- 特集 特別支援の算数指導対策―全情報
- 専門家の視点 特別支援の算数指導・ここが成否のカギだ
- 軽度発達障害がある子どもに分かる算数授業は、全ての子どもに優しい
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- ADHD症状を抑え、脳を育て直す算数授業のスキルがある
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- 特別支援の算数指導の視点1・授業のつかみ
- 千変万化 原則を知り、原則を変化させる
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- 特別支援の算数指導の視点2・言葉を削る
- 言葉を短く句切ることを意識しながら、余計なことを言わず、テンポよく授業
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- 特別支援の算数指導の視点3・目線,視点移動
- 子どもの立場で考えればよく分かる
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- 特別支援の算数指導の視点4・レディネス
- 「レディネス」を考えた授業の“2つのポイント”
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- 特別支援の算数指導の視点5・一目で分かる
- 一目で分かる工夫は、作業を伴わせないと意味がない
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- ミニ特集 “そそっかしいケアレスミス”防止指導
- 視覚で印象づけ、唱えながらリズムよく確認
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- 文章題は、5点セットで乗り切る
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- ミスをなくすには唱えさせて書かせる
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- 3つの指導で「6年分数」を攻略せよ!
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- 声に出して覚える
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- 赤鉛筆での確認がミスを防ぐ
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- 向山弟子一門から真の向山型を学ぶ
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- 若葉印教師のための向山型算数基礎基本イラスト事典
- 一時に一事の指示
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- 向山型算数キーワード
- 読み落とし・読み飛ばし
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- 巻頭論文 算数授業へのこだわり
- 授業で「帰納する力」をめざす問題解決学習が、演繹で学んだ子どもに助けられ、演繹の指導方法に固執する逆説
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- 学年別10月教材こう授業する
- 1年・3口の計算
- 例題指導
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- 「練習問題・スキル」と教材教具
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- 2年・かけ算(導入から5の段まで)
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- ~例題指導~
- 2年・かけ算
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- ~「練習問題・スキル」と教材教具~
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- 「練習問題・スキル」と教材教具
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- 「練習問題・スキル」と教材教具
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- 中学難教材こう授業する
- 1年/1次方程式の利用「過不足の問題」
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- 中学校からの発信!「向山型数学」実践講座 (第79回)
- 導入方法を一定期間同じにすると授業が安定する
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- 向山型算数に挑戦/論文審査 (第83回)
- 子どもが身につけるべき学習技能を大切に育てる
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- 向山型算数実力急増講座 (第85回)
- グレーゾーンの子が3人いる模擬授業に挑戦する(後)
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- 向山型算数WEBサロン (第79回)
- 考え方の土台をまず与える 与えた後に考え方を用いて考えさせる
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- “若葉印”教師が向山型算数でダッシュするとき (第19回)
- 子どもの「算数楽しい」の声が聞きたい!
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- “問題解決学習”隣の教室の実態ルポ
- ドリルの答えも子どもに渡さない
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- 鉛筆もノートも教科書もない運動場での授業で算数ができるようになるのか
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- 〈教室の障害児と向山型算数〉特に気になる『あの子』への向山型アプローチ
- 指一本(でかくす)の指導で、「あ、分かった!」
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- もう一つの向山型算数 難問良問1問選択システム (第85回)
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- ビギナー専科=向山型算数ココが授業の勘所
- 1年/『百玉そろばん』でわしづかみにした心を離さない『お隣さんチェック』
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- 2年/独学は我流を招くサークルに足を運び、正しい型を学ぼう
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- 3年/できない子をできるようにする手だて
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- 4年/「仮商が立てられない子」=「わり算ができない子」ではない
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- 5年/我流は×!子どもにやさしい赤鉛筆指導
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- 6年/補助計算はできない子を救う
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巻頭論文
算数授業へのこだわり
授業で「帰納する力」をめざす問題解決学習が,演繹で学んだ子どもに助けられ,演繹の指導方法に固執する逆説
向山 洋一
学問研究をしていくには,2つの方法がある。
1つは「演繹法」であり,1つは「帰納法」である。
正しい理論や法則があり,その法則,理論によって現実をあてはめていくのが,演繹法である。
帰納法は,対象となる問題に関する現象,事実をいっぱい集めて,共通することを考え出して,法則化していくことである。
どちらも大切なことである。
入門期には,演繹によって学び,長じて高度になると,演繹法によって考えるようになる。
演繹法によってもたらされた共通点が「法則」となっていく。
ただし,この「法則」は,仮説である。いかなるときでも通用する法則など,ほとんどないのである。
その意味で,「法則」とはつまり「経験法則」すなわち「経験則」である。医学の法則は経験則であるし,経済学の法則も経験則である。歴史の法則も経験則である。
もちろん,教育の法則も経験則である。
私が20年前,「教育技術の法則化」を主張したとき,多くの教育学者,実践家は「教育に法則はない」と批難した。このことが,教育学の水準の低さを物語っていた。
「教育技術の法則化」(スキルシェア)に対して,自然科学者は,当然のこととして理解した。
この世の,ほとんどの法則は「経験法則」だからであり,それは医学にも,教育学にもあてはまるからである。
さて,算数の問題解決学習という「学習方法」を,この2つの方法から考えてみる。
算数の問題解決学習では「1つの問題」を画用紙などに書き,黒板に貼り出す。子どもたちは,20分近くも,その1問について考えることを要求される。
解き方を発見することが求められる。
ところが,勉強のできる子は,1,2分で解いてしまう。塾で習っている子,通信教育で勉強している子には簡単な問題だ。
一方で,勉強のできない子は,20分たっても解けない。ヒントカードなどという実にくだらないものを与えるのだが,事態は同じだ。
できないので,机に突っ伏してしまう子もいる。多くの教師が,見たことがあるだろう。
そして,気のきいた子が,3,4人,解き方について発表する。塾などで学んでいる子がいつも発表することになる。そして,教師がそれを長々とまとめて,授業時間を10分ぐらい延長して終わる。教科書の問題は手つかずだ。練習問題は,宿題にされる。
かのマサチューセッツ医科大学のバークレー博士の「授業の残りを宿題に出しては,絶対にいけない」「それは,教師が工夫して,授業中にやるべきことだ」という警告を無視した状態が慢性化している。
世界のトップの小児神経科のドクターが「それをしてはならない」と言っているのを日本の算数の問題解決学習ではしているのだ。
やってはいけない理由。
その1は,軽度発達障害の子(クラスの1割)にとって,「毎日親との戦争状態が生まれる」からである。算数の問題解決学習は,家庭の平和をこわしているのだ。
その2は,アメリカでの研究の結果によれば,「宿題で学力はつかない」からである。
つまり,算数の問題解決学習の教師は,教科書を使わないことによって,大量の落ちこぼれを作っているのである。何百,何千,何万という教師が,このことを実感していることだ。ついていけるのは,塾や通信教育で習っている子なのである。
さて,算数の問題解決学習は,「帰納法」による学習をねらっている。
帰納法は,すぐれた方法である。
ただし,条件がある。基本を習っている子どもにとってはである。
教科書という基本を習っていない子には,わけのわからない方法だ。ついていけるのは,塾や通信教育で基本を習っている子なのである。彼らは,「帰納型」の学習の中で,塾・通教で習ったという「演繹型」の学習をしているのだ。
大きなパラドックスである。
そして,もう1つの矛盾。
算数の問題解決学習の教師は,「帰納法」を使いこなせる「考える子」を育てようとしている。様々な現象から,様々な事実から法則を見つけ出す力を育てようとしている。
しかし,その教師自身は,「帰納法」を身につけていない。彼らは,「算数の問題解決学習」という枠にとらわれて,その1つのやり方を「演繹」しているだけなのだ。
「演繹」しかできない教師によって「帰納」が教えられているという矛盾である。
彼らは「帰納」ができない。
帰納とは,様々な現象,事実から法則性を見つけることだ。それによって,より高い学力をつけることだ。
教室には,様々な子どもの事実がある。
教科書を開けない子。
教科書の中から,指定する場所を探せない子。
教科書をノートにうつせない子。
どのクラスにもいる。これは共通する現象だ。
ところが,算数の問題解決学習の実践記録の中には,日本中のどの教室にもあるこうした子どもの事実,現象が示されていない。
授業を見ていると,多くの場合,そうした子どもの存在にも気づいていない。
つまり,子どもの事実を見ていない。いや子どもの事実を見る能力がない。さらには,子どもの事実を見る意志もない。
あるのは,「算数の問題解決学習法」という枠であり,それにあてはめようとする「演繹」努力だけなのだ。
「帰納法」の授業をめざしながら,教師には「帰納」する力はなく,授業が「演繹」になっている。
まるで,デタラメの授業なのだ。
だから,算数嫌いがいっぱい出る。
算数の問題解決学習をしたクラスを,次の学年でもって調査すると80~90%の子が算数嫌いになっている。
できない子も,いっぱいいる。
授業中,反乱する子も生まれてくる。
それは,算数の問題解決学習が,「子どもの事実」を見てないことから出発する。
その上に,論理矛盾が生じているのだから救いようがない。
「子どもの事実」「教師の腹の底までの手ごたえ」この2つだけが,「授業」への論理の基準なのである。
さて,TOSSの夏のセミナーは1200名の参加で超満員だった。100名をお断りした。昔からのメンバーで入れなかった人もいた。顔パスは通用しない。
前日には,国語セミナー,算数セミナーが別会場でもたれた。それぞれ400名余の参加者である。「子どもの事実」「教師の手ごたえ」のあるセミナーだった。
福島の鎌倉輝美先生のアンケートである。
■教科書の読み直しをさせるところで,授業行為の意味を改めて考えました。甲本先生が,「声がそろっていなかったら読んでいないかわからない」のだから「指でおさえる」などしてもう一度読ませるといったお話がありました。
どうしてそろっていないのか全く考えもせずにやり直しをさせていた自分をはずかしく思いました。きっと甲本先生は,誰がどうして読んでいないのかちゃんとわかっていて対応されているのだと思います。高段者のすごさを改めて感じています。また,「読まないととたんにダメになるんだ」という言い方が向山先生に似ていらっしゃってぞくっとしました。
大関先生の介入模擬授業がすごかったです。問題を読むときの心地よさは群を抜いていました。言葉の1つ1つもとても聞き取りやすかったです。また,筆記用具を用意しておられたところがすごいと思いました。貸し出し用だと思うのですが,隅々まで気を配っていらっしゃる心遣いが授業のあらゆるところにも表れていました。
八和田先生の授業は驚愕しました。図がとってもわかりやすかったです。しかも「~段」「~列」がいつの間にか式になっていたときはまさかと思いました(「どうしてわざわざこんなに丁寧に聞くのだろう」と不思議だったので)。
向山先生のお話を聞いて身が引き締まりました。“経済力で世界のトップや2位になるような子どもたちを育てられるか”と問われ,正直,自信がありませんでした。教師の重みを強く受け止め,もっともっと努力していかねばならないと強く思いました。
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