- まえがき
- 1章 初任者指導のグランドデザイン
- 01 初任者指導のグランドデザイン
- 02 フレームづくり
- 03 方向づけとその調整
- 04 タイプ別の指導・支援
- 05 学期ごとのリフレクション
- 2章 まずはここから「初期の指導」
- 01 初任者を迎える初日
- 02 子どもたちが来る前にすること
- 03 学級についての指導
- 04 仕事の全体像と初任者の心構えを示す
- 05 「困った」「助けて」「わからない」
- 06 週案を立てる
- 07 掲示のアイデアを示す
- 08 参観日や学級懇談の計画を立てる
- 09 雑仕事・事務的な仕事の捌き方を教える
- 10 リフレクションの在り方と方法を考える
- 11 社会人としての心構えを伝える
- 12 学校はつながり合って成り立っていることを教える
- 13 他の教員とどのようにつながっていけばいいのか
- 3章 授業のつくり方と関係づくりの指導
- 01 授業のつくり方@〜授業とは何か〜
- 02 授業のつくり方A〜授業研究〜
- 03 フィードバックの基本
- 04 基礎的な授業の技術を教える
- 05 学習規律と学習技能
- 06 話し方・声の出し方を指導する
- 07 「立ち位置」の指導をする
- 08 研究授業を一緒につくる
- 09 子どもとの関係づくりをアドバイスする
- 10 保護者との関係づくりをアドバイスする
- 4章 成長を促す中期の指導,未来へつなぐ後期の指導
- 01 アセスメント
- 02 「現在地」の確認〜そして,必要な情報を提示する〜
- 03 職員との関係性を見直す
- 04 校務分掌の仕事を教える
- 05 サポートとフォローをする
- 06 もし初任者が休み始めたら
- 07 授業に入る
- 08 合理性と距離感をもつ
- 09 それぞれの後期の指導
- 10 徐々に手放す・3年間で考える
- 5章 初任者指導担当としての在り方
- 01 初任者が成長するために一番大事なこと
- 02 指導者の仕事への取り組み方が影響を与える
- 03 「できる範囲」はある
- 04 初任者指導担当の立ち位置と管理職との情報共有
- 05 距離感を考える
- 06 すべてを教える
- あとがき
まえがき
うまくいかなくて当たり前
この本を手に取られた方の多くは,初任者指導担当の先生でしょう。
あれこれ教えなければとわくわくしている人もいれば,何を教えたらいいんだろうと不安に思っている方もいるかもしれません。
最初に言っておきたいのは,うまくいかなくて当たり前だと考えましょう。
学級経営がそうであるように,「人を相手にする」という仕事は,そもそも自分の思うように進むわけはありませんし,進んでもいけません。
何よりも,初任者は「あなた」ではありません。
これから先,どんどん「教師」という仕事の形が変わっていく中,あなたのような先生になることが,幸せな教師生活を送ることにつながるとは限りません。
何より初任者といっても,その人は,少なくとも二十数年生きてきた中で,いろいろなことを経験したり,考えたりしてきた一人の自立した人間です。
「その人」にとって,今必要なこと,そして将来的に必要なことは多くの場合それぞれ異なるでしょう。
そもそも「なりたい先生像」なんて,異なって当たり前です。
(将来的に変わることがあるとしても)「そのときになりたい」先生像は多くの場合,あなたが望んでいる先生像とは異なっているはずです。
そのどちらの「先生像」も間違いではありません。あなたが望んでいる理想像は正しく,そして初任の先生の理想像も,きっと正しいのです。
だから,まずは,その先生の理想像を共有しながら進めていくことからスタートすることが大切です。
ただ,「現実」は多くの場合,初任者の最初の理想像を描くことができるほど現場は甘くありません。
学校の「現実」に深く関わりながら,何年も過ごしてきた初任者指導の先生から見ると,「そうではない」「そうするとうまくいかない」ということもあるでしょう。
その一方で,これまで培ってきた先生の経験や知識が,これから先の未来を生きる先生のためになるのか,そして通用するかはわかりません。
ある程度の見通しをもちながらも,初任者指導担当と初任者が二人で一緒に「模索すること」が,ただ1つの正解なのだと思います。
ある程度必要な指導ができ,ある程度学級がスムーズに運営できる。
1年限りで考えると,そのようにいくかどうかは,その初任者に「与えられた環境」と初任の先生の「パーソナリティ」に依るところが大きいでしょう。
指導を受け入れやすい先生,指導を受け入れづらい先生。
それだけでも,ずいぶん結果が異なります。
ただ,数年先を考えると,何でもかんでも受け入れすぎる先生が,必ずしも後々「力のある先生」になるとは限りませんし,その一方で指導が入りづらい先生の中でも自立心と研究意欲が旺盛で「力のある先生」になることも,決して少なくありません。
「うまくいった初任者指導」が本当にうまくいった初任者指導だったのか,「うまくいかなかった初任者指導」が本当にうまくいかなかった初任者指導なのかは,何年か年数を重ね,初任者が初任者でなくなり,いくつかの学校を経験してからでないとわかりません。
つまり,長い目で見たときに「確実にうまくいった初任者指導」なんていうものは,無いのかもしれません。
そう考えてみると,そもそも「そんなにうまくいかなくても大丈夫」「うまくいかなくて当たり前」だと考えた方が少し気を楽にして進められるでしょう。
初任者をとりまく状況は様々です。
だからこそ,初任者の全てに責任をもつことは不可能です。
その一方で初任者指導だからできることも非常にたくさんあります。
初任者指導として,どうしてもしないといけないことは,針金でつくった細い骨組みのようなものです。
そして,可能ならばそこにできるだけたくさんの肉付けを行い,血を通わせるように指導していくことで,その初任者にとって(そのときは役に立たなくても)価値を積み重ねていくことができます。
本書では私自身がいろんな形で初任者に関わり,うまくいったこと,逆にうまくいかなかったことや,これまで初任者を担当された先生方の指導を参考にしてその骨組みと肉付けについて書きました。
幸いなことに,ある年,私自身も初任者指導担当として仕事をすることができました。
十分な指導ができたとは言えませんが,それでも実際に経験したからこそ,年間を見通した指導の在り方の一例は提示できるかもしれないと考え,本書を書くに至りました。
この本を読んで,この程度やればいいのかと感じていただければ,それはそれでよいことだと思います。その一方でこんなにできないと感じられれば,自分なりに必要なことだけをしていただくことが,もしかしてそのときの状況では「ちょうどよい」のかもしれません。
本書では,都道府県ごとの初任者研修の在り方の違いはあるにせよ,初任者指導そのものの捉え方や考え方,そして具体的な方策を提案しようと考えました。
基本的には,私が行ったことを書いていますが,うまくいかなかったこと,もしかしたらできていなかったこともいくつもあり,悩みながら,もがきながら行ってきたことを少し思い出します。
みなさんも同じように,うまくいかなかったり,悩んだりすることもあるでしょう。
しかし,そうやって悩みながら進んでいくことにこそ価値があると考え,それも含めて楽しんで初任者指導に関わってくだされば本望です。
書きながら,終始頭に思い浮かんでいた言葉があります。
「教室と職員室は地続き」
教室で子どもを高圧的管理的に指導することは,現代の子どもたちに「合わない」と感じることが多くなりました。
現代型の「学級経営」は,子どもたちの様子をよく観察し,子どもたちと対話し,子どもたちに合わせて「学習」や「活動」を提示していきます。
「初任者指導の本」を書いているつもりが,いつの間にか「学級経営の本」を書いている錯覚にとらわれることがなんどかありました。
初任者指導もそのような学級経営の在り方とよく似ています。
もしかしたら,この本を通してそのような学級経営の在り方についても,何らかのヒントを示すことができているかもしれません。
そう考えると,初任者指導そのものが,自分の学級経営を見直し,子どもたちへの接し方を見直し,仕事への取り組み方を見直す大きなチャンスであるとも言えるでしょう。
また,私自身がそうだったように,指導しているようで,実は「指導していただいている」と感じられる方もおられるかもしれません。
初任者指導という経験そのものに価値があると私は考えています。
さて,いよいよ「初任者指導担当」としての1年が始まります。
この本を手に取られる多くの初任者指導担当にとって,そして,その前にいる初任者にとって,さらに言えばその初任者がこれから幸せにしていく子どもたちにとって,この本がわずかでもお役に立つことができれば幸いです。
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- 明治図書