- はじめに これまでのPCと何が違うか?
- 1 タブレットPCやスマホで何が変わるか?
- 1 子どもの新しい学習ツールとしてのタブレットPC
- (1)場所を選ばない学習ツール
- (2)All in Oneのエージェント
- 2 子どもの学習基礎能力を補うタブレットPC
- (1)読みを補助する機能
- (2)書きを補助する機能
- (3)記憶やメモを補助する機能
- (4)計算を補助する機能
- (5)注意を補助する機能
- (6)思考整理を補助する機能
- (7)見通しを補助する機能
- 3 子どものコミュニケーションを支援するタブレットPC
- (1)コミュニケーションに音声を使うことが苦手な子どものために
- (2)言葉で説明が上手くできない子どものために
- 4 子どもに気づきを与えるタブレットPC
- (1)勉強のポイントがつかめない子どものために
- (2)調べ学習(辞書・インターネット)が苦手な子どものために
- 5 子どもの生活を支援するタブレットPC
- (1)スケジュールの把握が難しい子どものために
- (2)道に迷いやすい子どものために
- 2 アクセシビリティ 障害のある子どもがタブレットPCを使うには
- 1 肢体不自由のある子どもに便利なアクセシビリティ機能
- (1)本体のボタンを押しにくい
- (2)タッチスクリーンを操作しにくい
- (3)キーボードを押せない
- (4)文字入力に時間がかかる
- (5)タッチスクリーンが反応しない
- (6)手に持って操作しにくい
- (7)操作中に画面を覗かれるのが嫌だ
- 2 視覚障害のある子どもに便利なアクセシビリティ機能
- (1)ボタンや画面が見えにくい
- (2)ボタンや画面がまったく見えない
- 3 聴覚障害のある子どもに便利なアクセシビリティ機能
- (1)相手の声が聞こえにくい
- (2)着信音が聞こえない
- 4 言語障害のある子どもに便利なアクセシビリティ機能
- (1)発話が不明瞭なので音声通話をあきらめている
- (2)発話が困難なので音声通話をあきらめている
- 5 知的障害や発達障害のある子どもに便利なアクセシビリティ機能
- (1)表示された文字の意味がわからない
- (2)複雑な操作が理解できない
- 3 電子書籍とタブレットPC・スマホ
- 1 障害のある子どもと読書
- (1)視覚障害と読書
- (2)肢体不自由と読書
- (3)認知障害と読書
- 2 障害のある子どもと電子書籍
- (1)印刷物障害のある人のための特別な読書の方法
- (2)文字を電子情報に変える
- (3)電子書籍の広がり
- (4)電子書籍のメリット
- (5)電子書籍の作り方
- (6)電子化の壁
- 4 タブレットPC導入のポイント
- 1 上手な機能の使い方を教える
- (1)電源ON/OFFなどの基本操作
- (2)キーボード操作
- (3)アプリの使い方
- 2 タブレットPCを情報のゴミ箱にしない
- 3 タブレットPCを使うルールを教えておく
- (1)ルールの確認
- (2)機能制限
- 4 導入のポイント
- (1)無理やり導入しない
- (2)なぜタブレットPCを導入するのかを考える
- (3)タブレットPCの機動性を活かした教育の実現
- (4)ご褒美に使わない ゲームアプリと学習アプリを分ける
- (5)評価の道具としての活用
- 【コラム】盲ろうの人の電話コミュニケーション
- 5 なぜタブレットPC利用をためらうのか?
- 〜タブレットPCへの不安をとく〜
- 1 タブレットPCが授業を変えるのでは?
- 2 入試や就職のときにすべて自分でできないと困るのか?合理的配慮の時代
- 3 導入の合意が得られない
- 6 子どもが安全安心にタブレットPCやスマホを活用できる環境
- 1 授業中の不適切利用への対応
- 2 金銭的トラブルへの対応
- (1)通信・アプリ料金への対応
- (2)詐欺・フィッシングへの対応
- 3 依存への対応
- 4 有害情報アクセスへの対応
- 5 対人関係トラブルへの対応
- 6 個人情報の管理についての対応
- 7 これからの子どもの能力 新しい能力を認める教育へ
- 1 求められる能力の変化
- 2 タブレットPC導入に必要な新しい教育の考え方
- 3 未来の教室
- (1)子どもは変えるが教え方は変わらない
- (2)閉じられた教科書でこそ授業が成立する
- (3)ハイブリッドな教育
- おわりに ICT活用の広がりの可能性
はじめに これまでのPCと何が違うか?
タブレットPCに対する関心が高まるとともに,学校教育の中でも利用の可能性を探る動きが活発です。タブレットPCはこれまでのPCからキーボードを取り除き,コンパクトにしたものと考えればこれまでと何も変わらない気がします。これまでいくつもの学校に大量のPCが導入されましたが,大規模になればなるほどシステムが複雑で先生方が授業中に使いこなすのに苦労し,上手くいかなかったように思います。また,PCが何でもできると言われながら,学習教材の提示装置なのか,子どもの反応を記録する装置なのか,子どもが自分で調べものをするためのツールなのか,いま一つわからないまま導入され,位置づけも不明確だった気がします。子どもが効果的に学ぶ環境を提供できるならと思いながらも,その複雑なシステムに不安を感じてきた先生にとってタブレットPCはどのように映るのでしょうか。
これまでのPCと同じように導入すれば,タブレットPCも同じように最初の盛り上がりだけで終わってしまうでしょう。これまでPCなしに授業を行ってきた先生にとって,PCがなくても授業できるわけですから。教育工学の専門家の中にはタブレットPCを電子黒板とつないで教師と生徒がネットワークで情報を共有できる授業をと考えている人もいます。しかし,そのネットワークが先生に見えないまま機能するというところまで進めば別ですが,そこに先生の負担が増えるならば上手くいかないでしょう。
むしろ,タブレットPCは生徒一人一人が自分の学習の遅れを補う新しいツールになる可能性を秘めています。これまで生徒が学習のツールとしてPCを使いこなすことは必ずしも容易ではありませんでした。そのために情報教育の時間も設定されてきました。また,電源,サイズ,いろいろな点で教室の小さな机で使うには制限がありました。それに対し,タブレットPCは小型で電源の心配もなく,何より操作インタフェースが簡単です。学習につまずきのある子どもにとっては魔法のツールになる可能性があります。それだけでなく生徒一人一人の能力の一部に組み入れられ,新しい能力を生み出すと考えられます。タブレットPCの導入にあたっては発想の転換が必要です。タブレットPCの利用は生徒に任せ,先生はかかわらないようにすれば先生の負担も増えません。もちろん子どもが勝手なことをしないように,制限をあらかじめかけておくことは必要ですが。
特別支援教育の対象となる障害のある子どもたちを見ると明らかなように,情報の入手や意思の表出にタブレットPCはすでに活躍しています。例えば,目の見えない子どもにとって拡大や音声読み上げ機能が彼らの情報入手を助けています。鉛筆を握れない子どもにとってワープロ機能の活用は不可欠です。
しかし,本書はそういった子どもたちだけを対象とするものでもありません。学習の遅れのある子どもたちも何らかの困難さを抱えています。それに対して努力して苦手さを克服するという姿勢も重要ですが,子どもたちが勉強に費やせる時間には限りがあります。苦手さを克服する努力をする間にも学校の授業は先に進んでしまいます。遅れが慢性化していくことを何とか避けなければなりません。こういった子どもたちにとっても,タブレットPCは大きな役割を果たすはずです。特別支援教育の先生だけでなく,小・中学校の先生にも本書を読んでいたただきたいと考えています。
子どもの能力に対する新しい見方が生まれないとタブレットPCの活用は進まないでしょう。子どもたちの新しい能力を活かす社会へつなげる教育についても論じていきます。
2013年1月 編著者 /中邑 賢龍
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- 明治図書
- 時代の変化を捉えるのに役立ちました。2022/12/3040代・中学校教員
- 定期的に、実践例集を出してほしい。2021/3/2640代・中学校管理職
- タブレットPC、スマホが特別に支援が必要な生徒の便利なツールになり得ることが、具体的な事例とともに、よく分かりました。2016/3/2650代 中学校教諭
- 合理的配慮にタブレットを具体的にどう生かすか、その基本的な考え方と方法を理解する上で、大変参考になった。2015/4/2450代・中学校教員