- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニングを位置づけた中学校社会科の授業づくり
- 1 アクティブ・ラーニングとは何か
- 2 中学校社会科におけるアクティブ・ラーニングの位置づけ
- 3 本書におけるアクティブ・ラーニングのとらえ
- 第2章 アクティブ・ラーニングを位置づけた中学校社会科の授業プラン
- 〈地理的分野〉
- 身近な地域のよさや課題を発見するツアープランを提案しよう!
- (地理/身近な地域の地域性と課題を考える)
- 統計から考えるアジアと日本とのよりよいつながり
- (地理/アジアと日本との関係を考える)
- 様々な立場から経済発展と環境保護の対立を考えよう!
- (地理/ブラジルの熱帯雨林開発の是非を考える)
- アフリカの自立のための援助として,どの解決策が望ましいか判断しよう
- (地理/アフリカの未来を考える)
- 世界の貧困と自分とのかかわりを考えよう
- (地理/南北問題・南南問題を考える)
- グローバル企業が変えたもの〜1セットの家具から見る社会のグローバル化〜
- (地理/日本社会のグローバル化を考える)
- 日本における脱石油社会の実現は可能か,考えよう!
- (地理/日本の資源・エネルギー問題を考える)
- エネルギー消費社会の在り方を考えよう
- (地理/原発問題を考える)
- 20年後の東広島市を予想しよう
- (地理/持続可能な社会を目指して)
- 〈歴史的分野〉
- 地域の魅力・課題を見つめ,将来を提案させる地域教材
- (歴史/地域の歴史から考える)
- トゥールミン図式を活用して言葉に結びつく意味や意図を説明しよう
- (歴史/武家政治の始まりを考える)
- キリスト教伝来とヨーロッパとの貿易開始の背景とは?〜資料を選びとり,組み合わせる力〜
- (歴史/ヨーロッパと日本の出会いを考える)
- なぜ江戸時代の三大改革は成功しなかったのだろうか?
- (歴史/江戸の三大改革から考える)
- 論争問題で社会的事象を多面的・多角的にとらえる!
- (歴史/開国か攘夷か(論争問題)を考える)
- 陸奥宗光に完全な条約改正を可能にする案を提案しよう
- (歴史/明治の条約改正交渉を考える)
- 明治憲法を通して立憲主義を考えよう
- (歴史/歴史の中の天皇機関説を考える)
- 当時の文化を史料として戦後の民主化を読み取ろう
- (歴史/戦後の改革を考える)
- 伊達政宗の城下町づくりから災害への向き合い方を考えよう!
- (歴史/よりよい未来に向けて災害の歴史から考える)
- 〈公民的分野〉
- 代理出産は認めるべき?〜合意づくりにチャレンジしよう〜
- (公民/現代社会の特質を考える)
- マイナス金利って何?〜ディベートと社説作成を通じて〜
- (公民/現代社会の課題を考える)
- 民主政治と政治参加〜課題発見・解決学習の導入として〜
- (公民/選挙制度について考える)
- 二院制の実際と本質からよりよい立法府の姿を考えよう
- (公民/二院制を考える)
- 地域が抱える問題を解決するための地域間連携を考えよう
- (公民/地方自治を考える(政策を提案しよう))
- ブラック企業に負けない,ブラック企業から身を守る力を育てる授業プラン
- (公民/ブラック企業を考える)
- 自由貿易協定参加への賛成・反対を討論しよう
- (公民/グローバル化社会の課題を考える)
- 消費者にとって安全・安心な社会を築くことは難しい?
- (公民/消費者主権を考える)
- ロールプレイを活用した協働的問題解決学習
- (公民/よりよい社会を目指した地域の再生を考える)
- 第3章 アクティブ・ラーニングを位置づけた中学校社会科の授業の評価
- 1 アクティブ・ラーニングの推進を受けて
- 2 アクティブ・ラーニングにおける評価のストラテジー
- 3 アクティブ・ラーニングにおける評価の実際
- 4 学習や評価の組織に向けて
はじめに
「アクティブ・ラーニング」は,現在改訂作業が進行中の新しい教育課程の特色の一つとして注目されているものです。その概念としては,平成27年8月26日に教育課程企画特別部会がまとめた「論点整理」では,「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と定義されています。では,具体的に中学校社会科の場合,どのような学習が求められるのでしょうか。過去の実践例から考えてみましょう。
戦後初期の中学校社会科の代表的な教育実践に,山形県山元村において無着成恭教諭によって行われた「山びこ学校」があります。「アクティブ・ラーニング」の原像は,この実践の中に見て取ることができるのではないでしょうか。「山びこ学校」から生まれた江口江一君の「母の死とその後」の作文では,「あんなに働いても,なぜ,暮らしがらくにならなかったのだろう」「どうしたら生活の苦しさから抜け出せるのか」という問題を生徒自身が見つけ,その解決策を仲間と深く考えていく姿が生活綴方に表現されています。このような貧困からの脱出という問題は,当時の子どもたちにとって切実な問題であっただけでなく,日本社会の課題でもありました。当時の生徒会長だった佐藤藤三郎君は,この実践を振り返りながら,無着先生の教えは,「なんでも何故? と考えろ」「いつでも,もっといい方法はないか探せ」ということだったと答辞で述べています(無着成恭編『山びこ学校』青銅社,1951)。このような実践は,アクティブ・ラーニング型社会科の典型例と考えることができるのではないでしょうか。
もう一つ紹介したいのは,最近の東日本大震災地域にある宮城県女川町立第一中学校(現・女川中学校)での教育実践です。入学直前の2011年3月11日,東日本大震災の津波被害に遭遇した生徒たちは,入学直後の最初の地理授業において,当時の阿部一彦教諭から「愛するふるさとが,大震災で大変なことになった。『社会科として何ができるか』小学校で学んだことを生かして,考えてみよう」と問題提起されました。生徒たちは,クラスの仲間と共に考えていきます。そして,考えに考え抜いた結果として,「互いの絆を深める」,「高台へ避難できる町づくり」,大震災の出来事を「記録に残す」の3つの提案にまとめます。そして,記録に残すために,「いのちの石碑」づくりプロジェクトを展開します(「朝日新聞デジタル:女川中学生の訴え」より)。また,高校生になった今も,「いのちの教科書」づくりの活動を続けています(「朝日新聞デジタル:女川中学生の訴え」より)。未曽有の大震災を乗り越えて故郷を創生するためにはどうしたらよいかを考え合う取り組みは,現代のアクティブ・ラーニング型社会科学習と考えることができるのではないでしょうか。
これら2つの実践に共通しているものは,次の3点ではないでしょうか。第1は,社会の現実や課題に対して,「なぜ,どうして」「どうしたらよいか,どの解決策がより望ましいか」という問いを生徒自身が発見していることです。第2は,問題の解決策をクラスの仲間同士で深く協働的に考え合うものとなっていることです。それは,正解のない問題の解決策を求めて,生徒たちが多様な意見や考えを出し合い,議論する学習でもあります。そして第3は,解決策を考えるだけにとどまらず,よりよい社会の実現に向けた社会参画の実践や行動に結びつけているということです。
では,どうしたらこのようなアクティブな社会科学習を構想し,実践することができるのでしょうか。主権者教育が求められている今日,この問題を考えていくことは,これからの社会科授業開発の重要な実践的課題の一つであるととらえることができます。
このような問題意識から,本書の第1章では,「アクティブ・ラーニング」を取り入れた中学校社会科の授業デザインの基本的な考え方を提案しました。
続く第2章では,授業デザインの基本的な考え方を大きな枠組みとして,地理的分野・歴史的分野・公民的分野の中から,「アクティブ・ラーニング」型の学習例としてそれぞれ9つの小単元を取り上げて,新進気鋭の若手教員やその候補生の皆さんを中心に人選を行い,授業プランを作成してもらいました。特に本書では,社会科独自のねらいである「社会認識と市民的資質」を統一的に育成する学習方法論の視点から,A「社会認識の形成をより重視した学習方法(「なぜ,どうして」の思考型)」として「体験・追体験型」「調査・研究型」,B「市民的資質の育成をより重視した学習方法(「どうしたらよいか,どの解決策がより望ましいか」の判断型)」として「討論・ディベート型」「企画・提案型」「問題解決・プロジェクト型」,C「AとBの両方の学習成果の発信を重視した学習方法」として「セミナー・ワークショップ型」「総合的表現活動型」の全体で7種類の学習活動を取り出し,各小単元の中に適切なものを取り入れてもらいました。したがって,作成されたすべての小単元が実践をふまえたものばかりではありませんし,机上のプランにとどまっているものもあると思いますが,大胆な発想による授業づくりへのチャレンジ精神を感じてもらえれば幸いです。
そして第3章では,評価を専門に研究している若手研究者から,アクティブ・ラーニングを位置づけた社会科授業の多様な評価方法を紹介してもらいました。指導と評価は本来一体のものですので,評価が変わらなければ「アクティブ・ラーニング」型の学習も定着しないと思われます。本稿が中学校社会科の指導と評価の改善につながることを期待しております。
以上のような特色をもつ本書が,全国各地の社会科教師の皆様に活用され,中学校社会科の究極目標となっている「平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」独創的な授業プラン開発のための参考文献の一つとなりますことを大いに期待しております。また,そのことを通して,多くの中学生が主権者としてたくましく成長してくれることを願っております。
最後になりましたが,本書出版の機会を与えていただいた明治図書ならびに,きめ細かい助言をいただきました及川誠氏に心よりのお礼を申し上げます。
2016年6月 /小原 友行
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