- はじめに
- 第1章 教師が子どものつまずきを生み出さないために
- 01 子どもの学び方には個性がある
- 02 教師が「子どものつまずき」を生み出している
- 03 「子どものつまずき」を生み出さないために
- 04 子どもを根拠にすることで「罠」をとりのぞく
- 05 「パラダイムシフト」で「罠」をとりのぞく
- 06 「見えない真実」に着目して「罠」をとりのぞく
- 第2章 子どものつまずきを生み出す「罠」
- 01 「パラダイム」という罠
- 国語 漢字の止め・はね・はらい指導と評価
- 02 「教師のこだわり」という罠
- 国語 漢字の筆順指導
- 03 「教師の都合」という罠
- 国語 全員の前での発表
- 04 「教師の自己満足」という罠
- 算数 文章題の一斉音読
- 05 「教師の思い込み」という罠
- 算数 みんなできる!
- 06 「教師の感覚」という罠
- 社会 新聞づくりのみでの評価
- 07 「深める」という罠
- 社会 抽象表現で見えなくなる指導と評価
- 08 「学習活動の楽しさ」という罠
- 理科 実験
- 09 「教師の普通」という罠
- 図工 教師の価値観や経験の押しつけ
- 10 「平等なテスト」という罠
- 音楽 全員の前で歌うテスト
- 11 「体育の楽しさ」という罠
- 体育 得意な子だけが活躍する授業
- 12 「スポーツ」という罠
- 体育 指導事項そっちのけの競技
- 13 「心情を追う」という罠
- 道徳 指導すべき内容項目
- 14 「教師の体験」という罠
- 外国語 トレーニングではなく,コミュニケーション
- 15 「学級遊び」という罠
- 学級目標の達成
- 16 「ほめる」という罠
- 行動の価値づけ
- 17 「元気が良い挨拶」という罠
- 相手を思う気持ち
- 18 「学級リーダー」という罠
- 学級ヒエラルキーの形成
- 19 「ルール」という罠
- 指導の押しつけ
- 20 「みんなのルール」という罠
- きまりは,誰の何のためか
- 21 「そろえる」という罠
- そろわず,生まれる排除
- 22 「特別扱いしない」という罠
- 合理的配慮
- 23 「インクルーシブ教育」という罠
- 共生社会
- 24 「学校」という罠
- 不登校
- Column 身につけておきたい教師のスキル
- @ 聞くスキル
- A 感情のコントロールを教えるスキル
- おわりに
はじめに
「昔のようにはいかない」そんな言葉を最近はよく耳にします。
時代が変わっているのですから当然です。
30年くらい前。小学生だった私は,校内に設置されたパソコン教室に移動し,お絵描きや簡単な文書作成などの体験をしました。しかし,週に1回利用できれば良い方で,実際は1か月に,あるいは数か月に1回使う程度でした。さらに,1台のパソコンを複数人が交代で利用していたと記憶しています。でも,令和の今は,1人1台の学習用端末が用意され,いつでも,どこでも,誰でも利用できるようになっています。
他にも,30年前とは随分違う教育環境になっているものがたくさんあるはずです。
その一方で,30年間変わっていないこともたくさんあります。例えば,教室では,大勢の子どもたちが黒板の方向を見て,一斉授業が展開されています。黒板を使っていること自体も変わっていないのかもしれません。
儀式かのような授業前後の号令。新聞づくりでの評価。全員の前で行われる歌のテスト。今,教師として指導していることが,30年前に子どもとして指導を受けたことをなぞってしまっていないでしょうか。
「昔のようにはいかない」と言いつつも,同じ方法で指導していないでしょうか。そもそも,子どもの実態が全く違うのに,過去の経験をあてはめて,都合の良い解釈で子どもを理解し,教師にとって都合の良い方法で指導してしまっていないでしょうか。
こうした状況は,決して教師自身が意図して招いているものではないでしょうし,悪意など全くありません。教師が自身の経験から,良いと感じたものを,良かれと思って行っている指導なのです。でも,結果として子どもの学びにくさを生んでしまっている状況があります。これが私の言う「罠」なのです。教師が意図せずはまる「罠」により,教師自身が子どものつまずきを生み出してしまう。そのような本末転倒な状況が,今あるのです。
本書は,こうした教師がはまる「罠」について解説しながら,子どものつまずきを生み出さないようにする,これまでとは違った視点から教育をユニバーサルデザイン化することについて解説していきます。
第1章では,教師がはまる「罠」によって,子どもがつまずいていることについて解説し,教師が「罠」にはまらないようにするには,どうしたら良いのか提案していきます。
第2章では,具体的な場面を想定しながら,どのような「罠」にはまってしまうのか。そして,子どものつまずきを防ぐためには,どうすれば良いのか,具体例を提案していきます。
本書で紹介する事例は,あくまでも私の知る範囲で出合ってきた「罠」であり,学校現場に潜む「罠」の一部に過ぎないでしょう。あるいは,すでに「罠」にはまらないように,時代に合わせて,学習指導要領に合わせて,子どもに合わせて教育活動を進めている教師はたくさんいるでしょう。
本書では,意識して教育活動を進めていただくために,あえて「罠」という表現を使いました。教師の都合ではなく,目の前の子どもたちのために,もう一度これまでの指導を問い直し,子どもにとって最適な教育活動を進めていただきたいです。
著者 /上條 大志
研修などで取り上げれば、学校は大きく前に進めると思います。