- 第1章 なぜ,あなたの仕事が成果に結びつかないのか
- 1 いろいろ勉強してきたけれど
- 2 仕事の成功は
- 3 「経営なき教育」の展開
- 4 学級崩壊は誰のせい?
- 5 学級経営の実践的な問題
- 第2章 新学習指導要領と学級経営
- 1 新学習指導要領における学級経営の位置づけ
- 2 アクティブ・ラーニング,ホンモノとニセモノ
- 3 なぜ,ALなのか?
- 4 社会に開かれた教育課程のなかで
- 5 新学習指導要領の本旨
- 6 幸せを創造する力を発動するもの
- 7 変化の時代を生きる力
- 第3章 資質・能力の中核
- 1 確かな学力の優先順位
- 2 「ややこしい」身に付けたい力
- 3 子どもたちの未来に関心をもっているか
- 4 ALと学級経営
- 5 教科の専門性とは
- 6 ALを阻害する「部分最適」という病
- 7 曖昧さと決別する学級経営
- 8 学級経営で身に付けるべき資質・能力
- 9 学級経営力とは?
- 第4章 協働的問題解決能力を育てる学級経営
- 1 子どもたちの人生のダメージ
- 2 問題解決型学級経営のゴールイメージ
- 3 問題解決型学級経営のプロセスイメージ
- 4 リーダーシップの変換
- 5 あなたの指導力を左右する信頼の優先順位
- 6 子ども同士の信頼関係は「しつけ」から
- 7 協働は万能に非ず
- 8 教師が何もしなくていいようになるためには,教えるべきことがある
- 9 協働的問題解決能力を育てる活動
- 10 問題解決型学級経営のロマンとリアル
はじめに
先日,ある自治体の教育委員会の学力向上担当班の責任者と話しました。「学力向上の秘訣は何ですか。」と問うと,彼は,
「学級経営です。」と即答しました。
数多くの学校を訪問し,学力向上に関する指導をしている専門家が,迷わず導き出した答えがこれです。学力向上の基盤は学級経営だと認識している教師は数多くいます。私が訪れる学校の校長先生方は,「学校教育の基盤は学級経営である」と断言します。
それにもかかわらず,現在の教員養成課程には学級経営という専門科目はありません。必修ではないのです。その結果,多くの新人教師が幾ばくかの授業方法や指導案の書き方を学んだだけで教壇に立つことになります。教職は,この高度に複雑化したニーズをもった社会でインターン期間も見習い期間もなく,
いきなり最前線に立たされる極めて特殊な仕事です。
「初任者研修があるではないか」と言われるかもしれませんが,子どもたちや保護者にとって学級担任になったら新人もベテランも関係ありません。メンターシステムや副担任制度によって,見習いのような経験をすることができる初任者もいますが,新人が激増する昨今ではそれは一部です。
学級経営において共通事項を学んでいないことは,学校経営にも少なからず支障をきたします。ある教室では,教師の号令一下で規律訓練型の教育をしているかと思うと,その隣では子どもたちの自主性を尊重する教育をしています。一人一人の教師によって,学級経営観が全く違うわけです。これでは,子どもたちも保護者も戸惑います。両者が同じ学年を組んだりすると,対立や不協和音が起こることがあります。
学級経営をせずに教科書の内容を教えることは,畑を耕さずに種をまいて放置するようなものです。種が芽を出し,育ち,花を咲かせるには,それなりの環境をつくらねばなりません。しかし,現在の教員養成では種をまくことだけを学んで,教師になるのです。
しかし,新学習指導要領では,小・中・高を通じた「学級経営の充実」を掲げ,そこで身に付ける能力や道筋にまで言及しました。その中核となる能力が,協働的問題解決能力です。簡単に言えば,他者と力を合わせて問題を処理する力です。「なんだそんなことか」と思うかもしれませんが,これから大きく変わる社会で,この能力は子どもたちの未来を拓く力となります。
現在の学校教育は,この協働的問題解決能力を育てているのでしょうか。あるお父さんから,次のようなお話をお聞きしました。「ちょっと大変な地域」から,「学力向上」に力を入れる地域に転校してきた小学5年生の娘さんとお父さんが,次のような会話をしたそうです。
娘「ねえ,お父さん,ここの学校の子どもたちは,凄いんだよ。みんなエリートなんだよ。」
父「どうして,そう思ったの。」
娘「だってね,この前,算数のテストがあったんだけど,みんな満点なんだよ。びっくりした。」
父「そうかい,よかったね。〇〇(娘の名)も,苦手な算数ができるようになるかもしれないね。」
娘「うん……でも〜。」
父「どうしたんだい?」
娘「ここの学校の人たちは,トラブルが起こっても自分たちで解決できないんだよ。」
父「みんな,どうしているの?」
娘「先生が来るまでな〜んにもしないの。面白いでしょ。」
この小学校の子どもたちは,確かにテストの成績はよいのかもしれません。
しかし,どんなに高い点数を取ることができても,自分たちの身の回りの問題を解決しようとはしないのです。それで,本当に生きる力を育てていると言えるのでしょうか。
本書は,新学習指導要領に準拠しながら,子どもたちがこれからをたくましく生きるために必要な資質・能力を育てるための学級経営のあり方を示しました。第1章では,先ずみなさんの努力を成果に結びつけるために何に重点を置くべきかを考察しました。ここを踏まえておかないと学級経営すら「種まきのみ」になってしまう恐れがあるからです。また,第2章,第3章では,新学習指導要領における学級経営とそれを可能にする学級経営力とは何かに迫りました。そして,第4章では,協働的問題解決能力を育成する学級経営の具体策を示しました。
本書が,「授業づくりと学級経営,どちらが大事か」といった不毛な二項対立を越えて,子どもたちに明るい未来を示す教育を実現するきっかけになれば,これに勝る幸せはありません。
/赤坂 真二
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