- はじめに
- 第1章 生きる力を育む自立活動
- 〜ライフキャリア教育の視点で〜
- 1 ライフキャリア教育って単純明快
- 2 ICFから見た自立活動
- 3 キャリア教育から見た自立活動
- 4 自立活動と現場実習の熱い関係
- 5 キャリア発達が見える個別の指導計画
- 第2章 自立活動で育む基礎的・汎用的能力
- 〜ライフキャリア教育の理念で〜
- 1 基礎的・汎用的能力を簡単明瞭に
- 2 キャリアプランニング能力と自立活動
- 3 課題対応能力と自立活動
- 4 人間関係形成・社会形成能力と自立活動
- 5 自己理解・自己管理能力と自立活動
- 第3章 キャリア発達を支援する自立活動の実際
- 〜ライフキャリア教育の現場で〜
- 1 トトロの森で遊ぼう
- 〜重症心身障害の児童生徒が行う自立活動〜
- 2 人とかかわろう
- 〜知的障害の児童生徒が行う自立活動〜
- 3 ミュージック・スタート
- 〜視覚障害の児童生徒が行う自立活動〜
- Q&A
- 1 「主体的に」とはどのようにすることなのですか
- 2 「改善・克服」させないといけないものなのですか
- 3 「重症心身障害」とは,どのような状態なのですか
- 〈資料〉特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編(抄)
- おわりに
- 参考文献
はじめに
よく「障害者や高齢者に優しい社会はすべての人にとって優しい社会」と言われます。それと同じように「重度重複そして重心の児童生徒にとって意味のあるキャリア教育は,すべての児童生徒にとって意味のあるキャリア教育」であると言えるでしょう。もちろん,そこで言う「キャリア教育」とは,「一人ひとりの自立と社会参加に向けて,それぞれのキャリア発達を支援する教育」であることは言うまでもありません。そこでは,ワークキャリアと言われる「働く」力よりもむしろ,「暮らす」力や「楽しむ」力といったライフキャリア,つまり「生きる」力をまず育むことが,「すべての児童生徒にとって意味のあるキャリア教育」であると明言できます。
ワークキャリアとライフキャリアは対極をなすものではありません。ワークキャリアはライフキャリアの一部であり包含される概念です。仕事は人生の一部であり,職業人である前に皆社会人であるのです。近年,ワーク・ライフ・バランスという言葉が言われますが,これは仕事と生活のどちらが大切か天秤にかけることではなく,生活全体の中での仕事の割合や比重を考慮していくことだと思います。
しかし世の中ではまだまだ「キャリア教育=就職や進路選択のための教育」と誤解されていて,それを簡単には解消できません。私があえて「ライフキャリア教育」という造語を使い始めたのは,母屋を「ワークキャリア」に取られてしまった「キャリア教育」という概念を,再構築するための苦肉の策でした。
ところが,私が「重度重複そして重心の児童生徒にとってのキャリア教育」とか「誰にも必要なライフキャリア教育」などと言い出したことで,キャリア教育の概念や実践がぐっと広がり,やるべきこと,めざすべきものがはっきり見えてきたと言われる特別支援学校や,この分野に関心をもってくださる方々が日に日に増えてきていることを肌で感じます。まさに災い転じて福となすだと思います。
さて今回,私のライフキャリア教育シリーズの3冊目では,ライフキャリア教育と「自立活動」との関連を明らかにしていこうと思います。自立活動を取り上げた理由は2つあります。
1つ目は,重度重複そして重心の児童生徒たちは自立活動を中心とした教育課程で日々学習しているという点です。
そして2つ目は「自立活動」こそが,どんなに障害の軽い児童生徒であっても特別支援学校に在籍するからには必ず履修しなければならない領域,いわば「卒業必須科目」だという点です。
保護者も担任も,子どもたち一人ひとりの将来(行く末)を案じない人はいません。そのために日々養育や教育に励んでいるはずです。ならば,少しでも連続的に,系統的に,発展的に「学び」が進められたほうがよいと誰でも思うでしょう。
障害と言わないまでも不得意とか苦手という形で,発達の「つまずき」や「かたより」というものは誰しもがもっていて,それが一人ひとりの「キャリア発達」や「個性」を形成していきます。しかしそれが「ゆがみ」や「ひずみ」というくらいになってくると,社会の中でみんなと暮らしていくにはかなりつらい思いをすることになります。そうならないように個別的に意図的に学習するのが「自立活動」なのではないかと思います。
本書を執筆するにあたって大きく3つの柱を立てました。1つ目は自立活動をICFの考えでしっかり押さえることでライフキャリア教育との関係を明らかにしようと思いました。2つ目は,理解しにくい基礎的・汎用的能力を自立活動と絡めて説明することで,身近なものにしてもらおうと思いました。そして3つ目は,平成26年度にかかわりのあった学校で,実際に実践された自立活動の授業を取り上げてライフキャリアの視点で整理補足してみようと思いました。
特に第3章の最後の節は,これまで他書でもあまり取り上げられることのなかった,視覚障害の児童生徒への自立活動とキャリア教育について,かなりのページを割いて記述しました。なぜなら私は,大学時代に点訳ボランティアや日本点字図書館でアルバイトをした経験があり,それが今の私の原点だからです。
キャリア教育とは何かを新たにし出すことではなく,支援者が「キャリア教育をしている」と意識をして,日頃の生活や学習をするかしないかにかかっています。そうした支援者の姿勢や意気込みによって,児童生徒の成長発達の過程(キャリア発達)が明らかに違ってくるんだなあと感じながら読み進めていただければ幸いです。
それでは,ライフキャリア教育の第3部,自立活動編をスタートすることにしましょう。
/渡邉 昭宏
渡邉先生の著書を読んだことで、自身の指導方針の検討や同僚ヘの説明に非常に役立ちました。