- はじめに
- 第1章 「書くことの意欲」を高めるために
- 1 情緒力、論理的思考力、語彙力を統合する新しい短作文指導
- 2 「読み手」意識の明確化―昭和三〇年代〜平成元年度児童作文の分析―
- (1)生活文と「読み手」意識
- (2)「相手意識」と主題の明確化
- 3 「変容」がある作文―「わくわく作文塾」(平成十八年〜現在)の実践―
- (1)「わくわく作文塾」の概要
- (2)子供たちの反応―「変容」(成長したこと・発見したこと)という原理―
- 4 「引用」と「反論」がある作文―「ペンタゴン・ロジック」(平成二十六年〜現在)の実践―
- (1)「ペンタゴン・ロジック」とは
- (2)ペンタゴン・ロジックを使った、小単元「佐世保市や鹿町の魅力を語り合おう」の授業
- (3)子供たちの反応―「引用」と「反論」という原理―
- 5 読み手を意識した「変容」「引用」「反論」がある作文―「今の気持ち」(令和二年七月〜八月)の実践―
- (1)提出された作文
- (2)「変容」「引用」「反論」の原理―読み手を意識して情緒力・論理的思考力・語彙力の向上を図る短作文指導―
- 6 本書の説明
- (1)「単元の説明等」について
- (2)「手引き」「ワークシート」について
- 第2章 新しい短作文のモデルプラン45
- 1 そうぞうしたことを かこう
- 「くじらぐも」
- 2 さいしょのじぶんと くらべてみよう
- 「たぬきの糸車」
- 3 ○○さんへ、できるようになったことを てがみで つたえよう
- 「てがみで しらせよう」
- 4 気もちのへんかを あらわそう
- 「いいこといっぱい、一年生」
- 5 できごとを 思い出して 書こう
- 「きょうの できごと」
- 6 ざいりょうを あつめて くわしく つたえよう
- 「こんなもの、見つけたよ」
- 7 ダブルマップで 自分の考えを 書こう
- 「どうぶつ園のじゅうい」
- 8 ダブルマップで せい理しよう
- 「スイミー」
- 9 ダブルマップをつかって、かんじたことをつたえ合おう
- 「スーホの白い馬」
- 10 じゅんじょをあらわすことばをつかって、気もちをつたえよう
- 「すてきなところをつたえよう」
- 11 調べたことを書いてみよう
- 「食べ物のひみつを教えます」
- 12 マップで組み立てよう
- 「たから島のぼうけん」
- 13 登場人物について考えたことを整理しよう
- 「モチモチの木」
- 14 じょうほうとじょうほうの関係をとらえよう
- 「考えと例」
- 15 成長したゆみ子になって手紙を書こう
- 「一つの花」
- 16 イメージマップで見える化しよう
- 「秋の楽しみ」
- 17 自分の考えや感想を整理して書こう
- 「まいごのかぎ」
- 18 ダブルマップで書いてみよう
- 「ちいちゃんのかげおくり」
- 19 手引きにそって考えをまとめよう
- 「伝統工芸のよさを伝えよう」
- 20 説明する順じょを考えよう
- 「ウナギのなぞを追って」
- 21 ダブルマップで整理しよう
- 「初雪のふる日」
- 22 ダブルマップで可視化しよう
- 「なまえつけてよ」
- 23 作品との出会いから感じた自分の変容を文にしてみよう
- 「やなせたかしーアンパンマンの勇気」
- 24 くふうシートに書いてみよう
- 「仕事のくふう、見つけたよ」
- 25 引用を意しきしよう
- 「ことわざ・故事成語」
- 26 文章こうせい図に書いてみよう
- 「ありの行列」
- 27 しょうかいしたい理由をマップで書こう
- 「これがわたしのお気に入り」
- 28 付せんを使って新聞のこう成を考えよう
- 「新聞を作ろう」
- 29 書きたいことを、文章の組み立て表に書こう
- 「伝統工芸のよさを伝えよう」
- 30 文章こう成図に自分の考えを書こう
- 「もしものときにそなえよう」
- 31 調べた事実を引用して、自分の考えを書こう
- 「みんなが過ごしやすい町へ」
- 32 「三角ロジック」で考えを整理しよう
- 「提案しよう、言葉とわたしたち」
- 33 「三角ロジック」で書いてみよう
- 「大造じいさんとガン」
- 34 自分の考えとの共通点や相違点を見つけ、引用して書こう
- 「メディアと人間社会」「大切な人と深くつながるために」「プログラミングで未来を創る」
- 35 人物の生き方について、引用して自分の考えを書こう
- 「海の命」
- 36 今の気持ちをまとめよう
- 「今、あなたに考えてほしいこと」
- 37 ペンタゴン・ロジックで自分の考えを書こう
- 「たずねびと」
- 38 友達の意見を取り入れて、ろん理的な主張をしよう
- 「よりよい学校生活のために」
- 39 相手に合わせて必要な情報を引用しよう
- 「『鳥獣戯画』を読む」「日本文化を発信しよう」
- 40 自分が伝えたいことに合う言葉を選び、引用して書こう
- 「大切にしたい言葉」
- 41 ペンタゴン・ロジックで書いてみよう
- 「固有種が教えてくれること」「グラフや表を用いて書こう」
- 42 ペンタゴン・ロジックで反ろんを予想しよう
- 「あなたは、どう考える」
- 43 ペンタゴン・ロジックで考えを深めよう
- 「時計の時間と心の時間」
- 44 ペンタゴン・ロジックで構成を可視化しよう
- 「私たちにできること」
- 45 友達と交流しながら書いてみよう
- 「海の命」
はじめに
本書を企画する上で、大きく二つのことを意識しました。
第一に、現在の学習指導要領が改訂される、十年後の教育の在り方です。OECD(経済協力開発機構)のEducation2030を読みますと、その目標が単に経済的成長を目指すのではなく、個人及び社会において心身共に幸せな状態(ウェルビーイング)を作り出すことであるとしています。そして、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の時代(VUCA)において変革をもたらすキーコンピテンシー(知識、スキル、態度及び価値観等の領域から構成される個人の能力)を、「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマに対処する力」「責任ある行動をとる力」としました。本報告の注目点として、三つの力を育成するには、見通し(Anticipation)、行動(Action)、振り返り(Reflection)から成るAARサイクルと呼ばれる学習プロセスが重要だとする点です。これは教師側が意図するだけでなく、学習者自身も意識することが大切であり、さらに仲間や教師、家族、そしてコミュニティとの相互作用の中で学び続けることが必要だとしています。
この概念は、平成二十九年告示の学習指導要領と基本的な考え方が合致していることが分かります。すなわち、国語科の授業の在り方も、見通し・言語活動・振り返りの過程を基本とすることが再確認できます。「書くこと」の学習に引き寄せると、完成に至るまでの過程を見通し、主体的に記述し、他者と協働して推敲・共有を行い、手応えを感じる授業像が浮かびます。
しかし、この授業を実現するにあたり、第二の留意点である「書くこと」のカリキュラムの問題があります。時間や実態との不一致による「カリキュラム・オーバーロード」と呼ばれる現象を起こしては本末転倒です。例えば、現場教師の悩みとして、最近よく聞こえてくることに英語教育やプログラミング教育の問題があります。曰く、その重要性を否定するつもりはないが、環境や時間、指導法が整理されていないと言うのです。このままでは、「意図されたカリキュラム」は負担でしかなく、形骸化しかねません。ご承知の通り、「書くこと」の授業は学習者の個人差が大きく、最も難しい授業の一つだと言えるでしょう。学校現場からは、子供たちが最後まで書き終えることができなかったり、表記面だけの相互評価を延々と繰り返したりするだけで、学習者・授業者の双方にとって消化不良の授業になってしまうという声が聞こえてきます。
そこで、本書を刊行するにあたり、現場教員と徹底的に話し合い、特に次の三点に留意することとしました。
@クラス全員が時間内に書き終わり、相互評価までできる指導プランであること。
A特別な時間を設けるのではなく、毎日の授業と対応しているプランであること。
Bあれもこれもではなく、書く活動の根幹となる原理(ポイント)が明確であること。
本書が、毎日の「書くこと」の学習の一助になれば幸いです。
/原田 義則
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- 明治図書