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今月のメッセージ
若い力の胎動
常任委員 高原 史朗
優香の通っている塾のプリントには、自分の名前があらかじめ印刷されている。つまりその子その子の課題にあわせて違う問題に取り組むのだ。その結果がパソコンに打ち込まれ、その子の間違いのパターンに合わせたプリントがさらに配布される。
タイムカードがあり、帰りの時刻が遅れれば必ず何を指導していたのかを含めて電話がある。その言葉遣いは「流れるように丁寧」なのだそうだ。定期試験の朝は六時に塾に呼ばれ、重点箇所と弱点の総復習をする。夏には高原で勉強の合宿。しかもそこでは、キャンプファイヤーを楽しみ、「蛍を見る会」まである。
一方、大和くんだ。彼は漢字が書けない。というか、筆圧が低すぎて何を書いているのかほとんど読み取れない、といった方が正しい。彼の家に立ち寄る機会があった。おばあちゃんが話し始めた内容は次のようなものであった。
「一週間前に母親が家を出ちゃったんです。それで、下の子の就学時検診があって、それに行っていないんです。私が病気なもんで…。下の子が『私、小学校行けないよー』って泣くんですよ。」
大和にはお父さんはいない。見かねた私が小学校に連絡を取り、まだやっている遠くの小学校を探してもらってようやく検診の段取りをつけた。そこら中に物が乱雑に散らばっている中で、大和の書く、ふにゅふにゅのお手本をまねて妹が「字の練習」といいながら「やまと」と書いていた。
階層の分化はいっそう進み、あらゆる場面で弱者が切り捨てられていくのだろうか。
アメリカのハリケーンの被害の中心は貧困層であり、日本でも台風による死者の多くは高齢者である。社会の仕組みがそうなっていくということは、自分がその「弱者」とならないための戦いがあらゆる場面で、自己責任で繰り広げられるということである。
とりわけ教育現場に急激に下ろされるこの「市場化と自己責任」に基づく改革の嵐は、ともすれば子どもたちのみならず、私たち自身を追い詰め、無気力な絶望に陥れかねない。
第47回全生研埼玉大会への20代の参加者は100名を超え、この数に含まれない学生が実行委員として相当数参加していた。
こちらが頼んだわけではないのに自分たちで仕事を見つけ、「もっと何かをやりたい」という学生たち。時間を見ながら、冷えた麦茶が常備されるように常に気を配り、炎天下で道案内を続け、書籍を出し入れし運ぶ。
彼らに尋ねてみた。「どうしてこんなにがんばっているの?」こんな答えが返ってきた。「誰かと何かやりたかったんですよ」「みんなにいろいろほめられて何か役に立っている気がして…」「大学って自分から動かないと何もないんですよね。だから動いてみたんです」「『麦茶なんか楽しいの』って誰かに言われたんですよ。それがね、不思議に楽しいんですよ」「埼玉の合宿とかに参加すると、先生たちの話も聞けるけど、いっしょの仲間たちといろいろ話せるんですよ。最初ギクシャクするんだけどだんだんと語れるっていうか…だからこれにも参加しようかなって」
携帯メールで集合時間を連絡しあい、ひょいと自分の友人を連れてきてしまう組織力。意外と熱かったりする「語り」。彼らは彼らなりの模索の中で、分断から連帯にたどり着こうとしているのかもしれない。彼らのその姿から私たち自身が励まされ勇気をもらった。
この困難な情勢の中にも、着実に若い力は胎動している。
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- 明治図書