- 『楽しい社会科授業づくり入門』復刻版に寄せて
- まえがき
- 1章 社会科でこんな子どもを育てたい
- 1 子どもらしい見方考え方をする子ども
- 2 執ような追究をする子ども
- 2章 社会科を好きにするポイント
- 1 おもしろい教材で学習の楽しさを体験させる
- 2 多様な学習活動で学習の楽しさを味わわせる
- 3 学習意欲を喚起する教師の雰囲気
- 3章 社会科授業を活性化するには
- 1 学級づくりと社会科の授業
- (1)学級づくりは雰囲気づくりから
- (2)すべての教育活動を学級づくりに集約
- 2 子どもの求める授業と教師のあこがれ
- (1)子どもの求める授業
- (2)教師があこがれをもっているか
- 3 楽しい授業構成のポイント
- (1)授業はネタのよしあしできまる
- (2)身近なところにネタをさがす
- 4章 社会科を活性化する教材研究の方法
- 1 教材研究のしかた
- (1)材料七分に腕三分
- (2)教材をどうとらえるべきか
- (3)どのように教材研究すべきか
- 2 教材開発のポイント
- (1)開発のヒントになるものを幅広く求める
- (2)ヒントをすぐに役立てない
- (3)六年分の教材さがしをする
- (4)旅行や出張先で取材する
- 3 おもしろい教材開発例と指導
- (1)子どもの作文で「家族」の追究
- (2)ケント紙一枚で切実な問題をもたせる
- (3)「統計資料」で問いを掘りおこす
- 4 もう一つの教材研究
- (1)二つの教材研究
- (2)「さとうきび」の教材化研究
- (3)授業を通しての教材研究
- 5章 学習活動を活性化するポイント
- 1 合科・総合的な指導のポイント
- (1)考えさせられたこと
- (2)単元「あくしゅをしよう」の展開
- 2 見学・調査活動を効果的にするポイント
- (1)東京二三区内に牧場はあるか
- (2)うなぎのねどこ鋼業地帯
- (3)巨大パンで導入
- 3 構成活動をごっこ活動にドッキング
- (1)ごっこ活動の意義
- (2)構成活動で考える場をつくる
- (3)ごっこ活動で拮抗場面をつくる
- 4 思考を深める指導のポイント
- (1)元寇の授業
- (2)長篠の戦の絵の見方を深める
- 5 調べ方をきたえるポイント
- (1)どんな教材で「調べ方」を学ばせるか
- (2)どのように調べさせたらよいか
- (3)資料での調べ方をきたえる
- 6章 社会科研究のポイント
- 1 取材のしかた
- (1)何をどう取材すべきか
- (2)百聞は一見にしかず
- 2 わが師・子どもの声を聞く
『楽しい社会科授業づくり入門』復刻版に寄せて
教師も社会科好きになる一冊!
岩手県奥州市立水沢小学校 /佐藤 正寿
本書が発刊された昭和六〇年に私は岩手県の小学校教員になった。同期の初任者仲間から、「筑波大学附属小学校(当時)の有田和正先生の本はおもしろい」と勧められ、その友達から借りて読んだ本が、この『楽しい社会科授業づくり入門』(原題『社会科の活性化』)である。社会科関係の本といえば、「難しいもの」と思っていた当時の自分にとっては読みやすく、しかも「このような楽しい社会科授業をしてみたい!」と意欲をかきたてられた。
すぐに有田先生の著書を次々に読み始め、本に書かれている実践を追試していった。子どもたちがなかなか意欲を示さなかった自分の授業が、少しずつ変わってきた実感を覚えた。
何冊も著書を読んでいくうちに、やがて「やはり有田先生の実際の授業を見てみたい!」という思いをもつようになった。教師三年目の二月の研究会に参加できるというチャンスがめぐってきた。当時大人気の有田先生の授業には、全国から数百名にのぼる参加者が集まった。会場は有田先生の授業への期待感で満ちあふれていた。
公開されたのは、三年生の「町のうつりかわり」の授業。授業開始から、子どもたちの熱気ある発表ぶりに圧倒された。有田先生が問いを発するたびに、子どもたちが自分の調べたことをもとに次々と自説を主張する。この「きたえられた有田学級の子どもたち」が私の理想の学級像となった。
本書には、そのときの「町のうつりかわり」の教材研究のエピソードが書かれていた(ただし、はじめての実践は昭和五七年)。その教材化の過程について有田先生は次のように述べている。
「こちらに求める心があり、問題意識があると、いろんなものがひっかかってくる。下地ができているところに、新しいヒントがみつかるとパッと火がつき、一気に教材にしあがることもある。(本書九五頁)」
このときの「町のうつりかわり」も、本の一節から問題意識をもってあたためておき、ちょっとした話から調べたものだった。関連図書は三一冊に及び、実際の墓地や刑場跡等も八カ所以上、事前にフィールドワークをしている。この教材研究の徹底ぶり。まさに有田先生自身が「追究の鬼」になって教材開発していることがわかる。
このようにして開発された多くの有田先生の実践群。本書には有田実践の代表的なものが紹介されている。「あくしゅをしよう」「わたしのかぞくは十二人」「ケント紙のポスト」「富士山の見えた日」「曲がったさとうきび」「東京二三区内に牧場はあるか」「元寇」……その頃、有田先生の実践を夢中で追いかけていた教師にとっては、「ああ、あの実践」とすぐに思い浮かべることができるものばかりである。
特に有名なポストの実践は圧巻だ。ケント紙一枚を子どもたちに提示して、「これでポストをつくりたいのだが、どうだろう」と投げかける。子どもたちは「だめ、だめ」と強く否定し、子どもたちはポストが鉄でなければいけない理由を主張する。さらに、投函口のことや取り出し口、郵便マークでゆさぶりをかけると、子どもたちは自分たちがわからないことが多いことに気づく。必然的に「ポストを見なければ!」という思いになる。
この授業で有田先生が準備したのは、ケント紙一枚。そして、大事なことは教えていない。ひたすら、子どもたちをゆさぶり続けている。まさに「名人の授業」である。子どもたちが社会科好きにならないわけはない。
実際に、有田学級の子どもたちがいかに社会科が好きだったか、本書の作文に表れている。六年生の子どもたちは次のように書いている。
〇有田先生の授業は、考えすぎっていいまでに、いろいろな考えをださせてくれる。
〇結論としては、有田先生の授業はとにかく面白い。有田先生は教室の金を払わせないエンターティナーだ。
これらの作文には、有田先生の授業観が子どもたちにストレートに反映されている。むろん、「一つの問題について長くやりすぎ」「意見が拮抗したとき公平に対処しろ」といった容赦のない声(こういう声が出てくるのもきたえている証拠である)も出ているが、それに対してもしっかりと聞いて、次の授業構想を練るのに役立てているという。小見出しにある有田先生の「わが師・子どもの声を聞く」という姿勢がそこに貫かれている。教師なら誰しもまねしたい真摯な姿勢だ。
「まえがき」で、有田先生は「社会科を活性化し、授業に熱気をもたせるには、社会科を好きにすることが第一である」と書いている。本書には、魅力ある社会科の授業づくりとそのための教材研究のエキスが詰まっている。
それは、子どものみならず、教師も社会科好きになる道である。本書の復刻により、「社会科が好き!」という教師が増えるであろう。そして、全国の教室で熱気のある社会科授業が展開されることを願いたい。
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- 明治図書
- こんな子どもを育てるためにこんな授業をしていきたいと参考になるだけでなく、先生の熱意から力や勇気をもらいました。2020/5/1540代・小学校管理職
- 社会科授業づくりの基礎基本や考え方が丁寧に書かれていてわかりやすかった。2016/11/2120代社会科教員