- はじめに
- 1 子ども理解と楽しい学級づくり
- 1 子どもの願いを身体で受けとめよう
- 身体で語りかける
- 2 楽しい学びのトーンをつくろう
- 楽しい授業
- 3 授業を子どもの生活のストーリーと結びつけよう
- ストーリーのある授業
- 2 子どもの実態把握と授業の構想
- 4 子どもの実態把握ってどうするの?
- アセスメントと実態把握
- 5 学習しやすい教室環境はどのようにつくるの?
- アフォーダンス理論
- 6 子どもが主体的に学ぶ授業にするにはどうすればいい?
- 学習主体形成
- 7 授業の成果と子どもの成長をどこで見る?
- 最近接の発達領域
- 3 授業の目標設定と集団づくり
- 8 子どもに生きる力を育てよう
- 障害の改善と生きる力
- 9 すべての子どもが参加する授業とは?
- 全員参加の授業
- 10 集団の中で学び合う授業を展開するには?
- 集団の教育的効果
- 11 個人差を生かした授業づくり
- 個別化の原理
- 4 教材開発と授業づくり
- 12 学ぶ意欲を引き出す動機づくりとは?
- 外発的動機づけと内発的動機づけ
- 13 子どもに教えることを深く知ろう
- 教材文化と教材解釈
- 14 教材と教具の違いとその使い方
- 教材と教具
- 5 子どもが「わかる」を実感できる授業づくり
- 15 教師と子どもが主体となる授業をつくろう
- 授業における教授と学習(「教える」と「学ぶ」の統一)
- 16 集団の教育力が発揮される授業をつくろう
- 授業における陶冶と訓育(「1人で」と「みんなで」の統一)
- 17 繰り返しをとおしてわかる授業をつくろう
- 授業における認識と練習(「わかる」と「できる」の統一)
- 18 つながる授業をつくろう
- 「接続詞」のある授業(真理・真実の共有)
- 6 子どもが主体的に学べる指導方法
- 19 子どもが「やってみたい」と思う働きかけ
- 媒介的指導
- 20 授業の理解度を高める指示や説明の方法
- 教授行為としての「指さし」
- 21 「教える」のではなく「気づかせる」授業をしよう
- 「主体−主体関係」と「応答関係」
- 22 子どもが主体的に考える「発問」の方法
- 「質問」と「発問」の違い
- 23 子どもを「揺さぶり」ながら授業を進めよう
- 授業における「揺さぶり」
- 7 子どもが主体的に学べる授業展開
- 24 「つまずき」と「ずれ」から学ぶ授業を展開しよう
- 「ずれ」による創造
- 25 学習をガイドする板書とプリント
- コミュニケーション過程としての「板書」
- 26 子どもの学びを深めるチームティーチングとは?
- サブティーチャーとT2・T3
- 27 授業に「ヤマ場」をつくろう
- 授業における「ヤマ場」
- 8 授業の評価と授業改善
- 28 授業で子どもを「ほめる」とは?
- 指導的評価活動
- 29 一人ひとりの課題から見た授業づくりをしよう
- 授業改善とカリキュラム
- 30 授業をつくりだす授業研究をしよう
- 授業研究のすすめ
- おわりに
- 参考文献
はじめに
特別支援教育の制度が始まってからしばらくたちました。この制度を充実させるためには,特別支援学校,特別支援学級や通常の学級を問わず,子どもたちの学びの場である授業の質を高めることが大切です。
私たちは,子どもの成長を願い,授業づくりに臨みます。障害のある子どものためにいろいろな教材が工夫され,授業展開の技法が盛んに開発されてきました。しかし,期待するような成果を引き出すことがなかなかできないのも事実ではないでしょうか。つい「一般の授業方法とは異なった特別な方法でなければ対応できないのでは?」と不安になり,悩んだりします。そこで大切なのが「子どもを変えようと焦るのではなく,そもそも授業づくりの魅力は何だったのかに立ち帰る」――この姿勢だと考えます。この姿勢が,授業への不安をなくし,子どもたちとともに授業づくりに取り組むバネになるのではないでしょうか。
本書には,わが国の授業研究が大切にしてきた30のキーワードが示されています。いずれも初等・中等学校や学年段階,そして教科の違いを超えて,授業づくりに必要なキーワードです。授業づくりは,子ども理解や学級づくりと切り離して考えることはできません。また,教材文化の深まり,教師の働きかけの技術のあり方,子どもの主体性の意味,さらに学びの場である集団の意義など,授業づくりに必要なキーワードをもって,授業研究に取り組みたいものです。30のキーワードは,いずれもが研究者と実践者とが授業の場に立ち会い,「あの『発問』でクラスの子どもたちの目が輝き出したよ!!」「今日の先生の『揺さぶり』はどうも空振りに終わったね?!」などと毎日の職員室や校内の研究会で語られている言葉を大切にし,そこに授業づくりの論理を見つけようとして紡ぎ出されたものです。授業を外からただ評論するのではなく,日々の実践の悩みの中に理論をつかもうとする実践的研究者,そして理論をもって実践に取り組もうとする研究的実践者が対等の立場で授業をつくろうとしたからです。
今,特別支援教育の授業では,支援環境の整備で子どもたちが主体的に学ぶ場をつくろうとする傾向が多く見られます。環境の整備で子どもが活発に動いたという姿を大切にする,それは子どもの主体性を育む授業の出発にすぎません。30のキーワードは,主体性を育てる授業づくりとは何かを改めて問い直し,将来の生きる力の基盤となる授業をつくる手がかりになるものだと考えます。
本書を開いてみてください。Q&Aによって特別支援教育の授業をつくる上での悩みが示され,それに答える形で悩みを解決する手がかりが述べられています。この手がかりは,すぐに授業に使えるヒントになるものです。同時に,息長く授業づくりに取り組み,授業の専門性を高めるための視点です。多様な取り組みが求められる特別支援教育の現実に即して,新たなキーワードを創造していただくことが,この分野の発展につながるのだと考えます。
なお,本書は,わが国の授業研究をリードしてきた吉本均氏の教授学研究の論理(『授業をつくる教授学キーワード』明治図書,1986)から学び,それを特別支援教育の場でさらに発展させることを願って企画したものです。「私たち教師は,授業づくりのキーワードをもつ専門家なのだ」と常々語られていた吉本氏から直接教えを受けた私がつなぎ役となって,気鋭の研究者のお二人に新しい発想で企画を豊かにしていただきました。
実践的な指針が満載で,しかも教育方法学の理論に裏打ちされた本書をいつでも手にして,教室や学校で広く活用していただき,子どもたちや同僚の先生方とともに楽しく学びの場をつくるための一助となれば幸いです。
/湯浅 恭正
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- 明治図書