- はじめに
- 1 スーパーイラスト漢字を用いた漢字の読み(書き)指導
- 1.方法1
- 2.方法2
- 3.方法3
- 2 スーパーイラスト漢字を用いた漢字の読み(書き)指導の基本条件と留意点
- 1.スーパーイラスト漢字を用いた漢字の読み(書き)指導のための基本条件
- 2.留意すべきこと
- 3 スーパーイラスト漢字のトレーシング練習で効果のみられた書字困難をもつ小学生の事例
- 1.はじめに
- 2.方法
- 3.結果
- 4.考察
- 4 学習障害と発達性ディスレクシア
- 1.はじめに
- 2.学習障害、発達性ディスレクシアとは
- 3.文字学習を支える認知能力と様々な取り組み
- 4.つまずきとそれに対する様々な取り組み
- スーパーイラスト漢字集(小学6年編)
- 異 遺 域 宇 映 延
- 沿 我 灰 拡 革 閣
- 割 株 干 巻 看 簡
- 危 机 揮 貴 疑 吸
- 供 胸 郷 勤 筋 系
- 敬 警 劇 激 穴 絹
- 権 憲 源 厳 己 呼
- 誤 后 孝 皇 紅 降
- 鋼 刻 穀 骨 困 砂
- 座 済 裁 策 冊 蚕
- 至 私 姿 視 詞 誌
- 磁 射 捨 尺 若 樹
- 収 宗 就 衆 従 縦
- 縮 熟 純 処 署 諸
- 除 将 傷 障 城 蒸
- 針 仁 垂 推 寸 盛
- 聖 誠 宣 専 泉 洗
- 染 善 奏 窓 創 装
- 層 操 蔵 臓 存 尊
- 宅 担 探 誕 段 暖
- 値 宙 忠 著 庁 頂
- 潮 賃 痛 展 討 党
- 糖 届 難 乳 認 納
- 脳 派 拝 背 肺 俳
- 班 晩 否 批 秘 腹
- 奮 並 陛 閉 片 補
- 暮 宝 訪 亡 忘 棒
- 枚 幕 密 盟 模 訳
- 郵 優 幼 欲 翌 乱
- 卵 覧 裏 律 臨 朗
- 論
はじめに
本書は、漢字の読み書きに困難をもつ子どものためのスーパーイラスト漢字シリーズの6年編である。
ある日、小学生のSさんが両親とともに私の研究室に来られたことが、スーパーイラスト漢字誕生のきっかけとなった。Sさんは3年生になったら漢字が読めなくなったと言った。確かに、3年生の配当漢字ぐらいになると構成も複雑になり、意味の抽象性も高くなるため、読むのも困難になることはわかる。学校で定期的に行われる漢字の読み書きテストの前日に、指定された範囲の漢字を何度もなぞり書きして覚え、何とか合格点は取れるのだが、テストが終わるとすっかり忘れてしまい読めなくなると、泣きそうな顔で言った。
Sさんに3年生の漢字をいくつか選んで読ませてみた。そして、読めなかった漢字をどのように練習しようかと考えた。Sさんは絵を描くことは好きだと言っていた。そう思いながら目の前にある4つの漢字を見ていたら、「福」は左に立っている神様が右にあるお金のつぼを握っているように見えた。「植」は右にいる目の大きな人が木を植えているように見えた。「配」は左の荷物を右の人が抱えて走っているように見えた。そして、「集」は数羽の鳥が木の上に集っているように見えた。
私は見えたとおりに漢字に即興でイラストを重ね描きし、その上に薄紙を1枚かぶせて、さらにその上から「鉛筆で漢字とイラストをなぞり書きしてみませんか」とSさんを誘ってみた。文字のなぞり書きには失望感をもっているだろうと私は想像していたが、絵の好きなSさんは抵抗なくそれを承諾し、各漢字について、1回目は黄色のマーカーで先に漢字を、次にイラストをなぞり書きしてくれた。2回目は赤色の鉛筆で同じように、3回目は青色の鉛筆で同じようにしてくれた。練習はそれだけであった。
1か月後、Sさんは両親と一緒に再来した。私は先にあげた4つの漢字の活字のみをSさんに提示し、読み方を尋ねてみた。1か月間これらの漢字を特に練習することもなく過ごしたということであったが、驚いたことに、これら4つの漢字を正しく読んだのであった。私たち大人はもちろん賞賛したが、Sさんは「絵があると覚えやすい」「忘れてなかったからホッとした」と言った。
私はこのとき、Sさんが漢字の読み方を覚える以上に、「他のやり方もあるんだ」と気づいて多少でも安心することの方が重要なのではないか、と直感的に思った。読字・書字の困難な子どもは、大人になってもその困難がなくなることはないであろう。しかし、別なやり方でそれを補ったり、読字・書字をあまり必要としない職業を選んだりという、他の選択肢の存在を常に信じて絶望しない態度を獲得できたら、その子どもは強くなれる。私はそのように感じたのだった。
そういうできごとがきっかけとなって作られたこのスーパーイラスト漢字は、漢字の読み書き習得の補助手段となることを意図してはいるが、漢字の歴史的な成り立ちに基づく伝統的な漢字学習のコンセプトからはかなり逸脱している。「スーパー」ということばを入れたのは、漢字にイラストがスーパーインポーズされたという意味ではあるが、小学校配当の1006字すべてについてそうするには、偏や旁の組み合わせなどの正統と考えられる漢字の成り立ち方にとらわれず、表層的(スーパーフィシャル)でも仕方なく自由に絵画化する必要に迫られることも多かったという意味でもある。
あるとき、友人である漫画家の斎藤丈寛氏に、「目の前にある漢字を見ていたら絵に見えてくる」と話したら、「自分もそういうものが見える」と言われた。そこで試作のスーパーイラスト漢字をいくつか渡したら、それを参考にして新しいスーパーイラスト漢字を次々と描いて見せてくれた。それらの試作版スーパーイラスト漢字は、数名の読字・書字障害をもつ子どもたちの訓練にも活用し、成果を上げてきた。
発達障害のある子どもの支援を行っている知り合いの大学教授にその試作版を差し上げていたところ、さっそく活用してくださり、嬉しい報告をいただいた。対象は中学1年生の生徒で、小学5年生までのスーパーイラスト漢字を用いて指導したという。その結果、毎回30点程度だった漢字テストの成績が平均50点程度に上がり、さらにその効果が他教科にも波及して、5教科合計で100点程度だった実力テストの成績が150点程度に上がったという。何よりも、本人にやる気が出てきたことが一番の成果だと言われた。何不自由なく勉強ができている人にはわからないかもしれないが、読み書きが不得意で苦しんでいる当事者にとってはこの差は極めて大きいのである。
本書には、小学3、4、5年編と同様に指導対象者の基本条件と留意点、指導方法、書字障害をもった子を対象に実施した実践事例を収録した。
本書を用いて子どもを指導する場合は、いかにも訓練的な場面ではなく、くれぐれも遊び心のある楽しく安心できる人的・物理的環境のもとで実施していただきたい。スーパーイラスト漢字そのものが遊び心いっぱいのジョークのようなものだからである。また、このスーパーイラスト漢字を用いて仮にたった1つの漢字の読み書きしか覚えられなかったとしても、1つでも覚えられたことを素晴らしいと、褒めてあげていただきたい。
なお、本書のもととなった研究は、平成21〜22年度 科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究 課題番号21653067 研究課題名「読字障害児のためのイラスト漢字を用いた漢字読み習得支援プログラムの開発」)の支援を受けた。本研究に国の補助金をいただけたのは、第1〜6学年のすべての配当漢字を、どんなに困難でもイラスト漢字にするという熱意が評価されたからであると考えており、そのすべてを掲載していることが本書の特徴の1つとなっている。
本書を作成するにあたっては、多くの方々、特に対象児ご本人やご家族の助言、支援、協力をいただいた。また、山形県立保健医療大学の元職員、竹俣真紀氏にはデータ整理等で大変お世話になった。記して心より感謝申し上げたい。
漢字の読み書きに困難をもつ子どもたちの一助となれば、幸いである。
/佐竹 真次
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- 明治図書
- 来年から中学生になるので中学生用も発行してほしい2023/4/2240代・父親