- はじめに
- 教室で育てるコミュニケーション力
- T コミュニケーション力の育成の際にぶつかる悩み
- U コミュニケーション力の育成において必要なこと
- V 本書の特徴と願い
- T なんでも話してコミュニケーション力アップ
- 1 サイコロトークで「言葉の瞬発力」を鍛えよう
- レベルA 「1分間サイコロ言葉ゲーム」をしよう
- レベルB 理由をそえて「サイコロトーク」をしよう
- レベルC 「1分間サイコロスピーチ」をしよう
- 2 相手に知らせたいことを適切に説明しよう
- レベルA その絵の特徴を説明しよう
- レベルB 私の宝物を説明しよう
- レベルC 自分の気持ちを説明しよう
- Column 授業づくり・コミュニケーションづくり・学級づくり
- U 正しく伝えてコミュニケーション力アップ
- 1 「たとえば」と「つまり」で語ろう
- レベルA 「たとえば」と「つまり」を使って話をしよう
- 2 それがどこにあるのか,知らせよう
- レベルA どこにあるか教えよう
- レベルB どこに何があるか教えよう
- レベルC どこにあるか道順を教えよう
- 3 友だちが知らせたいことをみんなに教えてあげよう
- レベルA カードに書かれた人物は誰なのかを当てよう
- レベルB 大事なことを落とさずに他己紹介をしよう
- レベルC ジグソー法で上手に伝えよう
- V 深め広げてコミュニケーション力アップ
- 1 質問をして,話を深めよう
- レベルA 1分間スピーチで質問をしよう
- レベルB 答えの中から質問をしよう
- レベルC 学級全体で質問をしよう
- 2 理由や根拠を述べて説得しよう
- レベルA 「どっちにする?」ゲームをしよう
- レベルB ふた手に分かれて「どっちがいい?」(ミニ討論会)
- レベルC 討論会をしよう
- 3 擬態語・擬音語を楽しもう
- レベルA 擬態語・擬音語から連想しよう
- レベルB 擬態語・擬音語を見つけよう
- レベルC 発想を広げ,協力して詩を作ろう
- 4 話題を広げたり,深めたりしよう
- レベルA 話題を広げて話し合おう
- レベルB 話題を深めて話し合おう
- レベルC 広げ,深めて,場や目的に応じた話をしよう
- W みんなでつくりあげてコミュニケーション力アップ
- 1 みんなで物語を作ろう
- レベルA 物語の続きを話そう
- レベルB 書き出しから発想を広げてお話リレーをしよう
- レベルC テーマから発想を広げてお話リレーをしよう
- 2 豊かな発想力を身に付けよう
- レベルA アイデアをいっぱいしぼり出そう
- レベルB メモ(付箋)をなかま分けして見出しをつけよう
- レベルC ブレーンストーミングに挑戦しよう
- 3 問題解決の方法を話し合おう
- レベルA 「こんなときどうする?ゲーム」をしよう
- レベルB みんなハッピー!お悩み解決相談会を開こう
- レベルC 「○組を100倍楽しくする方法」をみんなで考えよう
- Column 「知の喜び」のあるコミュニケーションを創る
- おわりに
はじめに
修学旅行や林間学校からの帰途,バスが到着地点である学校に近くなると,子どもたちにマイクを回して感想を述べさせることがある。
子どもたちの感想は,次のような言葉を発して終わることが多い。
○「日光東照宮で家康の墓を見ることができてよかったです。」
○「夜のレクリエーションが楽しくてよかったです。」
○「夜遅くまで,友だちと話したことが楽しかったです。」
しかし,私が付き添いで数回同乗したK教諭が担任する学級のバスの中はまったく違った。同乗する度に,学級も学年も違うのだが,毎回,一人一人が感想を述べ始めると,その言葉に感動したバスガイドが涙目になり,時には運転手も涙目になることがあった。もちろん,友だちの言葉が心に響いたバスの中の子どもたちも涙目となった。
その言葉を,記憶をたどって紹介する。
「私は,今回,カナちゃんと一緒の班だったんですけど,カナちゃんについて色々発見しました。(「なに?なに?」と声があがる)皆も思っているかもしれないけど,私はカナちゃんって今まで真面目で,何か話しにくかったんですけど,マジで,すごく優しくて,それからちょっと天然です。私が班長の仕事を忘れそうになると,皆に気付かれないように言ってくれました。だけど,カナちゃんを朝見たら,洋服を表裏逆に着てて,一緒にゲラゲラ笑っちゃいました。カナちゃんってゲラゲラ笑う人です。すごい発見でした。(大爆笑)」
「僕は多分,富弘美術館(1)を忘れられないと思います。それは,富弘さんは,体が動かないつらい思いをしても諦めず生き続けているからです。なんか,人ってすごいなあって思いました。僕もサッカーで怪我して,試合に出られなくて,ポジションを奪われたりして悔しくて辛いときがあったけど,たいしたことないなあって思っちゃいました。頑張ります。」
気負って,特別なことを言おうとするのではなく,自分の想いを自分の言葉で素直に表現していることが分かる。
K教諭が6年生を担任したとき,学級児童の中に,前年まで集団に溶け込めず不登校傾向であったヨシコがいた。驚くことに,そのヨシコがK教諭の研究授業の際に,大勢の参観者がいる中で発言した。ひと言ひと言,言葉を選ぶように語るヨシコに,それを聞き逃すまいと耳を傾けている学級の子どもたちの姿に,前年の様子を知る教員たちは皆,胸が熱くなる思いをした。もちろん,この学級はどんなことにも一致団結して取り組み,問題が起こると全員で話し合い,解決策を導き出そうとしていた。また,普段の授業では物怖じせず,堂々と意見を述べるとともに,それを受け入れようとする学級の雰囲気があった。
K教諭の学級のように,何でも語り合え,自分たちで課題を解決できる学級をつくるために重要なのは子どもたちの「言語活動」,中でも「話し方・聞き方」であると誰もが認めるところであろう。このため,小グループ・学級での話合いや発表・討論会などを設け,活発な対話が成立するように工夫し,「話型」の指導を徹底することが多い。
○話し手にヘソを向けて聞きなさい。
○自分の意見と比べながら聞きなさい。
○「なぜかというと」で根拠や理由をあげて説明しなさい。
○友だちの意見を聞いて「付け足し」などの言葉を使って話しなさい。
等々である。
このような話合いの技術は,極めて重要である。しかし,このことに固執していると対話が「型はめ」になるほか,対話の技術だけが向上した言葉遊びに陥ってしまう。言い過ぎかもしれないが,そこにあるのは,人の成長につながらない見せかけの人間関係である。大切なのは,稚拙であっても子ども自身が心から発する言葉であり,その言葉を拠り所とする人間関係づくり,心がつながるコミュニケーションである。つまり「話し方・聞き方」と「人間関係づくり」は表裏一体を成すと言える。
そこで本書では,学年を問わず学級の実態に応じて取り組め,「話し方・聞き方の指導」と「人間関係づくりの指導」を同時に行えるレベル別アクティビティを提案することとした。
◎話し方・聞き方の指導
話の構成,話題の選定,話の内容,声の大きさ,抑揚――など,主として話の仕方や声の出し方を指導するもの。
◎人間関係づくりの指導
相手を尊重する接し方,優しく温かい話し方・聞き方,自分の考えを述べることの意義――など,話すこと・聞くことの根底に流れる,「つながり」を支える理念や価値観のようなもの。
この二つの指導を織り込むことで,従来の対話の指導に「意識や心遣い」をしのばせたアクティビティが生まれるはずである。
近年,国際化の進展に伴い,多様な価値観を持つ人々と協力・協働しながら社会に貢献することができる創造性豊かな人材を育成することが益々重要となってきている。しかし,学校では,子どもたちが自分の感情や思いをうまくコントロールできず,学級が機能しない状況が生まれるなど様々な課題が指摘されている。また,学習指導要領では,言語活動の充実により,コミュニケーション能力や感性を育んだり,情緒を養ったりすることも期待され,先生たちが試行錯誤を重ね実践に励んでいる。
そのような中,本書の活用を通して,強くてしなやかなコミュニケーション能力を持った子どもたちを育てていただければ幸いである。
/橋 敏
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(1) 富弘美術館は、画家・詩人である星野富弘氏の作品を展示した美術館。星野氏は中学の体育教師となった直後,クラブ活動の指導中,頸髄を損傷,手足の自由を失い,口に筆をくわえて作品を制作する詩画作家である。
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- 明治図書
- 具体的な実践例が紹介してあって、実際に授業に使えるものが多いです。2015/5/440代・小学校教諭