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巻頭論文
算数授業へのこだわり
向山型算数の正しさは,脳科学の知見が次々と立証してくれる
向山洋一
世の中に,たくさんの「法則」がある。
その「法則」のほとんどは,「経験法則」である。
政治学も,経済学も,医学も,教育学も,その多くは,経験法則つまり経験則から成り立っている。
経験法則は,幾多の「事実」の中から発見された。そして,明らかにされた経験法則は無数の事実を解明するのに役立ってきた。
教育技術の法則化運動は,こうした「経験法則」を集め,整理し,その有効性を検証する実践的な教育運動であった。
法則化運動は,当時の教師の大多数から批難され続けた。
論点は3つである。
第一は,「教育に技術は必要ない」という意見である。
これは,戦争中の師範学校の「教育技術の教育」に対する反発であり,多くの教師の心をとらえていた考えであった。
「教師には教育技術はいらない」という意見の間違いは,「医師には医療技術はいらない」という主張と比べてみればすぐ分かる。
戦後の「民主教育」(日教組と民教連運動)は,教育の専門性を解除してしまったのである。
口先だけの,きれいごとを大声で言うだけの,しかも教える技量の極めて低い大量の教師を誕生させてしまったのである。
法則化運動は,「教育の専門性を解除」する「民主教育」の一連の教師との闘いを通過しなければならなかった。
第二は,「教育に法則などない」という批難である。
これは,明らかに教師集団の教養,学問の質の低さを示していた。
エンジニア,医師,(久米宏氏などの)専門家は,「技術の必要性」「経験則の必要性」をすぐに理解したのである。
教師のみが,理解しなかった。
それは,「世の中の法則の大半は,経験法則で成り立っている」ことを知らなかったからである。
多くの教師は,法則とは「ボイルシャルルの法則」の如きものとしてとらえていた。
近代経済学は,1つの仮説にすぎないことなど分からなかったし,ピーターの法則,マーフィーの法則などのことも知らなかった。
「経験法則」無視の教育界に,経験法則の有効性を示し,その実例を検証していくことは,法則化運動の大きな使命だった。
このことを通してのみ,教育学は,真に学になり得ると私たちは考えていたのである。
第三は,「真似をする教師は伸びない」という意見である。
授業は「真似をしないで,自分で考えた方法ですべきだ」という意見が声高に言われた。
その結果,日本中の教室は,レベルの低い我流の指導法に満ちあふれた。
この意見がどれだけひどいか,医師に例えてみれば分かる。医師が,最先端の医学研究を全くせず,それのみか「医学」を学ぶこともしないで,「我流」で治療に当たったら,世間は決して許さないだろう。
その医師は,訴えられ裁判になるだろう。
教師とて,同じことが起こる。保護者が目覚めればである。
『家庭教育ツーウェイ』誌の読者になった親は,教師の我流,デタラメを許さなくなるだろう。
最近,大都会で,続けて教師が訴えられた。「自分の子どもの算数の学力がひどいのは,教師の指導法が悪いからだ」という訴えだ。
その子は,前の学年までは市販テストで満点近くをとっていたのに,担任が変わったとたん算数ができなくなったのである。
教育委員会の調査によって,訴えられた教師は,「算数の問題解決学習」を熱心にやっている教師だということが分かった。
教科書はほとんど使わない,計算問題は宿題に回す,授業は乱れた状態でされていることが明らかになった。ノートも,まともに書けていなかった。
「親が裁判も辞さない」というところに,最近の流れを見る。
すべての教師に課せられたアカウンタビリティ。「説明責任」と「実行責任」と「結果責任」を,教師は負うことになったのである。これまでのような口先のごまかしは,全く通用しない社会になってきているのだ。
今,振り返ってみて「教育技術の法則化運動」は,正しい道を,正々堂々とした道を歩んでいたことが分かる。
事実を大切にし,1人1人の力を伸ばした。
教師の弱点,欠点をあいまいにせず,次に克服してきた。一貫して努力してきた。
経験法則を次々と見つけ出し,多くの教師の共有財産にしてきた。
効果のある教材,教具,ユースウェアを開発し,多くの子ども,教師に受け入れられてきた。
これらの,大きな成果をあげてきたのである。
経験法則が,時として科学によって裏打ちされることがある。
私は,脳科学者の池谷裕二氏の『記憶力を強くする』の中の,次の文を見て我が目を疑った。最新の脳科学の報告である。
『勉学の効果は幾何級数的なカーブを描いて上昇します。
これを図に示すと図30のようになります。たとえば,いま皆さんは成績が1のところにいるとします。そして,勉強の目標成績を1000に定めます。勉強してランクが上がると,成績は2になります。さらに猛勉強をして,もう一ランク上がると,成績は4になります。こうして,努力をして続けていくと,成績は8,16,32,64と少しずつ累積効果を示してきます。
しかし,こんなに努力したにもかかわらず,現在の成績はまだ64です。目標の1000にくらべれば,スタートの成績からほとんど上昇していないかのように思えます。ですから,皆さんの多くは,この時点で「なんでこんなに猛勉強をしているのに自分の成績は上がらないのだろうか」「私は本当に才能がないのかもしれない」と真剣に悩んでしまうことでしょう。そして,1000の成績をもった人を見れば「とてもかなわない」「ああいう人を天才というのだろう」「まさに別の人種だな」と思うはずです。たいていの人は,この時点で,自分の才能のなさに落胆して,勉強をあきらめてしまいます。そこで,成績1000を超えた人を便宜的に「天才」とよぶことにしましょう。
しかし,さらに忍耐づよく勉強を繰りかえすことのできる人ならば,その後,成績は128,256,512と上昇してきます。じつは,ここまで努力して,ようやく勉強の効果が目に見えて確認できるようになります。これが,勉強と成績の関係の本質です。そして,もう一息の努力をすれば,ついに成績が1024となり,目標に到達できるのです。勉強を続けていると,突然目の前に大海がひろがるように急に視界が開かれて,ものごとがよく理解できるようになったと感じる瞬間があります。ある意味「悟り」にも似た体験ですが,こうした現象はまさに勉学の累積効果によるものなのです。
ここまで到達できれば,成績を2048に伸ばすことも,あと少しの努力で可能です。これが,勉強の相乗効果の実体なのです,そして,2048に到達した人は,さんざん努力してようやく64にまでたどり着いた人から見れば,まさに大天才のように見えるのです。』
2001年に発行された,脳科学による池谷氏の解説である。
私は,経験則をもとに30年も昔に『教師修業十年』に次のように書いていた。
『努力は一つ一つ積み重ねるしかない。しかし,成長は,一歩一歩目に見えるように訪れては来ない。毎日毎日努力してなお,成長しない日が続く。水泳でもそうだ。十五メートルぐらい泳げて,二十五メートルに達しない日が続く。毎日泳いでも,やっぱり昨日と同じなのだ。そんな時,ついあきらめがちになる。
でも目に見える成長はまだ訪れないけれど,内では力が着実に蓄積されているのだ。何事にも初歩の域をぬけるには,百回の積み重ねが必要であり,一応の線に来るには千回の積み重ねが必要なのだ。十五メートル泳ぐことを百回すれば,必ず二十五メートル泳げるようになる。将棋でもまず百局指してみることだ。和裁でも百枚縫えという教えがある。なわとびの二重まわしが連続百回できると,三重まわしができるようになる。勉強も百日,およそ三カ月だ。努力はAのように一つ一つ積み重ねなければならない。しかし,成長はBのように加速的に訪れるのだ。
努力して成長が目に見えない時が,一番つらいが,誰でも通る道なのだ。』
本物の経験法則は,いつか,このように「科学」によって証明されるのである。
池谷氏の本は,向山型算数の理論の宝庫だ。「教科書を定石通り指導する〈手続き記憶〉の重要さ」など,思い当たることが山ほどある。
脳科学の本では,池谷氏の本が第一のおすすめだ。向山型算数と,脳科学から検証してほしいと思う。
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- 明治図書