- はじめに
- 第T部 全国調査からみえる高校生・社会人の今と家庭科
- 調査全体の目的と方法
- 1 高校生調査
- 1 調査の概要
- 2 高校生は家庭科をどのような教科と思っているか
- (1)家庭科はどのような教科か
- (2)家庭科を学ぶ意義をどう捉えているか
- 3 高校生は家庭科でどんな力が身についたと考えているか
- 4 高校生は生活にどう関わっているか
- (1)高校生の生活実践状況は
- (2)生活実践状況にみる男女の差は
- 5 高校生は生活の中でどんなことを考えているのか
- (1)自分のことをどう思っているのか
- (2)高校生のジェンダー観は
- (3)自立する上で大切なことは
- (4)政治や政策への関心は
- (5)社会活動への参加意識は
- (6)生活実践状況と生活意識の関係は
- 6 家庭科で身についたと考えている力と生活実践や生活意識の関係
- (1)家庭科で身についたと考えている力と生活実践の関係は
- (2)家庭科で身についたと考えている力と生活意識の関係は
- 7 高校生は家庭科の授業に何を望んでいるか
- 【コラム1】家庭科の教員の声
- 2 社会人調査
- 1 調査の概要
- 2 社会人は家庭科をどのようにみているか
- (1)学んでよかったか,どのような教科か
- (2)重視したい学び
- 3 社会人は家庭科でどのような力が身についたと考えているか
- 4 社会人はどのような生活意識をもっているのか
- (1)ジェンダー観
- (2)市民性
- 5 社会人はどのように生活を実践しているのか
- (1)パートナーシップ
- (2)生活実践状況
- 6 社会人の家庭科で身についたと考えている力は生活意識・実践につながっているか
- 【コラム2】今だから分かる 家庭科の学び
- 3 まとめ ―調査の総括とこれからの課題―
- 第U部 家庭科で育む資質・能力と授業実践
- 1 家庭科教育の学びを再考する
- 視点1 生活の科学的認識
- 視点2 生活に関わる技能・技術の習得
- 視点3 他者との協力,協働,共生
- 視点4 未来を見通した設計
- 2 未来の生活をつくる力を育む家庭科授業の提案
- 授業1 より良い食品選択するには?:牛乳等飲み比べから知る食品表示の読み解き
- 授業2 部屋にふさわしいカーテンを選ぼう
- 授業3 子どもの日を祝う調理実習を演出しよう
- 授業4 アイロンを極めよう
- 授業5 ライフステージにふさわしい住まいとは
- 授業6 サバ飯(サバイバル飯)チャレンジ:被災者の声を生かして家族が元気になれるサバ飯を考えよう
- 授業7 自分の未来を描こう
- 授業8 リスクについて考える
- 授業9 じょうずに使おうお金と物:持続可能な社会の実現に向けて,自分にできることを考えよう
- おわりに
- 付録 高校生調査原票,社会人調査原票
- 執筆者一覧
はじめに
本書『未来の生活をつくる―家庭科で育む生活リテラシー』は,日本家庭科教育学会の創設60周年を記念して刊行するものである。
家庭科は,1947年に,新しい民主的な家庭建設のための教科として,社会科とともに誕生した。それから70年,小,中,高校を通して「家族と生活をみつめ,よりよい生活をつくる」ことをめざす必修教科として,また知識とスキルを活用し,生活のなかで思考や共生の意識を育む教科として,子どもの成長に寄り添ってきた。
この間の家庭科の歩みは大きく2つの視点から語ることができるだろう。一つは,女子用教科から男女必修教科への歩み,もう一つは,家庭生活を社会的課題も視野に入れて包括的に学ぶ教科への歩みである。これらの歩みは,日本や世界の社会変化や政策(男女差別撤廃や人権にかかわる国際機関の諸憲章や条約,グローバルな地球環境の保全や経済の変動など)を背景としたものである。と同時に,家庭科関係者が,個人として,あるいは集団や組織として児童や生徒,教科の問題と向き合い,目指すべき教科の本質や,教育の内容・方法について,研究や実践を積み上げ,その成果の発信をとおして道を拓いてきたともいえる。
日本家庭科教育学会では,60周年を機に特別研究委員会「家庭科未来プロジェクト」を立ち上げた。学会がこれまで実施してきた全国調査(1980,2001,2004年)の結果を踏まえ,全国の高校生と社会人を対象として,2016年に「家庭生活に関わる意識や高等学校家庭科に関する全国調査」を実施した。
調査に当たり着目したのは次の2点である。
第1は,知識・技能の活用や思考力・判断力・表現力を重視する新たな学力の方向性と,家庭科で育ててきた力,育てようとする力との関わりについてである。家庭科は,自己や家族の生活をみつめ,よりよい生活とは何かを考え,それを実現する力の育成を目指してきている。「生活」を学習対象とする唯一の教科として,知識や技能を活用し,良い生活をつくろうとする力を「生活リテラシー」と捉え,生徒がこの力をどう獲得しているかをみた。
第2は,男女必修家庭科の成果や課題についてである。1994年の高等学校における男女必修開始から四半世紀がたち,男女が共に学んだ最初の世代が30代後半の子育て期にある。「イクメン」という用語を実体あるものにしてきた世代ともいえる。この世代の特徴について他世代との比較を試みた。これらの調査結果の一端は学会大会や学会誌(Vol.61, 1-3号)で報告してきている。
本書では,調査結果をより多くの読者に届けるため,調査の全容を俯瞰し,多様なデータを示して高校生や社会人の生活行動や意識,家庭科観などを分析した。また,自由記述に記された多くの生の声を収録した。そうすることで家庭科誕生から約70年たった家庭科教育の姿をできるだけ正確に浮き彫りにし,これからの家庭科の課題や可能性についてまとめることを目指した。また,家庭科の一層の充実に向け,今後大事にしたい教育の視点や生徒の主体的な思考や活動を引き出す家庭科授業のありかたについて検討した。
全体は2部構成である。第T部では,高校生調査,社会人調査の結果を示し,その結果を読み解いている。また第U部では,調査結果を基に,これからの家庭科で大事にしたい4つのキーワード「生活の科学的認識」「生活に関わる技能・技術の習得」「他者との協力,協働,共生」「未来を見通した設計」を提案し,解説している。さらに,それらの各視点と関わりの深い小,中,高校の9つの家庭科の授業を掲載している。
本書は多くの方のご助力や参画のもとで完成した。調査にご協力いただいた全国の高等学校家庭科教師や高校生,大学や行政,企業など社会人の皆様,授業実践を執筆いただいた学会員の皆様に心よりお礼申し上げたい。
学習指導要領が改訂され,児童生徒の体験を重視し,思考力や判断力を鍛えるという方向性が示された。家庭科で,体験を通して思考を深め,「生活」をより良くしようとする能力をどう育てるかについて,本書は様々な切り口から語っている。各種のデータや調査結果,家庭科の視点や実践を活用し,これからの家庭科の一層の充実に役立てていただければと思う。また,家庭科関係者だけでなく,生活につながる学びが大切と考える教育研究者や市民の方々にも,ぜひ読んでいただければと思う。生活の主体者を育てる家庭科への理解を深め,これからの家庭科教育の果たす役割を展望するうえで,折りにふれ手に取っていただける一冊となれば望外の喜びである。
2019年4月 日本家庭科教育学会会長 /荒井 紀子
-
- 明治図書