- はじめに
- 1 自立活動の基本をおさえよう!
- 1.自立活動と領域・教科等の指導
- 2.「時間における指導」と「教育活動全体を通じた自立活動」
- 3.「楽しく!」「科学的に!」「生活に活かす!」
- 2 コミュニケーション力を育てる授業づくりで大切なこと
- 1.集団の中で学ぶ
- 2.発達段階に合わせた活動内容を用意する
- 3.一人ひとりへの指導上の配慮を考える
- 4.次につなげるための評価を心がける
- 3 コミュニケーション力を育てる授業づくりのプロセスを理解する
- 4 コミュニケーション力を育てる自立活動の指導方法
- 1.各指導期の特徴と活動例
- T 直接的・身体的かかわり期
- U 物・言葉を通したかかわり獲得期
- V(1) 言葉を使ったやりとり獲得期
- V(2) 代替コミュニケーション使用開始期
- W 集団遊びの中でのやりとり獲得期
- X 集団遊びの中でのやりとり充実期
- Y 相手の気持ちへの意識獲得期
- Z 場や相手に応じたやりとり獲得・充実期
- 2.コミュニケーション力を育てる授業の展開例
- 1 身体遊び
- 2 手遊び・くすぐり遊び
- 3 手をつないで踊ろう
- 4 マッサージ
- 5 キャスターボード遊び
- 6 トランポリンで遊ぼう
- 7 2人乗り自転車に乗ろう
- 8 ビー玉コロコロ
- 9 キャッチボール
- 10 バルーン遊び
- 11 選んで遊ぼう
- 12 「〜はどこ?」ゲーム
- 13 2人組リレー
- 14 ペアで遊ぼう
- 15 ホース電話
- 16 「おちたおちた」ゲーム
- 17 アナウンサーになろう
- 18 すごろく遊び
- 19 ウォークラリーゲーム
- 20 店員さんになろう
- 21 風船ラリーゲーム
- 22 ゲームを決めよう
- 23 セリフを考えよう
- 24 だるまさんがころんだ
- 25 目隠しゲーム
- 5 心理的な安定を目的とした自立活動の授業づくりで大切なこと
- 1.心理的な不安定の状態を理解する
- 2.困難に応じた活動内容を考える
- 3.一人ひとりへの指導上の配慮を考える
- 6 心理的に不安定になる子どもへの自立活動の指導方法
- 1.困難の特徴と活動の選択
- 2.心理的な安定を目的とした授業の展開例
- 1 お気に入りで遊ぼう
- 2 ジェンガをしよう
- 3 リラックスタイム
- 4 いろいろな物で遊ぼう
- 5 鬼をやっつけろ!
- 6 忍者になろう!
- 資料
- 1 コミュニケーション指導期の分類(簡易版)
- 2 コミュニケーション発達段階表
- 3 表情カード
- 4 授業展開例のインデックス
- おわりに
- 参考文献
はじめに
自立活動の授業は「障害の改善・克服」を目的とするものなので,障害のある子どもたちにとってはどうしても苦手なことと向き合わなければなりません。しかし,自立活動という名称に改称されてから,この授業はよりいっそう「子どもの主体性」や「生活に活きること」が求められるようになっています。
このように,自立活動の授業を担当する教師は,子どもたちにとって「苦手なこと」を「主体的に」そして「生活に活きる」形で授業を展開しなければならないといった,いわば矛盾する状況に置かれていて,どのように自立活動の授業を進めていけばよいのかわからないでいるというのが現状です。特に知的障害児や自閉症児に対するコミュニケーション力を育てる自立活動については,これまで実践の蓄積がまだ不十分であるために,どのような内容を,どのように指導していけばよいのか暗中模索の状態であると考えます。
本書は,こうした疑問を抱いていた筆者の佐藤まゆみさんが多くの情報収集と自らの実践経験及び指導観を加えて,自立活動の授業を展開できるようにまとめたものです。「障害の改善・克服は,苦手なことだからこそ楽しく活動する」「個別的に課題を明確にして指導するが,集団で指導する」という学校教育の授業で求められる基本をしっかりふまえた授業例を,体系的かつ具体的に述べています。
もちろん,筆者がすべての活動を考え出したわけではありません。これまで先行して実践・研究されてきた文献から多くの示唆を得ています。また,筆者の周りで日々,実践を重ねている特別支援学校の多くの先生方の実践例も参考にさせていただきました。
しかし,本書はあくまでも現在,特別支援学校に勤務している筆者が,自分が日々指導している子どもたちを想像し,学校の同僚と自立活動の授業を展開するとしたらどのように授業づくりをするだろうかという視点から執筆されています。そのため,「実態把握→指導目標の設定→教材選定→授業展開→授業評価」といった順序で示されていて,教師が授業づくりを行う際に頭の中で思考するプロセスを具体的に示しています。
また,指導の手立てや留意点などの欄には,特別支援学校や特別支援学級の子どもと活動をする際に教師として配慮すべき点が満載されています。本書の内容を補足するために用いているイラストについても,「ここは視線を合わせることが大切だから,教師と子どもが目を見ている絵にする」といった配慮がなされていて,授業場面をリアルに想定した本になっています。
こうした教師ならではの視点を明確にして自立活動の指導を行うからこそ,知的障害児や自閉症児が苦手とされることであっても,学校の授業を通してコミュニケーション力が楽しく,確実に育つのだと考えます。
本書を監修するにあたって,あたらめて知的障害児や自閉症児の多様性と授業時の細やかな配慮の必要性を感じました。多様な子どもを集団で指導するためには,「この活動をやっていれば育つ」というような魔法の教材はないと思います。極端に言えば,活動例は教師と子どもの数だけ存在するのであり,「どのような活動をすれば子どもが楽しく授業に参加できるか」という点は,それぞれの現場にゆだねるしかないかもしれません。
しかし,授業づくりには外してはならない「教育的な視点」というものがあります。本書で言えば,それが教師の思考過程であり,授業展開上の細やかな配慮や工夫なのですが,こうした視点は,現場の教師が現場で活用することができるようにと苦心してまとめあげた本だからこそ見えてくるものだと思います。本書を通して,こうした授業づくりのエッセンスを多くの先生方に感じてもらえたなら望外の喜びです。
本書を作成するにあたり,多くの方のご協力をいただきました。特に,実践事例を提供してくださった茨城県の特別支援学校の先生方には深く感謝申し上げます。また,本書の刊行にあたり,明治図書出版編集部の佐藤智恵さんには多大なご支援をいただきました。ここに,感謝申し上げます。
監修者として /新井 英靖
読みやすい。