- まえがき
- Part1 支援を要する生徒への理解を深めるポイント
- 1 このような生徒いませんか? ADHD(注意欠陥多動性障害)傾向
- 2 このような生徒いませんか? アスペルガー症候群傾向
- 3 このような生徒いませんか? 学習障害傾向
- Part2 この活動で見えてくる! 支援が必要な生徒の特性
- 1 「ノート視写」から見えてくる不注意生徒,学習障害の生徒
- 2 「カルタ」で見えてくるADHD,アスペルガー傾向,自意識過剰な生徒
- 3 「フラッシュカード」で見えてくる学習障害,聴覚優位の生徒
- 4 「音読」で見えてくる学習障害,聴覚優位の生徒
- Part3 ひと工夫で効果アップ! 支援が必要な生徒の指導法
- 1 授業を束ねる
- 2 生徒の行動を示してから板書する
- 3 見通しをもたせる
- 4 指導内容を細分化する
- 5 繰り返す
- 6 一緒にやる
- 7 褒める・○を付ける・自信をもたせる
- 8 共感する
- 9 実際にやってみる
- 10 説明は10秒,30秒,1分
- 11 時間を指定する
- 12 次の行動を予告する
- 13 チャンクに分ける
- 14 覚える量を減らす
- 15 印象づける
- 16 比較する
- 17 発問・指示は,セットで扱う
- 18 生徒に選択させる
- 19 1回で教える・短く教える
- 20 楽しい!が一番
- 21 興味をもたせる
- 22 わかりやすく教える
- 23 一般的→具体的→体験を語る
- 24 点でなく,線で教える
- Part4 このようなときはこう指導する! 場面別支援&指導法Q&A
- Q1 どの子も単語を書けるようにする方法はありますか。
- Q2 フラッシュカードは,なぜ使うのでしょう。またどのような効果がありますか。
- Q3 フラッシュカードで単語指導をするのですが,なかなか読めるようになりません。
- Q4 音読の一斉指導,音読のできない生徒への指導はどのように行えばよいでしょうか。
- Q5 「内容理解」はどうやればよいのでしょうか。
- Q6 どの子にもわかりやすい文法指導は,どのようにすればよいのでしょうか。
- Q7 英作文の指導はどのようにすればよいのでしょうか。
- Q8 真剣にカルタをやらない生徒や,負けるとやる気をなくす生徒がいるときはどうすればよいでしょうか。
- Q9 カルタやゲームの際,ルールを守らない生徒が出てきます。どうしたらよいでしょうか。
- Q10 学習障害で黒板の字がうまく写せない子には,どのような工夫が必要ですか。
- Q11 文字の形が整えられず,枠の中に書けない生徒には,どのような支援が考えられますか。
- Q12 字形を思い出すまでに時間がかかったり,回転させたりすると似ている字を間違えたりする生徒の指導法は?
- Q13 ノートに書くのに時間がかかり,読むのが極度に遅い生徒がいます。どうしたらよいですか。
- Q14 聞き間違いや聞き逃しが多く,指示通りの行動がとれない生徒への指導はどうしたらよいでしょうか。
- Q15 整理整頓が苦手な生徒がいます。机の上が乱雑なのですが,どうしたらよいでしょうか。
- Q16 忘れ物が多い生徒には,どのように指導すればよいでしょうか。
- Q17 支援が必要な生徒の特性をどのように見抜けばよいでしょうか。
- Q18 ADHDの生徒が飽きないような授業を作るには,どうしたらよいですか。
- Q19 ADHDの特性に応じた支援法には,どのような方法がありますか。
- Q20 ADHDの生徒への配慮事項にはどのようなことがあるでしょうか。
- Part5 クラス全員がわかる・できる! つまずき解消プリント
- 1 ローマ字プリント
- ・ローマ字プリント
- 2 アルファベットプリント
- ・アルファベットプリント@大文字編 A〜N
- ・アルファベットプリントA大文字編 O〜Z
- ・アルファベットプリントB小文字編 a〜n
- ・アルファベットプリントC小文字編 o〜z
- 3 英単語プリント
- ・英単語プリント
- 4 視写プリント
- ・視写プリント 書き写そう
- 5 音読筆写プリント
- ・音読筆写プリント 声に出して何度も
- 6 英文法プリント
- ・英文法プリント@一般的な形
- ・英文法プリントA使われそうな語彙を最初に覚え,練習に入る形
- ・英文法プリントB自己表現で使ういろいろなパターンを盛り込んだ形
- あとがき
まえがき
「今,大学に行ったら,何を研究したいですか?」と質問されたら,私は真っ先に,
「日本における英語の読字障害(ディスレクシア)」です。
と答える。
実際に,そのような質問があり,私はすかさず「ディスレクシアです」と答えた。そのくらいこれは,研究に値する大きな課題であると考える。もし大学院に行けたら,私はぜひ,この研究をしたいと思う。
さて,中学校で英語を教えているとき,次のような生徒は見かけないだろうか…。
英語ノートの4本線の中に文字をきちんと入れることのできない生徒。
字がぐちゃぐちゃな生徒,単語のスペリングがなかなか覚えられない生徒,アルファベットは読めたり,書けたりするのに,単語が読めなかったり,書けなかったりする生徒はいないだろうか。
これらはすべてLD(学習障害)の特徴である。
発達障がいの中でも特に私は,英語のディスレクシア(読字障害)の存在が大いに気になっている。
日本語ではLDの症状があまり出ないが,英語になると症状が極度に現れる生徒がいる。
例えば,漢字テストではまあまあの点が取れても,英単語はまるっきり書けない生徒。
私のクラスにはいた。
もともと文字に対して苦手なのかな…と国語の先生に聞いてみると,「漢字はよく書けるわよ」と言われ(あ〜,私の教え方が悪いんだな)と落ち込むこともあった。
今になって考えると,英語の文字のときに現れるディスレクシアが原因だとわかってきた。さらに日本のディスレクシアの出現率は5%であるのに,英語圏では10〜20%もあるという実態を知った。考えてみれば,漢字は象形文字であったり,形声文字や表意文字であるのに対し,英語は記号(アルファベット)の羅列である。意味も絵もなにもない。音として覚えなくてはいけない。ということは,日本の小学校で普通に漢字テストをやり,覚えられていた生徒がいる一方で,英語(記号)となると単語が書けなかったり,読めなかったりする生徒の割合が増えるのは,当然のことではないか…と思うようになったのである。学習障害が内在していた可能性がそこにはあったのである。
私は中学で21年間,英語を教え,日々,英語が苦手な生徒への指導を考え,研究してきた。そして,学習習慣のない生徒,どのように勉強してよいのかわからない生徒,やんちゃでよくおしゃべりをする生徒,文字が正しく書けない生徒,文字が読めない,音読ができない,単語が書けないという生徒に「一斉指導」の中で,指導法を工夫して授業をしてきた。その結果,英語の勉強が好きになり,文字も読めるようになり,教科書もすらすら音読できるようになる生徒の数が多少なりとも増えていくことを実感した。
また,単語を書けなかった生徒も,研究の末,確実に単語が書けるようになっていったのである。(詳細は拙著『中学英語50点以下の生徒に挑む』明治図書参照)
しかし残念ながら,クラスの中には依然1〜2名,どうしてもすらすら音読ができない,単語が書けない生徒,文字の読めない生徒が残っていった。
底上げは確かに図れたが,クラスの中の1〜2名のできない子への指導が課題となった。
そんなとき,ADHD(注意欠陥多動性障害)やアスペルガー症候群,学習障害(LD)などの子が在籍する割合が6.3%であるという調査結果が1999年文部省(当時)から出された。同じ時期,埼玉でも調査すると,国の数値よりもかなり多く,10%いると報告された。10%というと,40人教室で4人。30人教室で3人…そのくらいの割合で,なんらかの発達障がいを抱えている生徒がいるということになる。
もしかしたら,単語がなかなか書けるようにならない,音読ができないなど,最後の1〜2名には,なんらかの発達上の障がいがあってのことなのではないか,と思い始めた。
例えば,次のような特徴である。
極度のこだわりがある/過集中がある/人の思いや感情を考えて行動するのが非常に苦手/しばしば人の嫌がることを言ったりやったりする/友達とのトラブルが多い/コミュニケーションが苦手/他人にはわからない本人なりのルールにのっとって行動している/約束を正面から受け止め,忘れることはない
こういう行動は,ADHD,LD,アスペルガー症候群,自閉症,高機能自閉症の,どの障がいの特徴だろうか。
ここを理解しておかないと,生徒の行動を見たときに,よい対応ができない。
言葉の理解はもう終えているのである。
これからは,行動様式から障がいを判断し,「よい対応」をしていく段階に来ている。
ちなみに,先ほどの障がいの特徴は,アスペルガー症候群である。
本人は,わざとやっているわけではないのに,そういう行動になってしまうのである。
社会性の障がいであるので,
しばしば人の嫌がることを言ったりやったりする/友達とのトラブルが多い/コミュニケーションが苦手
という姿が出てしまうのである。
想像力の障がいから「約束を正面から受け止め,忘れることはない」という状況が生まれてしまうのである。
冗談で言ったことを本当だと思い込んでしまうのである。
これらは障がいであるので,おかしいんじゃない? いじわるな子だな? しつけがなっていない! などど勘違いしてしまい,叱ってしまうと,その生徒の自己肯定感は下がり,(ぼくはダメな人間なんだ)と感じていってしまう。
そうなってはいけない。
今の時代,どの教室にも,そういった障がいを抱えている生徒がいる。そういう生徒をも視野に入れた授業や対応をしていかなくてはいけないのである。
ついでに書くと,
単純な作業が長時間できない/忘れっぽい/注意力散漫/些細なミスをする/落ち着きがない/物事の管理ができない/ぼーっとしている/忘れ物が多い/おとなしい/物事の優先順位が決められない/思っていることをズバズバ言う/アイデアが豊富だが,実行に移せない/短期記憶が弱い
は,どのような障がいの生徒の特徴だろうか。
「注意力散漫」からADHDと予測がつく。
でも,そこには,「ぼーっとしている」「おとなしい」というのがある。
あれ? なんだ…となる。
正解は,その通り。ADHDの特徴である。先ほどの「ぼーっとしている」「おとなしい」というのは,ADHDのHがない障がい,HyperActivity(多動)のないADHD,これをADDと呼ぶ。おとなしいADHDの特徴をもつ生徒もいるのである。ファンタジー,空想にふける,といったタイプの生徒である。わざとそうしているのではない。自然とそうなってしまうのである。だから叱ってもなおらない。
もう1つ。
黒板の文字をうまく写せない/文字の形が整えられず,枠の中に書けなかったり,鏡文字になったりする/ひらがなや漢字がなかなか覚えられない/1字1字は読めるのに,まとまった単語として読めない/文字を読めても,文章の全体の意味が理解できない/聞き間違いや聞き逃しが多く,指示通りの行動がとれない/整理,整頓が苦手/忘れ物が多い/話が頭に入らず,ボーっとしていることがよくある/手先が不器用/ヘんとつくりを逆に書く/字の形を思い出すまでに時間がかかる
これはどのような障がいの特徴であるか。
これは,学習障害(LD)である。では,学習障害とは何か。本書で触れている。実は,まだこの学習障害というのが正しく理解されていない現状がある。ヒントは「聞く」「話す」「読む」「書く」「〇〇する」「○○する」という6項目である。これがわからないと,頑張って勉強しましょう…となる。
本書では,現代の発達障がいと言われているADHDやアスペルガー症候群,LDといった生徒への指導を視野に入れた英語授業づくりのヒントをまとめた。また,そのような生徒に配慮した授業法は,実は,教室にいるすべての生徒にとってやさしいユニバーサルな授業なのである。
本書を手に取った読者の方。
ぜひラインマーカーを引きながら読破いただきたい。
ちなみにLDの子は「地」の文と「背景」の区別ができない。だから文字の形がはっきりしない。そんなときに,ラインマーカーを引き,文を浮き出させるという方法がとられる。
私たちもそうである。大事なところや,気になるところにラインマーカーを引く。すると,そこだけが浮き上がってみえる。あとから振り返ったときに,真っ先にそこに目が行く。
これがユニバーサルな視点である。
誰にとっても有効な方法。
英語の授業でのユニバーサルデザイン。
普段やっている当たり前の授業や指導方法が,実は,障がいのある生徒にとっても,約93.7%の生徒にとっても,やさしい指導法であることを理解して,授業を進めていくことが,これからの時代,確実に求められていく。
それを本書では確認していきたい。
2013年1月 /瀧沢 広人
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- 明治図書
- 発達障害について概論を述べたうえで、ついていけない子をださないようにする細かい技術が書いてあり良いと思います。私は支援学級なので、特に若い先生に勧めてこまやかな指導ができるようにアドバイスしていきたいと思います。2018/12/2740代・中学校教員
- 本を読んでいてラインマーカーでたくさん線を引いた。そして、新年度で行いたい活動が多々あった。具体的な内容で特別支援について書かれていた。それらは教師として知っておかなければならないことだと感じた。今まで漠然だった理解がこの良書のおかげで深まった。この本に書かれていたことを新年度より実践したい。2013/3/27ようへい