- はじめに
- 第1章 授業目標を考えるツボ キャリア発達を意味づける
- 1 人は一生発達し続ける
- 2 人はこの世で果たすべき役割をもって生まれてくる
- 3 人はなりたい自分に近づいていく
- 4 人はみんな違ってみんないい
- 第2章 授業計画を考えるツボ キャリア発達を方向づける
- 1 「何を」「なぜ」の視点で見直そう
- 2 「気づく」「悩む」「考える」の視点で見直そう
- 3 「変化」「変更」の視点で見直そう
- 4 「基礎的・汎用的能力」の視点で見直そう
- 第3章 授業内容を考えるツボ キャリア発達を位置づける
- 1 キャリア発達を支援する「国語」の授業
- 2 キャリア発達を支援する「算数」「数学」の授業
- 3 キャリア発達を支援する「生活」の授業
- 4 キャリア発達を支援する「社会」「理科」の授業
- 5 キャリア発達を支援する「音楽」の授業
- 6 キャリア発達を支援する「図画工作」「美術」の授業
- 7 キャリア発達を支援する「体育」「保健体育」の授業
- 8 キャリア発達を支援する「職業・家庭」の授業
- 9 キャリア発達を支援する「情報」「外国語」の授業
- 第4章 授業評価を考えるツボ キャリア発達を価値づける
- 1 キャリア発達を自覚する
- 2 キャリア発達を評価する
- 3 キャリア発達を次につなげる
- 参考文献
- おわりに
- COLUMN
- 個人因子と環境因子
- バリアフリー
- ユニバーサルデザインとインクルージョン
- コンピテンシー〜秘められた能力〜
- 構造化
- 作業学習
- 指示待ち人間
- 聖者の行進
- 就職率と法定雇用率
- 「学校」という事業所
はじめに
さて,いきなり皆さんに問題です。次の文は正しいでしょうか。
@ 「キャリア教育とは,一人ひとりの自立と社会参加に向けて,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」
A 「キャリア発達とは,人や社会とのかかわりあいの中で,さまざまな役割を果たしながら自分らしい豊かな人生を歩んでいく過程」
これが教員採用試験ならば,両方とも「誤り」とされます。中央教育審議会答申の定義と一字一句同じではないからです。でもどこが違っているのか迷いますし,特別支援教育の場合はむしろ内容的に正しいのではないかと思わせてしまいます。
定義なんてそんなものです。もとをただせば誰かが人為的に作文したものにすぎないからです。だからそれを一字一句正確に覚えるのに時間と労力を取られるより,日々の授業実践に力を注ぐ方が,よほど子どもにとっても支援者にとっても「豊かな時間」になるはずです。
拙著『みんなのライフキャリア教育』の中でも,各地でお話する中でも,私は文章よりもイメージ図を多用して,ライフキャリアを育む重要性について説明してきました。現行の学習指導要領には何の定めもない「キャリア教育」に,あえて自分たちで縛りをつける必要はなく,イメージさえあれば十分実践できるのです。
キャリア教育は,新たに何かを始めるということではなく,普段の授業や行事などにおいて,これまでやってきた内容を「キャリア教育の視点」で見直してみる授業改善の1つの方法です。
「キャリア教育の視点」と言うと,すぐに「働く力(ワークキャリア)」を思い浮かべてしまいますが,児童生徒たちの将来で最も必要なものは,「生きる力(ライフキャリア)」であることは言うまでもありません。ICFで言う「活動」「参加」は,「働く力」だけでは達成されず,「暮らす力」「楽しむ力」が基盤にあってこそ,地域での豊かな人生を送っていけます。
そういう目で見ていくと,普段何気なく行われてきた授業や行事の中にも,児童生徒たちにとって将来「生きる力」になりそうな要素は,実にたくさん含まれていることに気づかれるでしょう。キャリア教育とは,教師がそれを意識して取り上げて,児童生徒に「生きる力」を意識的に学ばせていく教育だと言うことができます。
と同時に,キャリア教育は学校独自で行うものではなく,家庭や地域を巻き込んで,そこで「生きる力」の定着や応用を図っていくものだと言えます。つまり学校が丸抱えで教えていくのではなく,学校はきっかけだけを与え,家庭や地域において,日々の生活の中で実際に使えるかどうかを見守っていくことが,将来につなげる大事なポイントになってくるのです。
こうして今の授業を点検していくと,「生きる力」を育む「ライフキャリア教育」のイメージがおぼろげながらついてきます。確かにそれだけでも「必要条件」は満たしていますが,さらに「十分条件」を満たすには,やはり,一つひとつの授業や単元でバラバラに「ライフキャリア教育」に取り組むのではなく,教科としてのまとまりで考えていくと,それがやがて小学部・中学部・高等部の一貫性へと発展していきます。つまり全校で「キャリア教育」に取り組んでいけば,「何を」「どの教科で」「どの学部で」やれば児童生徒の発達を促すうえで効果的かが,ある程度見えてきます。
その際にしっかり押さえておきたいのが「キャリア発達を支援する」というキーワードです。人は,死の直前までさまざまな役割を果たし,さまざまな経験を積み上げながら成長していきます。「人や社会の役に立つ(貢献する)」ということがどういうことなのかを改めて問うことで,重症心身障害児・者や認知症の方々の「役割」や「キャリア発達」を考えるきっかけにしていただければ幸いです。
本書は,拙著『みんなのライフキャリア教育』の続編として,各論である日々の授業実践にすぐに使えるような視点や具体的な取り組みをたくさん紹介しました。それも「合わせた指導」ではなく,昨今の特別支援教育の流れである「教科学習」における「ライフキャリア教育」という構成にしました。また質問が多い「基礎的・汎用的能力」についても触れました。
昨今は,キャリア教育の書籍が次々出版されています。それだけ関心が高いというか,わからないことが多い分野なのだと思います。他書と比べ私の本は「ライフキャリア」ということを前面に出したまったく違う切り口なので,戸惑われる方々も多いと思いますが,私は「夢や希望」よりもまず「親亡き後」「有事の際」を想定した「生きる力の育成」をいの一番に考えることこそが,特別支援教育におけるキャリア教育であると信じてやみません。
/渡邉 昭宏
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- 明治図書
- キャリア教育が、重度の知的障害がある子どもにも当てはまる。考え方が変わる本。教科の基礎を捉え直すことができるから、結局は、根本を考えることができ、様々な発達障害児や障害がない子どもにもヒントとなる。2015/11/2730代・男性