- はじめに
- 第1章 割合とは何か
- 第1節 割合の意味とよさ
- 第2節 割合の問題の分類
- コラム 比と割合の関係は?
- 第2章 小・中・高・大学生の割合の理解の実態
- 第1節 実態調査の概要
- 第2節 小学生独自問題の結果と傾向
- 第3節 小〜大学生共通問題の結果と傾向
- 第4節 中〜大学生共通問題の結果と傾向
- コラム フィンランドの中学生の割合の理解の実態は?
- 第3章 フィンランドの割合指導
- 第1節 カリキュラム
- 第2節 小学校での割合指導
- 第3節 中学校での割合指導
- 第4節 高等学校での割合指導
- コラム 割合の問題解決に用いる図―海外では?
- 第4章 小・中・高を一貫する割合の体系的指導
- 第1節 割合の体系的指導の概要
- 第2節 割合の体系的指導の具体
- コラム 割合の理解と関連の深い単元の内容は?
- 第5章 小学校での実践
- 第1節 ゴムの伸びやすさ(小4・簡単な場合についての割合)
- 第2節 くじの当たりやすさ(小5・割合)
- 第3節 シュート率(%)の意味(小5・割合)
- 第4節 くじの本数(小6・比)
- コラム 10%割引と10%増量はどちらがお得?
- 第6章 中学校での実践
- 第1節 食材の廃棄率(中1・1元1次方程式)
- 第2節 満月の見かけの大きさ(中1・課題学習)
- 第3節 割引価格を比べる(中2・文字を用いた式)
- 第4節 選挙の得票率(中2・連立2元1次方程式)
- 第5節 お土産の売上金額(中3・簡単な多項式)
- コラム 10%値上がりしたら10%節約すればよい?
- 第7章 高等学校での実践
- 第1節 家庭学習時間の増減(数学T・データの分析)
- 第2節 新幹線の乗車率(数学T・課題学習)
- 第3節 平均合格率(数学T・課題学習)
- 第4節 陽性判定者の確率(数学A・条件付確率)
- 引用文献・参考文献
はじめに
2015(平成27)年全国学力・学習状況調査の算数の問題B2に,割合に関する次の問題が出題されました。
せんざいを買います。家で使っているせんざいが,20%増量して売られていました。増量後のせんざいの量は480mLです。増量前のせんざいの量は何mLですか。(国立教育政策研究所,2015)
これは,小5で扱う「第3用法」と呼ばれる基本的な問題であり,正しい解答は480÷1.2=400mLです。しかし,正答率はわずか13.4%でした。割合の問題を苦手とする小学生がいかに多いかがわかるでしょう。
一方,割合は,小学生だけではなく,中学生や高校生,大人にとっても決して易しいわけではありません。例えば,次のような選挙の投票率に関する記述において,空欄にあてはまる適切な表現を考えてみましょう。
ある町の町長選挙の投票率は,前回が40%,今回が60%だったので,前回に比べて,[ ]増加しました。
「20%」と答えたくなるかもしれませんが,実はこれは誤りです。適切な表現は,「ア 20%ポイント」,「イ 50%」のいずれかになります。
アの「ポイント」という表現は,投票率のニュース等でよく見かけるでしょう。%をつけずに単に「ポイント」と表現することも多いですが,本来は,スポーツの得点等で使う「ポイント」と区別するために,「%ポイント(パーセントポイント)」という表現を使う方が望ましいかもしれません。
一方,この表現を「ポイント」を使わず「%」のみで表現すると,イが正解です。それは,次の通り前回の投票率40%を基準量と考えるからです。
(60−40)÷40=0.5=50%
実は,上記のアとイを区別して扱っているような問題を,フィンランドの教科書の中に見つけました。一方,日本の算数・数学の教科書では,このような問題は一切扱われていません。そうだとすれば,果たしてどの程度の小・中・高校生や大人が「20%増加した」とする誤りを指摘し適切に表現できるのか,甚だ不安です。
日本のカリキュラムでは,単元を設けて「割合」を指導するのは,小4,小5のみです。しかし,冒頭の「洗剤の問題」等が解決できるような割合の「基本的な理解」(第4章で詳説)を確実なものとし,さらに「%ポイント」等の考えが活用できるような割合の「深い理解」(第4章で詳説)を目指すには,小4,小5のみでなく,中学校や高等学校も含めて,意図的かつ体系的に,割合に関する指導を行っていくことが重要であると考えます。
筆者らは,その具体化に向け,7年間にわたり研究を積み重ねてきました。本書は,その研究成果をまとめ,理論編と実践編に整理したものです。
理論編の第1章では,「割合」とは何か等について考察します。
第2章では,小・中・高校生,及び大学生の割合の理解の実態を把握するために,調査問題を作成・実施・分析し,その結果について述べます。
第3章では,日本と異なり,中学校や高等学校でも単元を設けて割合を扱っているフィンランドの割合指導について,その具体を述べます。
第4章では,第1〜3章の結果を踏まえて,小・中・高を一貫した割合の体系的指導の構想を提案します。
続いて実践編では,小・中・高の各学校段階における割合の理解に関わる実践例を,実際に行った授業を踏まえて,第5〜7章で述べます。
本書が,児童・生徒(さらには成人も含めて)の割合の理解の改善に少しでもつながれば,望外の喜びです。
2025年3月 /熊倉 啓之
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- 明治図書