- はじめに
- 1章 生徒に伝えたい偉人の話で創る道徳授業
- 1 生徒に伝えたい偉人たち
- 2 憧れの生き方を知ることで生徒が変わる
- 3 本書で取り上げる偉人
- 4 偉人を扱った道徳授業のスタイルと留意点
- 2章 偉人の話で創る道徳授業プラン
- A 主として自分自身に関すること
- A−(3) 向上心,個性の伸長
- 世阿弥 教材名「一子相伝の芸と芸術論」
- A−(1) 自主,自律,自由と責任
- 福沢諭吉 教材名「諭吉先生の教え」
- A−(5) 真理の探究,創造
- 内村鑑三 教材名「『勇ましい高尚なる生涯』とは」
- A−(4) 希望と勇気,克己と強い意志
- 夏目漱石 教材名「牛になる」
- A−(4) 希望と勇気,克己と強い意志
- 吉野作造 教材名「理想の実現のために」
- A−(4) 希望と勇気,克己と強い意志
- 本田宗一郎 教材名「すべての無駄はつながっている」
- B 主として人との関わりに関すること
- B−(6) 思いやり,感謝
- 緒方洪庵 教材名「道のため,人のため」
- B−(6) 思いやり,感謝
- 田中正造 教材名「田中正造の正義」
- C 主として集団や社会との関わりに関すること
- C−(12) 社会参画,公共の精神
- 渋沢栄一 教材名「人間を辞職するわけにはいかん」
- C−(11) 公正,公平,社会正義
- 石井筆子 教材名「いばらの路でも」
- C−(18) 国際理解,国際貢献
- 新渡戸稲造 教材名「かけ橋として生きる」
- C−(17) 我が国の伝統と文化の尊重,国を愛する態度
- 岡倉天心 教材名「岡倉天心の生き方」
- C−(13) 勤労
- 松下幸之助 教材名「仕事は何のために」
- C−(18) 国際理解,国際貢献
- 緒方貞子 教材名「世界はつながっているのだから」
- D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること
- D−(19) 生命の尊さ
- 貝原益軒 教材名「自分のからだは自分だけのもの?」
- D−(22) よりよく生きる喜び
- 正岡子規 教材名「誰かこの苦を助けてくれるものはあるまいか」
- D−(19) 生命の尊さ
- 宮沢賢治 教材名「宮沢賢治の作品にみる自然と人間との関係」
- D−(19) 生命の尊さ
- 手恷。虫 教材名「『火の鳥 鳳凰編』にみる手恷。虫の生命観」
はじめに
道徳教育とは,「人生いかに生きるべきか」という生き方の問題と言いかえることができる。人生は一度だけのかけがえのないものである。よって,人間は何度も人生を経験することができないのである。誰もが経験がないだけに,先人の「人生いかに生きるべきか」についての指針や手がかりが必要となる。もちろん,決して「偉人」の人生をコピーするような,あるいは鋳型にはめ込むような生き方を推奨するものではない。とはいえ「学ぶ」とは,「まねぶ(真似ぶ)」が語源であるといわれる。人間は他者の言動や行動を模倣し,そして自らの生き方・在り方を模索し,一歩ずつ自らの人生を歩んでいくのである。時には喜び,怒り,あるいは哀しみ,楽しむという感情の起伏を体験しながら,繰り返し困難を乗り越え人生を切り開いていくのである。そういう意味でも,「偉人」を題材とした教材は,自己を錬磨するための砥石の役割を担うものである。高等学校の公民科「倫理」では,哲学者または思想家のことを「先哲」という。世間では,あまり聞きなれない言葉であろう。本書では,中学生の発達段階に応じて,「先哲」を含め,広い意味での「偉人」と総称するのである。
さて,「特別の教科 道徳」が始まるが,今までの特設「道徳の時間」による道徳教育が一新され大転換するものではない。教育には「不易」と「流行」があるが,どうしても「流行」への関心が高まることは否定できない。ましてや,今までも実践しているが「考え,議論する道徳」が標榜され,アクティブ・ラーニングの手法を積極的に導入することが論じられている。ここで留意すべきは,従来の「読み物資料」と呼ばれるものは,主人公の心情に寄り添うことを求めるため,登場人物の心情理解のみに偏った形式的な指導となっているのではという批判である。「読み物資料」,その中でも「偉人」を題材とした教材が,そのような批判の文脈で読まれることがあってはならない。ましてや,「偉人伝」と称されるものが古色蒼然とし,その役割が終わるがごとくの言説であってはならない。言うまでもなく道徳教育は,一人ひとりの生徒が生きる上で出会う様々な場面において,生徒自らが主体的に判断し,道徳的行為を選択し,実践することができるような道徳性を育成するものである。本書はその趣旨に則り,これまでの道徳教育に対する批判を十分に理解した上で,日本の伝統と文化を理解する観点からも,「偉人」の生き方を通して道徳性を育成することを目指すものである。よって,本書の積極的な活用を期待する。
なお,本書は公益財団法人上廣倫理財団の出版助成により刊行したものである。財団に対し心より感謝申し上げる。
編集委員を代表して /小泉 博明
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- 道徳推進教諭にはいい本です2023/6/2430代・中学校教員