向山型算数教え方教室 2004年5月号
平均90点にする教師の技量ここが違う

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向山型算数教え方教室 2004年5月号平均90点にする教師の技量ここが違う

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ジャンル:
算数・数学
刊行:
2004年4月12日
対象:
小学校
仕様:
B5判 92頁
状態:
絶版
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目次

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特集 平均90点にする教師の技量ここが違う
視線と予見と毅然
河田 孝文
子どものつまずきを予想し,細分化して授業を組み立てる
宮崎 京子
子どもを見る目と「もう一歩の詰め」
根本 直樹
すべての子どもに指示が通っているか
川原 奈津子
平均90点を目指したときにすべては変わる
二瓶 祐子
できない子を意識し,教室空間を支配する足場を築いていく
戸井 和彦
授業に,隙を作らない。技量の組み合わせでできる技である
甲本 卓司
ミニ特集 写真で見せる算数教室こうデザインする
知的障害児学級の教室環境
脇 規洋
子どもが授業に集中するための環境を構築する
山口 正仁
教師修業のために,教室には何が必要か
千葉 康弘
子どもが板書するシステムづくり
杉本 任士
シンプルに,さり気なく
横山 利恵
激励の原則が込められた向山型算数教室
金子 明弘
グラビア
「言った通りやらせる」は教育活動の骨格である
村田 斎
向山型算数キーワード
1年算数テストの配列
木村 重夫
論文ランキング
2月号
木村 重夫
巻頭論文 算数授業へのこだわり
最新の脳科学の識見によって向山型算数を分析しよう
向山 洋一
学年別5月教材こう授業する
1年
なんばんめ
小田 昌宏
10までの数
下山 てるみ
2年
たし算とひき算のひっ算(1)
柳田 真弓
ひき算の しかたを かんがえよう
松木 康将
3年
たし算とひき算の筆算
常田 幸宣
新しい計算を考えよう〔わり算〕
宮ア 真砂美
4年
がい数
佐藤 いつみ
わり算(1)
門 貴幸
5年
小数のかけ算とわり算を考えよう〔小数の倍〕
横崎 剛志
小数のかけ算
小倉 郁美
6年
分数のたし算とひき算
田上 大輔
分数のたし算とひき算〔通分〕
古川 伸一
向山型算数に挑戦/論文審査 (第54回)
カギは1つだけの「キーワード」からの脱皮
向山 洋一
向山型算数実力急増講座 (第56回)
こんな教材が欲しかった!『TOSS子ども百玉そろばんスキル』の開発
木村 重夫
向山型算数の原理原則と応用 (第56回)
1けたのたし算ができなかった4年生児童への指導
井上 朋子
向山型算数と出会ってTT授業・少人数授業が変わる (第25回)
教師の卵たちも模擬授業に挑戦!教育実習生とのTT授業から学んだこと
溝端 達也
向山型算数WEBサロン (第50回)
教科書の先読みで向山型算数授業は成功する
赤石 賢司
中学校からの発信!「向山型数学」実践講座 (第50回)
授業の詰めはやっぱり数学スキルである
井上 好文
「親と子の証言!」向山型算数は公文を超える! (第14回)
「算数の教科書が進んでいる」それがとてもうれしい
松崎 力
〈教室の障害児と向山型算数〉特に気になる『あの子』への向山型アプローチ
教授用百玉そろばん操作6つのポイント
藤野 美紀
子どもの微かな声を拾って授業の腕を鍛える
正木 恵子
もう一つの向山型算数 難問良問1問選択システム (第56回)
低学年
土屋 洋之
中学年
河野 健一
高学年
磯部 智義
ライブ体験で味わう“実力づくりへの道”向山弟子の介入を受けて
3名人の連続介入 箱根は至福の場となった
毛見 隆
教材との葛藤をしてから授業をしろ
東田 昌樹
向山型算数セミナー
平均点90点達成のための長期と短期の工夫を解明する
板倉 弘幸
腹の底からの実感!向山型算数を知る前と後
できるようにさせるのが仕事と思った
鈴木 はるみ
「このテストを宝物にする」
冨田 元久
サークル参加で自分自身を知る
田中 展子
笑顔いっぱい!向山型算数
土肥 ゆかり
なぞればできる,分かる
厚海 知弘
1年で保護者の評価が激変!
山本 敏子
向山型算数と出会い,子どもが変わる!
田代 光章
自由投稿フリーページ
木村 重夫□□□□□
実物ノートと指導のポイント
算数ノートコンテストで我流指導をチェック
臼井 勝
読者のページ
TOSS黄金ノートのドラマ
編集後記
木村 重夫赤石 賢司
TOSS最新情報
赤石 賢司
向山型算数に挑戦/指定教材 (第56回)

巻頭論文

算数授業へのこだわり

最新の脳科学の識見によって向山型算数を分析しよう

向山洋一


 向山型算数を(いや向山型指導法を)一気に理論化するすばらしい本に出会った。

 向山実践は,「子どもの事実」「教師の手ごたえ」を手がかりに,積み重ねられてきた。

 現場の実践であり,現場の理論である。

 現場の理論は,系統的でない。個々の事例を積み重ねたものである。

 多くの理論は,経験則なのである。

 幾多の経験則が集められ整理され大系化されていく。それが論になり,学になる。

 向山実践を導くような「学」に,私は出会っていない。「理論」とも出会っていない。

 むしろ,「問題解決学習」のように,まるでデタラメな「論」の方が,教育界には,はびこっているのである。

 きれいな言葉の無意味な羅列。現実の困難にまるで無力な方法。

 いや,時に最悪とも思える現実を生じさせる指導法。

 「問題解決学習」は大量の算数嫌いの子どもたちを作り出した。

 保護者は「あんな算数の教え方で,うちの子は駄目になりました。学校に何も期待してません」と言っている。算数の問題解決学習は,学校不信を生じさせた。

 「できない子」は「できない子」のままであり,「少しできる子」も「できない子」へ落下させる指導法だった。

 学力の低下をもたらした元凶は,算数の問題解決学習法である。

 それのみか,ADHD児と軽度障害をもつ子どもをスポイルしてきた。軽度の反抗挑戦性障害の子を作り出し,そのまま中学校へ送ってきた。

 算数の問題解決学習は,日本の教育を崩壊させ国家の背骨をゆがめてしまった売国的指導法である。

 私は,このようなひどい「理論」がはびこる教育界に生きてきて,「子どもの事実」こそ実践の指標とすべきだと訴えてきた。

 教師が本気になれば,「算数で5点,10点の子を満点にする」ことは可能なのである。

 向山型算数は,この奇跡のようなドラマを幾百,幾千,幾万と実現させてきた。

 その事実を喜ぶとともに,もっと「分かりやすく」整理することの必要を感じていた。

 障害をもつ子の指導に関して,東北大の横山ドクターの協力のもと,不足していた部分が段々と明らかにされている。

 医学の世界からのサポートは,これまでにない視点を私たちに与えてくれた。

 私は,「脳科学」「認知心理学」の方面からの整理も必要と思ってきた。

 私が,幼児教育の原理について,「認知心理学の7つの知性」を柱にしたまとめをしたのは10年近く前である。

 高木ドクターの脳の話は分かりやすかった。浜松医大のドクターに脳科学の講演をお願いしたこともあった。

 最近有名な川島先生の本は,「向山実践と異なる」と思う部分がかなりあった。素直に受け入れられないのである。

 和田秀樹氏の本はおもしろかった。東大医学部に現役で入学するまでの体験談は,「勉強は方法」であることを明確に示したものだった。

 和田氏が「受験界」への発言が多いせいか,向いている方向が少し違うかなと思えた。しかし,私は和田本のファンである。

 そして,ついに私は,「この本だ。この人だ」という本に出会うのである。

 著者の名を「池谷裕二」という。1970年生まれ。現役の東大薬学部助手である。専門は「海馬」。著書に『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス)がある。

 『高校生の勉強法』(東進ブックス)が分かりやすいが,50冊注文したところ在庫なしで,近く再版するという。大型書店に残っている分は,すべて注文を入れた。それほどいい本だ。

 池谷先生には,夏のセミナーにぜひ講演していただきたいと思っている。

 できることなら,TOSSの研究に協力していただきたいと思っている。

 さて,上記の池谷先生の本を,ぜひ読んでほしい。何度も,何十度も読んでほしい。

 脳科学から見た学習についての考え方が分かりやすく書かれている。

 そして,脳科学の視点から,向山型指導法を,分析してほしい。

 さらに,他のさまざまな教育指導法を分析してほしい。

 この作業によって,日本の教師は数段レベルアップした実力を身につけていくと思う。

『高校生の勉強法』から,一部引用して私の意見を紹介したい。

 『人間が高次な文化を営むようになったのは,進化の歴史上ではつい最近のことで,海馬はまだ急速に発展した人間文化に見合っただけの進化を遂げていないのです。

 では,学校で教わる知識を,海馬に「必要なもの」として仕分けしてもらうためには,一体どうしたらよいのでしょうか。それこそが,皆さんが今もっとも知りたいことではないでしょうか。

 その方法はたった一つしかありません。

 海馬に必要だと認めてもらうには,できるだけ情熱を込めて,ひたすら誠実に何度も何度も繰り返し繰り返し,情報を送り続けるしかないのです。そうすると海馬は,「そんなにしつこくやって来るのだから必要な情報に違いない」と勘違い・・・して,ついに大脳皮質にそれを送り込むのです。古来「学習とは何か」に対して,「学習とは繰り返しである」と言われてきたのは,脳科学の立場からもまったくその通りだと言えます。

 要するに忘れてしまったことは,いちいち気にすることなく,また必要になったときにもう一度覚え直せばよいのです。そうして覚えても,やはりまた忘れてしまったら,それでもヘコタレずにまた覚え直しましょう。そんな具合に,何度もなんども繰り返し覚え直しているうちに,脳はその知識を記憶に留めるようになるでしょう。

 しかし,そうして苦労して覚えてもまた忘れてしまったら,どうしたらよいでしょうか。何度も努力して,やっと覚えたのに……。

 答えは同じです。やはりまた覚え直せばよいのです。こればかりは仕方がないのです。人間の脳は,できるだけ早く多くのことを忘れるように設計されているのですから。

 つまり成績がよい人とは,忘れても忘れてもめげずに,海馬に繰り返し繰り返し情報を送り続けている努力家にほかならないのです。』

 「学習とは何か」。それは「繰り返し」しかないと脳科学は言い切る。

 勇気づけられる教師も多いだろう。

 しかし,「繰り返し」にコツがあるのだ。

 効果の少ない「繰り返し」もあるのだ。

 向山型指導では,「変化のある繰り返し」というキーワードがある。これは,脳科学から見て,すばらしい指導法なのである。

 『つまり,「記憶」と一口にいっても,それは一種類ではないのです。簡単に言ってしまえば,「自由に思い出せる記憶」と「自由には思い出せない記憶」があるのです。

 さて,ここで用語を覚えてもらいましょう。自由に思い出せる記憶,つまり自分の過去の経験が絡んだ記憶のことを「経験記憶」と呼びます。一方,何らかのきっかけがないとうまく思い出せない知識や情報のような記憶のようなことを「知識記憶」と言います。

 皆さんはきっと「ど忘れ」をしたことがあるでしょう。「う〜ん,何だっけ? ここまで出かかってるんだけどなあ…』などというのは,ほとんどの場合,人や物の「名前」であるはずです。これは知識記憶です。先ほどの実験でも分かったように,知識記憶は自在に思い出すことはできません。思い出すためには,必ずきっかけが必要です。きっかけが弱いと思い出せなくて当然です。ど忘れというのは,ボケの始まりでもなんでもありません。単に,知識記憶だから思い出しにくかっただけの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことです・・・・。

 残念ながら,学校のテストで覚えなければならないものは,ほとんどが知識記憶です。漢字の読み方,将軍の名前などなど,これらは紛れもなく知識記憶にほかなりません。知識記憶はきっかけが十分に与えられないと思い出すことはできません。だから,テスト中に焦ることになるのです。

 さて,ここまでお話しすれば,テスト勉強をどのようにやればよいか,皆さんにも分かったことでしょう。そうなのです。テストの内容を知識記憶ではなく経験記憶として覚えればよいだけのことです。経験記憶は,自在に思い出すことができるだけではありません。自分にまつわるエピソードはすんなり覚えられることからも分かるように,覚え込むこと自体が楽なのです。そして何よりよいことは,忘れにくいという事実です。知識はすぐに思い出せなくなってしまいますが,経験したことは後々までよく覚えていられるのです。まさに,経験記憶はよいことずくめなのです!』

 漢字文化の授業は,漢字指導を経験記憶にするための優れた方法である。

 算数の指導中,小さな達成感を味わわせ,何度もほめることも,経験記憶になるのである。

 問題解決学習で,子どもがほめられることは,まずない。クラスの中度,下度の子で,1年間に一度もほめられなかった子もいっぱいいる。

 向山型算数では,1時間の授業で,何度もほめられる。

 それは,授業が小さなステップで組み立てられ,1つ1つの達成感を味わい,そしてそのたびにほめられるのである。

 これぞ脳科学がおすすめの指導法なのである。

 そして,記憶には,もう1つ「方法記憶」という最重要な記憶がある。

 例えば,向山型算数の「わり算指導」は,この「方法記憶」を身につけさせる,極めてすぐれた指導法だったのである(この点についてはまたの機会に)。

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