- はじめに
- 第1章 誰でもプロになれる!教師のための「教える技術」
- “教えること”は単純なことではない
- 子どもがわからないのは、あなたの“教え方”がヘタだから
- 教え方の成果は子どもができるようになったかどうかだけで測られる
- 「教師力」とは3つの能力
- “教え方”のプロになろう
- 第2章 “教える技術”で5つの技能を教えよう
- “教える技術”とはなにか
- 教えたい技能は5つに分類できる
- 教える技術のレパートリーを増やしていこう
- 第3章 教える技術1 身体を使って覚えさせる“運動技能”の教え方
- やさしいステップを踏ませる:スモールステップの原則
- 誰でも必要な時間をかければできるようになる:キャロルの時間モデル
- よく観察してすぐにフィードバックする:即時フィードバックの原則
- 過剰なほめ言葉は逆効果:ごほうびは控えめに
- できないことを叱る必要はない:罰を使わない
- 常に子どもを観察し、やる気スイッチを見つける
- 第4章 教える技術2 知識のネットワークを作る“知識獲得技能”の教え方
- 知識獲得技能とはなにか
- 学習者に関係があることを示して注意をひこう
- これまでの経験と結びつけさせる:既有知識にリンクする
- 情報を整理して提示しよう:体制化の原則
- 新しい知識を定着させる:精緻化リハーサル
- 知識獲得技能の最終目的はメンタルモデルを形成すること
- 第5章 教える技術3 知識を使うための技能“問題解決技能”の教え方
- 問題解決技能とはなにか
- 問題には明確なものと曖昧なものがある
- 文章問題の教え方:問題を分析し、式に結びつける
- 実例集や教え合いで問題解決力を高める
- 聞く・読むの問題解決技能:ノートでメンタルモデルを作る
- 書く・話すの問題解決技能:文章とスピーチには型があることを教える
- 第6章 教える技術4 学び方を学ぶ“学習方略技能”の教え方
- 学習方略技能とはなにか
- 目標を設定し、計画を立てる技能
- 計画を実行し、それをコントロールする技能
- フィードバックを次に活かす技能
- 取り組んだことを振り返る技能
- 第7章 教える技術5 子どもの取り組みを変える“態度技能”の教え方
- 態度技能とはなにか
- 態度を変える方法とは?
- その子の良さ・強さを見つける
- 「動機づけ面接法」の応用
- 教師自身の態度を変えることが鍵
- 第8章 授業デザイン力を高める!インストラクショナルデザイン
- ガニエの9教授事象で授業を組み立てる
- ARCSモデルで授業を魅力的にする
- “ロケットモデル”で授業全体を改善していく
- “フロー理論”を使って学習活動に没入させる
- テストは学習機会でもあり、授業の成績表でもある
- 第9章 クラス運営力をつける!アドラー心理学で学級づくり
- アドラー心理学を背景にしてクラスを運営する
- クラスの雰囲気は教師のタイプによって決まる
- 一人の荒れから進展する崩壊プロセス
- “クラス会議”をしよう
- クラス運営とは子どもに“居場所”を見つけられるように手助けすること
- 第10章 教えることのプロとして成長するために
- 固定マインドセットから成長マインドセットへ自らを変える
- 自分自身のライフスタイルを知ることでバランスをとる
- 「教師力」を持ちつつ、バーンアウトしない・完璧を求めない
- おわりに
はじめに:なぜ「教師のための『教える技術』」か
この本は、教える仕事に就いている人たちのために書きました。学校の先生や、塾の講師、家庭教師、研修講師といった教えることを仕事にしている人たちのための本です。
教えることを仕事にしている人たちなのだから、わざわざ「教える技術」を教えるまでもなく、当然知っていると思うかもしれません。しかし、実際はそうではありません。教えることを仕事にしている人たちであっても、実は教えることについては、先輩や同僚の見よう見まねで、なんとかやっているというのが事実だと思います。
その理由は、「教え方」について真っ向から教えを受けたということがないからです。もちろん、大学の教員養成課程では「教育学」を学びますし、また、教師になるためには、実際に学校に出向いて教育実習を経験することが必要です。とはいえ、実際のところ教育学は具体的な教え方を教えてくれるわけではありません。また、教育実習にしてもあらゆる場面を想定した具体的な教え方のアドバイスを受けるわけでもないのです。
このようにして、教え方のトレーニングを受けないまま、教師という職業に就くのです。それでも、なんとか教えることができているのは、ひとつは、教える内容が決まっていて、教科書があるおかげです。よくできた教科書のおかげで、教科書の通りに進めていけば、ともあれ「教える」ことはできるのです。
なんとか教えることができている理由のもうひとつは、学校や塾という枠組みの中で、学ぶ人たちがあなたを「先生」として見ているおかげです。相手があなたを先生として見ているので、あなたが何をしても、それを「先生からの教え」として捉えているのです。それで、うまくいっているときはうまくいくわけです。
しかし、ひとたびうまくいかなくなると、「教える技術」を持っていない限り回復することはできなくなります。学級崩壊がどの学校でも起こっています。学級崩壊の原因を、ひとつに特定することはできないでしょう。しかし、私は教師の「教える技術」のなさが大きな原因ではないかと思っています。「教える技術」がないために子どもをひきつけることができず、クラスがまとまらなくなってしまうケースがたくさんあります。
私は二〇一二年に『いちばんやさしい教える技術』という本を書きました。その書名のとおり、「教える技術」をやさしく説明したものです。そこでは、教えることを仕事としていない普通の人たちを読者と想定して書きました。一方、この本では「教師」、つまり、プロとして教える仕事をしている人たちを読者として想定しています。
一般的な「教える技術」と、教師のための「教える技術」の違いは次のような点です。
一つ目は、教師という役割と立場がはっきりしているということです。そして教えるという仕事が、無償のサービスではなくプロの仕事であると捉えられています。プロの仕事ということは一定の水準の品質が期待されているということです。つまり、授業をすることについて失敗ができないということです。
二つ目は、大人数を扱うクラス運営の技術が必要であるということです。個別に教えることと大人数の集団に対して教えることには、大きな違いがあります。個別に教える場合は細かいところまで指導できます。しかし、クラスになると全体をうまくコントロールして授業を進めていくことが必要です。そこで、教師はクラス運営とクラスに対応した授業デザインについての技術を持っていることが必要です。
この本では、基本的な教える技術に加えて、クラス運営と授業デザインのための技術についても扱っています。プロとして「教える仕事」に就いている人の助けになれば、うれしく思います。
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- 明治図書
- 向後先生の本はじっくりと考えさせる内容です。この本も同じです。教える技術を客観視するために大切な視点を教えてもらえます。2015/4/16