- まえがき
- 第1章 メッセージの背景
- 1 インクルーシブ教育と東日本大震災
- 2 理想と現実のジレンマ
- 3 ブレないための「六原則」
- 4 メッセージの3つの背景
- 5 本書の構成
- 第2章 目指すは,幸福・生きる力・自己実現
- 1 「幸福」のための3つのガイドライン
- 2 「生きる力」としての個人主義への脱皮
- 3 「自己実現」としての個人的・文化的創造
- 4 往還の教育思想
- 第3章 ブレないための「六原則」
- 原則その1 内外の主な情報を的確に収集し把握する
- 1 ICF(国際生活機能分類)の核心
- 2 障害者の権利に関する条約〈第24条 教育〉のポイント
- 3 内閣府と文部科学省の動向
- 4 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進概要(報告)」(特特委員会)
- 5 新学習指導要領の方針のポイント
- 原則その2 教育の原理を理解する
- 1 教育とは,人間の生命に対する畏敬である
- 2 教育の根本は,子どもへの愛情にある
- 3 教育の本質は,教育愛に支えられたコミュニケーションにある
- 4 教育の目的は,人間の支配を目的とする政治の世界とは異なり,心身の調和的発達,バランスのとれた人間の形成にある
- 5 教育は,人間を矛盾体として捉え,弁証法的に止揚(aufheben)しながら成長し自立していくものと把握する
- 6 教育は,人間を相対的に性悪説より性善説に重心を置いて把握する
- 7 教育の本質は現在主義にあり,倫理学で言う完全主義よりも幸福主義に重心を置いて把握する
- 8 教育は,社会的機能(文化遺産の伝達)よりも個人的機能(個人の可能性の開花)に重心を置いて把握する
- 9 教育は,結果(result)よりも目的(aim)とその過程(process)に重心を置いて把握する
- 10 教育は,理想と現実のギャップに揺れ動いたとき,現実を視野に置きながら常に楽天的に理想を志向する
- 原則その3 特別支援教育の普遍性を理解する
- 1 人類・生命は,多様な遺伝子によって維持されている。したがって,人は皆きょうだい
- 2 人間は高齢化に伴い,誰もが障害者になる可能性がある。また,中途で障害者となる可能性もある
- 3 人間,いつ死んでも立派な人生である。どれだけ幸せに精一杯生きたかが問われる
- 4 完璧な人間はいない。したがって,人間の関係は相互障害状態にある
- 5 自分がもしも障害のある人間の立場だったらどうなのか,常に相手の身になって考える
- 6 子どもの教育の可能性を信じつつも,医療的に脳機能の障害に制限されながら健気に生きている子どもたちがいることを忘れてはいけない
- 原則その4 教師の個人的専門性の向上を図る
- 1 実態把握の方法
- 2 教育基本法に見られる教育の目的・目標
- 3 教育内容における経験カリキュラムと教科カリキュラム
- 4 教育方法としての開発主義と注入主義
- 原則その5 教師の組織的専門性の向上を図る
- 1 今,なぜ組織的専門性なのか
- 2 学校内の職員同士の信頼関係・譲り合い・チームワークの醸成
- 3 学校外の関係者との信頼関係・繋がりの醸成
- 4 保護者との信頼関係・繋がりの醸成
- 5 財政的支援と合理的配慮
- 原則その6 教育実践を裏づける主な根拠法の確認
- 1 清規と陋規のバランス
- 2 わが国の教育は法律主義
- 3 国民主権・平和主義の厳守・基本的人権の尊重
- 4 主な根拠法とコメント
- 第4章 今後の課題と展望
- 【参考資料】
- 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要
まえがき
わが国の義務教育が成立した1886(明治19)年以降を第1の教育改革期,戦後の1947(昭和22)年以降を第2の教育改革期とするならば,2002(平成14)年以降を第3の教育改革期と位置づけることができます。
第1と第2の教育改革期の目指す方向は明確でした。しかし,第3の教育改革期は,20世紀末から始まったバブル崩壊や東日本大震災に見舞われた今,経済成長と財政再建とのはざまで揺れ動く中で,何が起こるかわからない不確実な時代と言えましょう。
わが国の特別支援教育の改革に目を向けると,「障害者の権利に関する条約」(外務省)の批准に向け,「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育」を推進しようとしています。そこでは,「教育支援委員会」(仮称)の新設,「就学相談・就学先決定の在り方」「合理的配慮」や「教師の専門性の向上」等々が課題となっています。
「インクルーシブ教育」とは,子どもの個々のニーズを中心に据え,障害の有無にかかわらず,違いのある子どもたちが同じ空間で共に学び,共に育つことを理念として掲げ,誰も排除しないことを理想としています。
思い起こせば,2011(平成23)年3月11日の東日本大震災において,我々は人間の「命」や「繋がり・絆」,互いに「支え援け合う」こと等々,とりわけ人間の「関係性」の大切さに,改めて気づかされました。
同時に,東日本大震災や原発事故が,少子高齢化や地球的観点から,従来の経済的功利性や競争の原理を中心に推進してきたわが国の近代化の在り方と今後の方向性に,さまざまな疑問と課題を投げかけています。
したがって,人間の「関係性・絆」をキーワードとする「インクルーシブ教育」の方向性を見据え,東日本大震災,原発事故等の社会の急激な変化を視野に入れた「人生観」及び「教育観」の見直しと新たな「教育の創造」が,すべての教師に求められていると言えるでしょう。
学校現場では,世論に応じた,財政的支援を伴わない国の教育行政による「改善策」の実施によって,教師は精神的に追い詰められ,自分の実践に自信がもてなくなるなど,悩む教師が多くなってきていると聞いています。
しかも,多忙のため,先輩教師が若手の教師に「教える余裕」がないと言います。日本の学校は今後10年間で,教師の3分の1が入れ替わります。若手の教師が急増するも,校内で先輩教師が日常的に若手を指導する風景は過去のものとなりつつあると,ある日の日本教育新聞の記事は嘆いています。
そこで筆者は,現場の先輩の一人として,三十数年間にわたる経験で得られた知見を,第3の教育改革が目指す,子どもの「生きる力」を育むための教師が「ブレないための六原則」として整理し,多くの悩める教師へのメッセージとして簡潔にお伝えしたいと考えました。
本書は,特別支援教育に関係するすべての人たち,特に若い人たちに目を通していただければと思っています。筆者は,東日本大震災のボランティアで黙々と活躍し,2012(平成24)年の第30回夏季ロンドン・オリンピックでも大活躍した「ゆとり教育世代」の多くの若者に感動しました。日本の未来は明るいと確信しています。
なお,本書作成に当たり,琉球大学4年生の玉城晃さん,杉浦恵里子さん,比嘉美咲さん,桑野裕加さん,琉球大学院生の石川勇作さん,上河内幸壮さん,琉球大学特別専攻科卒業生の仲間祥子さん,野原まり子さん,沖縄看護専門学校の山口美恵子さんにはいろいろとお手伝いいただきました。お礼申し上げます。
本書の企画・作成に関しては,格別な御配慮をいただきました明治図書教育書編集部の三橋由美子氏,校正の田口美樹氏に心より感謝します。
平成24年12月 /大沼 直樹
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- 明治図書