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今月のメッセージ
子どもの生きづらさと出会い、出会い直す
埼生研 佐伯 隆
一 子どもたちと保護者との出会い
しつこく注意を受けると「うるせえ!」と、大声を出す悟は、四月の視力検査で右眼の視力が全くないことがわかる。「幼稚園の頃、母親から首を絞められた。その時に、目の管が切れて視力が落ちてきた」「その母親は、二年の頃、階段から落ちて頭を打って入院したが、間もなく亡くなった」「二年の妹は隣町の施設へ預けている」と、父親は私に玄関で立ったまま、話してくれた。
仲間を求め、いつも立ち歩き、トラブルを起こす祐樹は、今年になって苗字が変わった。これで三回目だという。赤ちゃんが生まれると言うことで、家庭訪問を断ってきた。「俺んちは父ちゃんが三人いて、誰がおれの父ちゃんかわからない」とも言う。
バスケットで、ボールが当たったといって、思いっきり相手にボールを投げつけた無表情の美晴の家では、年老いた祖父母が私を待っていた。「美晴が二年生の時、学校から帰ってきて、私たちが家にきているのを喜んでいました。そして父親が帰ってきて、話しがあると兄と美晴を前に座らせて、離婚したことを話しました。その時の美晴の泣き叫んでいた顔としばらくの放心状態の顔は、今でも忘れられません」「この年になって、二人の孫の養育をするなんて」と、堰を切ったように話しをしてくれた。
特別教室の廊下や階段で、遊び相手を求め、鬼ごっこに興じていて、いつも叱られている康弘の母親から、相談したいことがあると連絡帳が届く。会って話しを聞くと「低学年の時に、授業参観などで落ち着きがなく、家庭でも集中力がないので、大学病院で検査を受けたら、注意欠陥が強い『ADHD』だと言われて、今薬を飲んでいます」「去年の担任に話したら、他にも手のかかる子がたくさんいて、目立ちませんよと言われた。」「いじめられているって、あの子が去年の三学期にぽつんと言ったんですよ。先生に言わないでくれって。解決しないまま終わったんですよ」と話す。康弘には0歳の妹早紀がいる。二年前に父親が出て行った時の早紀のはしゃぎようは、みんなから「うるさい!」と怒鳴られるほど。中二の兄は、小学校でいじめに会い、不登校を繰り返し、解決がつかないまま卒業した。中学でも二年間学校へ行かず、最近になって、隣の市にあるフリースクールに通うようになったと言う。「学校の先生方には、不満はありません。結局、友達に恵まれなかったんです」と康弘の母親は淡々と話す。学校にたまに来た時は、帰りの会で黙って翌朝の自習を黒板に書いていた有紀は、もう二週間学校へこない。家庭訪問も断られた。借金とりが夜遅くまで大声で玄関のドアを叩いてるそうだと前担任に聞く。家庭が福祉や教育行政からも、地域からも孤立している。
二 子どもの生きづらさに思いを寄せて
今年担任した五年生の子どもたちの現実である。子どもたちは生きづらさを身体いっぱいに受け止めて生きている。悟は亡くなった母親から、「身体的虐待」を受けていた。祐樹の誰が自分の本当の父親かわからない心も想像しがたい。母親がある日突然いなくなったことを知らされた美晴の衝撃は大きい。康弘の場合も、「いじめ」を受けていたというが、その傷はどんなものなのか。早紀のはしゃぎようは、苦しい生活現実を少しでも忘れるためか。有紀の幼い心に、社会の現実の重さがのしかかる。
今、学校は階層分化をさらに推し進め、「棲み分け」の世界に甘んじながら生きることを教えるのか、それとも「異質な子どもたち」が出会い、出会い直しをしながら、平和と共生社会を創造するために、共同して生きていく子どもの発達を保障するのか、鋭く問われている。
生きづらさを、暴言や暴力で、そして投げやりな態度で表現していた彼らは、仲間とつながる言葉をようやく獲得し始めた。さらに、子どもたちどうしが、そして保護者と出会い直し、保護者がつながる実践の二学期(後期)が、スタートする。
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