作製)に取り組むことになった。岩田好宏が中心となってまとめたトピック・ブック『道具と人間』(全3冊)編集の基本方針およびその内容の概要は次のようなものである。
『道具と人間』全体を貫く基本テーマ
すべての生き物は,まわりの自然とかかわって生きている。人間も同様である。しかし,人間は特別のかかわり方をしている。自然にあるものを加工して道具を作り,人間はその道具を使って自然に働きかけている。
1 道具なしでは,人間として生活できない。
2 道具により,人間は自分の身体以上の自然つくりかえの能力をもった。
3 人間は,道具によって,まわりの自然を大きく変え,自分も大きく変わった。
各章・節の具体的テーマ
1 人類は,道具を不可欠とする生活をすることによって人類となった。
(1) 人類の道具生活の原型は,哺乳類時代に始まる。 動物の生活と道具。しかし,それは種としての存在の仕方にとって偶然的なものであり,必然的(不可欠)なものではなかった。
(2) 道具の製作・使用が生活にとって必然的になったのは,人間の身体と生活の仕方と生態的地位との間の対応関係の破綻が契機となった。破綻の克服は道具を不可欠とする生活によって実現した。
1. 人類の起源と道具の製作と使用
2. 道具を作り,使うようになると身体が変化した(直立二足歩行)
3. ヒトの手,動物の前足と道具
4. 身体と生活の仕方,生態的地位への対応関係の変化
5. 貝塚から昔の生活を知る
2 道具と生活,その関係は歴史的に変遷する(生活が変わり,道具が変わる。道具が変わり,生活が変わる。さらに,まわりの世界も変わる)。
(1) 道具が発達すると生物世界のなかでの位置(生態的地位)が変わった(食べる生物・敵となる生物が変化した)。
(2) 道具が発達すると,食べられなかったものが食べられるようになった。
(3) 採集狩猟生活から農耕生活へ生活が変わると,新たな道具が生まれた。
(4) 農具が発達し,作業の仕方が変化し,作物に変化が現れた。
(5) 機械と農薬が使われると,農作業と田畑が大きく変わった。
3 道具が発達して,人類はさまざまな地域に生活するようになった。多様な自然のなかで生活と道具,自然とのかかわりは多様になった。
(1) 道具の発達で,人類は生活場所を地球全体に広げた。
(2) 地域の自然が違うと,同じ使い道の道具でも材料が違う。
(3) 地域の自然が違うと,作れる道具と作れない道具がある。
(4) 寒帯,砂漠,熱帯での生活には,どのような道具が必要か。
(5) 便利な道具は,その製作・使用技術がさまざまな地域に伝わっていった。
4 道具が発達すると生活が複雑になった。生活が複雑になるとさまざまの新しい道具が生まれた。
(1) 道具を作る職業が生まれた。
……鍛冶屋,瓦屋,筆・墨・紙の製造,ガラス器具の製造,自動車製造
(2) 道具の発達と生活の複雑化は,相互に関連しながら進行した。
……台所用具の変化,江戸時代の家具と現代の家具
(3) 新しい材料・原料が開発されて新しい道具ができ,生活が変わった。
……石器から金属器へ。金属からセラミック,プラスチックへ
5 道具は不要になり老朽化すると,解体され,作り替えられ,廃棄される。
道具の廃棄は,道具の自然物質としての性質が生物的・社会的問題となる場合が起きてくる(環境汚染)。建築廃材の環境汚染。
6 道具の変化は,生活を束縛し,生活・環境を破壊することがある。
(1) 道具の変化が身体・精紳を変える。
……道具の変化が,手先の回転運動をできなくさせる。
(2) 道具の変化を通じて環境が変わり,環境破壊を生み出す。
……海の埋め立てを加速させたパワーショベル。野生生物を滅ぼした道具。
(3) ブラウン管は,視力を衰えさせる。
……映像で知った仮想世界を,現実と取り違えるようなことも起きる。
(4) 道具の変化が,戦争での大量殺人を生み出した。
7 道具の発達は,人間の精神文化の変化と結びついていた。
(1) 精神文化の変化が新たな道具を生み出す。
……崇める土偶・壊す土偶,仏像の誕生。
(2) 新しい道具が新たな精神文化を生み出す。
……仏像の普及(ブロンズ像と木像),映像文化。
(3) 道具を作る楽しさ,使う楽しさ。
……からくり人形,遊びと道具。
このような内容を基本として,全体を3部構成とし,(1)小学校中学年向きは笠井守,(2)小学校高学年向きは大森亨,(3)中学校向きは岩田好宏が中心となって,各学年段階に応じた内容構成についてさらに工夫をこらし,監修者・執筆者全員による検討を経て作成に至ったのが本シリーズである。 本シリーズの読者対象は主に小・中学校の教師であるので,図版をできる限り多くして「総合的な学習の時間」の授業つくりや教材開発に役立つようにした。道具の製作過程や利用の様子を具体的に知るだけでなく,自ら「道具を作り,使う」ことを通して,人間のあり方・生き方の本質的理解により深く迫ることができるのではないかと考えるからである。
「人間とは何か」「人間とは,他の動物あるいは神とはどう違い,この世で何をなすべき存在であるのか,またなし得るのか」といった古今東西にわたり,多くの哲学者・学者・教育者・宗教家たちによって問われ,考え続けられてきた人類永遠の問いに迫るうえでは,私たちの試みはほんのささやかな一歩に過ぎない。
しかし,21世紀に入った今日,人類が自ら招き寄せ,作り出した極めて深刻かつグローバルな危機的状況を前にするとき,このようにしてわずかでも一歩前に踏み出すことが大切であると考えた次第である。読者の皆さんからの共感を期待するとともに,忌憚のないご批判をいただくことができれば幸いである。
2003年4月 人間学研究所所長 /柴田 義松
-
- 明治図書