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巻頭論文
算数授業へのこだわり
小さなことも筋道を通す
向山洋一
世の「算数問題解決学習」の「指導者」の中には,全く訳のわからないことを言う人がいる。
学校の校内研究で「向山型算数」を提言する。不思議なことに,いっぱいいる「問題解決学習」の先生が「研究授業」をすることは,ほとんどない。「向山型算数」はどこででも研究授業を引き受ける。
すると,「向山型算数」に対して「問題解決学習」の「元附属教師」とか「算数主任」とか「研究主任」が,意見やら質問を言う。
向山型算数をやると「今までテストで5点10点の子が80点90点をとるようになる。クラスの平均点も大巾に上昇する」という報告もする。
問題解決学習の人はそれに対して,次のように言う。
1)「点数で学力は測れない」
2)「数理を教えていない」
どちらも,問題解決学習を熱心にやっている教師から出される。
日本中ほとんど同じだ。どこでも出てくる。
すると,奇怪なことに気づく。
日本の大学,高校等の入学試験は,「点数」で示される。学力テストも「点数」で示される。
日本の教育界は,あげて「点数で測れない学力を点数で測っている」ことになる。
いや,日本だけではない。
先進諸国なら,世界中どこも「テスト」で「点数」で「学力を測り」「入学者」を決めている。
これら,日本中,世界中すべての「学力評定」の方法が間違っているということになる。
問題解決学習の主張だけが正しく,世界中は間違っていることになる。
文部科学省の「学力テスト」など問題外ということになる。何せ「テスト」で「学力」を測れないのだから,「学力テスト」という言葉自体がおかしいことになる。
「テストと学力」を結びつけないのが,問題解決学習の教師の主張だ。日本中でそのように主張している。
問題解決学習の(多くの)教師は,何とデタラメを言っているのかとあきれかえる。
もちろん,学力のすべてを一つや二つの方法で測ることはできない。
人間の学力の「ある部分」を測るのだ。そんなこと当然の常識である。
ある部分を切り取って,「教科」として教え,ある部分を「評価,評定」するのである。
それが,前提だ。
だから,「学力テスト」という言葉も全国あまねく通用しているのである。
料理コンテストでも,写真コンテストでも,芥川賞も,それぞれの能力のすべてを評定などできない。
ある部分に限定して,評価,評定をするのである。
まして,算数のテストは教科書で習ったことが,その範囲で出題されているテストである。
このテストが学力を測れないとしたら,一体どういう方法で測れるのか。
問題解決学習の学力論は歴史全体を敵にまわしている。
この一つだけでも変なのに,「数理を教えたことにならない」がくっつくと奇怪になる。
数理思想は,昭和10年,緑表紙の教科書から使われるようになった。
これは,「事象の中に数理を見い出し,事象を数理的に考え,行動する態度」を示している。
それを学ぶために,「教科書」が作られ,幾多の先人の努力で工夫がされてきた。
教科書は「数理思想」を身につけるための最良のテキストである。
何十年にもわたって,そうして作られてきたのだ。
それを学ぶことが,「数理思想を学ぶことにならない」などとなぜ言えるのか?
実に不遜な態度だ。何十年にもわたる多くの先人の努力を足蹴にするものだ。
私たちは「学力」という事象を「数理的」にとらえ,「5点10点の子が,90点100点をとるようなドラマが生まれた」と報告した。
実に数理思想に合っている。
しかし,問題解決の(一部の)教師は,テストで学力は分らないと言う。実に数理思想からはずれている。
問題解決の教師が,全国各地で主張している向山型算数への次の批判は,根本からおかしいのだ。
1)点数で学力は測れない
2)数理を教えていない
論理の根本となる,このような命題は,もっときちんと提出すべきだ。それが,数学を教えるものの誠実さである。
算数のテストで0点5点10点をとる子たちを,日本中で一人も救えないのが,問題解決学習である。
それは,彼等の論理が,思想が,根本からおかしいからである。
もちろん向山型算数の中にだって問題はある。「我流」のひどさが時に混在しているのだ。向山型算数を名乗ったからといって免罪されない。
向山型算数MLには,全国の教師の努力が流れている。その多くは,「地道な努力」ともいうべきであり,蓄積されてくると,大きな意味を持つと考えられる。
時には「オヤ」と思うこともある。
小さなことだが,きちんとすべきことだ。
福岡のNと申します。
うちのクラスでは,残念ながら,写すだけではできるようになった子の事実はありません。学力の厳しい子に,1学期から,「写していたらできるようになる。」と言い続けてきましたが,未だに成果は現われません。授業のま
ずさが如実に表れています。
もう一つ原因と考えられるのは家でもう一度その問題に取組んでいないことがあげられます。
他にも,写し方にも問題があるのではと思うようになりました。子どもたちを見ていると,例えば,わり算の筆算で商が2桁以上になる場合,上にある商をすべて書いてから,わる数,わられる数を写しています。
考えることなしに漠然と写しているので,なかなか,問題の解き方が入ってこないようです。
写し方にもコツがいるのでしょうか?
N氏の前提は次の命題だ。
A写すだけでできるようになる。
向山は,そんなことは一言も言っていない。
B写すこともお勉強です。
AとBは,全く異なる概念である。似ても似つかない。
子どもには,「教科書を使った正しい勉強方法」を教えるのである。
これは,一連の流れだ。システムである。
流れを理解すると,勉強の次の言葉に答えることができる。
C先生は,次にどんな問題を出しますか。(何といいますか)
Cは,子どもが「学習の流れ」をつかんでいるかどうかのチェックだ。
N氏がいけないのは,向山型算数を「流れ」としてとらえてないことだ。
「ブツ,ブツ」の「バラ,バラ」状態でとらえていることだ。
写し方にもコツがいるのでしょうか?
何というグロテスクな問い!
私は,しばし,呆然とした。授業をこんな風にしかとらえていないのか?と。
写していたらできるようになると言い続けてきたというが,私は,そんなことを子どもに言ったことは一度としてない。
向山の授業のテープを聞けば明らかだろう。
私は,「写すこともお勉強のうちです」と言ってきたのであり,「一番いけないことはノートに何も書いていないことです」と言ってきたのである。
「家でもう一度やってごらんなさい」などということも,多分,言ったことはない。
N氏と私は,授業が全く違う。
その違いは,絶望的なほどだ。
「この違いは絶望的なことだ」ということを自覚しなくては,前進はないのである。
大切なのは,「一連の授業の流れ」なのである。
その一つ一つの行為で,つまずく子がいる。「教科書を出せない」「ノートが開けない」「写せない」「続けて問題がやれない」…これらにテンポよく,リズムよく対応しなければならない。
わり算の筆算など,「書く順序」がきちんとしていて,ノートにもちゃんと書いてあるように全員分を確認するなど,当然のことだ。
そして,「練習問題」の時に,「時間内でできない子」が出てきて,「写すのもお勉強のうち」が出てくるのである。
「写す」のには,場所がある。時間もある。
45分授業で,「○○分後から何分間」と指定できるはずだ。
「写す」という大切な学習行為が,何か泥足でふみつけられている感じがして,淋しい。
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- 明治図書