- はじめに
- 第1章 「反論の技術」とは
- 第1節 『反論の技術』の歴史
- 1 『反論の技術』が出版された時代背景
- 2 論証型反論とは? 反論の二つの型
- 3 当時、求められた学力
- 4 一般的な「反論」と「反論の技術」の違い(定義)
- 5 「反論の技術」の必然性
- 第2節 「反論の技術」の有効性
- 1 反論の効果について
- 2 現在求められている学力
- 3 「反論の技術」で主体的・対話的で深い学びを達成する
- 4 反論は主体的な学びを育てる
- 5 反論は対話的な学びを育てる
- 6 反論は深い学びを保障する
- 第3節 「反論の技術」の訓練例
- 1 反論の訓練に必要な条件
- 2 訓練例・教材文の提示
- 3 訓練例・反論の仕方の説明
- 4 反論の訓練で学ぶ言語技術
- 第2章 「反論の技術」を取り入れた授業のつくり方
- 第1節 教材文の選択
- 1 教材文の条件
- 2 教材文の選択
- 第2節 必要な文章構成
- 1 主張を支える理由の必要性
- 2 教材文の分析(理由と主張の確認)
- 3 理由に対して反論を考える
- 4 反論の文章の型
- 5 反論の文章例
- 第3節 指導すべき表現方法及び言語事項
- 第3章 小学校低学年の授業例
- 第1節 「教材文の選び方」について
- 1 低学年の「反論の技術」のねらい
- 2 話の型の必要性
- 3 訓練の基本方針
- 第2節 教材文の選択
- 1 教材文の条件に合った教材
- 2 授業のポイント 教科書の教材文と比較しながら自分の発表原稿を作ろう
- 第3節 テーマの確認とテーマに沿った単元計画
- 1 本節のねらい
- 2 よい話し手とよい聞き手になるための授業例
- 第4節 授業の実際
- 1 反論の授業
- 第4章 小学校中学年の授業例
- 第1節 「反論は立論を強化する」とは
- 1 中学年の「反論の技術」のねらい
- 2 反論の効果(立論の強化とは)
- 第2節 教材文の選択
- 1 テーマの条件に合った教材
- 2 予想される反論
- 第3節 テーマの確認とテーマに沿った単元計画
- 1 本節のねらい
- 2 立論の強化のための授業例
- 第4節 授業の実際
- 1 教材文の提示
- 2 反論の授業
- 第5章 小学校高学年の授業例
- 第1節 「反論の技術で物語の主題を読み取る」とは
- 1 高学年の「反論の技術」のねらい
- 2 反論の効果(文学的な文章の主題を題材にする効果)
- 第2節 教材文の選択
- 1 テーマの条件に合った教材
- 2 教材の実際
- 第3節 テーマの確認とテーマに沿った単元計画
- 1 本節のねらい
- 2 文学的教材の主題をとらえる授業の全体計画
- 第4節 授業の実際
- 1 教材文の提示
- 2 単元計画
- 3 本時の展開例
- 第6章 中学校の授業例
- 第1節 「反論を教える教師の能力」とは
- 1 中学校教育での「反論の技術」のねらい
- 2 「反論の技術」の訓練例 リライトと反論の文章の型を教えること
- 3 リライトの指導例
- 第2節 指導の実際
- 1 教材文の提示
- 2 教科書での指導例
- 第3節 「反論の技術」の応用 情報リテラシーへの「反論の技術」の活用
- 1 情報リテラシー教育の必要性
- 2 情報リテラシーの指導例
はじめに
本書は『国語教師のための「反論の技術」入門 論理的思考力を育成する学年別訓練法』とあるように「反論の技術」を習得することにより、児童生徒の論理的思考力を育成することをねらったものである。しかしながら文中でも述べているように本書で扱う反論は一般的な意味である「反論=相手の意見に対し言い返すこと」を意味しない。本書で述べる反論は宇都宮大学の教授だった香西秀信が一九九五年に著した『反論の技術―その意義と訓練方法―』で紹介されたものを基にしたものである。正確には「反論=相手の意見に対し言い返すこと」も本書の反論の範疇に含まれるが、香西の反論は「言い返すこと」だけではなく、それさえ習得できれば教室での議論指導は十分に達成できるとしている。
ここで本書の基になった『反論の技術』の著者である香西秀信(以下「はじめに」内のみ香西先生と表記。理由は後述)について触れておきたい。香西先生は一九五八年香川県に生まれ一九八七年に宇都宮大学教育学部に着任された。その教え子の末端にいたのが私である。当時、バブルの世を謳歌していた私(たち?)の泰平の眠りをさますほど、香西先生の授業は刺激に満ちたものであった。当時、議論指導のことなど何も分からず(当時の国語科は物語の詳細な読解が主流だった)、主張型反論(詳しくは本書参照)を繰り返していた私たちに論証を教え、話し方だけではなく作文指導まで網羅した授業は新鮮そのものだった。
それから卒業後、教職に就いてから私は様々な研究会に入ることができた。そして研究の成果として部分執筆した教育誌を近況報告も兼ねて香西先生に送っていたのだが、ある日、次のような手紙をいただいた。
「最近、よく本を送ってくるが、どういうつもりなのか。これを読んで私に勉強しろとでもいうつもりなのか」という怒りの表現(いつもの先生独特のジョークです)に始まり「このような部分執筆の本はいりません。だからもう送ってこないでよろしい。将来、あなたが全て書いた本が出たら、それを喜んでいただきましょう」と書かれていた。
今回、遅くなったが一冊の本に、しかも香西先生の著した『反論の技術』を基にしてまとめることができた。一般向けの記述が多かった香西先生の本とは違い、本書は小中学校の学年別に指導例をまとめたものである。どの指導例も私が該当する学年で実践したものであり、効果については自信があるが議論指導の授業に慣れていない子供たちもいるのでは、と思われる。その時はぜひ教師が教室の子供用に反論の訓練のための教材を自作していただきたい。本書のねらいに教師の議論指導の育成があるが、教材を自作できるような力がつけば自分の教える子供たちの実態から議論指導の意義、方法を理解し、批判的・論理的思考力を身に付ける指導法が確立できるはずだからだ。ここで批判的思考力というと否定的にとらえられることもあるが、それは間違いである。批判的思考力とは物事の本質を見極め、得た情報を自分なりに解釈しそれを発信することができる、情報社会の今に必須な能力である。自信を持って教室での議論指導に取り組んでいただきたい。
最後に本書は『実践国語研究』(明治図書)に二〇二二年から二〇二三年にかけて連載された「反論の技術を取り入れた国語授業づくり」を基にしたものである。今は亡き香西先生の学恩に報いることができた。
そして本書を通して「反論の技術」を取り入れた授業をする教室が増えてくれることを祈っている。
二〇二四年七月 /内田 仁志
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- 明治図書