- 本書を手にした知的障害/自閉症・情緒障害 特別支援学級を担当される先生方へ
- 第1章 特別支援学級における教育課程の編成
- 1 教育課程編成のために押さえておきたい基礎・基本
- 2 知的障害特別支援学級の教育課程の編成
- 3 自閉症・情緒障害特別支援学級の教育課程の編成
- 第2章 特別支援学級〈国語・算数〉授業づくりの流れ
- 第3章 特別支援学級〈国語・算数〉授業づくりのモデルケース
- 1 知的障害・国語 説明文「だれが,たべたのでしょう」
- (教育出版1年上)
- 2 知的障害・国語 物語文「お手がみ」
- (教育出版1年下)
- 3 知的障害・国語 作文「「ありがとう」をつたえよう」
- (東京書籍2年)
- 4 知的障害・算数 数と計算「かけ算(1)」
- (東京書籍2年下)
- 5 知的障害・算数 数と計算「いくつといくつ」
- (学校図書1年)
- 6 知的障害・算数 数と計算「かけ算(1)(2)」
- (東京書籍2年下)
- 7 自閉症・情緒障害・国語 物語文「おむすびころりん」
- (光村図書1年上)
- 8 自閉症・情緒障害・国語 説明文「いろいろなふね」
- (東京書籍1年下)
- 9 自閉症・情緒障害・算数 図形「図形の合同と角」
- (学校図書5年)
- 10 自閉症・情緒障害・算数 数と計算「速さ」
- (大日本図書6年)
- あとがきにかえて
- 「特別支援学級で教科指導することの大切さ」
- 参考文献
- コラム
- @特別支援学級と特別支援学校のいい連携づくり
- A専門家とのいい連携づくり
先生方へ
本書を手にした知的障害/自閉症・情緒障害
特別支援学級を担当される先生方へ
「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」という名称を聞いたことがありますか?
「インクルーシブ教育システム」という用語をご存じですか?
「合理的配慮」や「基礎的環境整備」はいかがですか?
まだまだ耳慣れない用語ですが,特別支援教育を推進していく上では非常に重要なキーワードになります。そして,この本を手に取られた先生は,特別支援学級の担当者として,まさに特別支援教育を進めている立場だと思います。
したがって,本書では,上記の内容を簡単に説明しながら,それ以上に先生方が関心の高い教科指導の在り方や授業づくりについて,教育課程の編成を含めた先進的で具体的な実践例を紹介していきたいと考えています。
「障害者の権利に関する条約」
国連において,あらゆる障害者の尊厳や権利を保障するための条約が,「障害者の権利に関する条約」(以下は障害者権利条約)として,平成18年12月に採択されました。我が国は,平成19年9月28日に署名(国内の法令を整備した後に,条約を批准し実行していくと約束することを意味)し,現在は既に批准(条約として効力を発揮)をしています。
署名から批准まで,内閣府を中核にして,各省庁で障害児者に関連する法令等を見直していきました。その基盤となる法令は障害者基本法であり,既に平成23年8月に改正されています。
教育分野では,平成22年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会において「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」が設置されました。
この特別委員会では,障害者権利条約に記されているインクルーシブ教育システム(包容する教育制度)の理念を踏まえ,その実際を構築するために,様々な側面から教育制度について検討することを目的としていました。その結果,平成24年7月23日に公表された報告が,『共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)』というものです。
この報告書名で明らかなように,今後の教育分野においては,「共生社会の形成」,「インクルーシブ教育システム」,「特別支援教育の推進」といった用語は重要なキーワードになります。
そもそも,特殊教育から特別支援教育へと大きく転換した背景には,平成15年3月に公表された『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』や,平成17年12月にまとめられた『特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)』などの重要な提言があったからです。
通常の学級に在籍する児童生徒の中に,LD等の発達障害の状態像を示す子どもたちが存在していたことや,彼らを含めた障害のある児童生徒に対し,適切な指導や支援を行うための教育制度の見直しなどが,平成18年の学校教育法などの改正につながりました。
現在,特別支援教育の流れは障害者権利条約の批准などを通して,さらに加速的な勢いで変容し,さらなる実践を蓄積しながら,通常の学級における授業改善にもつながっています。
そして,あらためて障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶ教育を考えたとき,その教育を行う場の整備や内容の充実が求められます。つまり,特別支援教育の理念にもつながる「障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに対応する教育の場と内容」であり,障害のある子どもを包み込む教育を行うことは,通常教育のブラッシュアップはもちろんのこと,特別支援学級における特別な指導のブラッシュアップも含まれていることを肝に銘ずる必要があります。
また,インクルーシブ教育システムとは,障害のある子どもを包み込むための教育制度を構築していくことですから,そのような教育制度をより充実させるためには,通常の学級はもちろんのこと,特別支援学級に在籍する障害のある子どもへの指導内容,一人一人に行う障害特性等に応じた具体的な配慮(合理的配慮)に関しても,日々の授業づくりの実践で模索が進められています。
特別支援学級の実情
さて,ここで本書に直結します特別支援学級について少し言及をしたいと思います。
文部科学省特別支援教育資料(平成26年度)では,平成26年5月1日の段階で,全国の特別支援学級は小学校で35,570学級,中学校では16,482学級,総計52,052学級となっています。全ての特別支援学級に在籍している児童生徒数は約18万7千人ですから,義務教育段階での全児童生徒数1,019万人の1.8%となります。この割合は,全ての特別支援学校に在籍している児童生徒数(約6万9千人)の0.7%を大きく上回る数字となっています。
次に,特別支援学級の内訳を見ていきますと,知的障害特別支援学級が24,640学級,次いで自閉症・情緒障害特別支援学級が21,106学級,両者を合わせると全特別支援学級(52,052学級)の約90%を占めている状況になっています。
また,知的障害特別支援学級に比べますと歴史の浅い自閉症・情緒障害特別支援学級ですが,上記資料の結果では,設置数が知的障害特別支援学級数より多くなっている道府県も出てきています。
このような状況下で,特別支援学級担当の先生方の専門性を測るメジャーの一つとして,特別支援学校教諭等免許保有率を確認しますと,毎年30%程度を維持する現状です。特別支援学校の先生方の平均免許保有率(約70%)と比較しますと,非常に大きな差となっています。この結果は,ある意味致し方ないことであって,免許状制度では,特別支援学級の担当者や通級による指導の担当者は,特別支援学校教諭免許状が必要であると法令上は規定されていないからです。つまり,小・中学校教諭免許状があれば特別支援学級を担当することも可能だということなのです。
しかし,そうは言っても突然担任として指名され,学校で孤軍奮闘をしている先生方にとって,障害のある子どもたち一人一人に適切な指導を行うには,特別支援学級における教育課程の編成に関する知識や経験,さらには担当者として子どもたちに対する教科指導への思いや願い,授業を通して行う障害のある子どもたちへの様々な工夫や配慮などが必要となります。
以上,上記のことを行うためには,特別支援教育への造詣が深い,そして特別支援学級で質の高い授業を実施している先輩方の実践が,非常に重要なモデルになると思われます。
そこで,本書では,先の障害者権利条約で求められています合理的配慮等を踏まえつつ,合わせると約90%の学級設置数になる知的障害特別支援学級と自閉症・情緒障害特別支援学級を対象に,特に国語科と算数科の教科指導について焦点を絞り,在籍する子どもの実態や指導方針,年間指導計画や単元計画などの具体的な実践例を紹介していきます。
モデルとなる特別支援学級での教科指導の実際を模倣することからでも結構です。そのことが,担当経験の浅い特別支援学級の先生方の一助となることを切に願っています。
編著者 /廣瀬 由美子
手元に置いておきたい一冊である。