- はじめに
- T 「オニの心」が出た子どもへのアプローチ事例
- 1 A男(小2)の事例
- 2 B男(小4)の事例
- 3 C男(中2)の事例
- 4 「オニの心」と気になる子
- ちょっと詳しく 行動面で著しい困難を示す子ども
- ちょっと詳しく 勇気づけ
- ちょっと詳しく アイメッセージ
- U 「オニの心」に伝わる言葉『番付表』
- 〜事例をカウンセリング理論・技法によって整理する〜
- 1 伝わる言葉 東の横綱「いいところ探し」
- 2 伝わる言葉 西の横綱「対決のアイメッセージ」
- 3 伝わる言葉 東の大関「リフレーミング」
- 4 伝わる言葉 西の大関「例外探し」
- 5 伝わる言葉 関脇「?(はてな)」
- お薦め演習1 気になる子のいいところ探し
- お薦め演習2 マイナス感情の伝え方
- お薦め演習3 「短所」を「長所」にチェンジ!
- お薦め演習4 気になる「問題」の例外探し
- ちょっと詳しく 問題行動の目的(誤った目標)
- ちょっと詳しく ブリーフ・セラピー
- ちょっと詳しく 論理療法
- V 紙上再現 授業:「見つけよう! 自分のいいところ,友だちのいいところ」
- 〜ソーシャルスキルと自尊感情を育み,「オニの心」を鎮める・鎮め方を教える授業の提案〜
- 1 授業の展開
- 2 指導上の留意点
- 3 児童の感想
- 演習 1 後出しジャンケン
- 演習 2 命令ゲーム
- 演習 3 ゴジラとゴリラ
- W これも納得!「伝わる言葉」プラスアルファ
- 1 他人事ではなく自分自身を語れ
- 2 ひとつだけでは多すぎる
- 3 縛解一如
- 4 我流では学校経営は倒産する
- 5 言葉はスリムなほど伝わる
- 6 すべて自分がしてみせる
- 7 すべての子どもにボールを投げる
- 8 関係づくりの第一歩は相手への関心
- 9 登ってきた道を振り返ってみる
- 10 花はいつか開く
- X 保護者・教師のメンタルヘルス・プラン
- 〜「オニの心」に対峙するためにプラスのストロークを貯めておく〜
- 1 ストロークとは何か
- 2 ポケットにプラス・ストロークを貯めておく
- 3 保護者・教師のメンタルヘルス・プラン
- (1) 人に対して動く
- (2) 本に対して動く
- (3) 学びの場に対して動く
- (4) 自然に対して動く
- (5) 自分に対して動く
- ちょっと詳しく 交流分析
- ちょっと詳しく ストロークのブーメラン効果
- おわりに
はじめに
私の研究室の壁には,次の言葉が貼ってある。
『学生,子ども,保護者,教師が元気になる研究かどうか』
平成19年4月,23年間勤めた公立学校教員としての職を辞し,新たに大学教員としてスタートを切ったとき,いつまでも大切にしようと決めた「初心」である。
この初心は,カウンセリングの恩師,國分康孝先生(東京成徳大学名誉教授)が講演の中で話された次のエピソードをもとにしている。
あるワークショップに参加した1人の若い研究者が論文を書けずに悩んでいた。その際,他の参加者から「あなたは自分のために研究をしているから論文が書けないのではないか。あなたの研究を他の人の役に立てるつもりで進めてみてはどうか。そうすれば,きっと研究をまとめることができ,論文が完成するのではないか」と助言を受けた。若い研究者はそこでハッと気づき,以後,自分の研究を迷わず進めることができたという。
この話に感銘を受けた私は,自分もまた,「誰かの役に立つ研究をしよう」と心に決め,いつまでもその思いを忘れぬよう,「研究の視点」として壁に貼っている。
平成22年4月発刊の前書,『時々,“オニの心”が出る子どもにアプローチ 学校がするソーシャルスキル・トレーニング』は,直接的には教師が,間接的には子どもが元気になるような具体的なアプローチをまとめ,提示したものである。発刊後,私が最も気になったのは,果たして,私の書いたものがどれくらい読者の役に立っているのかということであった。発刊後,読者から私のもとに届いた感想の中からいくつかを紹介したい。
〈東京.中学校教師〉 この本のすごいところは,@理論と実践がつながっていてわかりやすく述べられている,A未来に向かって現場は何ができるのか示唆されている,B学校現場での実践を研究レベルでアウトプットする際の押さえどころが明記されている,Cそして何よりも,曽山先生ご自身の実体験が自己開示されている点である。以上から,読者層は,現場の教師,教育委員会関係者,学部の学生・院生と,幅広く好まれ,役に立つと思う。
〈石川.教育委員会指導主事〉 章立てがすっきりとしていてわかりやすく,実践的ですぐに使える。個人的には,X章の「理論・言葉」が読み進めた後のまとめになりよかった。いつも思うのだが,学校現場での教師経験がある先生の本は気持ちにピタッと収まる。また,分厚くなくて仕事の合間に気軽に読み進めることができたのもありがたかった。「おわりに」を読み,曽山先生がちょっと身近に感じた。
〈愛知.小学校長〉 大変読みやすい構成と内容になっており,読んでいくうちにどんどん引き込まれていった。私にとっては「肩の凝らない教育書」というイメージをもった。SSTに関心をもち,これから取り組もうとする教師に,あるいはなお一層充実させたいと願っている教師にとっては心強い味方になる本だと思う。名は体を表すのごとく,タイトル『時々,オニの心が出る子どもにアプローチ』からは,ほんわかとした印象を受け,早く本文を読みたいという気持ちにさせてくれる。
以上の感想を読むと,「少しは読者の役に立てたかな」とホッとする気持ちや「これからもまた頑張ろう」という意欲が湧いてくる。
教師が子どもや保護者との教育相談を行う際,使いやすいカウンセリング理論・技法の一つにブリーフ・セラピーがある。このブリーフ・セラピーの骨子に「うまくいったことは続ける」というものがある。読者の感想を読むと,「うまくいったこと(読者の役に立ったこと)」は,「実践事例を提示したこと」「実践事例を理論により整理したこと」「自己開示(他人事ではなく自分自身を語る)をしたこと」の3つであると考えられる。それ故,本書『時々,“オニの心”が出る子どもにアプローチ』第2弾においても,同様に3つの観点を押さえた内容構成になっている。
本書では,子どもが時々出す自分勝手な振る舞い,わがまま等の「オニの心」を鎮める・鎮め方を教えるアプローチとして,複数のカウンセリング理論・技法をもとに「伝わる言葉」のかけ方を提示する。前書では学校におけるアプローチを想定したが,本書は学校に加え,家庭におけるアプローチをも想定したものである。
教育のプロである教師,養育のプロである保護者はともに,子どもが時々出す「オニの心」を鎮める・鎮め方を教えるための様々なアプローチを「支援の引き出し」にしまっておくとよい。引き出しの多さは,「オニの心」に対峙する「金棒」の強さとなるだろう。本書は,かつて私にとってブリーフ・セラピー入門書がそうであったように,「常に手元に置きたい本」となることを願い書き上げたものである。本書で提示したアプローチが1つでも2つでも読者の「引き出し」に入ることを願っている。
/曽山 和彦
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- 明治図書