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巻頭論文
算数授業へのこだわり
クラス平均30 点の大差。全校学力調査で,問題解決学習は完敗した
向山洋一
九州のある小学校での実話である。
向山型算数MLでは女教師の実名で報告されたが,現在の問題であり相手の教師のことを思い仮名等の配慮をして紹介する。
算数の問題解決学習バリバリの教師と向山型算数の教師が,校内の「基礎学力算数テスト」で対決した。
同学年で,同一問題である。
結果は明白。クラス平均点で向山型算数が30 点も上だったのである。
平均で30 点の差というのは大変だ。1/3も低いのだ。どれだけの違いか身長で比べる。
6年A組のクラスの平均身長は1m50cmである。この数値は,あり得るだろう。
隣のクラスを予測してみる。同じ学校の隣のクラスのその誤差は数%,いくら何でも1 割は違わない。つまり1m 35cm から1m 65cm の間に,ほぼ100%が入るだろう。
ところが,6年B組は,平均身長が1m0 cm だったのである。
A組のクラス平均は150cm。
B組のクラス平均は100cm。
A,Bの2つのクラスが朝礼で並んでいる場面を想像してみよう。
誰だって異様に思えるだろう。「こんな馬鹿なことが」と感じるだろう。
算数の学力テストの点数は目に見えない。そこで,目に見える身長に置き換えてみた。
すると,かくの如く異様な状況が出現する。
どちらが正しく,どちらが変なのか誰でも分かる。「B組に何があったのだ!」となる。
B組は,問題解決学習バリバリの教師が, 自信をもって教えてきたのだ。その結果が, かくも明白な違いとなった。
これは,九州の1つの小学校のできごとではない。日本中で生じている事実である。
暮れに福井で開かれた日本教育技術学会では,「中学入学時,算数基礎学力調査報告」が冊子として発表された。全国の中学校教師の協力で実施された最大規模の調査である。
小学校の教科書の問題を50 問,中学校の入学時に調査したのである。小学校での調査は担任による不正が生じやすく,正確な結果が出ないからである。
問題解決学習などのプリント学習と教科書型の学習との比較も行われた。教科書型とは,昔ながらの普通の教え方がほとんどである。向山型は,まだまだ少ない。
それでも,結果は明白だ。教科書活用のクラスの方が,平均点が圧倒的に高い。これが日本教育技術学会の調査結果である。この調査報告書は,全国各地の教育現場に持ち込まれた。
校長先生の関心が高い。教育長,市長,県知事にも持ち込まれている。この調査は,今後毎年続けられるので,影響は大きいだろう。
さて,九州の女教師の報告を紹介する。
1.昨年度まで,学級数26 の小学校に勤務していました。同学年が,A組からD組まで, 4人です。B組のA先生が,バリバリの単元学習・問題解決学習派でした。
2.学校は「基礎基本の定着」で,2年間の市の研究委託を受けていました。週に4日, 朝からモジュールタイムがあり,基礎基本の定着の時間として位置付いていました。運用は学年に任されていました。学年主任の私が中心になり,漢字・音読・計算の時間として計画運用していました。
3.私は年度当初に,「あかねこ計算スキル・漢字スキル,S社のテストでないと,指導ができない」と主張し,通していました。「学年代表の授業や中間発表会の研究授業は私がやりますので」と言うと,すんなり通りました。学年部会の話し合いの中で,ユースウェアを研修し,各学級で実施しました。
4.同学年のB先生は,研修を深める内にどんどん質問してきました。ALTとの英語の授業や,パソコンのTOSSランドを使った授業にもとても関心があり,1学期の終わりには私の女教師サークルにも入りました(昨年の夏休みにメールを始めた彼女が,今やディレクターでサイトを作り,他県の模擬授業に立候補してやります。)
5.問題解決派のA先生は,表向きには同学年との足並みを揃えていました。しかし,いつも教室には,「めあて文」や「毛筆で大きく書いた新出漢字」が所狭しと掲示されていました。算数は問題解決学習,国語は単元学習でした。
6.そんな彼が2学期から大打撃を受けます。校内研修の評価部(専科の先生たち)が作る,「教科書から,そっくりそのまま問題テスト」の点数が公表されるからでした。2学期初めに行った,1学期の学習範囲から出題の,漢字テストも,計算テストも,私の組の平均点より30 点以上低かったのです。
〈向山〉問題解決学習A先生のクラスの平均点は,向山型算数のクラスの平均点より30 点も低かった。「専科の先生が作った,教科書通りの問題」テストの結果である。
A先生は,「自分の指導の未熟さ」とは考えなかった。「こんなことがあるはずがない」と考え,「向山型の教師は不正をしたのだろう」と考えた。
向山型算数は「子どもの事実」を何より大切に考え,「事実」を出発点とする。不正など当然,考えてもいない。
しかし,問題解決学習の教師は「この差は不正にあった」と思ったらしい。九州女教師の報告は続く。
7.そのときA先生は,「去年からの指導が響いている。または,A組は出題される漢字を知っていって練習していたのでは?」と彼は思ったようでした。そこで,2学期末のテストは,評価部で作成したテストは当日まで誰にも見せないでもらう,テストは担任が入れ替わって時間を決めて実施する,という方法で行いました。
〈向山〉疑いを持ったA先生に,TOSS女教師は,提言をします。
1)2学期末のテストは,専科に作ってもらい,テストの当日までは秘密にして,誰にも見せないようにしよう。
2)担任がテストをすると,テスト中に不正をする可能性があるから,テストの試験官は,他のクラスの担任と入れ替わろう。
この2点が,申し合わされ,実施されました。
そして,どうなったのか?
8.もちろん,結果は,前と同じでした。学級ごとの平均点が,一覧表になって出されます。彼のショックは隠しきれません。
〈向山〉結果は,前と同じだった。A先生も,その後,真剣に算数の指導をしただろうが, 平均点30 点の差は,そのままだった。
不正は全くなかった。
ここに至って,A先生は,大きなショックを受ける。これで,反省しなければ,教師ではない。
それにしても,TOSS女教師の何というカッコウの良さ。何という知的さ。
TOSS女教師は,この原因はどこにあったのかの検討を学年で始める。詰めも立派だ。
9.そこで「理由を検討するためにも,全員分のスキルとノートを見合う研修をしよう」と持ちかけました。図書室に,国語と算数のスキル・ノートを,学年全員分持ち込みます。時間を決めて,ローテーションで見ていき,
各担任に気づきを発表してもらいました。
10.スキルでは,「ていねいになぞっているクラス」と「雑なクラス」,「全部解いて,きちんと○がついているクラス」と「途中をとばしている,○が雑なクラス」があったこと。ノートでは,「日付やページがあるクラス」と「中途半端なページが多いクラス」,「全員が同じようなノートをとっているクラス」と「下位の子は何も書いていないクラス」,「先生が授業中に○をつけて確認しているクラス」と「先生の○はついていないクラス」があったことなどが出されました。
11.A先生の組は,プリントを貼っている子といない子,プリントがばさっと落ちてきたり飛び出したりしている子が目立ちました。そして,低位の子ほどノートもスキルもめちゃくちゃになっていることが本人もよく分かったようでした。
〈向山〉A先生の学級では,ノートが雑だった。勉強のできない子は,何も書いてなかった。問題解決学習バリバリの子は,勉強のできない子を見捨てていた。1人1人のノートも教師は見ていなかった。スキル練習もめちゃくちゃだった。
つまり,算数の学習場面すべてで,問題解決学習は,雑で冷たいものだったのである。
A先生は,やっと理解したのである。
しかし,人間が変わるのは難しい。A先生は,少しだけ変化した。
12.他にも,「スラスラ音読テスト」のやり方を決め,各学級を4人全員で回って全児童を各自評価し,評価結果を比較する研修などをやりました。3学期には,A先生からの質問も多くなりました。年度末には,「とても効果的な学習方法を勉強できた」とお礼を言ってくださいました。
13.今年度,私とB先生は,転勤しました。先月,前任校の研究会があり,参加しました。A先生は研究主任になっていました。あかねこなどの教材は,全校に定着していたようでした。しかしながら,計算の学習は,問題解決学習になり1問を延々と解いていました。学校に着く早々,彼は私のところに来て「お手柔らかに」と言っていました。子どもに力がつかないことを分かっていて,指導法に疑問をもちながらの発表なのでしょう。可哀想になりました。でも,一番可哀想なのは,子どもたちと保護者です。現に,昨年の学級の子どもの保護者からは,苦情が手紙やメールでたくさん寄せられています。苦情を職員に伝え,学校を後にしました。
14.今年赴任した学校は,各学年1クラスの小規模校です。校長に理解があり,良いものをみんなに紹介してくださいと言われ,他の学年に,漢字の授業をしたり,サイトを紹介したりしています。みんなに教えながら,改めてTOSS指導法の良さを認識します。今後も自分に身近なところで,自分にできることを頑張っていきます。
〈向山〉素直にものごとを見ること,事実を大切にすること,納得したらその通りやってみること――人生の成功哲学の教えは,教師の道でも同じです。
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