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巻頭論文
算数授業へのこだわり
最新の脳科学の識見によって向山型算数を分析しよう
向山洋一
向山型算数を(いや向山型指導法を)一気に理論化するすばらしい本に出会った。
向山実践は,「子どもの事実」「教師の手ごたえ」を手がかりに,積み重ねられてきた。
現場の実践であり,現場の理論である。
現場の理論は,系統的でない。個々の事例を積み重ねたものである。
多くの理論は,経験則なのである。
幾多の経験則が集められ整理され大系化されていく。それが論になり,学になる。
向山実践を導くような「学」に,私は出会っていない。「理論」とも出会っていない。
むしろ,「問題解決学習」のように,まるでデタラメな「論」の方が,教育界には,はびこっているのである。
きれいな言葉の無意味な羅列。現実の困難にまるで無力な方法。
いや,時に最悪とも思える現実を生じさせる指導法。
「問題解決学習」は大量の算数嫌いの子どもたちを作り出した。
保護者は「あんな算数の教え方で,うちの子は駄目になりました。学校に何も期待してません」と言っている。算数の問題解決学習は,学校不信を生じさせた。
「できない子」は「できない子」のままであり,「少しできる子」も「できない子」へ落下させる指導法だった。
学力の低下をもたらした元凶は,算数の問題解決学習法である。
それのみか,ADHD児と軽度障害をもつ子どもをスポイルしてきた。軽度の反抗挑戦性障害の子を作り出し,そのまま中学校へ送ってきた。
算数の問題解決学習は,日本の教育を崩壊させ国家の背骨をゆがめてしまった売国的指導法である。
私は,このようなひどい「理論」がはびこる教育界に生きてきて,「子どもの事実」こそ実践の指標とすべきだと訴えてきた。
教師が本気になれば,「算数で5点,10点の子を満点にする」ことは可能なのである。
向山型算数は,この奇跡のようなドラマを幾百,幾千,幾万と実現させてきた。
その事実を喜ぶとともに,もっと「分かりやすく」整理することの必要を感じていた。
障害をもつ子の指導に関して,東北大の横山ドクターの協力のもと,不足していた部分が段々と明らかにされている。
医学の世界からのサポートは,これまでにない視点を私たちに与えてくれた。
私は,「脳科学」「認知心理学」の方面からの整理も必要と思ってきた。
私が,幼児教育の原理について,「認知心理学の7つの知性」を柱にしたまとめをしたのは10年近く前である。
高木ドクターの脳の話は分かりやすかった。浜松医大のドクターに脳科学の講演をお願いしたこともあった。
最近有名な川島先生の本は,「向山実践と異なる」と思う部分がかなりあった。素直に受け入れられないのである。
和田秀樹氏の本はおもしろかった。東大医学部に現役で入学するまでの体験談は,「勉強は方法」であることを明確に示したものだった。
和田氏が「受験界」への発言が多いせいか,向いている方向が少し違うかなと思えた。しかし,私は和田本のファンである。
そして,ついに私は,「この本だ。この人だ」という本に出会うのである。
著者の名を「池谷裕二」という。1970年生まれ。現役の東大薬学部助手である。専門は「海馬」。著書に『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス)がある。
『高校生の勉強法』(東進ブックス)が分かりやすいが,50冊注文したところ在庫なしで,近く再版するという。大型書店に残っている分は,すべて注文を入れた。それほどいい本だ。
池谷先生には,夏のセミナーにぜひ講演していただきたいと思っている。
できることなら,TOSSの研究に協力していただきたいと思っている。
さて,上記の池谷先生の本を,ぜひ読んでほしい。何度も,何十度も読んでほしい。
脳科学から見た学習についての考え方が分かりやすく書かれている。
そして,脳科学の視点から,向山型指導法を,分析してほしい。
さらに,他のさまざまな教育指導法を分析してほしい。
この作業によって,日本の教師は数段レベルアップした実力を身につけていくと思う。
『高校生の勉強法』から,一部引用して私の意見を紹介したい。
『人間が高次な文化を営むようになったのは,進化の歴史上ではつい最近のことで,海馬はまだ急速に発展した人間文化に見合っただけの進化を遂げていないのです。
では,学校で教わる知識を,海馬に「必要なもの」として仕分けしてもらうためには,一体どうしたらよいのでしょうか。それこそが,皆さんが今もっとも知りたいことではないでしょうか。
その方法はたった一つしかありません。
海馬に必要だと認めてもらうには,できるだけ情熱を込めて,ひたすら誠実に何度も何度も繰り返し繰り返し,情報を送り続けるしかないのです。そうすると海馬は,「そんなにしつこくやって来るのだから必要な情報に違いない」と勘違い・・・して,ついに大脳皮質にそれを送り込むのです。古来「学習とは何か」に対して,「学習とは繰り返しである」と言われてきたのは,脳科学の立場からもまったくその通りだと言えます。
要するに忘れてしまったことは,いちいち気にすることなく,また必要になったときにもう一度覚え直せばよいのです。そうして覚えても,やはりまた忘れてしまったら,それでもヘコタレずにまた覚え直しましょう。そんな具合に,何度もなんども繰り返し覚え直しているうちに,脳はその知識を記憶に留めるようになるでしょう。
しかし,そうして苦労して覚えてもまた忘れてしまったら,どうしたらよいでしょうか。何度も努力して,やっと覚えたのに……。
答えは同じです。やはりまた覚え直せばよいのです。こればかりは仕方がないのです。人間の脳は,できるだけ早く多くのことを忘れるように設計されているのですから。
つまり成績がよい人とは,忘れても忘れてもめげずに,海馬に繰り返し繰り返し情報を送り続けている努力家にほかならないのです。』
「学習とは何か」。それは「繰り返し」しかないと脳科学は言い切る。
勇気づけられる教師も多いだろう。
しかし,「繰り返し」にコツがあるのだ。
効果の少ない「繰り返し」もあるのだ。
向山型指導では,「変化のある繰り返し」というキーワードがある。これは,脳科学から見て,すばらしい指導法なのである。
『つまり,「記憶」と一口にいっても,それは一種類ではないのです。簡単に言ってしまえば,「自由に思い出せる記憶」と「自由には思い出せない記憶」があるのです。
さて,ここで用語を覚えてもらいましょう。自由に思い出せる記憶,つまり自分の過去の経験が絡んだ記憶のことを「経験記憶」と呼びます。一方,何らかのきっかけがないとうまく思い出せない知識や情報のような記憶のようなことを「知識記憶」と言います。
皆さんはきっと「ど忘れ」をしたことがあるでしょう。「う〜ん,何だっけ? ここまで出かかってるんだけどなあ…』などというのは,ほとんどの場合,人や物の「名前」であるはずです。これは知識記憶です。先ほどの実験でも分かったように,知識記憶は自在に思い出すことはできません。思い出すためには,必ずきっかけが必要です。きっかけが弱いと思い出せなくて当然です。ど忘れというのは,ボケの始まりでもなんでもありません。単に,知識記憶だから思い出しにくかっただけの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことです・・・・。
残念ながら,学校のテストで覚えなければならないものは,ほとんどが知識記憶です。漢字の読み方,将軍の名前などなど,これらは紛れもなく知識記憶にほかなりません。知識記憶はきっかけが十分に与えられないと思い出すことはできません。だから,テスト中に焦ることになるのです。
さて,ここまでお話しすれば,テスト勉強をどのようにやればよいか,皆さんにも分かったことでしょう。そうなのです。テストの内容を知識記憶ではなく経験記憶として覚えればよいだけのことです。経験記憶は,自在に思い出すことができるだけではありません。自分にまつわるエピソードはすんなり覚えられることからも分かるように,覚え込むこと自体が楽なのです。そして何よりよいことは,忘れにくいという事実です。知識はすぐに思い出せなくなってしまいますが,経験したことは後々までよく覚えていられるのです。まさに,経験記憶はよいことずくめなのです!』
漢字文化の授業は,漢字指導を経験記憶にするための優れた方法である。
算数の指導中,小さな達成感を味わわせ,何度もほめることも,経験記憶になるのである。
問題解決学習で,子どもがほめられることは,まずない。クラスの中度,下度の子で,1年間に一度もほめられなかった子もいっぱいいる。
向山型算数では,1時間の授業で,何度もほめられる。
それは,授業が小さなステップで組み立てられ,1つ1つの達成感を味わい,そしてそのたびにほめられるのである。
これぞ脳科学がおすすめの指導法なのである。
そして,記憶には,もう1つ「方法記憶」という最重要な記憶がある。
例えば,向山型算数の「わり算指導」は,この「方法記憶」を身につけさせる,極めてすぐれた指導法だったのである(この点についてはまたの機会に)。
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